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第百四十三話 女神教と女神深教

 エレイーネーに直接赴いて、依頼を行ったことが何度か経験のあったイスレ神父。

 だがいつも通される魔法科二階の応接室ではなく、校長室という特別な空間に招かれた。


 空間に大量に浮かび続ける魔法円と、その中心で空中をひらひらと漂う書類に、サラサラと文字を書き続けている古代魔道具の銀の羽ペン。


 窓もない、壁一面が戸棚になって様々な本や魔道具が収められ、長い事使われていないような、埃をかぶった執務机と革張りの椅子を、手持ち無沙汰に眺めていた。


 どうやらイスレ神父も、どうにもただ事ではない事態に巻き込まれたのだろうという事が、その緊張した面持ちから察せられたようだった。


 ネルテ先生が校長室の扉をノックして中に入り、それに続いたルドー達が見たイスレ神父に対して、そんな印象を抱く。


 中に入ってきたルドー達に気付いたイスレ神父は、いつもの調子でにこりと微笑んだ後、礼儀正しく頭を下げて、要望が通ったことに対する礼をまず述べていた。


「いつもご協力感謝しております。エレイーネーの皆様」


「いや、こっちこそ。無理言って来てもらって悪いね」


 ネルテ先生がそう言って、イスレ神父に軽く手を振り返す。


 ルドー達が聞きたい話もあるが、ここで先に切り出すのも失礼だろう。

 まずは二人の話を聞こうと、ルドー達は様子を伺う。


 すると立ったまま話すのもなんだと思ったのか、突然ふよふよとフェザー副校長が動いたと思ったら、サラサラと空中に魔法文字を書き連ね始める。


『“来客用椅子、七”』


 サラリとフェザー副校長が文字を書き切ったと思ったら、くるくると文字が光り輝いて、ピカッと光ったと思ったら、ふかふかの緑の革張り椅子がぱっと空中に現れた。

 そのまま円形を囲むようにドスドスと革張り椅子が床に落下し、呆気に取られていたルドー達とボンブ、イスレ神父。


 ネルテ先生がケラケラ笑いながら、ひらひらとフェザー副校長に手を振った。


「悪いねフェザー、気を使わせたかな?」


『“いえ、立ったまま依頼の話も何だと思いましたので”』


 ネルテ先生がわざわざ校長室の使用許可を取っているので、フェザー・シルバー副校長も、何の話をするのかはわかっているだろう。

 長い話になるかもしれないと、わざわざ椅子を用意したのだろうか。


 そのままフェザー副校長は、業務に戻るようにひらひらと、また魔法円の中心に戻って書類をサラサラ書き連ね始める。


 来客相手であるイスレ神父にどうぞどうぞと促すネルテ先生に、呆気にとられつつも丁寧にお礼を言って座ったイスレ神父を見てから、ルドー達も続くようにそれぞれ椅子にゆっくり座り込んだ。


「さて、こちらも話したいことが色々とあるんだけど、まずはそちらの依頼の件から話を聞こうか」


「はい。単刀直入に言います、先日の女神像を連続破壊していたあの女性を、保護していただけませんか」


「えっ? 逮捕じゃなくて、保護?」


 椅子に座って話し始めたネルテ先生に対して、真剣な面持ちに変わったイスレ神父の依頼内容に、ルドー達は驚く。


 確か昨日の時点では、防犯の観点から、チェンパスが捕まえると言っていたような気がする。

 それをイスレ神父はわざわざ保護に言い直した。

 どういうことだろうか。


 声を上げたルドーに対して、イスレ神父は視線を向けてその通りだと頷きながら、話を続けた。


「昨日の一件、あの方は確かに女神像を破壊しました。しかし同時に、我々を爆弾の脅威から守り、そこの捕まった少年を助け出し、攻撃されてしまいましたが、あの危険人物をフィレイアの町から引き離しました」


 フィレイアの町が吹き飛ばされたのは、まだ記憶に新しい昨日の出来事。


 イスレ神父の言う通り、確かにあの人物が現れた際、女神像は完膚なきまでに破壊された。


 だが、あの時誰も気付いていなかった、爆弾の時限式に気付いて、誰にも被害が出ない上空に叩き上げたのも彼女。


 鉄線の元幹部の岩の人形に捕まっていたカイムも、人形を操る魔法の特殊性と人質の状態から、あの人物の攻撃がなければ、助け出すことが難しかったかもしれない。


 そして周囲の魔導士よりも先に、まるで気を引くように、女神深教の女性に先制して攻撃し続けた。

 反撃されるように、あの規格外の攻撃を引き出してしまったものの、彼女がフィレイアの町から飛行して逃げ出したことで、それを追いかけて女神深教の女性も、フィレイアの町から立ち去ったことも事実。


 自分自身の身の安全のためにやったと言われても、まぁ違いない様な内容でもある。

 だがそれならそれで、チュニ王国でそうしたように、さっさと逃走しても良かったような気もする。


 イスレ神父に言われてみれば、確かに引っかかるような行動ばかりしていた。


「そうなってくると、女神像を破壊する行動に対して、矛盾が多い。それで改めて、その行動に何か理由があったのではないかと、破壊された女神像の方を調べてみたのです」


 そう言ってイスレ神父は、神父服の懐に手を入れると、手のひら大の何かを取り出して、その場の全員に見えるように掌に乗せて差し出してきた。


「最近になって、シマス国辺境の中央魔森林から、新しい鉱石が取れるようになったという話はご存知でしょうか」


「新しい鉱石?」


 イスレ神父の掌に乗せてあったのは、紫色に光っている掌大の鉱物だった。


 見た目こそ以前カイムがシャーティフの依頼で採取した、魔水晶と似たような形をしているものの、あちらの方が圧倒的に黒い。

 またこの紫色の鉱物は、まるで魔力でも宿しているかのように、うっすらと光り輝いている。


 イスレ神父の差し出した鉱物をまじまじと眺めて、ルドーはカイムの方を振り返った。


「中央魔森林? カイム知ってるか?」


「知るかよ、鉱物なんて魔人族使わねぇよ」


「見た目が似ているが、魔水晶とは違うのか」


「形はそっくりだけど、微妙に色が違うよ。あとちょっと光ってる?」


『……随分な厄介物だな。周辺から魔力吸い取ってやがる』


「え?」


 鉱物を眺めながら話していたルドー達に、聖剣(レギア)が警戒するように低い声を出した。


 バチンと弾けた聖剣(レギア)の魔力が、まるで証明するかのように、イスレ神父の手の中にあった鉱物に、引っ張られるように飛んで吸い込まれた。


 目の前で起こった出来事に、ルドー達が驚いて目を見開く中、険しい顔に変わったネルテ先生がイスレ神父に質問する。


「つまり、破壊されていた女神像からそれが出てきたって?」


「熱心な信者程、昔から体調を崩すことはよくありました。無理をして倒れてまで活動するのは本末転倒だと、戒めるのも上の立場の仕事です。しかし、熱心な信者が祈れば祈るほど、女神像に埋め込まれていたこの鉱物に、体調に影響を及ぼすほど魔力が吸い取られていたなど、誰が気付けたと思いますか?」


 ジッと掌の上の鉱物を眺めながら、イスレ神父はそう話した。


 鉱物が周辺から魔力を吸い取るのは、目には見えない程微弱な量だという。

 吸い取られた本人も気付かないような、僅かな魔力。


 だがその鉱物との接触時間が長ければ長い程、本人が気付かぬうちに魔力を吸い取られ続け、結果体調を崩してしまう程の、大量の魔力を吸われてしまう。


 破壊された女神像を改めて調べれば、本来女神像の製造に使われていない、この鉱物の反応が出てきた。

 それで女神教が慌てて全ての教会の女神像を調べたら、女神像の内部に、まるで転移魔法で埋め込まれたようにこの鉱物が入り込んでいて、礼拝者から魔力を吸収し続けていたことが分かったそうだ。


「つまり昨日のあいつは、その事に気付いてて、女神像ごとその鉱物を破壊してたって事か?」


「ていうかそんなもの持ってて大丈夫なんですかイスレさん!?」


「鉱物の魔力吸収力には上限があるみたいで、限界が近くなるとあまり吸収されなくなります。これはそんな限界に近い状態で発見されたものですから、影響は少ないですよ」


 今の聖剣さんの動きで、ほとんど上限に達したようですしと、イスレ神父は慌てるリリアに安心するように微笑みを返した。


 ルドーが背負う聖剣(レギア)に視線を向ければ、小さくパチパチと反応する。

 どうやら上限に気付いて、敢えて雷を飛ばして影響がない様にしたようだ。


「とにかく、この事が判明したのが今日の未明。そうなるとやはり、昨日のあの女性は、この鉱物が女神像に組み込まれたことに気付いて、連続破壊してきたと思われるのです。熱心な信者や女神教の関係者でもなければ、女神像の中身が怪しいから調べてくれなんて、とても言えないでしょう。だから……」


「……説得を最初から諦めて、女神教が気付くまで破壊し続けていたと」


 イスレ神父の言葉に、ネルテ先生が続けた。


 何をどうして知り得たのかはわからないが、昨日の女神像連続破壊犯は、女神像の中にこんな危険な鉱物が組み込まれている事に唯一気付いて、それで破壊活動を続けていた。


 鉱物が女神像ごと木端微塵に砕ければ、鉱物としての破片が小さくなって、人に影響を及ぼすほど周辺から魔力を吸収しなくなるからだ。


「女神像にこの鉱物が組み込まれている事に気付かず、知らぬ間に犠牲者を出し続けていたのは、完全にこちらの落ち度です。しかも昨日の一件から、女神像を破壊し続けていたために、あの危険人物に狙われてしまった可能性があります。ですから、可能なら保護していただきたいのです」


 何の事情も説明せずに、女神像を破壊し続けた。

 彼女にも確かに悪い部分はあるだろう。


 だがその実態を知ってしまった今となっては、器物破損の犯人として指名手配するには、あまりにも憚られた。


 女神教の落ち度で危険な状態に陥れてしまったのなら、保護して安全にしてほしいと、そうイスレ神父は依頼してきたのだ。


「……本当にその鉱物自然物なのか、悪意の臭いしかしないぞ」


「女神像にわざわざ組み込むだなんて、悪趣味にも程があるからねぇ。ただのイタズラだって言うならいいけど、それにしちゃ世界中の女神像から出てきたとあっちゃ、規模がでか過ぎるし。何らかの目的で埋め込まれたと考えていいだろうね」


 ボンブが忠犬の鼻を使って鉱物の臭いを嗅いだようだが、かなりひどい臭いでもしたのか、顔を顰めて唸り始めている。


 女神像への祈りを利用して、鉱石に魔力を収集するようなやり方。


 イタズラというにはネルテ先生が言う通り、全世界にまき散らされて規模が大きすぎる。

 何らかの目的があってされた行為だと思われるが、転移魔法で組み込まれた仕組みから、なにも調べられずわからないという。


「イスレさん、その依頼の過程で、俺からもいいですか」


「なんでしょうか?」


「女神深教って、何か知ってますか?」


 イスレ神父の依頼内容が分かり、話がちょうどそちらに向いたので、ルドーは緊張しながら、女神深教についてイスレ神父に切り出した。


 フェザー副校長がサラサラと書いていた動きが止まり、聖剣(レギア)からもバチッと警告するように雷が弾ける。


 ネルテ先生とボンブも、ルドーの言葉に警戒するように鋭い視線を向けたが、どうやら同じことを聞く気だったのか、止める様子はなかった。


 エリンジとリリアとカイムも、緊張した面持ちでイスレ神父をじっと見つめる。


「……そうですね、まず、貴方達は女神深教についてどこまでご存知ですか?」


「全然知りません。物凄い危険で、どこに潜んでいるかわからない集団だってだけです」


 保護を依頼する女神像を破壊した女性は、その女神深教を名乗った女性に追われていた。


 聞かれて当然の質問だと、イスレ神父はルドーを真直ぐと見据えて答え始めた。

 イスレ神父の問いに対するルドーの返答に、イスレ神父は頷いた後、視線を下げる。


「まず、我々もそこまで詳しくは知りません。昔から薄らと女神教の上層で囁かれ続けている噂程度です。その為、情報の正確性には欠けます。その点はわかっていただけるでしょうか」


 イスレ神父の前置きに、ルドーが周囲を見渡せば、全員が無言で頷く。

 特に否定されるようなことも無いと、話を続けるようにルドーは返した。


「はい、なにも分からない現状より、情報が欲しいので」


 ルドーの返答に、イスレ神父は視線戻したあと、小さく深呼吸して話し始めた。


「女神深教は、昔から女神教内で存在を囁かれているものです。我々女神教とはまた違う。女神を崇拝している事には変わりありませんが、その崇拝の仕方が異様な、過激な狂信者集団です」


「狂信者集団?」


「はい」


 イスレ神父の話では、女神深教の噂を知るのは、女神教の在歴が長い上層の、それも極わずかな人数しかいないという。


 女神教とはまた別の集団だとも、女神教の裏で組織されたものだとも言われているが、実態が把握できていなかったために、何が本当のことなのか、わからないものだったそうだ。


「人のためにあれという女神の言葉を実行する女神教の経典とは、また違った活動をしているそうです。女神そのものが絶対であると、その為ならば何をしても構わないとも言われているとか」


「具体的な事はよくわかんねーけど、聞く限り滅茶苦茶危険な集団って感じするな……」


「昨日のあの方が本当に女神深教の方ならば、危険性は間違いないかと思われますよ」


 女神を絶対的に崇拝し、その為ならば人を害する事も全く厭わない、過激集団。

 確かに昨日の攻撃性を考えれば、女神深教を名乗ったのもあって、その危険性はかなり高い。


 女神そのものが絶対、その為ならば何をしても構わない。


 女神像連続破壊犯は、そんな相手と同じ姿で、どういう理由かわからないが、女神像を破壊し続けていた。

 その行動が、女神深教を名乗った女性に、目を付けられるきっかけになってしまったのだろうか。

 女神を崇拝する狂信者集団だというのならば、可能性としてはありうる。


 フィレイアの三分の一を吹っ飛ばす前、女神深教のあの女性は、試練を与えるだのなんだの叫んでいた気がする。

 試練を与えるだなんて、まるで女神の代弁者のような言い草だ。


 確かクロノの警告に、女神深教は攻撃してくる際、全くの悪意無しですると言っていた。



 まさか昨日のあの攻撃、あれだけ被害を出していて、それでいて悪意を何一つ持っていなかったとでもいうのか。



 思い至った事実に、ルドーはおぞましさから寒気がして身震いした。


「つまり女神教からしてみても、只の噂でしかなかった相手が、昨日突然現れたと」


「はい、それ故に私達女神教にも分からないことが多い。ただ昨日の様子から分かることと言えば、噂通りかなりの危険性を持っていたという事だけです」


 話を聞いていたエリンジの指摘に、イスレ神父は肯定的に返す。

 イスレ神父の話を聞く限り、女神教でも噂程度でしかない実態。


 結局のところ、ルドー達が求めている、女神深教たちの死なないカラクリや、魔力を奪ったカラクリに関しては、何もわからないままだった。


 そんな危険人物に追われているであろう、女神像破壊犯の保護。


 それは可能なのだろうかと、ルドーはネルテ先生の方を見た。


「……確かにかなり危険な相手に追われているとなれば、エレイーネーとしても保護しないわけにはいかないね」


 一端危険性は置いておいて、ネルテ先生はそのエレイーネーの立場から、イスレ神父の意見同様に保護するべきだと話す。


 問題はそれが可能かどうかだ。

 可能であるならば、ネルテ先生としても保護したいという事だろう。

 ただ女神深教の脅威を目撃した今、その人物を保護することで、女神深教そのものがエレイーネーに襲い掛かってきたりしないだろうか。


 話を聞いていたカイムも唸り始める。


「それだけじゃねぇな。そいつとっ捕まえりゃ、他にも分かることがあるんじゃねぇか?」


「どういうことだカイム」


「えっ、わかることなんかあるか?」


 思い出すように口に手を当てて唸っていたカイムに、ボンブとルドーが問いかける。

 二人の指摘に、カイムは睨むような鋭い視線を向けた。


「あの時のあいつの動き思い出してみろ、他の奴が攻撃するよりも先に、真先に急所に当てて、周囲にその危険性も知らせてやがった。知らねぇ奴の動きじゃねぇ」


 戦闘に関しては流石慣れている様子のカイム。

 あの時気絶して回復した直後だったのに、女神像破壊犯の動きをよく見ていた。


 カイムの指摘に、ルドー達も改めてあの時の状況を思い出す。


「そういやあいつ、聖剣(レギア)が気付くよりも先に、あの女が降ってくることに気付いたみたいに後ろに下がってたな」


「魔力はないが、古代魔道具に模した攻撃型魔道具を持っていた。女神像の破壊の件といい、何か知っている奴なのかもしれん」


 タナンタ先生の役職効果を叩き切った、古代魔道具を模して作った攻撃型魔道具。


 そんなものを所持している時点で、確かに只者ではない。


 何か知っている人物かもしれないという、エリンジの指摘は正しいのかもしれない。


「……あれ、そもそもあの女神深教の奴、なんであの武器見ただけで、古代魔道具を模して作ったって気付いたんだ?」


「あ、言われてみれば」


 昨日の出来事を思い出しつつ、エリンジの話を聞いたルドーは、女神深教を名乗った女性が古代魔道具を模して作ったと、それを指摘していたことを思い出す。

 その場の誰も、古代魔道具そのものである聖剣(レギア)ですら気付けていなかったことなのに、女神深教の女性はその事にあっさりと気付いていた。


 ルドーの指摘に、リリアとエリンジとカイムも、そのことを思い出している。


「ぱっと見で俺達にはわからなかったし、タナンタ先生の反応からも多分わかってなかったよな……聖剣(レギア)


『知らんでいい』 


「はぁー、だめか」


 ルドーの指摘に、拒絶しかしない聖剣(レギア)の反応に落胆する。


 女神深教と古代魔道具は、何か関連性でもあるのだろうか。

 だからこそ聖剣(レギア)もフェザー副校長も、女神深教に対して調べる事に非協力的なのだろうか。


 なんにせよこの件は、聖剣(レギア)からもフェザー副校長からも聞けそうにないからわからないままだ。


「ネルテ先生どうします? 俺としては保護したほうがいい気がしますけど」


「うん、その人かなり危ないと思う」


「情報も分かる、依頼ならば受けたい」


「出来んならやったほうが利があらぁな」


 情報を知っているにしろしないにしろ、女神深教に目を付けられたその人物を保護出来るならそうしたいと、ルドー達は満場一致した。


 しかし女神深教に追われている以上、危険性は伴う。


 ルドー達の反応に、ネルテ先生も厳しい表情で考え込んでいた。


「エレイーネーとしても出来れば保護してあげたいんだよね。ただ報告に聞いた昨日の奴に追われている間はどうにも危険すぎて保護出来ない……」


「何かしら知っている相手なら、常に追われ続けているとも限らないんじゃないか?」


 頭をトントンと拳で叩きながら悩むネルテ先生を見兼ねたのか、ボンブが悩むように唸りながら指摘する。

 あくまで可能性の一つでしかないが、あの危険人物である女神深教について何かしら知っている動きをしていたなら、ない可能性ではない。


「今はそれに賭けるしかないか……魔力もないから探知しようがないな。イスレ神父、先程の鉱石は女神像から全て除去できたのかい?」


「いえ、昨日の夜半に調べ上げて、今日の朝通達を出した段階なので、まだ除去しきれていないものが多いです」


「つまりまだ女神像が破壊される可能性はあるわけだね。イスレ神父、その依頼お受けします。ただ危険性も高い。女神像の破壊が今後また起こったら、例の保護対象は女神深教から逃げおおせたことに繋がる。また女神像の破壊があった場合報告してくれないか」


「もちろんですとも。ご依頼お受けいただきありがとうございます」


 ほっとした表情で、イスレ神父は胸に手を当てて丁寧にネルテ先生に頭を下げた。


 もしまた女神像の破壊が確認されれば、例の保護対象は女神深教から逃げおおせたことに繋がる。

 女神深教から逃げている現場で保護することはきっと難しいが、女神深教がその場にいないのなら、保護する事自体は可能だ。

 その人物が抵抗してくる可能性も残ってはいるが。


「……あれ、うーん……?」


「お兄ちゃん? どうかした?」


「いや、なんかわかんねーけど引っかかって……」


 上手く言語化できない気分になって頭を傾げたルドーに、声を掛けたリリアも不思議そうに首を傾げる。


 どこかで感じたような既視感。

 イスレ神父の依頼を受けることが決まって、女神像破壊犯のその後の報告を待つことになったが、この状況にそんな感想を抱いて、ルドーは首を傾げ続けた。


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