第百三十四話 強くなる理由と試行錯誤
ライアが勇者の役職を授かったことを報告するため、ルドーはカイム達も連れて職員室に向かった。
役職の授かりは不可逆だ。
一度女神に役職を授かれば、もうそれが撤回されることはない。
つまりライアは魔人族の国の勇者として、もう戦いから逃れることは出来なくなった。
失礼しますと声をあげて、ルドー達が慌てた様子で職員室の扉をガラリと開いて中に入る。
職員室にはネルテ先生とボンブに、書類を書き上げているヘーヴ先生、机に突っ伏して何故かスぴスピ眠っているマルス先生がいた。
「あぁルドー達お疲れ様、エリンジも……慌ててどうしたんだい、何か緊急事態かい?」
「緊急じゃないけど、ちょっとえーっと……」
入ってきたルドー達を振り返って手を振りながらネルテ先生がケラケラ労いの言葉をかけてきたが、ルドー達の慌てた様子に顔つきが変わる。
また何か起こったのかとかけられたネルテ先生の声に、ルドーから説明していいものかとカイムの方を振り返った。
「……ライアが勇者になっちまった。この場合どうすりゃいい」
「えぇっ?」
「勇者ですって?」
「ライアがだと?」
カイムがライアを肩から降ろして、ネルテ先生の方にズリズリ押し出しながら報告する。
ネルテ先生は目が点になり、書類を書いていたヘーヴ先生も顔を上げ、ボンブが組んでいた腕を解いてライアの横に駆け寄った。
マルス先生はぐっすり眠り込んでいるのか起きる気配がない。
ネルテ先生の前に連れて行かれたライアは臆することなく、誇らしげに腕を組んでえっへんと仁王立ちになっていた。
「観測……わぁ、本当だ。えーっとメリット、魔物や敵対者に対して爆発的に魔力が増加する。デメリット、魔力が増えやすい為、魔力暴走しやすいか……」
観測魔法を使ったのか、ネルテ先生の灰色の瞳が赤黒く光っている。
考え込むようにしながらふむふむと、ライアの状態を確認する。
どうやら間違いなくライアは勇者になったようだ、とても誇らしそうに両手を組んでいるが、その危険性をきちんと理解できているのだろうか、出来ていないだろうな。
観測魔法を使う様子のネルテ先生を見て、レイルとロイズもせがみ始める。
「ねー僕たちも何かない?」
「なにか貰ってない? なんかかっこいいやつ!」
「うるせぇレイルロイズ! しつけぇぞ、これ以上厄介なもん抱え込んでたまるか!」
「「だってぇー!!」」
「はいはい、うーん。お二人さんはお変わりないねぇ」
駄々をこねる様に言い続けているレイルとロイズを、カイムが叱りつける。
ライアの変化があった為に念の為と、ネルテ先生は赤黒く光る眼をレイルとロイズにも向けた。
だがそちらは変化がないようで、ぶすくれる二人を慰める様に、レイルとロイズの頭をネルテ先生は両手でそれぞれポンポンと優しく叩いた。
横で話を聞いていたボンブも、アーゲストにどう報告すればいいのかと、上を向いて大きく鼻を鳴らす。
「参ったな、保護しないといけなかったのにかなり厄介になったぞ」
「勇者になった以上もはや戦闘は避けられません。平常時ならまだ大きくなってからでもよかったでしょうが、今の状況では……」
「ある程度は訓練させるしかないなぁ、魔力暴走なんてデメリット抱えたらちょっとねぇ」
「うっそだろ……」
「やったぁー!!!」
「「ずるいー!!!」」
ヘーヴ先生とネルテ先生が顔を見合わせて出した結論に、カイムは絶句するが、対照的にライアは諸手を挙げて喜ぶ。
一人先を越されたと、レイルとロイズがその横で大きく非難の声をあげた。
デメリットに魔力暴走がしやすいと付いてしまったのなら、魔力を制御するためにライアに訓練をさせる必要がある。
ライアは魔力が多い為、有事の際精神負担で魔力暴走を起こしやすかった。
それが勇者のメリットで更に魔力が増え、デメリットで魔力暴走のリスクが上がったのなら、常人よりさらに魔力暴走しやすくなったと言える。
そうなると魔力暴走を制御するために、魔法の訓練をさせるより他なかった。
ルドーは心配そうな表情を浮かべるリリアとエリンジと互いに顔を見合わせる。
「聖女の方は何か聞いてないのかい?」
「知らねぇよ! 俺はキャビンがライアについて報告してきたから慌てて連れてきただけだっつの!」
「おいカイム、目上に対してもうちょっと言い方をだな」
「うるせぇ! 今更だろうがボンブ!」
勇者が出たのなら聖女もと考えたネルテ先生がカイムに訊ねたが、そこまであずかり知らぬとカイムは喚く。
その返しに注意するように上げたボンブの言葉も一蹴して、カイムは上機嫌のライアを見た後、頭を抱えて喚き散らし始めた。
パチパチと慰める様に聖剣が声を上げる。
『なっちまったもんはしゃーねぇ、どうしようもねぇ』
「だなぁ、カイム落ち着けって、俺たちも協力するから」
「自衛出来るだけの力を早くから付けるのも手だ」
「確かに安全性考えたらそれもあるけど、ライアちゃんにはまだ早い様な……」
「やるもん! 強くなってカイにぃお手伝いするもん!」
確かにエリンジの言う通り、自衛出来るだけの力を付ける為にも、早いうちから魔法の訓練を受けさせたほうがいいかもしれない。
ライアたちにクロノの出した条件まで達成させることは難しいだろうが、それでも抵抗出来ない力がないよりはマシだろう。
カイムを手伝いたいというライアの訴えに、喚いていたカイムはとうとう折れたようで、恐ろしく長い溜息をついた。
「生まれつき役職持ってた俺だって、森に出たの十超えてからだってのに……」
「仕方ありません。状況がかなり特殊ですから。魔力暴走の危険性を鑑みるに訓練させるより他無いでしょう」
項垂れるようなカイムに労わる視線を向けるヘーヴ先生が、諦めるようにと呟く。
ヘーヴ先生も本来ならもう少し大きくなってから魔法訓練を受けさせたほうが良いと考えているようだが、女神深教に狙われる可能性が高い今の状況では、そう悠長に構えていられないと踏んでの発言だった。
ボンブがキャビンにも要相談だとしながらも、肯定するように鼻を鳴らした。
「アーゲストに報告しないとな。だが年齢が年齢だ、あまり厳しくない奴で頼む」
「とはいってもおチビちゃんたちは体力面だけでも並みじゃないからね。こうなってくるとライアだけ訓練させるのもあれだし、レイルとロイズも受けさせたほうがいいかな」
「ほんと!?」
「やったぁ!」
「はぁ!? ライアは役職持っちまったから仕方ないにしても、レイルとロイズもだぁ!?」」
「仕方ないじゃないか。それに訓練したライアがこっそり二人に教えないとも限らないんじゃないかい?」
ネルテ先生がそう言ってニッコリとライアに視線を向けると、図星をつかれたようにライアは冷汗をかきながら目を泳がせて、ぷいっと顔を背けた。
どう見てもそうする気満々だったライアの様子に、カイムがまた頭を抱え始める。
ライア伝手にこっそりとレイルとロイズに教えられるよりは、最初からライアと一緒にレイルとロイズも教えたほうがまだマシだと、最終的にその結論に落ち着いたのだった。
「なるほど、それで今日から三人とも参加するようになったんですね」
ルドーが魔法科の面々にそんな昨日あった出来事を話せば、納得した表情でトラストが呟く。
翌日の基礎訓練、事情を聞いたクランベリー先生から腕輪型魔道具を三人渡され、三つ子が大喜びで装着して参加してきた。
エレイーネーでは学習する科目は変更こそ出来はするが、他の科の併用はできない。
先に保護科に所属していたライアが、後天的に勇者になるという前例のない事態。
本来なら指定年齢の十六歳で魔法科に配属し直すのが一番いいのだが、まだその年齢に達していない為科目を変える事も出来ず。
結果出来る範囲で構わないからと、保護科でありながら前期ルドー達が行った魔法科の内容を前倒しでやり始める事になった。
新たに手に入れた腕輪型魔道具に興味津々のライア、レイル、ロイズは、表示される基礎訓練の内容に、それぞれが競い合うようにしながら取り組み始め、その子どもの無尽蔵な体力で加減も知らずに全力でやり続けた結果、全員無茶をしてへばり切って倒れるという非常事態に陥っていた。
アスレチックに取り組んでいたカイムが、ずっとチラチラと三人の方を気にして集中出来ずにいたが、とうとう揃ってパタパタ倒れてしまったために、大慌てで三人の元に駆け寄っている。
魔法科の面々もそれぞれ訓練を一時中断して、心配そうに様子を見守っていたところだった。
「あらあらまぁまぁ。区域回復」
護衛の名目で三つ子の傍にいる為、訓練の様子を見ていたキャビンが、倒れた三人に向かって指さしながら呟けば、三人がいる周辺地面が円形に淡く光り輝いて、倒れた三つ子が同時にみるみる回復してく。
初めて見る形の回復魔法に、リリアとアリア、そして同じく様子を見ていたクランベリー先生も驚いている。
「範囲指定の回復魔法? そんなものがあるの?」
「あら、そちらでは初めて見る形かしらぁ? 出来るわよぉ、結界魔法みたいに範囲指定して回復かけるだけだもの、難しくないわぁ」
でも確かに出来るやつは魔人族でも限られてるわねぇと、ゆったりとそのジャージー牛の頬に手を当てながらキャビンが呟く。
クランベリー先生の問いかけに答えるキャビンの説明に、リリアとアリアは考え込むようにしていたが、やがて二人共キャビンの方に走り寄ってやり方をさらに詳しく聞き始めた。
聖女として二人共回復に特化しているので、出来ることが増やせるならば惜しみないという事だろう。
複数人同時回復、かなり魅力的な力だ。
「ライア、レイル、ロイズ、そんな無茶しねぇでいいんだっつの! 倒れちゃ元も子もねぇだろうが!」
「そうですわよ、これだから加減を知らない子どもは」
「まぁまぁ、でもやり過ぎはよくないですよ」
「卑怯者ねーちゃん、チビにーちゃん」
「だからその呼び方改めてくれませんと何度言えばいいのです!?」
「あ、あははは……うーん、でも三人ともそこまで必死になるなんて、何か理由でもあるんですか?」
区域回復によって意識を取り戻した三人を、カイムが髪を使ってそれぞれ引き起こしながら、心配そうに叱りつける。
同じように心配したのか、カイムの後ろに駆け寄ったビタがロイズに向かって注意する中、トラストがその三人の必死な様子から改めて聞き直していた。
「だって、カイにぃ無茶ばっかりするから、お手伝いしたいもん」
「遊んでもらってばっかりで、カイにぃにお返しできてないもん」
「クロねぇがいなくなる前に、別にいいんだよって言ってくれたけど、お返ししたいんだもん」
「お返し?」
聞き返すようにしたトラストに、ルドーもリリアとエリンジと一緒に心配して三つ子の方に近寄れば、倒れていた三人はカイムの髪に巻かれながら、それぞれが真剣な表情でカイムの方を向いていた。
三つ子の返答に驚いた表情で固まったカイムを見ながら、ライアの話にリリアが声を掛ける。
「クロノさんがいなくなる前? ライアちゃん何か話してたの?」
「おっきなお風呂に入る前にね、カイにぃにいっぱい一緒に遊んでもらったから、何したら喜んでくれるかなって、お返し何が出来るかなって聞いたの。そしたらライアが楽しければいいよって、三人が幸せならカイにぃも幸せだからいいんだよって言ってたの」
「でもカイにぃにいっぱい遊んでもらってるから、僕もなにかしたい!」
「俺達お手伝いしたいの! だからもっともっと強くなるの! そうすれば一緒に戦えるもん!」
僕たちもカイにぃのことを守りたいもんと、初めて聞くライアの話と、次々と続くように繰り出されたレイルとロイズの意見。
リンソウでライアはクロノから、どうすればカイムに喜んでもらえるかと意見を貰っていたようだ。
カイムのために強くなりたいと語るライアたちに、カイムは驚いたまま固まっているので、今度はルドーがライアたちの方に近寄って語り掛ける。
「気持ちはわかるよ三人とも、でもそれで倒れてカイムに心配させちゃダメだ」
「「「うぅー……」」」
「無理しなくていいんだよ三人とも、少しずつ力を付けていけばいいんだ」
優しい表情で微笑みながら、傍に寄って来たネルテ先生にも言われて、倒れてしまったこともあり、ライアたちは反省する素振りでおずおずとカイムの方を見上げる。
「カイにぃごめんなさい」
「もう無茶しない」
「だからまた鍛えてもいい?」
「……ったく、わぁーった、無茶はするなよ」
いつも三つ子を守ることばかり考えていたカイムは、三つ子も同じように傍にいる為にカイムを守りたいと考えていたと分かったためか、心配そうな表情ではあるものの気恥ずかしそうに顔を背けつつ、三人にそれ以上追及しなかった。
傍にいる為に強くなりたい、三つ子のその考えはきっとカイムにも分かったはずだろうから。
カイムに許してもらえたと、三つ子がゆっくりと顔を綻ばせ、心配そうに様子を見ていた魔法科の面々も、一安心するようにそれぞれほっと息を吐いて胸を撫で下ろしていた。
「攻撃と止めるな! まだだ! 攻撃し続けろ!」
「いやいやいやなんで避けねーんだよエリンジ!」
その日の午後の魔法訓練、三つ子も魔法を覚えるため参加することになった中、ルドーは昨日エリンジに希望された通りに組手を始めたのだが、いつもと違うエリンジの動きに戸惑っていた。
雷魔法の攻撃を、防御魔法も張らずに全部意図的に直撃し続けている。
聖剣の雷魔法は防御魔法を貫通する。
だからこそ力を付けようとしていたエリンジは、ここ何回かの組手でいかに聖剣の攻撃を避けるかの動きをしていたのだが、急に変わって攻撃を避けず、何なら自分から当たりに行くその動きに、攻撃している側のはずのルドーも困惑に大きく声を上げる。
『なーんか狙ってる動きっぽくはあるな。ほらよ攻撃続けろって』
「おまえ面白さで見たいだけだろ! ってうわぁ!」
エリンジが攻撃を避けない為にどう動いていいかわからなくなったところで、ハンマーアックスの頭がルドーの胴体の真横をドビュンと霞めた。
エリンジが振り回しているそれは思ったより重量があるため、雷の盾で攻撃こそ防げこそすれ、体幹があってもルドーではその重い攻撃性でいつも背後に吹き飛ばされる。
ハンマーアックスの頭だけが飛んでくる時もあり、エリンジが魔力で操作して飛んでくる向きが変わるため、エリンジの魔力が三割戻った今、物理法則も規則性も無いその軌道に動きが読めなかった。
ルドーは空中浮遊させた聖剣を即座に振り下ろして、分離したハンマーアックスの頭に即座に雷閃を叩き込む。
雷閃の衝撃で回転方法が変わり、地面にドスリと突き刺さるも、エリンジはすぐさま手を伸ばしてハンマーアックスの頭に貯めた魔力を操作し、即座に高速回転させてまた地面から引き抜いてこちらを狙ってくる。
本体を狙わないといつまで経ってもいたちごっこだ。
「あぁもう! 避けねぇならもう知らねぇぞ!」
エリンジが死なない様に、かつ戦闘続行不能になる手加減で、ルドーはまた空中の聖剣を大きく振るう。
即座に雷閃が三本聖剣の切っ先から間隔を置いて放たれ、全てエリンジの方向に向かう。
エリンジは魔力が多少戻ったのに防御魔法を張ることも無く、まるで迎えるようにその攻撃を全て生身で受けきった。
バリバリビリビリと、大きな衝撃と音と光を発しながらエリンジに雷魔法が直撃して、様子を見ていた魔法科の周囲から大きく声が上がる。
「……っ、負傷は軽減した。あと少し、もう少しで掴める」
『うん? 今の魔力の動きは……』
「エリンジもう防がねぇならやめろって! 回復できるからって無茶苦茶だぞ!」
「いいから続けろ!」
ガチンとハンマーアックスの頭を柄に装着し直して、問答無用と言うようにエリンジが走り込んで大きく振りかぶってくる。
咄嗟に雷の盾を正面に出して防ぐものの、振りかぶるエリンジの勢いに、ルドーはそのまま強烈に背後にぶっ飛ばされた。
雷の盾で、なんとかハンマーアックスの攻撃と同時に入れられている虹魔法の攻撃は相殺しているが、一体何が目的でエリンジはこちらの攻撃を受け続けているのか。
ガチンとハンマーアックスの頭が発射される音。
ルドーは即座に聖剣を高速回転させて、無防備状態になったエリンジ本体を狙う。
「雷転斬!」
ガチンと間一髪で、高速移動でエリンジの目の前に飛び出したルドーの聖剣の一振りが、即座に反応したエリンジのハンマーアックスの柄に防がれる。
そのまま雑に雷魔法を放出してバリバリと追撃を図るも、相変わらず避ける気も防ぐ気もないのか、真正面から受け続けていた。
「そんなものではないだろう! この間の落雷はどうした! 全力でかかってこい!」
「あれは人相手だと即死だろ! あぁも知らねぇからな!」
いつまでも攻撃を防ごうとしないエリンジに業を煮やして、ルドーはエリンジが気絶するまで空中から雷閃をぶち込み続けた。
ブスブスと黒焦げになって気絶したエリンジに、リリアが回復魔法をかけようと近寄る中、通り過ぎ様にルドーはスパァンと平手打ちをくらった。
理不尽が過ぎる。どうしろって言うんだ。
『なるほどねぇ、何をやりたいのかは分かったが、大分不器用だな、ゴリ押しが過ぎる』
「なんだよあの攻撃防がないやり方にどういう理由があったんだ?」
『ネタばらしちゃ詰まらねぇだろ? 試行錯誤させてやれ』
「いやなんなんだよ全く……」
一体何を理解したのか、全く面白いというように聖剣が大きくゲラゲラ笑うのをルドーが理解不能に見つめる。
リリアに回復されたエリンジも、礼を言った瞬間ルドーと同じようにスパァンと平手打ちをくらっていた。
「エリンジさんちょっといくら何でも無茶苦茶過ぎません?」
「魔力が限られてるから防御を捨てて攻撃を取ったって事かなぁ?」
「いやいやいやそれにしたって大分身体張り過ぎでしょ」
「ハイハイハイ参考にさせていただきます!」
「危ないからやめようね!?」
「滅茶苦茶な魔道具の使い方しますや。確かにこれは一般的なものだと追いつけませんや」
『(回復魔法薬もっと多めに渡しておいた方がいいかな)』
「あの、そちら量産できるなら市販ルート検討したりとかはしませんや?」
『(え?)』
「二人共魔法だけじゃなくて動きもどんどんすごくなってきたよねー」
「私にはあの動き、出来ない、けど参考には、なる」
「だねー、不規則な動きなら攻撃も読まれにくいって事だよねー」
「ふはははははいい見世物になったではないか!」
「フランゲルあの二人と対等に戦えたらかっこいいわよ」
「うっ!? そ、それはまぁ、最もだが、ちょ、ちょっと待ってくれアリア……」
「なるほど、エリンジさんの狙いはそこですか」
「なんですのわかったなら話しなさい、一人で納得しないでもらえません事?」
「いやまだ確証ないのでちょっと……」
「パートナーに隠し事なんて、私の事そんなに信用できませんのね!」
「ビタさんの事は信用してますよ、とても優しいですから」
「ふぁっ!? きゅっ急に何を、おっしゃって……」
「えっ!? ビ、ビタさん!?」
「あっ不意打ちくらっちゃった。だよねぇ、構えてない時にされると大きいよねぇ」
「ビ、ビタさんどうなさいましたのしっかり!?」
組手の様子を観戦していた面々がワイワイ話していたが、唐突にビタが顔面を真っ赤にさせてその場にヘナヘナとへたり込んだ。なにがあった。
キシアが駆け寄って回復を掛けようとしたが、どうやら身体的なダメージではないらしく更に困惑している。
「エリにぃ惜しかったねぇ、魔力の動き面白かった! あとちょっと!」
「魔力の動きだぁ?」
「あとちょっとってなにー?」
「ライア何が見えてたのー?」
「ぐにょってなってた。あとちょっとー!」
「「わかんないよー!」」
元々魔力が多かったうえに勇者になって魔力に更にブーストがかかったためか、ライアは人一倍魔力の動きやらを見やすくなっているようだ。
困惑するカイムの横で、レイルとロイズが笑うライアに抗議の声を上げている。
様子を眺めていたネルテ先生とクランベリー先生はわかっている様子で、面白いというようにケラケラ笑うネルテ先生に、意味が分からず困惑するキャビンとボンブがその笑いに更に困惑していた。
エリンジが何を狙っているのかわからないまま、その日からしばらくルドーは、攻撃を防がないエリンジとの組手に連日悩まされることになった。




