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第百三十一話 チュニ王国王宮

 入学時点と同じように、かなりの長い間上空を高速移動するように飛ばされている。

 風を切る音に耳が慣れてきて、飛ばされる風圧に身体が動かない為、背中からぶっ飛ばされたせいで大きく仰け反りながら時間が過ぎるのを待つ。


 隣で響き続けるリリアの悲鳴、それが不意に下方面に向いたのか、微妙に音が変わり始めたことでルドーも落下し始めたことを悟る。

 身体が仰け反っているせいで先が確認できない中、どんどんと落下していく様にルドーは慌てて聖剣(レギア)を何とか鞘から引き抜く。


「転移門あるのになんで毎度毎度ぶっ飛ばすんだよあの魔導士長!」


『着地しようと構えてるとこ悪いがあれ王宮じゃねぇか』


「うっそだろ!? いやいやいやそこに直接ぶち破ったら不敬どころじゃねーじゃん止まれ止まれ止まれええええええええええええ!」


 着地のために雷閃を放とうとしたが、構えた聖剣(レギア)からの忠告に、ルドーは躊躇いから雷閃が撃てなくなった。


 王宮に攻撃魔法を放ちながら建物破壊しての登場はどう考えても敵襲だ。


 誤解が解けたとしても不敬罪は免れない、何をしてくれているのだあの魔導士長は。

 雷閃を放つのを躊躇したために、落下に間に合わなかった。


 そのまま王宮と思われる建物、大きな品格あるガラス窓を思いっきりぶち破って、盛大に中を破壊しながらゴロゴロと転がっていった。

 痛みに呻きながら起き上がろうとすれば、同じように後ろから建物に飛ばされたリリアがルドーの上に直撃し、衝撃にまた瓦礫に埋もれてゴフッと潰れるような声が漏れる。


 大きくドアを開くような音と共に、バタバタと足音が大量に響き渡り、その音から周囲をぐるりと囲んで包囲されているのが察せられる。

 ルドーの上からリリアが退いたので、痛みに呻きながら身を起こせば、近衛騎士のような槍と盾を構えた同じ鎧を着た集団に、槍を向けられて囲まれている状態に冷汗をかいた。


 周囲を見渡せば、近衛騎士たちを入れても、何十人と大量の人が入れそうなほど広い部屋。

 部屋の中心には豪華なシャンデリアが飾られ、両端にかなりの高さの崇高な窓が並び、床の中心に窓と平行に並ぶように金の装飾が施された高級そうな赤い絨毯が真直ぐ伸びている。


 王宮でも明らかに一般人立入禁止になっていそうな崇高な場所。

 囲まれる近衛騎士たちに、万事休すとルドーはリリアと一緒に両手をあげた。


「あー、ひょっとしてあれが勇者くんと聖女ちゃんかな?」


「そうですそうです。あれだな、またモネアネ魔導士長がぶっ飛ばしてきたんだな」


「壊れた場所は直せるからって毎度毎度……近衛騎士警戒解除、警備に戻りなさい」


 いつ不敬罪の打ち首だと、処刑の声が飛んでくるのかと内心ビビり散らしながら、声が聞こえた方向にルドーは振り返る。

 いかにも王宮会議をしていたような、高貴そうな服装を来た人物たちがそこに居た。


 部屋の奥中央、数段上がった台座の上の、赤い革に金の縁取りがされた豪華な縦長椅子に座っているのは、白髪に白髭の、見た目通り王様という感じの初老の男性だ。

 赤い豪華な服装に、色とりどりの宝石が散りばめられた豪華な王冠を被って、一番奥の玉座に鎮座している。


 その右横に鎧姿で立っているのは、ルドーも以前会った事がある騎士隊長だ。

 ルドーとリリアを視認した瞬間、そのゴリラのような厳つい風貌の顔でニッコリと笑いかけてきたので、とりあえず味方がいそうな状況に、ルドーは手をあげつつも安堵する。


 逆側の左隣にいるのは背の高い男だ。

 衝撃にズレた小さな丸眼鏡を鼻の上に掛け直す、藍白色の長髪を三つ編みにして後ろに垂らしており、白色に金のラインが入った、いかにも仕事が出来ますといった執務服を着ている。

 呆れたような大きな溜息を吐きつつも、ルドーとリリアを吟味するように、小さな丸眼鏡の奥から金青色の瞳がこちらに向けられていた。


「いえーい、相変わらずドストラーイク。陛下連れてきましたー」


「いえーい、流石仕事が早いねぇ、ご苦労様ー」


「魔導士長! 転移門を使えと言ったでしょうが! 直しておきなさいよそこ! 修繕魔法が使えるから予算削ってるんですから!」


 警戒態勢にあった近衛騎士たちが、藍白色の三つ編み男の解散号令で規則正しく並んで退室していく中、飛行魔法でルドーとリリアの後を追っていたのか、割れた窓からモネアネ魔導士長があっけらかんと笑いながらスルッと入ってきた。


 笑い飛ばすモネアネ魔導士長と同じテンションで返してくる白髪の赤い服の男は、玉座らしいところに座っている事と、モネアネ魔導士長の陛下という発言から国王だろうか。

 それにしては王族の、なんというか、厳粛な様子が一切感じられないのだが。


 しかしよりにもよって、モネアネ魔導士長は玉座の間ピンポイントでぶっ飛ばしたのか、国が国ならそのまま打ち首だ。

 ルドーはリリアと一緒に、会話からその事実に思い至って手をあげたまま二人で身震いした。


「転移魔法使えないから起動に時間かかるんですよ、それよりこっちのが早いんだし緊急事態なんだからその方がいいでしょう?」


「転移魔法覚えないのはそっちの都合ですよね! 風魔法の研究時間につぎ込みたいから勿体ないと! 緊急時の動きに支障が出るから習得しなさいと再三通達してるのに!」


「まーまージャーフェ、そんなに怒るとまた十円剥げが後ろに増えるよ」


「誰の揶揄いのせいで増えてると思ってるんですかぁ……」


 のほほんとした、微笑んでいる様な顔の玉座の男に肩ポンされながら告げられれば、十円剥げに反応するように右手がガバっと三つ編みの下の方に動いた後、大きく項垂れ始めた藍白色の三つ編み男。


 修繕魔法で割れた窓を即座に直したモネアネ魔導士長は、あっけらかんと笑いながら、窓から叩きつけられて蹲ったまま、両手をあげて硬直状態のルドーとリリアの方に歩いて近寄ってきた。


「怪我は特にないかな、立てるかいお二人とも」


「えーっと、はい……」


 モネアネ魔導士長の呼びかけで、ルドーとリリアは顔を見合わせた後、両手を下ろして立ち上がる。

 おおよそ王族だろう相手の前にいたため、ルドーとリリアは不用意に立っていいかわからなかったのだ。


 二人が立ち上がったのを確認したモネアネ魔導士長は、その下の激突した際の瓦礫を修繕魔法で綺麗に直した後、二人の背中に回り込んでそのまま押すようにして、玉座の間の三人の方に近寄った。


「二人共、こちらが我がチュニ王国国王、プムラ・ネバ・コラマラン・イデス・チュニベラ様です。右にいるトットル近衛騎士隊長とは前に会った事があるね。それで左にいるのは宰相のジャーフェモニカだ。陛下、こちらの男の子が勇者のルドー君と、女の子が聖女のリリアちゃんです」


 モネアネ魔導士長にその場の全員を紹介され、プムラ陛下にも紹介されたために、ルドーはリリアと一緒におずおずと頭を下げた。


 陛下と謁見するのはてっきり次の休暇とばかり思っていたルドーは、何の心の準備もなく突然玉座の間に飛ばされて、流れで紹介された国王陛下に気に入られるのかどうか、結局人柄も聞けていなかったためかなり緊張している。


 すると頭上からホッホッホッと、まるでサンタクロースのような笑い声がかけられた。


「そんなかしこまらなくてもいいよー、緊張して気疲れしちゃうでしょ。勇者と聖女でこれから長い付き合いになるんだし、友達感覚で頼むね」


「いやいきなりそんなフランクに言っても無理でしょ」


 王族というものはもっと厳格なものだと、ルドーもリリアも想像していた。

 想定以上にフランクに接してくるプムラ陛下に、二人は逆に困惑して混乱する。

 そんな陛下の様子にジャーフェモニカ宰相は、呆れたように眼鏡ごと目を片手で覆った。


 国王陛下と謁見している様な緊張するような空気ではない。

 とりあえずルドーは、そもそもなぜここに連れてこられたのだろうかと声をあげた。


「えーっと、あの、緊急招集で来るようにって言われたんですけど……」


「んー、まぁちょっと問題発生してね? どう対処しようか相談してたら、ジャーフェが君たち呼んだ方がいいって言ってね? 遠いエレイーネーにいるとこわざわざ来てもらってごめんね?」


「へっ陛下が謝らないでください!」


 微笑むような笑顔を携えるプムラ陛下に、軽く謝られるように両手を前で合わせて謝罪され、慌てたルドーと一緒にリリアも両手を胸の前で激しく振る。

 両手を振り始めたルドーとリリアに、そんなに気にしないでもいいよと笑うプムラ国王。

 ジャーマモニカ宰相が違うとばかりにモネアネ魔導士長に指差して声を上げ始めた。


「私は連絡を取るべきだって言っただけですよ! 連絡手段あるんですから話を聞いたほうがいいと! 連れて来いとは一言も!」


「えーでも一々連絡で情報交換するの面倒くさいじゃないですか。それなら直接連れてきて話したほうが早いでしょ? 陛下も若い勇者と聖女が見たいってずっとうずうずしてましたし」


「えへへー、気を使わせたみたいで悪いね?」


 照れ照れと顔を赤くして気恥ずかしそうにしているプムラ陛下。

 なんだこの人、本当に国王陛下なのだろうか。

 今のところ気のいい親戚のおじさんくらいの反応しかしていない。

 休暇に国王陛下に謁見するように通達されて、戦々恐々としていたのは何だったのだろうかと、ルドーは肩を落とした。


 話から察するに、チュニ王国内にて発生した問題について、ルドーとリリアに意見を聞きたかったジャーフェモニカ宰相の話を聞いたモネアネ魔導士長が、それなら連れてきた方が早いとエレイーネーに許可を取って、二人をぶっ飛ばしてきて今に至るという事だった。


 この場にいる陛下たちの、モネアネ魔導士長の行動に対する慣れっぷり。

 とりあえず不敬罪の打ち首はなさそうだと、ようやくルドーとリリアは安堵した。


「そういえば、古代魔道具の聖剣は喋らないのかい? 言葉を話すようになったって、魔導士長から聞いたんだけど」


『なんだ喋っていいのか?』


「わぁ! ほんとにしゃべった! これからよろしくねぇ」


「だから! 今それどころじゃないでしょうが!」


「えっと、それで結局発生した問題ってなんなんですか?」


 国王陛下の手前勝手にしゃべっていいものかとでも思っていたのか、黙り込んでいた聖剣(レギア)がプムラ陛下の一声にパチリと反応する。

 反応されたことに嬉しそうに微笑むプムラ陛下だが、今は後回しにしろと諫めるジャーフェモニカ宰相に、ルドーはそもそも何が問題なのかとつい声をあげてしまった。


 声をあげてから、一言よろしいですかと許可を取るべきであっただろうかとルドーは思い至ったが、その場にいる全員全く気にしていないらしい。

 ルドーの質問に、ジャーフェモニカ宰相がコホンと咳払いした後状況を説明し始めた。


「実は先日、陛下宛のとある書簡を受け取りまして。その内容が余りにも酷くて、このままだと隣国ジュエリと戦争を考えないといけないとなったんです」


「えっ!? ジュエリと戦争!?」


 想像もしていなかった話に、ルドーは一気に不安顔になったリリアと顔を見合わせた。

 チュニは同盟国連盟の中でも小国の部類に入り、隣国ジュエリとは国の面積だけでも大きさが倍以上違う。

 反対側はシマスと隣接しており、大国に挟まれるような立地をしていた。


 その割にはルドーとリリアの知る限り戦争などは起こっておらず、ゲッシ村の年長者からも、その手の戦争話は聞いたことが無い。


 かなりの長い間戦争とは無縁の平和な国がチュニ王国だ。


 それが何でいきなり隣国ジュエリとの戦争などという、物騒な話になってしまったのだろうか。

 ルドーとリリアの疑問顔に答える様に、ジャーフェモニカ宰相は続ける。


「書簡の内容がですね、『ここは元々ジュエリ王国王族の管轄区である。よって早急にその玉座を明け渡せ』と、書かれておりまして」


「チュニは確かにジュエリ王国よりも後に建国したわけだけどさぁ、ジュエリに下ってた事実なんて一度もないんだよねぇ」


「建国前の土地も一応調べてみたが、そちらもジュエリ王国に与した歴史的証拠はない」


 ジャーフェモニカ宰相の語る書簡の内容に、ルドーとリリアも目が点になる。

 生まれも育ちも、片田舎でこそあるもののチュニであるルドーとリリアにも、チュニ王国がジュエリ王国王族の管轄であったという話は全く聞いた覚えがない。


 チュニ王国の歴史を更に調べ上げた魔導士長と、それより以前の土地そのものの歴史まで調べたトットル近衛騎士隊長の話からも、事実無根の話だとわかる。

 ではなぜそんな書簡が、プムラ陛下宛に送られてきたのだろうか。


「つまり、なんか知らないけどジュエリ国王族に言いがかり付けられてるって?」


「馬鹿にしてるよねぇ、ねぇ処す? 処す?」


「なんかフランクに怖い事言う……」


 のほほんとしながらも、その笑った笑顔のまま飛び出てくる恐ろしい言葉に、ルドーとリリアは先程の自分たちの状況を思い出して身震いした。


 のほほんとしているプムラ陛下だが、守るべき一線は守る様子だ。


 プムラ陛下の言葉に賛同するように、モネアネ魔導士長とトットル近衛騎士隊長が不吉な笑みを携えながら、なにやらどう処すかとヒソヒソ話し始めた。

 モネアネ魔導士長はいかに風魔法を使って死なない程度に切り刻むか、トットル近衛騎士隊長は、磔にして新人騎士の訓練用模型に使うのもいいかと、意見交換している。


 血の気の多い話にルドーはリリアと一緒に引き気味に見ている。

 聖剣(レギア)が二人の話に参加したそうにパチパチ火花を散らした。やめろ。


「はぁー、処すのは全て手打ちになった最終手段です」


「最終手段で処しはするんだ……」


「コホン、それで今回お二人に話を聞きたかったのは、お二人は以前ジュエリ王国に訪れたことがあるとか。ジュエリは最近王族の代変わりをしようと動いているとも聞きました。それで、ジュエリの知り合いがいるなら話を聞けないかと思って連絡しようと思っていたのです」


 それを勝手に連れてきた馬鹿がいますがと続けたジャーフェモニカ宰相に、モネアネ魔導士長はあっけらかんと笑いながら、てへぺろと舌を出した。


 確かにそれだけなら別に王宮にわざわざ来なくてもいい様な気がする。

 モネアネ魔導士長のフットワークの軽さに、ルドーはいい迷惑だと項垂れる。


 突然プムラ陛下宛正式に出された、ジュエリ王国の王座明け渡しの書簡。

 色々とごたついていたジュエリ王国で、どこまで本当の話として判断すべきかと、なにかしらの情報が欲しかったようだ。


 流石に内容が内容だけに、ジュエリ王国に直接赴いて話しを聞くわけにもいかない、下手に動いて玉座の返還ありがとうと、既成事実を作って言われてしまえばそこでおしまいだ。

 なのでエレイーネー在学で伝手がありそうなルドーとリリアの名前が上がったという事だった。


 話を理解したルドーは、早速とばかりにリリアに向いた。


「ジュエリの事ならやっぱエリンジだろ。リリ、通信できるか?」


「今日も確かシャーティフに行ってるんだよね。えーっと、よろしいですか?」


 ルドーは通信魔法が使えないのでリリアに話を振った。

 王宮で勝手に通信魔法を使ってもいいものかと、リリアはおずおずと許可を求める様にプムラ陛下たちに向いて、緊張気味に眉を下げた。


「詳しく聞けそうな相手がいるのかい?」


「えーっと、友人で、ジュエリの貴族の、クレイブ家の奴がいます」


 ルドーがリリアと相談し始めたので、ジャーフェモニカ宰相が更に聞く。

 ルドーの返答にクレイブ家と聞いてその場の全員から、おぉーと感嘆の声が上がった。


「クレイブ家って言ったらジュエリの筆頭魔導士のところだね」


「あの時代錯誤の王族抑え込んでる要の貴族だな、これは期待できる」


 エリンジの実家、クレイブ家はかなり有名な貴族らしい。

 隣国のチュニ王族が把握するくらいなので、かなりの上位貴族なのだろう。

 エリンジの父親、デルメもネイバー校長と匹敵する魔法を使う魔導士。

 実力も高いので、知られていて当然かとルドーは納得した。


「なんにしても情報の精査だね、うん、通信魔法は国王の名のもとに許可する。使っていいよー」


 ルドーとリリアの話に、とてもフランクにプムラ陛下から通信魔法の許可が降ろされた。

 許可が貰えたならばと、そのままリリアがエリンジと通信魔法をし始めるのを、ルドーも一緒になってじっと見つめる。


「えーっと、国王の名前と印鑑? うん、わかるよ。名前はね……うん、うん……えぇ?」


 リリアがエリンジから色々と質問でもされているのか、確認作業でもするように、書簡を見てもいいですかと問いかけたリリアに、プムラ陛下はあっさり許可を出して、ジャーフェモニカ宰相が通信するリリアの目の前に広げた。


「……逃亡して探してたところだから、国際問題になる前に捕まえてくれって? 連れてきたら地下に幽閉するけど、気に入らないなら好きなだけ叩きのめしてからでもいいって?」


「えぇ?」


『おーおー、面白そうなことになってきたな』


 聞こえてきた話に、ルドーは困惑して声を上げ、聖剣(レギア)がパチンと火花を飛ばした。

 困惑したリリアが、エリンジに聞き返すように全て口に出して通信内容を話してしまっていた。


 どうやら今回書簡を送ってきたジュエリ王国の王族とやらは、代替わりする前の、何やら失態によってジュエリの玉座を追われた王族の様だった。

 ジュエリ国内の襲撃事件にごたついて、代替わりを先にして、処罰はその後にと貴族牢に捉えて放置されていたそうだが、捉えていたはずのその王族たちが最近になって逃げ出したらしい。


 玉座も追われて国によって幽閉され、このままではその身が危ないと、知らぬ間に隣国であるこのチュニに亡命してきていたという事だ。


 しかし元王族、玉座を諦めきれずに、ジュエリより小さいチュニならば、ジュエリの威厳をちらつかせればなんとかなるとでも思ったのか、それでこの書簡を送ってきたようだった。


 エリンジも寝耳に水の事態に、通信魔法越しに相当苛立っている様子だとリリアは語る。



「やったね、話が本当ならジュエリ王国本国に連絡とって、この書簡も突き返せる」


「玉座を追われた無能に、小国だと思って舐められたった話だねぇ。やっぱ処すね? ついでに舐めた事した倍返し、これは確定事項、命令するね?」


「久しぶりの狩りの時間だなぁ、今回はどこが見つけるか、どれだけ持つか、見ものだな」


「前はあと一歩で地道な探索してた騎士隊に取られちゃったからねぇ、リベンジと行くか」


 話を聞いて嬉々とし始めたモネアネ魔導士長にトットル近衛騎士隊長。

 いいぞとばかりに捕縛と一緒に攻撃許可もプムラ陛下から出されて、ルドーはリリアと一緒にひたすら困惑して呆然と佇む。


『おい面白そうだ、やろうぜ』


「いやなに言ってんだよ……」


「要は、そのジュエリから逃げた王族を捕まえろって話だよね」


「いやそれでも、チュニは国土は狭いけど人も多いし、モネアネ魔導士長とトットル近衛騎士隊長がやる気ならそもそも出番無いんじゃ……」


「うん? 処したいなら、許可出しちゃうよ? はい、二人共、これは命令です。この書簡をかいたと思われる相手を探してください。好きなだけ魔法攻撃ぶち込んでいいからね」


『やったぜ』


「えぇ……」


「そんなフランクに……」


 一緒に暴れたいのかと、おおよそ親切心でルドーとリリアは、プムラ陛下に命じられてしまった。

 いい機会なのでこのままチュニ国内での逃亡者の捕獲方法をレクチャーしようと、モネアネ魔導士長とトットル近衛騎士隊長、それにジャーフェモニカ宰相も集まってくる。


 この宰相、なんだかんだ言いつつ暴力発言は諫めないし、最終的には処すことも辞さないと言うあたり、この人も結構毒されている。


 思ったよりも喧嘩っ早いその対応に、リリアも怖がるようにルドーの近くに寄った。

 聖剣(レギア)がその様相に気が合いそうだとゲラゲラ笑い始める。


 玉座を追われたジュエリ王国の元王族。

 知らぬ間に隣国チュニに亡命した王族の、国を挙げての捜索活動が今開始される。


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