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第百三十話 破壊事件と緊急招集

 それぞれが攻撃力をあげようと試行錯誤を繰り返すこと二週間が経過した。


 試行錯誤するエリンジやカイムと何度か組手をする中、エリンジは攻撃型魔道具の調整のため、何度かまたシャーティフに訪れている。


 歩く災害の討伐で、魔力の三割が戻ったエリンジは、リリアとの魔力伝達でその魔力を増幅させることが出来る様になり、全盛期の六割ほどの威力を出せるようになった。

 その六割と威力のあがった魔力に対応できるようにと、製作した攻撃型魔道具の調整を行う必要があってシャーティフに訪れていたのだ。


 ラグンセンに歩く災害まで出てきて大きな騒ぎになったシャーティフに、エリンジがまた訪れることをルドー達も心配していたが、歩く災害がゴースト区画地下深くに居たのと、ルドーにだけ狙いを絞っていたために、民間人の死者はなかった。

 それでも飛散した破片に当たったりした負傷者は出たもののどれも軽症で、唯一の重傷者がバベナだと、あの後のエレイーネーの周辺調査で把握している。


 ラグンセンの連中もこの間の騒動でシャーティフからは撤退したためにどうやら危惧すべき害は無くなったらしい。

 もっともそれは、シャーティフ以外の町にラグンセンが逃れてしまったことも意味しているのだが。


 そんなエリンジがまた攻撃型魔道具の調整のためにいない教室で話は始まった。


「女神教の女神像連続破壊事件?」


 警戒するラグンセンのその後も分からなければ、線連についての情報も未だ入ってこない。

 そんな中更に別件案件でちょっと情報が欲しいので、何か知っていたり分かったら教えてほしいと、座学の授業前にカゲツが魔法科の面々に同時に声を掛けていた。


「正式依頼ではなく、あくまで情報提供のお願いらしいんですや。なんでも女神教の教会で、講堂内に設置されていた女神像が、知らない間に粉々に壊されてるって事件が続いているみたいなんですや」


 カゲツの話によると、最初にそれが起こったのがおおよそ一カ月前、静まり返った誰もいない深夜の講堂から爆発するような大きな音が聞こえた。

 その教会の神父が慌てて駆けつけた所、教会内で一番大きい、講堂の女神像が完膚なきまでに破壊されていたらしい。


 その一件を皮切りに、国や場所、派閥を問わず、世界各国にある女神教の教会講堂内の女神像が、次々と破壊されるようになったらしい。

 女神教内でも調べてみたが、物理的に破壊されたのか何の痕跡も発見されず、犯人の目撃情報も皆無。


 同時多発的に破壊され続けている女神像の修復材料の調達に、世界規模であるサンフラウ商会に声が掛かって、そこから何か分かれば教えてほしいと、オリーブ伝手にカゲツにも声がかったということだった。


「あんまりにも連続してやられるものだからと、最近は夜に見張りを付けるようになったらしいですや。そしたら構えている夜には破壊されず、逆に人気のない昼間の時間帯に破壊されたとのことですや」


 困ったように両手を組んで首を傾げているカゲツの話にルドーは周囲を見渡す。

 同じようにカゲツから話を聞かされた魔法科の面々も、何か知っていたことはあったかと、それぞれ腕を組んだり、頭に指を添えたり、顎に手を当てたりと考えるそぶりを見せているものの、皆該当する覚えがない様子だった。


 ルドーはリリアの方にも顔を向けてみるが、思い当たることがないというように首を振る。

 当然ルドーにも該当するような情報に覚えはない。


 いや、無いわけではないが、関連性が今のところ分からないというほうが正しいのか。


 女神深教、クロノが口を滑らせた、エリンジとネルテ先生から魔力を奪って、リリアやアリアを襲った相手、それから剣の男。

 女神教と似た名前のそれに、なにか関係があるかと言われれば分からないが、つい連想してしまうのは仕方ない事だった。


 女神深教は女神教とは同じ組織なのだろうか、それとも全く別の組織だったりするのだろうか。

 別の組織だった場合、女神教の与り知らぬところで敵対していたりしないだろうか。

 以前にも剣の男は、女神教の講堂にその腕から作り出したであろう剣を大量放置していたことがある。

 その時も女神教には気付かれないように動いていた。

 今回もその時のように、気付かれない様にしながら女神像を破壊していたりしないだろうか。


 何も情報が分からないせいで、憶測ばかりが膨らんでいく。



「カイにぃちゃ、めがみきょうってなぁにー?」


「めがみぞうってー?」


「きょうかいってなにー?」


「あぁー、一番説明めんどくせぇとこ聞いて来やがった……」


 キラキラと好奇心の輝きを見せた瞳で見上げる三つ子を、カイムが天を仰いだまま、どう答えたものかと上を向いたまま、唸りながら身体を揺らしていた。


 もはや座学の時間に毎回突撃するせいで、三つ子専用の机と椅子が新しく設置され、三つ子に囲まれたカイムの席に向かって次々と繰り出される質問。


 そう言えばリリアとアリアを探してマー国に居た際、魔人族は女神教に頼らなかったために廃れたという話を、朧気ながらルドーは聞いたような記憶があった。


 女神教という言葉を聞いても、何一つさっぱりわからないという三つ子の反応。

 教会が無いなりにもそれなりに話を聞いて育ったルドー達と違って、全く馴染の無い状態の三つ子に、改めて女神教について教えるのは相当骨が折れそうな様子だった。


「女神教っつーのは、えーと、あれだ、女神にお祈りする奴らの事だ」


「めがみー?」


「めがみってなにー?」


「お祈りって、なにー?」


「あーくそ、そうだよな、えーっと……」


「お祈りって言うのはね、お願いすることだよ」


「お願い?」


 説明する言葉に更に疑問を持たれて質問され、頭からブスブス煙を上げ始めたカイムを見て、流石にこれの説明は仕方ないとリリアが助け舟を出す。

 リリアの答えに三つ子はきょとんとした表情を向けた。


「教会って言うのはお祈り、お願いする場所のことで、女神像って言うのは、そのお祈り、お願いしますってする女神さまのかわりの像のことなの」


「お祈りはお願い、わかった!」


「教会はお祈りする専用の場所、なんかかっけー!」


「なんのお願いするの?」


「色々だよ、病気を良くしてくださいとか、困ってるので助けてくださいとか、家族と幸せに過ごしたいです、とか」


「家族と幸せ……」


 リリアの説明を聞いて、三つ子がすっとカイムに視線を戻し、ルドーも何となくまずかったとリリアを見つめて、三つ子に慣れてきたリリアもしまったというようにあっと声をあげた。

 三つ子に見つめられたカイムも、嫌な予感がするようにうっと声をあげている。


「カイにぃ! お祈りしたい! 連れてって!」


「僕も!」


「俺も!」


「うるせぇチビども! 連れてけねぇよ今そこがあぶねぇって話なんだから!」


 キラキラとした瞳で見上げながら駄々をこねる様に両手をあげる三人。

 厄介なことになったと、カイムが三人に大声で怒鳴り散らし始めた。


 女神教の教会で女神像が狙われての連続破壊。

 今現在犯人の特徴すら分からなければ、その犯行理由も不明のまま。

 そんなところに連れて行けないとカイムは大声をあげたが、三つ子は三人とも頬を膨らせて機嫌を悪くし、席から離れてカイムに駆け寄ってそれぞれベシベシ叩き始めた。


「やだー! 行くー!」


「幸せお願いしたいー!」


「連れてってカイにぃ連れてってー!」


「あぁうるせぇチビども! ダメなもんはダメだ!」


「ご、ごめん。余計な事言っちゃった……」


「あぁくそが、説明わざわざありがとうよ!」


 両手を合わせて口に当て、眉を下げているリリアがカイムに謝罪すれば、皮肉のこもった感謝の返答に、リリアがしょんぼりと頭を下げたので、慰める様にルドーはその肩ポンポンと叩く。


「カイにぃばっかお外行ってズルいー!」


「僕たちもまたりょこうしたいー!」


「お外行きたいー!」


「うるせぇチビども! 遊びで行ってんじゃねぇよこっちは!」


 我儘を言い続ける三人にカイムが吠える。

 いつもより強めの我儘行動に、魔法科の面々が止めようかどうかと迷っていたが、話される三つ子の話にルドーは納得した。


 確かにリンソウで襲撃された一件以来、三つ子はエレイーネーから外に出ていない。

 クロノの話から、襲われる懸念が伝えられてからは尚更だった。

 しかしそれ以前ではルドーのゲッシ村への帰郷にも同行していたし、カイムの方は事前に報告しなかったシマス含めても、三回ほど三つ子とは別にエレイーネーの外に出掛けていっている。


 自分たちは外に出られないのに、カイムだけ外に出ていると、どうやら三つ子は不満が溜まっていたようだ。


 女神深教、つまり謎の襲撃者にライアたちが狙われる可能性があることは、この場にいる魔法科の面々全てに説明しているため皆理解している。

 誰も安易に女神教の教会に連れて行ってあげると三つ子に言う事が出来ない。


 その為カイムに抗議して暴れる三人を、なんとかカイムから引き離して落ち着かせる以外の解決策が思いつかなかった。

 暴れる三人を魔法科の面々で何とかカイムから引き剥がす。


「三人の為にも早くクロノ連れ戻さねぇとなカイム」


「うるせぇ、連れ戻したところで襲撃してきたやつら何とかしねぇとどうにもならねぇだろ」


「いやそりゃそうだけど……あ」


 暴れる三つ子をそれぞれが何とか言い聞かせて宥める中、ルドーはまた教室の入り口に隠れる様にしている、頭に羽の生えた魔人族の少女を見つけた。


 カイムにサンドイッチを拒絶されたものの、それ以降も教室の入り口や、基礎訓練や魔法訓練の際も、遠くからそっと見守っているのはそのままだ。


 ルドーの声と視線にカイムも目線の先を追って、気付いたように顔を顰めた。

 カイムに気付かれたと分かったからか、その顰めた顔に少女はまた跳び上がって走り逃げていく。


「マジでなんなんだよ。戻りもしねぇ、戦うわけでもねぇ。名前相変わらず言ってこねぇし」


「うーん、名前もわかんないんじゃな、ヘルシュ前話してたっけ、紹介できるか?」


「えっ!? あーいや、自分のタイミングで自己紹介するって言ってたからちょっと……」


 ルドーに突然指名されて、魔人族の少女と唯一会話した様子のヘルシュは、困ったように頭をガシガシとかいて、視線だけ少女のが走っていった方に向ける。


「タイミングってなんだヘルシュ」


「うーん、なんていえばいいのかなぁ。なんか盲目的っていうかなんていうか……」


「あぁ、要するに運命的なシーンで名前を言いたいって事?」


 説明に困るようにヘルシュがしどろもどろに答える中、話を聞いたアリアが割り込んでくる。

 アリアの話にカイムは訳が分からなさそうに顔を顰めたまま、ルドーも理解できずアリアに聞き返した。


「運命的なシーン? えぇ? 自己紹介にそんなのいるか?」


「もう訳がわからなさすぎるっつの」


「ほら、あるじゃない。幻想的なシーンで自己紹介されると物凄く印象に残っちゃう奴。そういうのに憧れてて、そんな感じに自己紹介したいって事でしょ?」


「あーなるほど、恋に恋してる感じなんだ」


 アリアの説明にリリアは納得した様子だったが、ルドーは何を言われているのかさっぱりわからない。

 そんなルドーと、同じように訳が分からないとこぼすカイムも無視して、そのままリリアとアリアは集まってきた女子組で会話し始めた。


「逃げていくのが厄介ですわ、カイムさんから拒絶すら出来ませんもの」


「思ったより、意固地。多分、まだ諦めてない」


「この間あれだけ拒絶されたら普通諦めるものなのですにや。その精神は見習いたいですや」


「新しいアプローチがその内来るんじゃないかなーと睨んでます!」


「全く、この手のことに察しがいいのがアルスさんだけだなんて、これだから男子は」


「せめてお兄ちゃんがもうちょっとわかるようならフォロー入れられると思うんだけどなぁ」


「フォロー入れてどうすんのよ、気持ちはわかるけどどう見ても仲良くしたがってるの向こうだけじゃないの」


 女子たちが集まって円陣を組むようにしながら話し合っている様子に、アルス以外の男子組は訳が分からず困惑の表情で見守る。


「ねーねールドにぃ、めがみってなぁにー?」


「えっ? あーうーん、なんだろ……」


 我儘に暴れていた様子から落ち着きを取り戻したライアが、ルドーの足をベシベシ叩きながら聞いて来る。


 女神について聞いてきたライアに、ルドーは改めて考える。


 ルドーが転生できている以上、実在はすると思われる女神。

 転生の際に声を聞いたような気がしただけで、それがどんな姿をしているかはルドーも視認できていないのでわからない。


 人を土から作ったとされる伝説。


 他に女神についてルドーが知っている事と言えば、勇者や聖女などの役職を授けるというもの。

 ルドーとリリアの役職も、女神から授けられたもの。

 カイムやボンブも役職持ちなので、魔人族を女神が把握していないという事も無いだろう。

 役職を与えてくるそのやり方はわからず、そのようなものだと気にも取り留めていなかったが、そもそも女神とは何なのだろうか。


 声を聞いたとこがあるので、何らかの意思疎通手段があるのだろうか。

 ゲッシ村に教会はなかったため、その辺りの風習にはどうにも弱い。


 今回破壊され続けているのは、そんな教会構内の、一番立派な女神像。

 ひょっとしてその女神像に祈りなり何なりしたら、女神に何かしら伝わったりするのだろうか。

 犯人はそれだと都合が悪い為、女神像を尽く破壊したでもしたのだろうか。


 ズボンをベシベシ叩き続けるライアに、しゃがんで視線を合わせながらルドーは困ったように慎重に言葉を選ぶ。


「うーん、なんか、物凄いこと出来るけど、恥ずかしがり屋だから表に出て来ないってところかな」


「物凄いことができる! だからお祈りするんだね!」


「うん、そういうことそういうこと、いい子にしてるとなおよしだぞ」


「うーん微笑ましい微笑ましい、良いことしてるじゃないかルドー君」


 馴染のある声にルドーが慌てて立ち上がって振り向く。

 教室の入り口には、これまた緑のローブを纏ったモネアネ魔導士長が立っていた。


 突然の来訪に、魔法科の面々は何事だろうとその周囲で伺っている。


「魔導士長? 何しに来たんだ?」


「何かありました?」


「うん何かあった。それで緊急招集かかっちゃったんだ。だから迎えに来たって訳」


 授業もあるのに突然で申し訳ないねぇと、そのわりにあっけらかんと続けた魔導士長。

 話しながらスタスタと、他の生徒に声を掛けながら、ルドーとリリアの方に歩いて来るモネアネ魔導士。


 緊急招集、明らかにただ事ではないその単語に、ルドーはリリアと心配になって顔を見合わせる。


「緊急招集ってなんすか?」


「うーん、ここじゃ機密もあって話しにくいんだよね。時間も押してることだし、戻ってから説明するよ」


「戻ってからって、今からチュニに? ん? 待てよそれって……」


「うん、召集だからね。一応君たちの担任には既に許可取ってあるから。そんじゃ一発」


 そう言って構えたモネアネ魔導士長に、ルドーはリリアと一緒に逃げようとした。

 一体何をしているのだろうかと、二人の様子に、あっと声をあげたトラスト以外の教室の面々が怪訝な表情を向ける。


 この金属音を聞くのももはや三度目。


 フルスイングしたモネアネ魔導士長に、ルドーはリリアと一緒に吹っ飛ばされ、教室の窓から遥か上空まで一気に吹き飛ばされた。


「もうマジで許さねぇからなあああああああああああああああ!!!」


「せめて事前にもっといってくださあああああああああああい!」


 上空に飛んでいく、ルドーとリリアの叫び声が、取り残された教室に木霊する。

 入学初日に飛んだ空を逆走するようにしていく。

 魔法科の教室どころかエレイーネーまで、ルドーはリリアと一緒に遥か上空まで吹っ飛ばされて、あっという間に見えなくなっていく。


 緊急招集、国の勇者と聖女をエレイーネーからわざわざ連れ戻すほどの事。


 度重なる厄介ごとに、ルドーは今回はひどい目に遭わなければいいなぁと、もはや何もかもあきらめの境地に達していた。


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