第百二十九話 明確にされた目標
エレイーネーに戻ってきたルドー達は翌日からまた授業を再開した。
ランタルテリアにて歩く災害が出現した話はあっという間にエレイーネー内に広まり、遭遇したルドー達が倒したという話も同様に大きく広がっている。
話の詳細を知ろうと朝から囲ってきた魔法科の面々に、ルドーはあった事をありのまま話したが、歩く災害を指示しているらしい群のボスの存在、前世の説明が難しい為、ルドーは何故か一方的に絡まれてそのまま恐慌状態に陥って、ギラン先生に救出されたと話した。
間違いではない。
ギラン先生は右手の義手魔道具が破壊されたせいか、また新たな義手を製作する形に取り掛かって、ますます仕事をしていないらしい。
魔力の層を破壊するにはもっと強度をと、試行錯誤を繰り返してギラン先生のエレイーネー内の私室から大きく火花が散り始めていた。
ルドーを助けようとしたために義手魔道具が破壊されたであろうため、ギラン先生に少々後ろめたさを感じるものの、仕事を放置してまで一体何をしているのやらと、ルドーは同時に呆れもしてしまった。
少年のような姿をした歩く災害と同じ化け物の詳細は結局不明なまま、ラグンセンも大多数があの建物の別口から逃げていたそうだ。
ただどれだけ探しても、歩く災害がなぜラグンセンの施設の地下深くから出てきたかどうにもわからなかったらしい。
聖剣が地下深くに居た歩く災害に気付けなかったのも、どうやら歩く災害に合わせた魔封じの腕輪と首輪を付けた上で、他の魔法が通りにくい合鋼製の分厚い壁の底に居たためだった。
歩く災害は自力で魔封じを外し、建物を破壊しながらルドーに向かってきたために聖剣が認識できたようだ。
ただ何がきっかけで地下深くから動かなかった歩く災害が、自力で魔封じまで破って表に出てきたのかは結局わからずじまいだった。
想定外の歩く災害の地下からの脱走に、数多くあったラグンセンの資料もかなりの数破壊され、ルドーが見かけた翠色の長髪の男と一緒に何もわからなくなっていた。
「お兄ちゃん、自衛用魔道具ちょっと試してみたいんだけど」
「ん? あぁこれか。聖剣の魔力込めんだっけ?」
『ほーん、それなりに魔力貯めれそうだな、良い腕してら』
基礎訓練前の朝食に向かう廊下で、ルドーはリリアに声を掛けられる。
そう言えば昨日のゴタゴタで、結局リリアの自衛用魔道具がどんなものか見れていなかったなと、ルドーも声を掛けてきたリリアに近寄った。
リリアが差し出してきたそれは、片掌に収まるほどの、卵のような形をした塊で、小さな金属装飾の中心に、真白な水晶のようなものがはめ込まれている。
「不思議だよね、真っ黒だった魔水晶、組み込んだら真白になるんだって」
「えっこれ、カイムが持ってきてたあの黒いやつか?」
自衛用魔道具にはめ込まれていた白い水晶は、カイムが中央魔森林で採取したあの黒い魔水晶だった。
なんでも魔道具の製造過程で中身が抜け落ちる為真白になり、その後は貯める魔力によってその色が変化するそうだ。
魔力の残量が少なくなるほど白くなっていくため、魔力の感覚が本人に分かりにくくても、その魔水晶の様子を見れば何となく魔力残量が分かる仕組みになっているらしい。
「ほーん、そんじゃここに聖剣の魔力入れてみるか」
『物は試しだな、壊れない様には気を配るが』
ゴタゴタのせいでケマンさんからの説明は聞けなかったため、リリアから改めて説明を受ける。
自衛用魔道具の魔水晶に向かって魔力を放出すれば、その魔力が魔水晶に吸収されて、魔道具がその魔力を使用するようになって自在に操れるようになるらしい。
ルドーが鞘から聖剣を抜いて構え、魔道具が壊れず、且つ魔力が満杯になるようにイメージすれば、パチッという音共に、球体のような形をした雷が、自衛用魔道具に向かって発射された。
そのままその雷は自衛用魔道具の魔水晶部分に当たり、パチパチと火花を散らしながら馴染んでいって、煌めく金色に光輝く。
その幻想的な光の変化に、ルドーはリリアと一緒にほぅっと感嘆を吐いた。
「魔力の補充はこれでうまく言った感じか、後は実戦だけど、どうするリリ、魔法訓練の時に試してみるか?」
「うぅん、そっちは目途付いてるから大丈夫」
ルドーの声掛けに、リリアがニッコリ笑って返す。
その笑顔はいつもの他意のない笑顔ではない、危険な笑顔だった。
ルドーは思わず後退る。
自衛用魔道具を試す宛がある、リリアは一体何をする気だろうか。
エリンジが新しく製作した攻撃型魔道具も注目の的だった。
お試しを頼みつつ結局どれも注文しなかったため、エリンジはカゲツとオリーブにそれぞれ申し訳ないと頭を下げていた。
だがカゲツはキャンセル料を払われたことで逆に上機嫌になったし、オリーブもよくある事だからと微笑みつつ、また何かあった時に贔屓にしてくれと、いつものお礼倍返しの口癖を返していた。
昨日は歩く災害との戦闘に、薄暗い中央魔森林の中大雑把にその姿の認識しか出来なかったルドーは、攻撃型魔道具を持ったまま朝食にやってきたエリンジを見かけて、声を掛けて許可を得た後まじまじとそれを観察する。
金属製の、アックスハンマーを着脱できる柄の部分は、持ちやすい様に真ん中に二つ握り手部分が付いている。
その握り手の部分に、頭部分を着脱できる握りスイッチのような部品があり、ここを物理で起動したり魔力を流したりすることで、任意のタイミングでアックスハンマーの頭を外して飛ばせるようになっているようだ。
エリンジの上半身ほどのアックスハンマーの頭を支える為と、発射した後もこの柄の部分を使えばある程度自衛出来る様にと、柄の部分もそれなりの太さになっている。
エリンジの上半身と同じくらいの大きさのアックスハンマーの頭部分は、独特の金属光沢に黒く光る中、扇形に広く鋭い刃が付いた部分に、まるで真逆の性質のように、かなりの大きさの金槌部分があり、その中間で柄に着脱できるようにと真ん中あたりは窪ませてあった。
昨日はアックスハンマーを叩きつけるところしか見ていなかったために、魔水晶は一体どこに使われていたのかとルドーが頭部分を見渡してみる。
金槌部分の中心、打撃面の場所に、とても大きな魔水晶が嵌め込まれていることを理解した。
ひょっとしてと思ってルドーが今度は斧部分の刃を見てみれば、そこが虹色に輝いており、そこにも魔水晶が使われていることがわかる。
打撃などの攻撃の際に貯めた魔力による追撃もしやすい構造になっている。
「昨日は軽々振り回してたけど、案外重くないのか?」
「いや、重量はそれなりにある」
「はー、普段鍛えてて苦にならなかった感じか」
「今日の基礎訓練からまた設定を変えてみる」
『それをより使いやすくする筋肉の鍛え方に変えるってとこか』
聖剣の感想に、そういう事だとエリンジから返答がある。
強力な雷魔法の攻撃である雷竜落の直撃があっての、魔力層のヒビが入って攻撃が通るようになったとはいえ、歩く災害にあれだけの攻撃を通すことが出来たため、本格的に扱うために鍛えれば更にその威力が期待できた。
「設定し直して鍛え直しつつ、魔法訓練でいくらか組手をして間隔を馴染ませたい。ルドー、協力を頼む」
「おっし任せろ。俺もそれなら雷魔法の盾遠慮なく使わせてもらうぜ」
「怪我しないよう程々にね、二人とも」
エリンジとリリアと一緒に、朝食を取ろうと廊下から中央ホールを移動して食堂に辿り着けば、リリアを見かけた途端またゾロゾロと護衛科の連中が寄り始めてルドーは辟易とする。
どうやらランタルテリアでの歩く災害騒動で、本格的に護衛が必要だと思われたらしい。
「あ、ちょっといいかな君たち」
ルドーが項垂れながらどうやって護衛科の男連中を追い返そうかと口を開こうとした瞬間、リリアが一歩前に出て護衛科の連中に話しかけていた。
ようやく誰か護衛を雇ってもらえるのかと、男連中は沸き立ち始める。
だがリリアのその携えている危険なニコニコ笑顔を察したルドーは、同様に察した様子の無表情のエリンジと共に、音を立てないようにしながら、そっと二人冷汗をかきつつ後ろに後退する。
「私護衛要らないんだけど、どうしてもって言うなら、これを耐えることが出来たら考えてもいいよ?」
ニコニコ笑うリリアの言葉に、その笑顔つられるように護衛科の男連中も笑い始める中、これとは何でしょうかと声が上がった瞬間、リリアが胸の前に取り出した自衛用魔道具から、バチーンバリバリバリと強烈な雷魔法がリリア周辺に発生した。
ルドーとエリンジが眺めている前で、護衛科の男連中が強烈な雷魔法にどんどんブスブス黒焦げになっていく。
そのまま護衛科の男連中がバタバタと耐え切れずに黒焦げになって倒れていき、パリパリと雷が収まる頃には、護衛科の男連中は誰一人その場に立っておらず、積み上がるように床に倒れていた。
「あーあ、みんな倒れちゃった。お兄ちゃん相手にしないといけない時もあるかもしれないのに、この程度じゃ護衛なんか務まらないね」
『試す目途付いてたって言うのはこれか、傑作だぜこりゃ』
困ったなぁというように、リリアが頬に手を当てながら黒焦げになった護衛科の男連中を眺めている。
散々断ったのに付き纏われてリリアも辟易としていたのだろうか、いつもなら無意識にでも回復魔法をかけるだろうに、彼らに対してはそれをする気は全くないらしかった。
その様子にレギアは大きくゲラゲラ笑い始めた。
朝食に来ていた他の科の連中にも盛大に目撃されている。
このカオス状態どうすればいいんだ。
「全く、最近変な噂を聞きましたので様子を見に来てみれば。そんなだからいつまで経っても主を見つけることが出来ないんです」
「あ、おはようございますサンザカさん」
エリンジと二人、状況に現実逃避するように呆然とし続けていれば、横からツカツカと厳格な足取りで現れたサンザカに、リリアが何でもない様に挨拶する。
サンザカはリリアの挨拶にぺこりと厳格に頭を下げた後、厳しく蔑む視線を黒焦げになった連中に向け始めた。
「下心のあるまま護衛をしようとするからこうなるのです。これに懲りたらもっと自己鍛錬して心を入れ替えなさい。他学科への迷惑行為を掛けてのこの失態、この事はニン先生にも報告させていただきます」
吹雪のような蔑む視線を黒焦げ男達に向けるサンザカ。
こちらの連中が失礼しましたと、サンザカはリリアに向き合って改めて深く謝罪したが、リリアはサンザカのせいではないのでと、危険ではない他意のないニコニコ笑顔で返している。
サンザカはリリアの返答に感謝するように小さく頷いた後、黒焦げになったままの男連中を、このままでは食堂の邪魔になると、腰の剣を抜いて峰打ちで、そのままゴロゴロ転がして食堂から外に追いやっていった。
「……とりあえずこれでもう護衛がどうの言ってこねぇか」
「多分そうかも? 一件落着だね」
「自己解決したな、やはり強い」
「悪いがそれもういらねぇわ。こっちで適当に選ぶから自分で食ってくれよ」
ルドーがまだ若干放心状態でありつつも、これで心配事が一つ減ったと、リリアとエリンジと改めて朝食をどれにしようかと選び始めたら、少し離れた横の方でカイムの声が聞こえた。
ルドー達が聞こえた声の方向に顔を向ければ、いつものサンドイッチのバスケットを持った頭に羽の生えた魔人族が、またカイムにバスケットを差し出そうとして、しかし髪でがっちりガードされて突き返されている所だった。
「名前も分からねぇ理由もわからねぇ奴からこれ以上施しいらねぇっつの。お前とっと帰れよ、ここに居たってなにもないだろが」
完全に呆れ切った様子のカイムの、拒絶の言葉だった。
バスケットを差し出そうとした頭に羽の生えた魔人族の少女は、その言葉に呆然と固まるようにプルプルと震えはじめている。
「そっそこまで言う事ないじゃん! 毎日健気に用意してたのに!」
「知るかよ、頼んでねぇんだっつの」
プルプル震える魔人族の少女が顔を真っ赤にさせて目に涙が溜まり始めた所で、なぜかヘルシュが割り込んできて擁護する声を上げ始めた。
しかしヘルシュの言葉にもカイムは呆れたような唸る溜息を吐くだけで、完全に拒絶したままバスケットを受け取る様子はなかった。
どうやら流石に同胞でも、名前も分からず同じ食べ物を長期間渡されて、嫌がらせのようにとうとうカイムは感じてしまったようだ。
「いい加減にしろっつの。こっちももうそれ見るだけで気分悪ぃし、チビどもが食いたいもんが食えねぇって機嫌悪くなんだよ。そっちのてめぇそんなに庇うならてめぇが食えっての」
「えっ」
カイムは魔人族の少女を庇ったヘルシュに、そんなに食いたいならお前が食えとでもいうように、拒絶していたバスケットを強引に押し付けた。
カイムはそのまま魔人族の少女には目もくれず、隠れる様にカイムの後ろにいた三つ子に声を掛けて、今日は好きなもんを食えとのカイムの声掛けに、三つ子がきゃいきゃいはしゃいで朝食を一緒に選びに行った。
「……えーっと、勿体ないから食べてもいい?」
バスケットを押し付けられて困惑していたヘルシュは、しかしサンドイッチが無駄になるのも何なのでというように、頭に羽の生えた魔人族の少女に問いかけている。
魔人族の少女はまだ拒絶されたカイムの方に涙目のまま視線を向けていたが、ヘルシュにおずおずとかけられた声に、ようやく跳びあがることも無く、今にも泣きそうな悲しそうな顔でゆっくりと頷いていた。
「おぉっとぉ? これは想定外な展開ですねぇ」
「思わぬ救世主ですわ。まともな返答も出来ましたし、これはひょっとするとひょっとするのでは?」
「あなた達そんな風に見ていて無粋ですわよ、全くもうこれだから」
「泣き始めそうだったからって、ハンカチ握りしめておろおろしてたのに強がってんじゃないわよ」
「これはべべっべ別にそういうものではありませんわよ!」
「まぁカイムくんは脈無しだろうしなぁ。アプローチもへたっぴだったし、乗り換えたほうが吉だろうねぇ」
食事の為に人が多く集まってくる食堂での出来事。
既に食事をしながら様子見ていたメロン、キシア、ビタ、アリア、アルスが、それぞれ机に食事をとりながらなにやらコソコソ話していある。
同じく様子を見ていたリリアからも、まぁこれは仕方ないよねぇと声が上がるのを、理解していない無表情のエリンジと二人、ルドーは首を傾げて様子を眺めていた。
「ルドにぃ! 今日は何食べるの?」
「ん? チーズトンカツ定食」
「お兄ちゃん朝からそれは重くない?」
「ん? そうか?」
「私も食べる! とってー」
「ほいほい」
いつもの調子でベシベシとライアに足を叩かれ、そのままカイムとレイルとロイズに合流して、一緒に朝食を食べ始める。
「うーん、これからどうすっかねぇ」
「どうした」
「いや、結局シャーティフのラグンセンには逃げられてるし、歩く災害は倒せたけど、それでも一人で出来た訳じゃない。それに歩く災害の群れのボスっぽいやつには手も足も出なかったし。改善点はあると思うんだけど、どう改善すべきかなってよ」
「あんな規格外の魔法ぶっ放しといて満足してねぇのかよ」
「いやだって聖剣の雷魔法、なぜかクロノには効かねぇからよ」
だから倒すイメージが全然湧かねぇんだよなぁとルドーがこぼせば、組手でその様子を見たことがあるカイムも、話を聞いて深刻な表情になったエリンジとリリアと一緒に顔を見合わせる。
きゃいきゃいはしゃぐ三つ子たちは、久しぶりに選べた朝食に、黙々と真剣に食べ始めている。
万一単体で歩く災害やその群れのボスと遭遇した場合、逃げられない状況に陥ってしまったら、一人で対処できなければならない。
攻撃こそ通ったものの、まだその威力は聖剣曰く一部。
十割の全体が出た訳ではない。
同じようにエリンジとカイムも、それぞれが攻撃力こそ向上したものの、ルドー同様本気のクロノと善戦できるようなイメージはまだ湧いてない様子だった。
「俺もようやく形になったってだけで、まだ改良の余地あらぁな」
「エリンジ君は魔力が少し戻ったから、魔力伝達で総量ブーストできるんじゃない?」
「確かに。後で試させてくれ」
「十割の全体ってどうすりゃ出るんだよ聖剣」
『十割出たじゃねぇか、その感覚でやれ』
「だからそれ参考にならねぇんだって!」
いつも通りの返答にルドーは項垂れた後天を仰ぐ。
強くならなければ女神深教相手に自衛できないのに、その強くなる基準が今一つよくわからない。
「どれくらい強くなったらクロノと善戦はれんのかねぇ」
「単独で歩く災害ぶっ倒すくらいだ」
基準がわからず食事を止めて、腕を組んで悩みながら唸り始めたルドーと、同意するように無表情で頷いていたエリンジに、カイムがモシャリとコッペパンを引き千切りながら告げた。
カイムの告げた言葉を噛み砕くように、ルドー達は一拍置いた後、どうしてその基準になったのかと、カイムに視線を向けて聞き返し始める。
「歩く災害を単独で倒す? クロノは歩く災害は倒せなかったのか?」
「チビども庇ってたのもあるだろうが、単独では出来てなかった。俺が前に腕再生してんの見たのもそん時だ」
「歩く災害と戦って、クロノさんが怪我してたって事?」
「あの時すごく怖かった」
「クロねぇ腕から赤い血が出てて痛がってた」
「凄いキックしてた。でも一緒に腕ぶちってしてた」
「……悪ぃ、思い出すの怖ぇよな、ごめんな」
カイムの話に、隣で朝食を食べていた三人が怯えて声を上げ始めた。
怖い事は聞かなくていいと、カイムは怯える三つ子の頭を落ち着かせるように、それぞれそっと撫でる。
クロノの自己再生を以前見たと言っていたカイムだが、どうやらライアたちの話から、歩く災害との戦闘時にクロノは何かしら負傷したらしい。
「確かに単独だと今の状況でも古代魔道具がなければ不可能だな、だが明確な基準としてはわかりやすい」
カイムの話に、エリンジも納得している様子だった。
分厚過ぎる魔力の層で攻撃がまともに通らない歩く災害。
古代魔道具聖剣の十割の攻撃で、その魔力の層を貫通することが出来た。
つまりエリンジとカイムも同じように歩く災害の魔力の層を破壊できれば、歩く災害を単独で倒すことは可能であることを意味する。
『あの化け物を単独でねぇ、わかりやすいっちゃわかりやすいか』
「森から出てきた以上また襲われる可能性あるしなぁ、用心にもなるし、目標としては十分か」
「高い目標だが、突破しがいはある」
「そっか、あれを倒すのが基準なんだ。うーん、自衛だけじゃ厳しいかな?」
「……リリ、マジでそこまで行く気なのか?」
カイムの会話に、ようやく明確にどれだけ強くなるかの目標が分かり始めた。
歩く災害の単独撃破、古代魔道具でもなければ不可能とも考えられる様な目標、だが歩く災害に女神深教の連中を相手取るなら、それぐらいできないと話にならないという事だろう。
遅れていたと思ったら一人一番目標に近い場所に居た事に気付いたルドーは、昨日中央魔森林で浴びせられたおぞましい魔力と殺気を思い出しながら、対峙する可能性のあるもう一つの脅威を思い起こしていた。




