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第百二十一話 三通の手紙

 エリンジはギラン先生が突撃してきた週末に、早速とばかりにギラン先生と一緒にランタルテリアに向かった。

 最近エレイーネーから外に出るたびに何かしら厄介事が舞い込んできている気がしていたルドーは不安視していたがどうやら杞憂だったようで、何の問題もなく戻ってきた。

 ただエリンジは肝心の攻撃型魔道具は持ち帰っていなかった。


「あれ、エリンジ攻撃型魔道具は結局どうしたんだ?」


「その件で話がある」


 週末二日目の夕方、リリアと一緒に夕食を終えた後に食堂から寮に戻るメインホールで、ランタルテリアから戻ってきたエリンジを見かけてルドーが声を掛ければ、悩むような無表情のエリンジが答えてくる。


「魔力伝達で魔力を補充していると職人に話したら、その様子を実際に確認しておきたいと」


「えぇ? それが攻撃型魔道具に関係あるのか?」


「他人から魔力を補充するならば、その相手の元の魔力の状態と、補充する際の変化を確認したいらしい」


「魔道具に魔力を溜める影響で私の魔力も一応確認したいって事?」


「そういう事だ、次の週末頼めるか」


 エリンジはリリアを見た後、許可を求めるようにルドーにも視線を向ける。

 話を聞いたリリアもこちらに視線を向けてきたので、ルドーは少し考える。


 エリンジの攻撃型魔道具を製作できるなら協力したいが、ランタルテリアに行くことは安全だろうか。

 ランタルテリアとグルアテリアの戦争を未然に防いだものの、例の女神深教の剣の男は未だ行方不明だ。

 さらに言えばグルアテリアに仕組まれていたものは、剣の男だけのものではない。

 どこに手下がいるか分からないと聖剣(レギア)は語った、隣国ならばその手下もどれくらい潜んでいるかわからない。

 向かっても大丈夫なのだろうか。


「エリンジ、実際魔道具製造施設まで行ったんだよな、様子どうだった?」


「ギラン先生の話では、よくある魔道具製造工房だそうだ。大型の工房ではなく、小さな工房が街を形成している」


 エリンジ曰く、ランタルテリアで向かった魔道具製造施設は、一般的な家と同じくらいの大きさの、職人が数人で切り盛りするような工房が乱立している場所らしい。

 そのような小さな工房ではそもそも魔人族を奴隷として扱うような隠す場所がない。

 街も活気に満ち溢れていたが、エリンジが希望する攻撃型魔道具を作れそうな職人を探すのはかなり苦戦して、それだけで一日費やしてしまったらしい。


「ギラン先生は次の週末も付き添いで来るそうだ」


「まぁそれ目的で来てたような感じだもんなこの間の。うーん、聞く限り安全そうではあるか、どう思う聖剣(レギア)?」


『多分その先公の話じゃどの職人に話し持ち掛けても同じこと言われるだろ、なら職人の目途が立ってるならさっさとやったほうがいい。この特殊な状況じゃ製作にどれくらいかかるかわからねぇからな』


 魔力が元々多かったエリンジが魔力を奪われ、それを魔力伝達でリリアの魔力を補充する、かなりの特殊過ぎる状態。

 その状態のエリンジの、ギラン先生曰く以前の魔力とのラグによるばらつきに対応できる繊細かつ強力な攻撃型魔道具となると、かなりのレアケース。


 対応できる攻撃型魔道具が製造できるまでどれほどかかるか未知数だった。

 女神深教が暗躍している今、あまり悠長に事を構えるのは危険な気がする。


「なるほどなぁ、リリ、俺も行く。いいな」


「うん、最初からそのつもりだよ」


 ルドー達の返事に話は決まったとばかりにエリンジが頷いた後、そういえばというように首を回して周囲を見渡した。


「あと頼まれ事がある。ルドー、カイムはどこだ」


「カイム? さっきライアたちと夕飯食ってたからもうすぐこっち来ると思うけど」


「頼まれごとって?」


「ネルテ先生とギラン先生からそれぞれ手紙だ」


 ルドーとリリアに答えながら、エリンジが懐からそれぞれ封筒を二つ出してくる。

 気になったルドーがリリアと一緒にそのままエリンジと待っていると、いつものカイムの吠えるような声が響いてきた。


「だから変な事ばっか教え込んでんじゃねぇよキャビン! すっこんでろ!」


「あらやだわぁ変な事だなんて。あのお姉ちゃんがいなくなって寂しいから、戻ってきた時どうすれば一緒にいられるのって聞かれたから、可能性の一つとして話しただけじゃない」


「それが余計だっつーんだよ! いいからもう変な事教えんなよ! あと戦いも教えんな!」


「別に戦闘方法教えてるわけじゃないわよ。悪いやつが来たらかくれんぼして戦うのよって言ってるだけよ、悪いやつは弱い者いじめしてくるから隠れるのよって」


「道理で最近やたらあちこち隠れ始めた訳だよ! 探すの苦労するんだぞやめろや!」


「カイにぃ探すのへたっぴ!」


「ここいっぱい隠れられる場所あって楽しい!」


「次はルドにぃとリリねぇも誘うの!」


「うるせぇチビども呼んだ時は出てこいや!」


 大声でキャビンを見上げながら抗議の声を上げているカイム。

 どうやら前にロイズが言っていた教わっている戦い方はかくれんぼの事らしい。


 確かに戦闘方法を教えて真っ向から戦うよりも、体格の小さい三人なら隠れた方がいい。

 上手い事を教えるものだとルドーはキャビンに感心しつつ、三人が隠れられそうな場所の目星に気を付けるようにしようと心に刻んだ。


「カイム、今いいか」


「あぁ? なんだよ?」


 そのままキャビンにギャアギャア言いながらも、保護科の寮の方に三つ子が連れられて行くのを見送っていたカイムにエリンジが話しかける。


「お前に手紙だ。こっちはギレン先生から。こっちはネルテ先生から」


「手紙だぁ?」


 エリンジが差し出した二つの封筒をカイムは怪訝な顔をしながら受け取る。

 そのまま表紙を眺めていたカイムが、片方の封筒の表紙を見てさらに顔を顰めた。


「なんだぁ? 依頼状だぁ?」


「えっ、カイム宛に依頼?」


 カイムの声にルドーが驚いてその手に持っている封筒を覗き込む。

 改めてその封筒を見れば、確かにルドーも見覚えのある依頼状と表紙に書かれたいつもの形状だった。


「そちらはギラン先生からだ。内容を読んで受けるのも受けないのも自由だそうだ、好きにしろと」


「はぁ? なんなんだよ……」


 エリンジの説明を聞きながら、カイムはかなり乱雑に封筒をビリビリと引き裂いて、中にあった便箋を取り出して読み始める。

 顔を顰めたまま、どうにも浮かない表情が続いて、ルドーはそのカイムの曇っていく様子を、心配そうに見ていたリリアと顔を合わせた後声を掛ける。


「おい、大丈夫か? なんて書いてあったんだカイム」


「……森にある素材を出来れば探してくれとよ、魔道具製造施設からだ」


 唸るように話したカイムに、ルドーはリリアと一緒に驚く。

 魔道具製造施設に対して破壊活動をしていたと有名な魔人族であるカイムに、魔道具製造施設から依頼が入っていた。

 森にある素材、魔人族のカイムに頼むのだから、その森はおおよそ中央魔森林だ。

 一体なぜそんな依頼状をギラン先生は渡してきたのだろうか。

 顰め面のまま依頼の書かれた便箋を睨み付けているカイムに、ルドーとリリアは心配になって声を掛ける。


「カイム、大丈夫か?」


「嫌なら無理しなくていいからね?」


「……うるせぇてめぇら、ちっと考えるわ。んでこっちはボンブと一緒の女のやつか」


 ルドーとリリアが心配して掛けた声に、カイムはどうにも考えるように唸りながら返す。

 そのままギラン先生が持ってきた依頼状を雑にズボンのポケットに突っ込んだ後、今度はネルテ先生からの封筒を開けて便箋を見始めれば、驚愕に目を見開いた後、ボリボリと頭をかき始めた。

 そのカイムの表情に先程の憂いがきれいさっぱり無くなっていたので、ルドーはリリアと二人再度顔を見合わせてから問いかける。


「どうした、カイムそっちは何だったんだ?」


「いや……わけわかんねぇな。ん」


「えっ、読んでいいの……?」


 ボリボリ頭をかきながらも、顔を逸らしたままカイムが便箋をルドー達に差し出してきた。

 ルドーはリリア、そして手紙を渡した後無表情でいたエリンジと共にその便箋を読み始める。


 たどたどしい、あちこち書き間違えた小さな子どもの文字だ。

 かみのおにいちゃんあのときはありがとうございましたと、こども特有のかなり大きな文字で書かれている。


 その内容に読んでいた三人とも目を見開いた。


「こっちはネルテ先生の補足か……リンソウで助けた男の子から頼まれたって?」


『そういえばあのガキ結局どうなったんだ?』


「保護者はそのまま逃亡した。今は女神教の孤児院で保護されて生活している」


 聖剣(レギア)の疑問に、領地の為詳しいだろうエリンジが静かに返した。


 襲撃があった為にルドー達は少年を保護することが出来ず、近場にいた人に簡潔に事情を説明してリリアが預けていたのだが、エリンジの話によると、その後話を聞いたイスレ神父が少年を保護してそのまま女神教の孤児院入ることになったらしい。

 あのイスレ神父が保護してくれたなら、きっともうあの子は大丈夫だ。


 ネルテ先生からの手紙は、リンソウで助けたそんな男の子からカイムに宛てた、感謝の手紙だった。

 文章はかなり短いが、子どもなりに精一杯の感謝をカイムに伝えたかったのだろう。

 尚も困惑した表情で、しかしどこか気恥ずかしそうに頭をかき続けているカイムに、ルドーはリリアと一緒に優しく笑いかけた。


「よかったじゃん、カイム」


「うん、いい事したよ」


「……うるせぇ」


 三人で優しく笑いかけながら手紙を返せば、カイムは小さく唸りながらも、手紙の便箋を、先程とは違って丁寧に畳んで仕舞い込んだ。


「カイム、こんな時に言うのも悪いが、出来れば先程の依頼は受けてほしい」


「あぁ?」


 顔を背けたままボリボリ頭をかき続けるカイムに、エリンジが真顔になって頼み込み始める。

 先程の魔道具製造施設からの依頼を受けてほしいというエリンジ、一体どういうことだろうか。

 カイムもエリンジの言葉にまた顔を顰めて、説明を求めるようにエリンジに向き直る。


「その依頼は俺が攻撃型魔道具を頼んだために発生したものだ。特殊な素材で、魔道具を作る際に必要になる可能性が高いと」


『なんだ希少物か?』


「かなりの希少鉱石という話だ。現状、採掘できる場所が中央魔森林しかない。しかし瘴気もそれなりで、そう何度も高額依頼の国の魔導士を依頼派遣して中央魔森林に採掘に行くこともできない。その為流通物の数がかなり限られていて、現状手に入りそうにない」


 エリンジの説明に、ルドーはリリアと共にどうしてギラン先生がカイムに依頼状を持ってきたのかなんとなく理解した。


 エリンジの攻撃型魔道具を作るために、その希少鉱石が必要だと分かったため、中央魔森林に詳しいカイムに依頼するように、ギラン先生が魔道具製造施設側に話したのだろう。

 受けるのも受けないのも自由、あくまでカイムの意見を尊重している当たり、魔道具に関する興味だけで動いているだけではないようだ。

 その辺りがやはりギラン先生もエレイーネーの教師という事だろうか。


「んだよ、てめぇ関連なら最初から言えや」


「俺も知らぬ間にギラン先生がそれを用意していて、中身まで聞いていなかった。その話が分かっていたなら俺から直接頼みたかったくらいだ。気に障るなら無理は言わんが」


 呆れたような溜息を吐いたカイムに、エリンジが無表情に告げる。

 どうやらギラン先生はエリンジに依頼状を渡すように頼んでおきながら、その中身までは話していなかったようだ。


 聞く限り採掘に行く事が危険なための希少鉱石。

 中央魔森林に詳しいカイムなら、鉱石の特徴を話せば採掘できそうな場所に目星は付けられるので、ランタルテリアの国の魔導士に頼むよりも確実性は高いだろう。

 流通物が少なすぎて数が限られているなら、市場から手に入る確率はかなり低いだろうし、何よりその希少鉱石そのものが市場価格がかなり吊り上げられていそうだ。

 ただカイムも魔道具製造施設にはあまりいい思いはしていないだろう、クバヘクソでの経験からも、エリンジも無理強いする気はないようで、あくまでもカイムの心情を優先するつもりのようだ。


「あぁーったく、わぁーったよ。受ける、てめぇ感謝しろよ」


 大きく唸りながら項垂れつつも、カイムはエリンジの方を睨みながらも承諾する旨を発する。

 エリンジもカイムの心象から、数日考え込むかと思っていたのか、思ったよりも早い返答に驚いている様子だ。


「いいのか?」


「何驚いてんだよ、てめぇが言って来たんだろうが」


「それはそうだが、無理をさせたいわけではない」


「別に無理してねぇよ。いつまでも逃げてるわけにもいかねぇってだけだ」


「おー、そりゃよかった。ちょっとは顔になる自覚が出てきたってことかね」


 カイムとエリンジが話していると、中央ホールの入り口の方からカイムに向かって声がかけられた。

 ルドー達がその声に振り返ると、白髪長身狐目男、アーゲストがスタスタとこちらに向かって歩いてきていた。


 魔人族の顔になる、以前クロノがカイムに話していた内容だ。

 どうにもカイムがエレイーネーで率先して動くことで、魔人族の安全性を世間に周知しようという話らしい。

 カイムが依頼を受けるという話をいつからかアーゲストが聞いていて、それでそう声を掛けてきていたようだ。

 指摘したアーゲストにカイムがジトリと睨み上げている。


「そっちが勝手にしたんだろうが、了承してねぇぞアーゲスト。ていうか何しに来たんだよ、あいつ引き取りに来たのか?」


「ありゃ? まだ名前も分かってないのか。やれやれ、やっぱ変な子だな。いんや、あの子引き取りに来たわけじゃないよ」


 カイムに話しかけながら歩み寄ってきたアーゲスト。

 頭に羽の生えた魔人族を回収しに来たのかとカイムは声を掛けたが、首を振りつつ呆れた様子からどうやら違うらしい。

 今は彼女以外に保護している魔人族はいないので搬送相手がいないが、何をしに来たのだろうか。

 同じ疑問をリリアもエリンジも抱いたようで、全員で怪訝な視線を向ける。

 全員に怪訝な視線を向けられて、アーゲストは狐目のまま悲しそうに眉を下げる。


「なに? 用も無けりゃ来るなって、そんな悲しい事言わないでくれよカイム」


「用がなけりゃ動かねぇだろがアーゲスト、てめぇが暇してるわけねぇ」


「世間話くらいしたっていいでしょ、全く。まぁ報告した方がいい事が見つかったから来たわけだけどさ」


 そう言ってアーゲストは懐から一枚の紙を取り出した。

 小さなメモくらいの大きさのそれを、全員に見えるように指に挟んで掲げなが話し始める。


「正式な救助活動する前の、保護してた子たちの搬送拠点の一つに落ちてたって報告あってね。時期的にかなり最近、しかもこれクロノちゃんの筆跡だよ。多分こっちに対する伝言か何か、あっ」


 話を聞くや否や、アーゲストが掲げていた紙を、カイムが見えない速度で髪でひったくった。


 アーゲストが語るには、かつて魔人族を保護した後、それぞれ元居た場所に搬送する過程での移動拠点としていた地下施設の一つ、今は人の少ない事務作業などに使われている場所に、その紙が落ちていたと連絡を受けて確認し、報告の必要性を感じてエレイーネーまで来たという事だった。


 何も言わずにひったくった紙を確認し始めたカイム。

 やれやれと呆れて両手を上にあげるアーゲストを尻目に、ルドー達も何が書かれているかとカイムの方に近寄る。

 ひょっとして例の女神深教に関することだろうか。


「“要警戒、ラグンセン、線連”……あーくそ、端的に書きやがって。あいつらしいわ」


「なんだよこれ、どういう意味だ?」


「なにもわからん」


「要警戒って、この二つに注意しろって事?」


『相変わらず訳が分からねぇなあいつ』 


 カイムが読み上げる、クロノが残したと思われる伝言には、女神深教のめの字もなかった。

 最低限且つ詳細不明、クロノらしいと言えばらしいが、これでは何もわからない。

 ルドー達が顔を見合わせつつ疑問符を浮かべる中、カイムは額に手を当てつつ首を振って大きく唸る。


「情報は渡すからこっちで勝手に調べろってこったろ」


「三つ子ちゃんが襲われるのが怖くて逃げてるっていうあの子がわざわざこれ置いてったって事は、それなりの情報だろうからねぇ。接触の危険を冒してまでだし、それを危惧しても看過できない何かだと思って、一応人間にも報告をね」


 だから悪いけど現物は返してねと、アーゲストはカイムの上からその紙をさっと抜き取った。

 不服そうなカイムが顔を顰める中、ルドーはエリンジとリリアに視線を向ける。


「調べて大丈夫だと思うか?」


「危険性が高いのならば、前と同じ状況になるはずだ。念を入れておくことに越したことはないだろうが」


 ルドーの問いにエリンジが答える。

 女神深教のように、情報そのものが危険ならば、また前の時と同じように情報統制されて校長室に連行されるはずだろうとエリンジは言いたいのだろう。

 そうなっていないならば危険性は低いだろうが、確かにエリンジの言う通り警戒するに越したことはない。

 聖剣(レギア)からも肯定するようにパチリと火花が散った。


 ラグンセン、線連、また新しい知らない単語が出てきた。



「そういう事で報告だけね。まぁ何か分かったらボンブに言ってくれれば俺にも連絡来るから」


「待てやアーゲスト」


「うん? まだなんかあったかカイム」


「俺が受ける依頼に協力しろ。……俺一人じゃまた突っ走る」


 項垂れつつもジトリと、カイムはアーゲストを見上げた。

 ギラン先生が持ってきた依頼を受けるために、アーゲストに協力を求めている。


 エリンジの為でもあり、魔道具製造施設に対しても何かしら向き合うために、且つ一人でまたシマスのクバヘクソの時のように焦って突っ走らないために、止め役をアーゲストに頼んでいた。


 それが分かったルドー達も、案ずるようにアーゲストに視線を向けた。

 怪しげな狐目の笑顔を向けていたアーゲストは、そのカイムの言葉に驚いたのか、狐目のまま真顔になる。


「……へぇ。前ならそんなこと絶対言わなかったな。いい感じになったなカイム」


「うるせぇわ! いいから協力しろよ!」


「へいへい。しますしますよ、こっち来るときまた連絡してくれって」


 やたら嬉しそうに狐目のままニマニマ怪しく笑うアーゲストに、カイムはまた吠え散らかし始める。

 それじゃあ退散しますかと、アーゲストはそのまま怪しい笑みを携えたまま、紙をヒラヒラさせながら職員室の方に向かって行く。


「うーん、攻撃型魔道具かぁ」


「どうしたリリ」


「いや、それ使えたら私も自衛出来るかなって」


 ふぅと溜息をつきつつ、リリアも腕を組みながら頬に手を当てて考え込むようにしている。

 どうやら身体を鍛える以外にも、自衛のための手段を色々考えているようだ。

 リリアが安全になるならばルドーとしても反対する理由はない。

 ランタルテリアの魔道具製造施設で、何かリリアに答えが見つかるだろうか。


 リリア、エリンジ、カイムの三人がそれぞれ抱える問題点への解決策を模索し続けている様子を眺めて、ルドーは一人取り残されている様な、薄らとした焦りを感じていた。


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