第百二十話 ままならぬ日常
ルドー達がエレイーネーに戻ってから一週間が経った。
中央ホールに貼られた手配書、女神深教の襲撃者達と思われる相手の情報は何も掴めないまま。
エリンジは攻撃型魔道具を未だ試しているもののどれも上手く扱える様子がなく、カイムも色々と遠距離攻撃魔法を試行錯誤しているがあまりうまくいっている様子がない。
ルドーも相変わらずリリアとの魔力伝達が出来ない。
やろうと試してみるものの、毎回気を失って倒れてしまうのだ。
魔力暴走していない分マシだとは思われるが、これではエリンジに魔力の補充強化が出来ない。
ルドーはそれも気がかりだが、毎回見る同じような夢にも気を取られていた。
夢を見る限り前世の時の体験のはずだが、どうにもすりガラスのように全体的にぼやけていて、聞こえてくる声もどうにも遠すぎて何を言っているのかよくわからなくなっている。
最初に見た時はもっと鮮明だったはずだが、繰り返すたびにどんどんぼやけていっているようだ。
魂がひび割れた事にこの記憶が関連しているのだろうかと、もっと見ようと強く思う度にどんどんとぼやけて、リリアの声で目を覚ます。
これではいつまで経ってもルドーは魔力伝達が出来ない。
他にも課題に悩んでいる面子はいる。
アリアとフランゲル、ヘルシュとウォポン、カゲツとノースター、この三組のペアはまだ魔力伝達が出来ていない。
アリアとフランゲルはこの間の一件のせいか、アリアがフランゲルに対して一方的にぎくしゃくしてしまっている様子だ。
ヘルシュとウォポンのペアは、ウォポンのハイハイイエスマン自己洗脳魔法が魔力伝達を妨害していることが分かった。
カゲツとノースターに至っては、ペアなのにあまり一緒に行動していないのでそもそも連携が取れていない。
その一方で魔力伝達が出来る様になった、キシアとアルス、トラストとビタ、メロンとイエディも、魔力伝達が出来るようになったからといって課題がないわけでもなく、それぞれが新たに課題に取り組んでいる。
最初に魔力伝達して順調に見えたキシアとアルスも、手を繋がなければ魔力伝達できないまま、遠距離の魔力伝達に苦戦していて、何が原因なのかとまたキシアが色々と試行錯誤し始めてドツボに嵌まり始めた。
トラストとビタの魔力伝達は、トラストの観測者の解析魔法に、ビタの変化魔法の合わせ技でかなり攻撃力が高いが、変化魔法にもっと発展が出来ないかと試した結果、トラストの解析知識にはもう少しビタの理解が必要だったらしく、座学に力を入れなければいけないという思いがけない欠点が発覚したため、ビタがトラストに教わりながら必死に勉強し始めた。
メロンとイエディの魔力伝達は、メロンが目標までの流れを読み、イエディの正確な狙いで人間爆弾を発生させるというもので、一番遠距離での魔力伝達が出来ているが、攻撃自体はメロンの近接になるため、メロンの防御とイエディがなにか援護が出来ないかと、それぞれが考えて色々試行錯誤している。
一方リリアも自身の身を守るために身体を鍛えようと色々と情報を探り始めたが、これはこれで新たな問題が発生し始めたのがここ最近のルドーの悩みの種だ。
「だから護衛は間に合ってるって言ってるだろ! 散れ散れ! 帰れ護衛科に!」
座学から魔法訓練の合間の昼食、リリアとは座学の進みが違うために時折食堂で合流することになることが多々あるが、最近その隙を狙って、護衛科の男共がリリアに校内の護衛を申し込もうと声を掛け始めていた。
ルドーが食堂に辿り着くたびに目撃しては、威嚇するように聖剣を構えてバチバチ雷を迸らせ、流石に古代魔道具に敵うような護衛科の生徒はいないために、全員そんなルドーを見た瞬間顔を青くして逃げていくが、ルドーが目を離したすきにまたリリアの元に舞い戻ってくるためキリがない。
どうやらクバヘクソで攫われたために自衛のための手段を探しているというリリアの話が歪曲して、護衛を探しているという話に何故か変換されて伝わったようだ。
国所属の聖女の護衛は国の上層護衛となるためかなりの好待遇になる。その為基礎科の王侯貴族などの専属護衛がまだない護衛科の連中が、今から顔を覚えてもらい、何なら自分が護衛になってそのまま専属護衛になろうと躍起になっているのだ。
『大変だな兄ちゃん』
「なんでリリにばっか群がってくるんだよ! アリアも同じだろ! そっち行けよ!」
「わからん、護衛などいらんだろう」
「リリねぇはすっごい可愛いもん。モテモテ?」
「ありがとうライアちゃん。でも困ったね、いらないって言ってるのに聞かないもの」
ルドーがまた護衛科の男共をバチバチと追っ払う中、エリンジが訳が分からなさそうに呟く。
今更護衛科の生徒を雇ったところであまり有益だとは考えていないようだ。全くである。
三つ子がまた同席をせがんだために同じ机を囲んでそれぞれが昼食を取る中、カイムの方も悩むように机に突っ伏して唸っている。
「なんなんだよあいつ、名前も言わずに毎度毎度、もういらねぇっつってんのに……」
「カイにぃこのサンドイッチ飽きちゃったよー」
「僕も、でもたべものすてるの悪い子だし、ねぇ食べてよー」
「俺に言うんじゃねぇよ、あぁもう食うからそこ置いとけ……」
例の頭に羽の生えた魔人族の少女は、カイムだけではなく三つ子にも手作りのサンドイッチを渡すようになっていた。
渡すというより、カイム達が机に座った瞬間バスケットを置く置き逃げのような状態だが。
名前も理由も告げずにこうも毎度毎度サンドイッチを置き逃げしていくのは、流石に同胞でも不信感を抱くようで、カイムも会う度にもういらないと告げているのに置いて逃げてしまう。
何だろう、向こうが必死過ぎてカイムの声も聞こえていないような気がする。
ただ流石に毎日同じサンドイッチは飽きてしまうようで、三つ子たちも森で暮らしていたからか食べ物は大事にしようとしているものの、一週間も好物でもないものが続けば辟易として、多分仲良くしようとしているだろうに逆効果になってしまっている。
「ねーねーカイにぃ」
「なんだよライア、お前も食わねぇなら置いとけ」
「私本当のお姉ちゃんになるなら、あの人じゃなくてクロねぇがいい」
積み上がったサンドイッチはどうしようもないので、項垂れつつカイムがもそもそと食べ始めていたが、ライアの思わぬ発言にカイムはサンドイッチを喉に詰まらせて噎せ返り始めた。
ルドーとリリアもライアの言葉に、一拍置いた後食事を口に突っ込んだままお互い顔を見合わせた。
レイルが苦しむカイムの背を叩いて、ロイズが水を差し出している。
ロイズから水を受け取って何とか飲み下したカイムが、顔面を赤くしながらも恐る恐るライアの方を向いた。
「ゲッホ……オェ……ラ、ライア、何を……?」
「ライアちゃん、クロノさんがいなくて寂しいの?」
「寂しいけど、カイにぃが無理するのはやだし、いなくなっちゃうのはもっとやだ」
だから我慢するから無理はしないで、でも絶対探してねと、ライアは沈痛な顔でカイムを見上げた。
カイムが戻ってから、クロノがいなくなって落ち込んでいたのが嘘のようにライアは明るく振舞っていたが、てっきりカイムが戻って元気になっていたかと思ったら、どうやら多少なりとも無理をさせていたようだ。
ライアの様子にルドー達三人は顔を見合わせ、カイムも口を歪めて顔を顰める。
「……ライア、前にも言ったな。あいつは俺が弱ぇからいなくなった。だからあいつが安心するくらい強くなってぜってぇ連れ戻す。時間はかかるかもしれねぇが、待っててくれ」
「うん、おやくそくしたもん。いい子にしてるもん」
どうやらカイムは戻ってから、ライアたちにも分かるようにクロノが逃げている理由を告げていたようだ。
ライアはカイムを信じて、カイムに心配を掛けない様にと元気に振舞いながらクロノがいつか戻ってくるのを待っている。
レイルとロイズも同じような気持ちなのだろう、ライアの言葉を聞いて一緒にうんうんと頷いていた。
「……ごめんな、でも約束はぜってぇ守るぞ」
「うん。だからカイにぃ、クロねぇ帰ってきたら、もうどこにもいかない様に本当のお姉ちゃんにして」
沈痛な表情でライアの頭を撫でていたカイムは、ライアの最後の一言でビシリと石のように固まって動かなくなった。
流石にルドー達も想定外すぎるライアの発言に、ルドーはリリアと狼狽えるように顔を見合わせる。
エリンジは相変わらず何もわかっていない無表情だ。
「ラ、ライアちゃんどこでそんなこと覚えてきたの……?」
『おーおー、女の子はおませさんだなぁ』
「いやライア、意味わかって言ってるのか?」
「? カイにぃとけっこん? したら本当のお姉ちゃんになるんじゃないの?」
「そうなのライア?」
「はじめてしった!」
「誰だよ! 何ライアに変な事吹き込んでやがんだ!」
リリアとルドーがライアに聞けば、どうやら曖昧ながらもきちんと意味は理解している様子だ。
困惑するルドー達の横で、ライアに聞き返したレイルとロイズに、カイムが全身真っ赤になって肩を戦慄かせながら大声で吠える。
「キャビねぇが教えてくれた!」
「何してくれてんだよあいつ!」
「キャビねぇ色々遊んでくれるよ!」
「キャビねぇに戦い方教えてもらってるの!」
「マジで何してくれてんだよあいつ!」
きゃいきゃい答えた三つ子の言葉に、カイムが怒りで震えながら大声をあげる。
例の新しく来た魔人族、三つ子の護衛のキャビンがどうやら色々教え込んでいたらしい。
戦い方まで教えたくないとカイムが言っていたが、キャビンはどうやらそれも教え込んでいるようだ。
アーゲストとボンブと一緒にいたらしい相手なので下手なことはしないだろうが、三つ子にもできる護身術でも伝授しているのだろうか。
「えーとライアちゃん、結婚っていうのはね、大人になった好き同士の人たちがやる事だよ?」
「でもカイにぃもクロねぇのこと好きだよね?」
なんとか諭そうとしたリリアの言葉に、ライアがきょとんとして答える。
いつも一緒にいたもんとトドメの一撃。
純粋なライアの黄色い瞳がカイムを襲う。
どういう意味で好きかまでライアが言っているのかルドーには分からないが、カイムは全身真っ赤になって机に突っ伏して顔辺りから煙を上げ始めた。
「どうした、熱でも出したか」
「いやエリンジ、ここまで来たら俺でも分かるのにそれは流石にねぇわ」
「むしろなんならわかるのよ」
『こうなると逆に感心だな』
ルドーとリリアが呆れながらも、意味が分からず困惑しているエリンジをジトリと見た後食事をしつつ、真っ赤になったまま起き上がらないカイムをしばらく三つ子と一緒に眺めていた。
「はっはぁーん! 魔法科でありながら攻撃型魔道具を使おうとしている奇特な生徒がいるというのはここかぁ!」
魔法訓練でまたエリンジが攻撃型魔道具を選んでいる中、荒ぶる鷹のポーズをした見たこともない男が飛び込んできた。
後ろで縛ったもこもこの月白の髪と白衣が、勢いに任せてばさりと宙に舞う。
左目にはなにやら顔面からはみ出るようにゴテゴテしていながらプラスチックのようにツルツルの仮面のような、鶏冠石色の瞳型魔道具を埋め込んで、中の赤銅色の瞳が周囲を監視するようにギョロギョロ動き、銀色の義手魔道具が右の袖口から覗いている。
四角く出張った白衣から、身体のあちこちにも魔道具を仕込んでいるのがわかった。
「……何しに来たんだいギラン」
「校長から学年を越えて協力するように通達があったらしいじゃないか。それなのになんの連絡もなく、魔道具を使おうとしている生徒がいるならばもっと早く教えなさい。魔法科の生徒で攻撃型魔道具を一から選んでを使うなんてレアケース中々ないんだからな!」
項垂れるように両肩を下げた、ボンブと一緒に並んでいるネルテ先生がジト目で男の方を見つめる。
どうやら知り合いらしい。
「通達があったのは一週間も前だよギラン。それに君は本来二年の基礎科じゃないか、授業はどうしたのさ」
「基礎科と言っても副担任は結構融通が効くのでね、授業などセニシダに任せて私は魔道具開発に余念なく取り組ませてもらっているのだ。そうしたら最近攻撃型魔道具を試そうとしている変わった魔法科の生徒がいると小耳に挟んできてみたわけだ!」
怪しい目つきをして魔道具の赤銅色の目が周囲をぐるぐる見まわし続けている、ネルテ先生曰くギラン先生。
どうやらこの男は基礎科二年の副担任らしい。
エリンジの噂を聞きつけて来たらしいが、しかし何をどうして魔道具を試そうとしているエリンジに興味を持っているのか。
「はぁー、いつかは来るだろうから注意しろとオルナヴィに言われた通りか。エリンジ、ちょっとこっちに来な。こんなでも一応魔道具に関してはエレイーネーで一番詳しいんだ」
「護衛科ならまだしも基礎科で詳しい?」
「ギランは話の通り二年の基礎科副担任だ。でも仕事はほとんど担任のセニシダに任せっきりで、本人はもっぱら自室に籠って自作魔道具の研究やってるんだよ」
ネルテ先生に手を振って呼ばれて近寄っていったエリンジが受ける説明をルドーたち魔法科も一緒になって聞く。
どうやらギラン先生は魔道具開発に余念がない、どちらかというと開発者のようなことをしているようだ。
最初から自分に合った攻撃型魔道具を持って受験する者が多い魔法科、入ってしばらく経ってから改めて攻撃型魔道具を一から選び直すという、エリンジのかなりのレアケースの噂を聞きつけて、実際どうなのか見に来たようだ。
「自作魔道具?」
「おや見てみたいかな、見てみたいかね!? それでは一番派手な奴、この腰についている魔力放出攻撃魔道具だ」
エリンジがネルテ先生の話に疑問を呈すれば、興奮した様子のギラン先生が鼻息も荒くエリンジに向いて、そのまま説明しながら白衣をバサッと捲る。
痛々しい感じに左腰当たりの肉体に機械が埋め込まれるように入れ替わっており、その中心にある大きな緑の丸い部分が怪しくグワッと魔力を帯びる。
かなりの量の魔力が怪しく光り輝いて収束し、ギラン先生の腰についた魔道具は、悲鳴のような不快な大きな音を出して、巨大なレーザービームを周囲に魔力をバチバチ拡散させながら放出した。
そのまま伸びたレーザーが、魔法科の校舎の角にバキンと当たって粉々に砕け散る。
見る限り相当な威力だ。
校舎が攻撃破壊されたためにネルテ先生が非難の声を上げる。
「ちょいと! 校舎には他学年の生徒もいるんだから攻撃しないでおくれよ!」
「あの程度魔法科ならば十分防げるだろう。どうだね、興味がわいたかね」
ネルテ先生の抗議にもどこ吹く風のギラン先生は、そのままエリンジの方をじっと見つめた。
「……俺は魔力が弱くなっている、同じように使えるとは思わんが」
「あぁ、襲撃されて魔力が奪われたという生徒は君か。かなりの特殊ケースになるな、そうなると通常の攻撃型魔道具では対応しきれないのではないか?」
腕が鳴るとでもいうように、楽しそうにウキウキし始めたギラン先生の語りに、エリンジはまさに攻撃型魔道具の選定に難航していた事実を言い当てられて目を見開いている。
「これでは対応できないのか?」
「以前使っていた魔力と現在の魔力使用量がそもそも違うだろう、その食い違いの量を無意識まで完全に把握するのは不可能だ。最初から魔力の少ない護衛科が扱うのとはわけが違う、魔道具に注ぐ魔力量の無意識部分が違うのだ、通常のものではその細部まで対応しきれん」
ギラン先生の説明にエリンジとネルテ先生が思案顔で目を見開いていた。
要はエリンジは無意識に元々の魔力の感覚でどうしても少なからず魔力を使ってしまうため、現在とその魔力のズレの差が激し過ぎて、一般的な攻撃型魔道具では上手くいかないという話らしい。
道理でエリンジが一週間片っ端から試し続けて一つも上手くいかないわけだ。
「そうなるともうこの方法の対策は出来ないのか?」
「そんなことはない、一般的な攻撃型魔道具が使えないだけだ。要は使用者をもっと製造者に解析してもらって、特注すればいいだけの話だ。かなり腕のある職人が必要になる。私は自分の魔道具ばかり作っているからそれには向いてないな、それに向いた魔道具製造施設を探すがいい」
「魔道具製造施設……」
話を聞いていたカイムが気まずそうに顔を背けている。
同胞の救出の為に破壊活動をしていた魔道具製造施設がこんな形で出てくるとは。
呟かれた言葉にギラン先生が気付いてカイムの方を向いた。
「あぁ、魔法科に魔人族がいるという話だったな。安心したまえ、今残っている施設はそもそも攻撃されるような裏があるところではない、むしろ現在も残っているから潔白な場所だという事だ。業界内での風通りを良くしたと、職人たちとしてはむしろ感謝している者が多いと聞く。破壊活動していたとはいえ大元は人命救助だ、そこまで落ち込む必要はない」
労わるようなギラン先生の言葉に、カイムは大きく目を見開いて驚き、傍で話を聞いていたネルテ先生とエリンジも驚いた顔に変わった。
しかしギラン先生はあまりその反応に興味はない様子で、さらに話を続ける。
「職人をエレイーネーに呼び付けても工房でなければ細部の調整は出来んだろう。攻撃型魔道具を本格的に検討するならランタルテリアに行くといい」
「えぇ? ランタルテリア?」
ギラン先生が改めてエリンジに向き直って話を続けたら、予想外の国の名前が出てきてヘルシュが大きな声を上げた。
「ん? あぁグルアテリアの勇者か。君には気分の良い話ではないだろうが、ランタルテリアは良くも悪くも戦闘気質、攻撃型魔道具の生産に特化しているのだよ。故に腕の良い職人も多い、本格検討するならばそこで腕の良い職人を探すのが一番早い」
「……そこまで具体的に言うなんて、ギラン、まさかついて行く気じゃないかい?」
大人しく話を聞いていたネルテ先生が、急に顔を顰めてジトリとギラン先生を見据えた。
対するギラン先生は思惑がバレたならばと開き直った態度に変わる。
「この危険状態に生徒だけで行かせるのは無理な話だ、基礎科だと遠征出張は滅多にない。君も報告によれば魔力が無く弱体化しているのだろう? それに魔道具に詳しい人物も必要になる、違うかね?」
どうやらギラン先生の話の目的が、エリンジの攻撃型魔道具観察からランタルテリアへの魔道具関連施設出張へと変わっていたらしい。
しかし行くかどうか決めるのはエリンジだ。
そう思ってルドーがエリンジを見れば、期待のこもった無表情でネルテ先生を見上げている、どうやら行く気満々のようだ。
「あーもう、日程はこっちで勝手に決めさせてもらうからそっちで調整してくれよギラン」
「それでよろしい。では君、当日また会うとしよう」
ギラン先生はどこまでも魔道具にしか興味がないのか、エリンジの名前も聞かずに、軽く握手だけして立ち去っていった。
ルドー達が事の詳細を見ている前で、ヘーヴ先生にどう説明すればいいんだとネルテ先生が頭を抱える中、魔道具購入の話が無くなってしまったカゲツが、エリンジの後ろでがっくしと項垂れ始めていた。




