第百十五話 突き付けられた現実
探知魔法が通じるようになって、ルドー達六人は現場に転移魔法で急行してきたヘーヴ先生を筆頭とした一年担任達に連れられてエレイーネーに帰還した。
ゲンタイン・マデビラは現行犯逮捕された。
なんでもかなり急ピッチであの場で結婚式をあげようとしていたらしく、裏組織からリリアとアリアを買い取った契約書を本人が持っていたままだったらしい。
身体検査でその決定的な証拠が出てきたためによる人身売買の現行犯逮捕だ。
最も左手と左足を失くした今、ゲンタイン・マデビラは逃げるどころか普通の生活すらままならないだろうが。
マデビラの館にいた使用人たちも事情聴取されたが、なんでも彼らはかつて嫁いだ花嫁たちに付き添っていた使用人がそのままついてきた人たちだった。
病気の為に行き場を失くしたかつての花嫁たちを思って自身の生活も捨てて付いてきたのに、病気のまま苦しむ姿を愛でられるというおぞましい様相に、嫁いだ人たちを守ろうと逃げられなくなる。
主人の病気が悪化して亡くなる頃には裏組織の人間と繋がりがあると分かってしまってさらに逃げ場を失い、付き従ってきた主人のためにと生活すら捨てたせいでどこにも行けず、結果言われるがまま行動する、脅されるような立場だったそうだ。
ただ今回のリリアとアリアに対して行おうとした結婚式は、裏組織の人間から買い上げた相手と行うという、今までのような正式に書類契約を交わして嫁いできたマー国に認められたものとは異なる完全にゲンタインの独断。
そこまでするのかという異常性と、救出しに来たルドー達のエレイーネーの制服を見て、とうとう裏組織の悪事が露呈したのだと逃げ出したらしい。
中央魔森林に隣接するマデビラ辺境住まいとはいえ使用人たちはただの一般人。
廃教会から逃げ出したところで瘴気渦巻く中央魔森林では魔物に対処できるはずもなく、結果小規模魔物に襲われて多数が負傷し、集団で縮こまっている所をなんとか見つけて保護したそうだ。
保護した後は大人しく今までの所業を洗いざらい吐き出し始めたので、裏組織との繋がりなどはその後の調査次第といったところだ。
一方女性保護施設サクマの方は、ルドー達が転移魔法に巻き込まれて数刻、残ったウェンユーとピナとケリアノンの三人の聖女までまた奪われまいと三人を囲って必死の抵抗戦をしていたところに、ようやく動けるようになったジュエリ王国勇者ムスクが、残った瓦礫を消し飛ばす勢いで爆発突撃してきた。
ピナとその周囲を守るようにしながら、ムスクは戦闘していた周囲の男を瓦礫と共に叩き上げ、モネアネ魔導士長がついでとばかりに風魔法で高らかに飛ばし上げた。
落下の衝撃でほとんどの裏組織の人間は戦闘不能となり、そのまま組織の人間を追ってきた、周辺に散らばっていたエレイーネー教師陣によって次々と捕獲された。
その後ムスクは意識を取り戻したピナの無事に安心して地面にめり込んでまたしくしく泣き始めて相変わらずだったらしい。
捕まえた裏組織の人間たちはあくまで末端だったらしく、また主犯は間違いなくあの場で死亡していたリギト・ジョーンワートだった。
主犯が死亡した今、なぜ各国聖女に歌姫が紛れ込んでいるなどという話を信じたのか、またそこから連続誘拐を決行したのか、詳しい事は分からない。
シュミック王国の聖女が提出した詳細も、あくまで表向きは女性保護施設サクマに向けての支援出資、言うなれば尻尾切りで主犯のリギト・ジョーンワートに一連の悪事を全て押し付けられたために、大半のソウラ王国関係者への詳しい調査は出来なくされた。
ただ各国聖女が国の一貴族に、裏組織に依頼して連続誘拐されるという前代未聞の事態、流石にそのままはいそうですかと被害に遭った各王侯貴族は黙っているわけにはいかない。
これによってソラウ王国は間接的に責任を問われ、アシュでの一件もあって悪くなっていた立場がさらに悪くなった。
エレイーネーからも要注意国として監視が入るようになったため、しばらくは大人しくするだろうとの話である。
女性保護施設サクマの中にいた従業員は全て、ルドー達が突入した時点で死亡していた。
魔法を駆使して入念に調べて分かったことだが、あの場に瘴気が発生していたのは、何らかの原因で従業員たちが瘴気に成り果てたためだった。
おそらくリリアやアリアと同じように瘴気痘を取り付けられて、耐え切れずに死亡したのだろうとルドー達は理解する。
リギト・ジョーンワートが死亡したのは瘴気痘とはまた別のようだが、どうにも急激な病死であることは変わりないようで、転移魔法で逃走する直前に瘴気を含む爆発を発生させたこともあり、リリアやアリアが遭遇したという包帯男が、サクマの従業員とリギト・ジョーンワートを殺害したと推測されていた。
表向きの女性保護施設からの裏娼館、果てには瘴気痘に侵されて瘴気となり果てた。
保護されようとサクマを訪れた女性たちの最後に、話を聞いたルドー達はそのあまりの末路にいたたまれず、沈痛に黙り込んでいた。
「それで? 君たちの話も一通り聞かせてもらったけど、クロノに関する詳細だけだんまりなのはどういうことだい?」
ニッコリ笑うネルテ先生の圧が凄まじい。
ジュエリ国の古代魔道具心理鏡を持って逃げたコロバとナナニラは、転移魔法で逃げられたために詳細が不明なままだ。
またクロノは走っての逃走ではあるもののどうやら体力が復活したらしく、先生方が改めて調べたが恐ろしい速度で逃げたようだ。
周辺を三年の護衛科担任のラナムパ先生が千里眼魔法で調べたが既に影も形もなく、次は絶対捉えてやると息巻いているそうだ。
でもクロノは多分戻って来ない。
ルドー達は鉄線元幹部二人組の転移魔法に巻き込まれた後の報告を、怪我の詳細を調べるために全員が連れられた医務室にて一通り先生方に話したものの、ライアたち三つ子が狙われるというクロノの話を聞いて、女神深教に関すること先生方に話すべきかどうか、全員が躊躇していた。
三つ子が危険に晒されると聞いてカイムは無言を選択したし、ネルテ先生も抵抗なくして襲われ、報告して万一があった場合をルドー達全員が考えていた。
しかしネルテ先生はクロノに遭遇してからルドー達が情報を貰ったと、ルドー達本人のその怪しい挙動から確信している。
ニコニコ笑顔のかなり強烈な圧を放っていて話すまで医務室から出られそうにない。
聖剣も長い事なぜかずっと話そうとしない。
どうしたものかと医務室にいるルドー、リリア、エリンジ、カイム、フランゲル、アリアは何度も何度もお互い無言で顔を見合わせるばかりだった。
「はぁ、いい加減にしな。何か話したんだろう? 黙ってちゃ分からないじゃないか」
「カイム、絶対クロノと話しただろ。何があった、アーゲストにまた上空から振り落とされたくないだろ」
「やりたきゃやれよ、好きなだけやりゃいいだろ」
ボンブの脅すような会話もカイムは反応こそすれ詳細は話そうとしない、まぁ当然と言えば当然だが、上空から振り落とすってなんだ。
言っても話そうとしない態度のカイムに、ボンブは静かに諦めて首を振っている。
「悪いですが今回は事が事です、あなた達の善性にばかり頼っていられませんよ。話せるうちに話していただけませんか、あまり奥の手は使いたくありません」
厳しい表情のヘーヴ先生がルドー達に警告するように告げる。
確かにヘーヴ先生の言う通り、各国聖女が一斉誘拐された前代未聞の事件、さらにその内二名の聖女に回復魔法が効かない攻撃をされた。
再発防止と原因究明のためにエレイーネーはその立場から必ず調べなければならない。
クロノのように黙って押し通すにはルドー達の立場は厳し過ぎた。
「……奥の手って、なんですか」
「頭の中を見るんだよ、校則違反者に対する罰則規定に入る」
「校則違反者って、少なくとも俺たちはチュニ王国の依頼で動いてたはずです!」
「ルドーとリリアとアリアは確かに該当しないね、フランゲルも勝手に独断先行していたとはいえそこまでとは言えない。だがエリンジとカイムは違うんだよ」
ニカニカした笑顔の圧から目を細めて厳しい表情に変わったネルテ先生の圧力に、その場の全員がたじろぐ。
「エリンジとカイムはまだ監視対象のままだった。転移魔法に巻き込まれるという不可抗力とはいえ、監視対象が監視から外れたことは事実。これは十分記憶魔法の罰則規定に入るんだよ」
ネルテ先生に告げられた言葉にエリンジとカイムが狼狽えた。
確かに二人とも不可抗力ではあったが、ネルテ先生の監視から結果的に逃げた形には違いなかった。
記憶魔法の罰則。
エレイーネーでもかなり重めの罰則であり、魔法で頭の中の記憶をまさぐられ、なぜそんな行動をとったのか原因を探り再発防止のために努める。
場合によっては知られたくない秘密を知られる個人の尊厳を踏みにじる行為。
ヘーヴ先生に静かにその詳細を説明され、思わずルドーはネルテ先生に大声をあげる。
「二人に協力依頼したのは俺です! それなら俺にも責任があります!」
「ならルドーが記憶魔法を受けるかい? 出来れば話してくれればこっちもこんな心苦しい事はしなくていいんだよ」
医務室にルドー達六人が集められたのは、話しにくい内容があっても他に聞かれないようにするための対策措置だと、だから話せるなら話してくれとネルテ先生は告げる。
ルドー達は動揺するように不安にお互い顔を見合わせる。
女神深教に関するクロノから聞いた話を先生たちに諦めて話すか、それとも先生たちに失望されながら頭の中の記憶を覗かれるか。
いま突き付けられた選択肢はこの二つしかない。
安易な行動をするなとクロノに必死に訴えられた直後なのに話すしかない状況に、ルドーはついカイムの方を見てしまう。
「あいつもずっとこんなくそみてぇな気分だったってことかよ」
視線を向けたカイムがそうぽつりと溢した。
心理教の中でずっと話せないと、化け物の姿になって訴えていたクロノを思い出しているようだ。
確かにこんな気分でずっといたら気が滅入る。
ネルテ先生とボンブはカイムのこぼした言葉に反応するように、それぞれ片眉をあげて顔を見合わせていた。
ルドーは次にエリンジとリリアに顔を向ける。
二人共それぞれ不安そうな視線をルドーに返しているが、ルドーと目を合わせるとそれぞれ無言でゆっくり頷いた。
任せてくれるという事だろう。
フランゲルとアリアの方にもルドーは視線を向けたが、二人共考えが纏まらずに諦めたように下を向いて首を振っている。
ルドーはそんな全員の様子を一通り眺めた後、とうとう決心した。
「カイム、この場の先生たちには話そう」
「んだと? それがどういう意味か分かって言ってんのかてめぇ!?」
「わかってるよ、でもライアたち三人はエレイーネーに保護されてるんだ。万一のことを考えるなら、先生たちにもきちんと説明したほうがいい」
激昂するように激しい表情に変わって詰め寄ってきたカイムに、深緑の瞳をじっと見据えてルドーは静かに訴えた。
ライアたちが狙われる、それなら対策しなければならない。
それはルドー達だけでなく、三人を保護して守ろうとしてくれているエレイーネーもだ。
「どっちにしてももう知られるしかないなら、先生たちを信じて話したほうがいい、分かるだろカイム。警告してくれたクロノには悪いけど……」
「……くそがぁ!」
静かに続けたルドーの言葉に、カイムは八つ当たりするように髪を振り回してベッド脇のサイドテーブルにぶち当てた。
荒く肩で呼吸しながらも、それ以上言い返してこないカイムの様子に、ルドーがボンブに視線を向けて見れば、呆れたように首を振りつつも目が合った瞬間小さく頷かれた。
カイムもかなり渋々ではあるが了承しているという事だ。
「……話す気になってくれたってことでいいかい?」
「その、俺たちもあんまり詳しく聞いたわけじゃなくて、クロノがつい口を滑らせて、それで知ってしまったからにはって警告貰った程度なんですけど」
厳しい表情をしていたネルテ先生とヘーヴ先生が労わるような表情に変わって近付いてきたので、ルドーは二人に向き直って改めて話をしようと口を開く。
「口を滑らせたって?」
「その、クロノはやっぱりリンソウの襲撃犯と、今回リリとアリアを襲った犯人が分かっていて、しかも何らかの接点があるみたいらしく、女神深教の連中って――――」
『“丸特機密情報の発信を検知、情報統制の形態に移行します”』
ルドーがクロノから聞いた女神深教の単語を出した瞬間、その場にいた全員を包み込むような光と共に空中に警告文のように大きな文字が出現した。
全員が驚愕に声を上げる中、ネルテ先生とヘーヴ先生はルドー達とはまた違った驚き方をする。
「情報統制形態だって!?」
「副校長フェザー・シルバー、どういうことですか!」
光がどんどん強くなっていく中、ネルテ先生とヘーヴ先生の上げた声から、どうやら先生たちは何が起こっているのかわかっている様子だった。
そのまま全員が一瞬強烈な光に目を開けられなくなり、気が付いたときにはルドーは一度見た光景をもう一度見ていた。
大量の書類が空中を舞い、大量の白い魔法円が浮かび上がっている。
その中心で空中に浮遊していた銀色の羽ペンが続々と文字を書いて、そこから広がるように更に大量の白い魔法円が飛び交って部屋全体を何度も何度も包み込み始めていた。
校長室に転移魔法で飛ばされたルドー達は、何が起こっているのかわからずただただ周囲を見渡して混乱していた。
『“ネイバー、丸特機密情報案件です、戻りなさい”』
「ふぇい! 丸特!? 三百年振りじゃないの!? いやーん私の代とかまいっちんぐ!」
ふよふよと浮遊する銀色の羽ペンが空中に文字を書いたと同時に、バチンと音がして花吹雪が舞い、くるくるとローブをたなびかせながらその場にネイバー校長が出現する。
更に混乱する状況にルドー達は全員ただただ頭に大量の疑問符を浮かべ続ける。
「フェザー・シルバー! 一体何がどういう事なんだい!?」
「“女神深教、そう言いましたね。この情報は統制されている最上級、丸特の危険情報です”」
「丸特は外部に漏れたらかなりやっばぁーい! だから古代魔道具最高キュート副校長フェザー・シルバーで最上級の情報統制して話さないと超絶ぴょんぴょん!」
「だからこいつ何言ってやがんだよ!?」
空中浮遊する銀の羽ペン、ネイバー校長曰く副校長のフェザー・シルバーに向かって大声をあげたネルテ先生に、空中に文字が書かれて、さらにネイバー校長が続ける。
カイムがネイバー校長の発言に対して困惑するように大声をあげた。
どうやらルドー達が思っていたよりずっと大事だったらしい。
更にフェザーがサラサラと“禁則対象・女神深教”文字を書いたと思ったら、それが一斉に分裂してその場の全員一人一人にバシンと突き当たる。
その場の全員の胸部に浮かび上がるように突き付けられたその文字は、そのまま全員の身体に馴染むようにして消えていった。
『“申し訳ありませんが規則です故、この統制された状態の校長室以外では、校長又は副校長の許可なく発言出来ないよう強制的に封鎖させていただきました”』
「相談したかったらいつでもここに来てねん♡ 校長室の扉はいつでもウェルカムハート!」
「……それだけ危険な情報という事でしょうか?」
『“詳細を不用意に探るだけで国が一つ滅びる、丸特に該当する情報はこれに当たります”』
フェザーが空中に書き出した文字に、ネルテ先生とヘーヴ先生は絶句し、ルドー達も自分たちが思っていたよりもかなりの非常事態にその文字を何度も何度も読んで口をあんぐりと開けた。
クロノが口を滑らせた情報は、ルドー達が思っていたよりもかなり危険なものだったらしい。
「……安易な行動をすればライアたちが攻撃される、俺たちはクロノにそう警告された。だが国が一つ滅ぶレベルだと? あいつらはそれだけ危険な連中だという事か? なぜそんな重要情報が表に出てきていない」
最初に混乱から回復したエリンジが疑問を呈した。
確かに国が滅びるような相手だというのなら、逆に情報が出回っていないとおかしい。
しかしルドー達は誰もクロノが口を滑らせた女神深教に関する情報を知らない。
「……ライアたちが攻撃される、か。それでそんな表情で黙ってたわけかい」
「……クロノがそう警告するなら信憑性は高いだろうな。カイム、大丈夫か」
「大丈夫かどうかなんて知らねぇよ」
エリンジの言葉にネルテ先生が納得した表情になった後、エリンジの疑問に答えてもらおうと同じくフェザーに視線を向ける。
ボンブが心配するようにカイムに声を掛けたが、何に対して大丈夫だと聞かれたのか理解しきれずカイムは苛つくように顔を顰めて背けている。
『“女神深教、この単語について詳細は記載されず、この単語一言のみの記載の為、なぜ記載されたかについては詳細が不明です”』
「中身がよくわかってないけど探ると確実に危険だから単語だけ登録されてるって事かい?」
「なんだそれは訳が分からないではないか!」
「中身もなく私たちなにされてるのよ!」
情報の詳細が分からないのに、単語そのものが危険だからと情報が統制されているということだろうか。
意味が分からなさ過ぎてフランゲルとアリアが抗議の声を上げる。
同じように疑問を抱いたヘーヴ先生がまた違う疑問を投げかける。
「詳細もなく登録だけ、しかしそれだけであなたが動くとは思えないのですがフェザー」
『“女神深教に関する情報を私から探ろうというなら非協力します。それは貴方も同じでしょう、喋れる古代魔道具”』
「……聖剣?」
空中に書かれたフェザーの文字にルドーは一瞬呆けた後、鞘から抜いて聖剣に小さく声を掛けた。
まるで溜息でも吐かれるように小さくピリッと雷が走る。
『あぁ、協力しねぇ。する気もねぇ』
「……は? 嘘だろ、待てって! 聖剣お前知ってたのか!?」
『女神深教に関わるんじゃねぇ。太刀打ちできるとかどうとかじゃねぇあれは』
聖剣の言葉にルドーは驚愕に目を見開く。
少なくとも聖剣は知っていた、女神深教という名前とその危険性を。
そういえばクロノが女神深教と口を滑らせたとき、聖剣は大きくバチンと反応した後口数が極端に少なくなった。
知っていて危険だから喋らなくなったというならその反応も納得できる。
そしてその聖剣の同じような口調に心当たりのあったルドーは、まさかと思って恐る恐る口にする。
「聖剣、その反応ひょっとして、グルアテリアと、トルポの鉄線の時の、あの剣の男……」
『深入りするなって言ってるだろ、知らんでいい事だ』
バチンと警告するような聖剣の反応、しかしその反応からルドーは察してしまった。
死なないというあの剣の男、あいつも女神深教の連中に含まれると。
死なない相手、殺せない相手、クロノですら太刀打ちできない逃げる事しか出来ない相手。
死なないのが剣の男だけだとしても、そんな厄介な連中が女神深教ということだろうか。
ルドーと聖剣の会話に、剣の男を見たことがないフランゲルとアリア以外が驚愕に固まっている。
「……だからなぜそこまで危険ならば表に情報が出てきていない!」
『表に出てこねぇ連中だってだけだ。気を付けろ、どこに手下がいるかわからねぇんだ』
危険性だけ伝えようとしたのだろうか、協力しないと言いつつ聖剣が警告を発する。
安易な行動をするなと警告したクロノと同じだ、どうやらかなり危険かつ大きな組織らしい。
その上聖剣の警告から存在が露呈しない程相手の情報統制が徹底している。
だがその発言の矛盾、それに気付いてルドーは問い詰めるように大声をあげた。
「待てよ! 少なくともリンソウでエリンジとネルテ先生は襲撃されたんだぞ! 今回のリリとアリアだってそうだ! 表に出てこない連中だって言うならなんでこれだけど派手に暴れてんだよ!?」
『だからあいつは逃げたんだろうな、本来表に出てこない連中が動き出した。情報知ってるなら怯えて逃げるのは当然だ』
安易に情報を探れば国が滅びかねない、裏に潜んでいた相手。
それが活発に動き出したせいでクロノはリンソウでライアたちの身の安全に怯えて逃げたという事だ。
確かにグルアテリアでの戦争未遂もかなり裏から手を回された形だった。
剣の男が出張って来なければ誰が仕組んだか未だに分からないままだっただろう。
表に情報が出てこないように裏で動いていた連中、それが表に分かるほど急に派手に動き出したからこんなことになっているという事だ。
「……とりあえずここでなら話をする分には大丈夫なのですね?」
『“了承します”』
「わかりました。きみたちなんにしても先程の話です。詳細が分からなければこちらもこれからの動きがわかりかねます」
神妙な顔をしたヘーヴ先生に促されて、ルドー達はお互いに顔を見合わせた後、クロノに関する詳細を話しはじめた。
「……エリンジ、これからどうする?」
「魔力を取り戻すことに関しては諦めん。だがクロノの指摘通りならば力が足りんのは確かだ」
「クロノが手加減しないで苦戦する程度ねぇ、かなりの無理難題押し付けられたな」
「情報統制に俺様たちまで巻き込まれてしまったではないか! どうしてくれるのだ!」
「仕方ないじゃないフランゲル、でも助けてくれたときかっこよかったわよ」
「はっはっはっはっは! ならば良しとしよう!」
「それでいいんだ……」
「カイムは大丈夫か?」
「ケッ、しばらくは鍛え直しだ」
「なるほどなぁ、また襲ってくるかどうかわからないし、それしかないか」
クロノに関する事を一通り話した後、ルドー達は解放された。
情報統制されたために女神深教に関する詳細を調べることは校長か副校長の許可なく出来なくされてしまったが、そもそもクロノと聖剣が話していた通りならば調べたところで太刀打ちできない。
ルドー達が弱いから誰も太刀打ちできない、突き付けられた事実を全員が冷静に見つめる。
また訪れるかもしれない脅威に対応するため、鍛え直す決心を各々が固めていた。




