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第百九話 史上最も最低なファーストキス

 腹部を深く深く素手で貫かれて、溢れた鮮血がその周囲に激しく舞い散っていた。

 貫かれた影響か、リリアが大きくゲホリとその口から大量の血を吐き出す。

 無理矢理着せられた純白の花嫁衣装が真っ赤に染まり上がっていく。


 その瞬間ルドーの頭は真っ黒になった。


 耳を貫く大きな衝撃音、衝撃に教会の建物が大きく震えた。

 ルドーは真っ黒な顔で無意識に聖剣(レギア)を即座に振り上げて、リリアの傍でその腹部に手を深く突き刺していたクロノを黒い刀身で叩きあげてぶっ飛ばし、奥の教会講堂正面にぶち当てて台座が粉々に砕けちった。

 崩れた女神像にペシペシと砕けた破片が飛び散って当たる。


 強烈な雷魔法を纏った打撃を真正面から受けて吹っ飛ばされたクロノに、カイムが驚愕の大声をあげる。

 周囲の長椅子も巻き込んで吹き飛ばしてバチバチとルドーとクロノの軌道上に大きな雷が走り、ルドーは聖剣(レギア)を握りしめて両肩で荒く息をしながら真っ黒な顔でクロノの方を見つめていた。


 クロノが倒れて虫の息の状態のリリアとアリアに更に追撃を入れた。


 ルドーの激しい攻撃もあって、エリンジも呆然と口を開いたまま理解しきれず立ち尽くす。

 アリアの傍にいたフランゲルも、リリアと同じように傷つけられた腹部と口からの吐血に、悲鳴のような大声をあげる。


「アリア! なにをする! 一体何をしているのだ!?」


「……エリンジ、回復」


「なにを」


「もう、効くから……回復、早く二人に……」


「……え?」


 粉々に砕けた台座の瓦礫に埋もれた中から、呻くように告げられたクロノの言葉に、全員が一瞬呆けた。

 その言葉に怒りで真っ黒になっていたルドーも我に返って慌ててリリアに振り返る。

 呆けていたエリンジが、早くしてとさらに呻いたクロノの言葉を聞いて、はっとして二人の傍にしゃがみ込み、即座に回復魔法をかけ始めた。


 エリンジがかざした掌から注ぐ回復魔法で、リリアとアリアの腹部の傷が塞がっていくのと同時に、全身に広がっていた黒い色と斑点が少しずつ消え去っていく。

 回復が進むと同時にエリンジの魔力が切れていくのか、徐々に徐々に弱まっていったが、完全に回復し終えた後、今度はもう二人とも元に戻る事はなかった。


「う、うぅん……お、お兄ちゃん?」


「リリ!」


「え? なによこれどこよここ」


「アリア!」


 完全に回復魔法が効いて意識を取り戻したリリアをルドーは強く抱きしめ、同じようにフランゲルがアリアを抱きしめた。

 リリアもアリアも見たことも無いこの場所と、自身の明らかに吐血した跡、腹部が血まみれの穴があいた花嫁衣装を着せられている現状に訳が分からなさそうに混乱した表情をしていたが、もうあの症状の影響はないようだった。


 ルドーはリリアが無事に済んだことに、リリアを抱きしめながら腹の底から大きく息を吐きだし、心底安心して全身から力が抜けた。


「カイ、ム……手……貸して……」


「なんで回復が効いて、てめぇ一体何をどうし……なんだよそれ!?」


 何が起こったかわからないまま、しかしようやくリリアとアリアが無事になって安堵したルドー達の耳に、カイムの悲鳴に似た大声が聞こえて全員振り返る。


 その視線の先には見るのもおぞましいものがあって全員凍り付いた。


 台座の瓦礫から起き上がったクロノがその場にしゃがみ込んだまま、その両手にそれぞれ小さな黒いぶよぶよと蠢く塊を掴んでいるが、そこから黒い血管のようなものが大量に、ドクドクと不気味に脈打ちながら、まるで浸食していくかのようにクロノの両腕にそれぞれへばりついてどんどん上に伸び始めていた。


「カイムなら、攻撃、効くから……腕、切り落して……」


「はぁ!? なにを、なにいってんだよてめぇ!?」


「はや、く……腕から上に、来たら……私でも、対処しきれない……!」


 クロノは脈打つ黒い不気味な何かを必死で抑え込むようにしながら、帽子の下が苦しみに耐えかねるように苦悶に満ち溢れていた。

 腕を切り落してくれと言われたカイムは完全に動転して狼狽えていたが、苦しみ呻くクロノに更に懇願される。

 クロノの姿に狼狽えていたカイムは、なおも懇願するクロノのその苦しむ声に、肩を震わせながら悲壮な表情で泣き叫ぶような大声をあげ、髪の刃を素早く動かして黒い何かがへばりついたクロノの両腕をザクッと切り落した。


 クロノ両腕からぶしゃりと鮮血が舞い散る。


 どれだけ黒焦げになろうが酷い傷だろうが、身体にくっついていれば回復魔法を施せば魔力が循環して回復する。

 だが切断された部位は、その切断された大元がないと回復魔法でも治せない。


 それはこの世界での常識だった。


 切断された腕は、黒い血管が絡みつくように巻き付いて縮み、どんどん腐るように黒く変色していく。

 あんな状態になった腕では、回復魔法で復元することは、回復に特化したリリアでも不可能だ。


 呆然と様子を見ていたリリアが、はっとしたあとクロノの失血死を恐れて大声をあげる。


「か、回復! クロノさん今回復するから!」


「……いらない」


「いらないって、腕がなくてもそれじゃあ……!」


「私に回復は効かない!」


 たった今気付いたばかりなのに、ルドーが抱えるまままた倒れそうになるほど顔を青くさせながらも、回復するためにリリアが立ち上がろうとした瞬間、クロノが叫んだ。

 どういうことかとわからず全員が呆然と見ている中で、さらに訳が分からないことが起こった。


 クロノの切り落された腕に、見たことが無いほどの強烈な魔力が内部から一瞬渦巻く。

 するとバキバキボキボキと、切り落されたはずの腕から、その先の骨が生え始めた。

 骨の周囲をメキメキと、生々しい音を出しながら肉が伸びていく。

 そして全体を覆うように、皮膚がズルズルと再生していった。


 なんだこれは。

 剣の男の時ともまた違う、ルドーが見ても分かる魔力によるもの。


 恐ろしいものを見るように全員が恐怖しながら、息をのんでその様子を眺め続けた。

 クロノは再生していく腕を確認するようにしながらも、その両腕にずっと痛みが走っているのか歯を食いしばって口元を歪め、悲鳴のような唸り声を上げ続けている。

 恐怖で誰もが声も出せない中、長い時間を掛けて指先まで生えそろって元に戻ったのか、クロノはびっしりと脂汗をかいた真っ青な状態で、痛みが消えたかのように大きく息を吐きだして項垂れるように砕けた台座の破片の中に座り込んだ。


「……前にも見たぞてめぇ、なんだよそれ」


 ぽつりとつぶやかれた言葉に、全員がゆっくりとカイムに視線を向ける。

 カイムはどうやらこれを見たのが初めてではないらしい。

 ギリギリと歯を食いしばって、クロノの方を睨み付けていた。


「……自己再生。私の意志とは関係なく、私の身体は魔力で勝手に治る。回復魔法とは反発する上回復が優先されるみたいで、回復魔法かけてると再生しなくなる。だから私の怪我は放置してていいよ」


 かなり弱っているのか、座り込んだまま顔もあげないクロノは、いつもより弱々しい声で、どこまでも他人事のように淡々と話し続けた。


「はぁ!? そんな、なんでもっと早く言わねぇんだよ! それ知ってたらあの時……!」


「あの負傷は私のミスも大きいって言ったじゃん、気にしなくていいよ」


 かつてクロノを錯乱して攻撃したことを後悔していた様子のカイムは、初めて聞くその話に完全に動揺していた。

 クロノの話を聞く限り、あの時回復魔法が効かなかったのはクロノの体質のせいだった。

 それを知らなかったカイムとリリアとエリンジは、助けようと必死に回復魔法を掛ければかけるほど、クロノの怪我の治りを遅れさせていたことになる。

 その事実に思い至ったエリンジとリリアも、カイムと同様に真っ青な顔になった。

 カイムは語られた事実に打ちのめされているようだが、話していなかったこともあるのか、クロノは全く気にする素振りを見せていない。

 そんなクロノの様子に、カイムは堪え切れなくなったのか、喚くような大声をあげた後その場に頭を抱えてしゃがみ込む。


「……ごめん、嫌なことさせた」


「ほんと勝手ばっかだよてめぇは……」


 頭を抱えてしゃがみ込んだカイムに流石に心配になったのか、クロノはまだしんどそうにしながらも少しだけ頭を上げ、カイムの方に向いて小さく謝罪する。

 攻撃したことを後悔しているカイムに、一度見ていたために治ると分かっていても腕を切り落させるのはかなりこたえた様子だった。

 そんな様子のカイムに、流石にクロノも罰が悪そうにまた下を向いた。


「……クロノ、さっきの黒い血管のようなあれはなんだ」


 目の前で何が起こったのか、まるで拒絶するかのようにルドー達が理解できない中、エリンジが最初に気を取り直したのか、話題を変えるようにクロノに問いかける。


「そこの私の腕見ればいいよ。黒い塊は触らないでね、私みたいに切り落して再生できないんだから」


 言われるがまま全員がゆっくりと切り落されたクロノの腕を見やれば、骨まで真っ黒に染まったクロノの腕が、ブスブスと爛れるようにしぼんでいくところだった。

 その指先だったものの先に、小さな心臓のようにドクドクと脈打つ、真っ黒な小さな塊が落ちている。

 あまりの気持ち悪さに、何もないはずの胃のあたりから何かが昇ってくる感覚にルドーは口を押え、一緒に見ていたリリアも倒れそうなほど真っ青な顔をしていた。


「……だからこれはなんだ」


「瘴気痘の核だよ。これが体内にあるせいで二人とも回復してもまたすぐ戻ってた」


『瘴気痘だと!?』


「なにをいう! 七百年前に根絶した病気のはずだぞ!」


 真っ黒にしぼんでいったクロノの腕を、顔を引き攣らせてみた後のエリンジの問いの答えに、聖剣(レギア)とエリンジが驚愕して大声をあげた。


 瘴気痘、確か学習本に載っていた記憶がルドーにはある。

 エリンジの言う通り七百年程前に根絶したおぞましい病気だ。

 突然変異した体内の細胞が、勝手に体内から瘴気を生み出し続け、身体を蝕み、最後は瘴気にグズグズに侵されて自身も瘴気と変わり果てて消える。


 聞くだけでもおぞましい状態にリリアがなっていたと聞いてルドーは気を失いそうになった。


「聖女の浄化魔法が作用して、二人ともかなり抵抗出来てた。一般人なら一日も持たずそこの私の腕みたいになって死んでたよ」


「そ、そんな恐ろしい状態になっていたというのか!?」


 アリアを抱き抱えたまま呆然としていたフランゲルも、話を聞いて恐怖するような大声をあげる。

 リリアは何が起こっていたのかわからず困惑していたが、アリアは小さく悲鳴を上げて、横で叫んでいるフランゲルについしがみ付いていた。

 エリンジは理解が追いつかない様にさらに叫び続ける。


「まて! 瘴気痘に核など存在しないぞ! 七百年前に確かに根絶したはずの病気だ、感染条件からもあの場所では再発する要素が無い! どういうことだ!」


「自然物じゃないだけだよ」


 ようやっと顔を上げてクロノが告げた言葉の意味が誰も分からなかった。

 自然物じゃない、つまりそれは、人工物であることを意味する。

 つまりリリアとアリアは突然瘴気痘になったわけではない、何者かによって意図的にあの状態にされた。

 その事実にルドーはまた頭が怒りに支配されそうになる。


 二人の体内で人工物の核が寄生するようにへばりついていたせいで、体内で外傷を常に負い続けるような状態にされていたため、回復魔法で身体を回復させても、即座に外傷を負わされて瘴気に変わり続けて元に戻っていたという事だ。

 クロノが二人の腹部に両手を突き刺したのも、体内にあった瘴気痘の核を物理的に切除して排出するため。

 二人を助ける為とはいえ、腹部に穴をあける荒療治的な方法、二人が虫の息でいつ朽ち果てるかわからない中での一か八かの方法で、説明説得している時間がなかった。

 だからクロノは先にルドーに謝ってきていたのだ。


「二人が誘拐された保護施設にいたっていう男か!? あいつがリリに何かしたのか!」


「なんだと! 一体誰だ、何者なのだそいつは!」


「薄汚れた包帯でグルグル巻きの、膿イボまみれの痩せた小男」


「っ!」


「ひっ!」


 ルドーとフランゲルが話を聞いて怒りに煮えたぎる中、クロノがリリアとアリアの方に向いて小さく呟けば、二人とも身体をびくりと震わせた。

 クロノが呟いた人物像にどう見ても心当たりがあるという二人の反応、ルドーは動揺してリリアの肩を掴む。


「なんだ!? リリ、何があったんだあの時!」


「えっと……」


「いやよ! 思い出したじゃないの! いやぁ、最悪過ぎるわ……!」


 言うべきかどうか、迷うようなリリアの反応の横で、アリアはおぞましさに身を震わせるようにした後、両手を頬に当てたままボロボロ大きく泣き出した。

 いつも気が強いアリアが、そのまま激しく嗚咽するように泣き出した様子に、横にいたフランゲルも動揺し、カイムも泣き始めた大声に顔を上げ、ルドーとエリンジも一体何があったのかと当惑して顔を見合わせる。


「いや、いやよ……初めてだったのに……もっと、雰囲気とか……好きな人と、やりたかったのに……あんな、あんな気持ちの悪い……最低の……いやぁ……」


「……おい、何をされたか知ってるだろ。答えろ」


「……口で口ふさいで、あの瘴気痘の核を、口から体内に流し込んだ。これ以上言わなくていいでしょ」


 アリアの尋常ではない様子にエリンジが眉間に皺を寄せてクロノに首を向けて問い質せば、クロノは座ったまま肘をついて顔を背け、しかし不快気に声を低くしてエリンジに返した。

 口で口をふさぐ、体内に寄生するように入り込んでいた瘴気痘の核。

 それが何を意味するのか、ルドーにも分かった。


「リリ! そんな最低なことされたのか!?」


「え、えっと……」


 ルドーがリリアに掴み掛って問い詰めれば、言いにくそうに視線を彷徨わせるその反応から、リリアも同様にかなり強引に唇を奪われた事実に愕然とした。

 沸々と腹から怒りが煮えたぎるように湧き上がってくる。


「わ、私は気にしてないのお兄ちゃん。だって、一瞬だったし暗くて訳が分からなかったから……」


 そう言って説明し始めたリリアの話では、シマスのクバヘクソにて集団に襲われた後気を失い、ルドー達も救出に行っていた、女性保護施設サクマで横になっていたことに気付いたという。

 灯りもない薄暗い中、光魔法を発動するよりも先に、自分と同じくらいの背丈のような男性から突然声を掛けられた。


 お前が歌姫なのかと。


 あまりにも突然すぎて訳が分からず、リリアが困惑しながらも違うと返したら、じゃあ確かめると言われて、そのまま暗闇の中恐ろしい勢いで迫って口を塞がれる。

 光のない薄暗い中で、クロノが言っていた人物像が目の前で口付けしてリリアの口を塞いでいる事に、闇に少し慣れたリリアの目に薄らと見えた。

 その後まるで蒸気が噴出するようにその口に何か大量に流し込まれて息が出来なくなり、また気を失ったという。


 あの場にいた主犯と共犯だったのか、狙いは歌姫だったらしい。

 そしてやっぱりリリアはファーストキスをその男に強引に奪われていた。


 リリア本人は反応から完全に気にしていない様子であることはルドーにははっきり分かるものの、奪われた理由もやり方も恐ろしく気に食わない。

 右手の拳を上げながら、ブルブルと爪が喰い込むほど深く握りしめた。


「私は気にするわよ! あんな、あんな最低の、いや、いやぁ……」


 怒りを滾らせるルドーに困惑しているリリアの話に過剰なほど大きく反応して、そのまま大泣きし始めたアリア。

 その拒絶するような反応から、アリアもリリアの説明した事と同じ事をされたのだと誰もが理解した。


 ルドーが分かるわけもないが、転生した世界が乙女ゲームだと勘違いするくらいには、アリアは前世でかなりの数の乙女ゲームを嗜好しており、そのため当然恋愛にもかなりこだわりがあって、改心した今でもファーストキスには特にかなりの夢を見ていたのだ。


 そんな中好きでもないどころか、クロノが話す限りよほどのことでも御免被りたくなるような様相の知らない男に、雰囲気も何もない最低な状態でファーストキスを奪われた。


 その事実にアリアは打ちのめされた。


 誰も酷い被害に遭ったアリアにかける言葉など見つけられないように沈黙を続ける。


 取り乱すように嗚咽が激しくなって泣き叫びはじめたアリアに――――




 ――――フランゲルが顔を近づけてそのまま口を塞いだ。





『わーお、こりゃあまた……』


 突然のキスにその場の全員が目を離せない様にフランゲルとアリアに釘付けになって固まる。

 長い事そのままでいたフランゲルとアリアに、全員が気まずさを覚え始めたあたりでフランゲルが顔を離した。


 突然の事に理解が追いつかなかったのか、アリアは首まで真っ赤にさせた状態でぷるぷる震えながら呆然と固まっている。


「どうしたのだ。いやな思いには上書きが必要かと思ったのだが、まだ足りなかったか」


「たっ……足りたわ! 今ので足りたわ! キャパ越えちゃう! ちょっと待って!」


 フランゲルは目をぱちぱちとさせて、こうすることが当然と至極真顔で呆然としたアリアに聞くので、目の前で行為を見せ付けられたルドー達も反応に困る。


 真っ赤になったアリアは狼狽えるように、恥ずかしそうにその両手で顔を隠すようにしていた。

 どうやらアリアからしてもフランゲルからのその行為に嫌な思いはしていないらしい。

 なんだろう、普段のぞんざいな様子をよく見ているのに、ここだけ見ると様相も相まってアリアはとても可愛く見えた。


 二人の様子を見ていたエリンジは訳が分からなさそうな無表情でいたが、一応確認するかのようにリリアの方に向く。


「いるのか? 上書きが」


「わっ私はいらない! 私はいらない! 気にしてない!」


 よくわからなさそうな無表情で聞いたエリンジに、リリアは耳まで真っ赤にして腕と首をあらんかぎり振って全力否定していた。

 どう見ても分かるリリアのその反応に、ルドーはとうとう諦めた。


「……エリンジ、やるなら俺のいないとこでやってくれよ」


「おっお兄ちゃん!?」


「何をだ?」


『こっちは先が長そうだなぁ』


 とりあえずリリアはクロノの話す変な男に襲われた事を全く気に病んでいない様子だった。

 リリアのファーストキスが強引に奪われた事実は癪ではあるものの、本人が気にしていないというならば今は一旦保留にして、万一犯人に再会でもした場合は全力でボコボコにぶん殴ろうとルドーは固く心に決める事にした。


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