第百八話 廃教会の二人の花嫁
絶叫して走り始めようとしたルドーとフランゲルを、カイムが髪を伸ばしてぐるぐる巻きにして制止する。
走り出そうとした反動でビヨンと伸びた髪が、ゴムのように二人ドスンと地面に引き倒して砂煙を上げた。
完全に呆れ切ったカイムの声が二人の頭上から掛けられる。
訳が分からないとエリンジが大量の疑問符を浮かべているがルドーは焦りから気付けない。
「だから場所がわかんねぇのに無駄に走んな」
「理由が合理的ではない、わからん」
「変態の性癖に合理的もくそもあるかよ! よりにもよってやばい奴にリリが捕まっちまってるなんて!」
「変態に捕まっていては何をされるかわからんぞ! しかもアリアはあの状態では抵抗できないではないか! もう四の五の言ってられん、乗り込むぞ!」
「だな! それしかねぇ!」
「だあー、ダメだこいつら」
『だから館に居なかったらそれでアウトだって話だろ』
錯乱するように慌てだしたルドーとフランゲルをカイムが髪でぐるぐる巻きにした状態でいる為、通行人に怪訝な様子で見られている事に気付かず二人は喚き散らす。
落ち着けと言わんばかりにルドーとフランゲルに聖剣からバチンと雷が当たった。
呆れ切ったカイムが説得を諦めた様子でいるところにエリンジが声を掛ける。
「カイム、クロノならどうやって情報を引き抜く」
「知らねぇよ、いつもピンポイントで引っ張り出してやがった」
「事前に詳しく調べていたりは」
「してねぇよ、よく見りゃわかるとしかいつも言わねぇ」
館に忍び込んで情報は何かないかと探ろうと、エリンジがその手の行動を良くしていたクロノのやり方をカイムに聞き出そうとしたが、かなり特殊なやり方でもしていたのか、カイムの語るクロノの様子は全然参考にならない。
よく見ていれば分かる、なんだそれは。普通はそれで分かるわけがない。
しかしエリンジは顎に手を当てて、そこからヒントになる方法を考え始める。
「よく見るか。館に入らずとも周囲を見れば多少情報は得られるか」
「んだよどうするってんだ?」
「あの状態の二人を堂々と館の正面から運び込むとは思わん。妨害魔法が駆使されている街では転移魔法が効くとも思えん、あの二人組も街の外から二人を運び入れたはずだ」
『女性保護施設の時と同様、何らかの偽装をして運び込んでるって訳か。それらしい目撃情報があれば、中にいるのは確定だな』
「おっしゃその聞き込みってことだな!」
「あほか、こんな小せぇ町じゃ聞き込んだらそれこそ向こうにバレんだろが」
「ではどうするというのだ!」
「魔法は妨害で使えん、だから見るという事だ」
「わかんねぇって! 噛み砕けよ!」
冷静さを欠いたルドーとフランゲルがまた喚き散らし始めて、今度はカイムが呆れた様子で髪で二人をベシンと叩く。
痛みに二人が呻いている中、噛み砕けと言われたエリンジは何故伝わらないのかという疑問符を浮かべた無表情でいた。
「先程伝えた、周囲を見ると。館の外周を一回りする、そこから得た情報を精査する」
「このアホ二人抑えとくわ、とっとと行ってこいや」
『あんまり長くは持ちそうにないから手早くな』
「了承した。遅ければ何かあったと思え」
ルドーとフランゲルが髪の拘束から逃れようともがく中、エリンジがそう言ってスタスタと一人周囲を警戒しながら館に向かって歩き始めた。
領主であるマデビラ辺境伯の館の為危険こそあるものの、街中で住民もあちこち見える為、ここで仕掛けてくることは少ないはず。
カイムの髪に縛られたまま、ルドーとフランゲルは待ち切れない様にそわそわとその身を揺らしながらエリンジが戻るのを待った。
しばらくして困惑の疑問符を浮かべる無表情のエリンジが戻ってきて、ルドーははやる気持ちで声をあげる。
「戻った」
「どうだった!?」
「ぐるりと見た限りだが、どうやら館に今は人がいないようだ」
腕を組んで疑問符を浮かべながら首を傾げた無表情のエリンジが言うには、大きな館にしては人気がまるでなくひっそりとしていて、使用人どころか見張りも見当たらず完全に留守の様子だったそうだ。
『あん? さっきの商人はどうした?』
「見かけた。呼び付けられたのに人がいないと困惑していた」
「人がいないならもう中入ってもいいだろ!」
「逆だろアホ、二人が別の場所いるからそこに出張ってんだろが」
「なるほど! その可能性が高いな!」
『どっか外で合流して引き渡してるってやつか。それなら転移も使えるから直接取引できるわな』
焦って知能指数が下がっているルドーとフランゲルが突入しようと叫び散らすのをカイムが止めつつ憶測を展開する。
街中で取引するならばもみ消しやすい館周辺でやるはず、目撃者の可能性も考慮するならオアシスを囲うようにしているこの小さい街ではわざわざ別の場所でやらない。
つまりリリアとアリアは街の中ではなく、外で取引されている可能性が高いという事だ。
更に周囲を確認しながらエリンジが続ける。
「砂漠方面は砂嵐の影響で転移できん。街中でないとしたら、もう森しか場所がない」
「中央魔森林か! カイム!」
「地図出せくそが」
マーの辺境、南が砂漠で北が中央魔森林と接しているマデビラ辺境の街でないなら、もう森しか場所はなかった。
髪で縛られたままのルドーとフランゲルが地図を取り出せないのでうごうご蠢く中、エリンジが学習本を引っ張り出して地図を確認させれば、地図を覗き込んだカイムが思い出すように唸り始めた。
「この辺りは確か、歩く災害がかなり昔に通って大体壊滅してらぁ。魔人族は怖がって近寄らねぇが、そういや被害を逃れた一部朽ち果ての建物が一つ残ってらぁ」
「建物? どういうものだ」
「家じゃねぇ、魔人族が使わねぇ類だから歩く災害が来た時そこに誰もいねぇもんだから壊されなかった。なんつったか、いつだったかチビどもと一緒に、あの変な服着たやつが匿ってきた場所……」
「教会!?」
『傑作だな、結婚式でもあげるつもりかよ』
「「ふざけるなぁ!!!」」
茶化すように小さく笑いながら言った聖剣にルドーとフランゲルは大声で叫びあげた。
やめろ全然笑えない。
カイム曰く、追放された身の上の祖先が多い魔人族は、その経緯から追放後も女神教に頼らなかったためにあまり教会に対して思い入れがなく、魔人族は基本使わないのでどんどん廃れたらしい。
そんな廃教会にリリアとアリアが変態に連れ込まれている。
聖剣は茶化したが、本気で結婚式を上げるつもりかもしれない。
まずい、早く助け出さないといけない。
ルドーはもうなにも冷静に考えることは出来なかった。
「どちらにせよ、聞いた話が本当ならば、ゲンタイン・マデビラは病人を治療する気がさらさらない。少しでもその気があるなら今まで嫁いだ女性はもっと長生きだったはずだ」
「回復が効かねぇあの状態のあいつらそのままガン放置されてらぁってか、笑えねぇわ」
「カイム! 案内してくれ!」
最後に見たリリアの苦しそうな表情、回復も魔法薬も効かなかったあのまま放置されて愛でられているなんて、ルドーは考えるだけでおぞましさにぞっとした。
カイムがルドーとフランゲルの髪の拘束をブワッと解いた後、森はあちらだと指差したエリンジに四人揃って走り出す。
周囲の通行人や、中央魔森林の周辺を巡回している兵士のような人たちを振り切って、そのまま森にルドーとフランゲルが突っ込み、カイムとエリンジが続く。
鬱蒼とする森の中は、まだ外の砂漠が近い為瘴気はそこまで濃くない。
砂漠の影響が無くなったため、呼吸しにくいだけの口に巻いていたハンカチを取り払って雑にポケットに突っ込んだ。
小規模魔物など相手していられないので、ルドーとフランゲルは二人通り過ぎ様に出てきたそれらをそれぞれザクザク切り倒して走り続ける。
「案内役後ろにしてどうすんだよ」
「カイム、森なら通信は出来るか」
「街と同じでダメだ、試してるがまともに機能しねぇ」
『まぁ森でこんな妨害するなんて悪人以外いねぇからこっちにいるので正解だろうな』
先を急ぐルドーとフランゲルがカイムの指示通りに走り後を追うエリンジが、前を走るカイムに通信で援護を頼めないか聞こうとしたが、相変わらず妨害魔法が入っているようで使えないようだ。
つまり街からの延長で中央魔森林に妨害魔法を張っている連中がいる。
リリアとアリアがこの先の廃教会にいるのはまず間違いないと言っていい。
森の木々が引っかかって小さな切り傷を付けるのもルドーとフランゲルは気にせず、かなりの距離を走り続け、カイムが後ろから指示する方向に走り続けば、ようやく鬱蒼と薄暗い森の中にそれらしい教会を見つけた。
教会というよりは、長い間放置された廃教会といっていい。
昔は立派だったのかかなりの大きさがあったが、あちこち壁が崩れて窓も割れ、苔むして蔦が壁に生えまくっているが、出入りがあったかのように入口だけ綺麗に蔦が取り払われていた。
その入口に走り近寄っていれば、まさしく結婚式の最中のような神父の声が聞こえてきて、ルドーはフランゲルと共にブチギレながら走り二人武器を構え直した。
「この婚姻に異議のある者――――」
「「異議しかないわこらああああああああああ!!!」」
ドカーンと大きく攻撃魔法を爆発させながら正面両開きの扉を吹き飛ばし、奥の台座前にいた神父らしい相手に勢いよく当たり砕け散った。
ド派手にルドーとフランゲル二人が合わせて放った攻撃魔法で開いた入口から中に入れば、突然の爆発に動揺するように中にいた人物たちが慌てだす。
教会内はかなり古い造りの講堂のようで、木製の古びた天井から攻撃の余波で埃が舞い落ちる中、神父の前で宣誓を待つかのような姿勢でいた初老の男が狼狽えるようにこちらを凝視している。
結婚式のはずなのに黒い喪服に身を包み、年相応に白髪が少し後退して、落ち窪んで淀んだ瞳が動揺するようにルドー達を見つめている。
こいつが二人を買い取ったゲンタイン・マデビラ辺境伯か。
周囲を見渡せば、中央奥の壁、人より一回り大きな崩れた女神像が設置された台座の手前右側に、純白の花嫁衣装に身を包んだリリアとアリアが、気を失っている中無理矢理立たせるように棺の中に収められてそれぞれ立たされている。
誰だ、エレイーネーの制服を着ていたはずのリリアを脱がせて花嫁衣装に着替えさせた奴は。
手前の講堂の長椅子に並ぶように座っているのはマデビラ辺境伯の使用人どもらしい、覇気迫る勢いで入ってきて武器を構えたままのルドーとフランゲルとマデビラ辺境伯の方を何度も見渡すように顔を行ったり来たりさせて、ばれてしまった悪事にどうするべきか不安顔に思案しているように見える。
ルドーはそんな様子の使用人たちに激昂して叫んだ。
「だれだぁ!? うちのリリアの服脱がしやがったやつはぁ!!!!」
「シュミック王国王族の俺様の伴侶候補に手を出して、只で済むと思っていまいだろうな貴様らぁ!!!」
座席に座っていた使用人たちはその立場から不可抗力だったのか、烈火のごとく怒り狂って叫んだルドーとフランゲルに恐れをなして大声で悲鳴上げて一斉に逃げ出した。
入口にルドーとフランゲルが陣取っているために、それぞれが蔦だらけの割れた窓に飛びついて這い這いの体で逃げ出していく中、奥の台座前にいた神父らしい男も大声に気付いて恐れおののいて近場の窓から同じように逃げていく。
ルドーはフランゲルと共に駆け出し、真正面奥で狼狽えていた男に向かって聖剣を振り上げた。
「「二度と手を出すな変態がああああああああああああ!!!!」」
全く加減をしない雷魔法と火炎魔法が、ゲンタイン・マデビラに直撃した。
骨すらも浮き上がるほどの雷の直撃と、焦げた後に更に真っ黒に焼け焦げる程の火炎魔法を浴びて、ゲンタイン・マデビラはその場に大きく倒れて動かなくなる。
あまりの威力に聖剣が大きくゲラゲラ笑い始めた。
笑うないまそれどこじゃない。
「なんだよ俺達いらねぇじゃねぇか」
「裏組織にわざわざ誘拐を頼むようなやつだ、本人の戦闘力はないという事か」
顔が見えない様に被せられていたベールを取り払って、ルドーとフランゲルが慌ててリリアとアリアを棺から引っ張り出す。
ルドーとフランゲル二人の剣幕に入り口で呆然と見ていたカイムとエリンジが、終わったと気が付いて慌てて駆け寄る中、ルドーとフランゲルがそれぞれ抱き上げたリリアとアリアの様子を見て全員が息をのんだ。
リリアとアリアは全身が黒く変色しており、さらに濃い黒い斑点も全身に回っていた。
あまりのことにルドーは頭が真っ白になってリリアを抱えたまま呆然とする。
前に見た時は呼吸が苦しそうに呻いていたのに、今はもう虫の息のように全く反応を示さない。
ゲンタイン・マデビラはこの二人の様子を見て先が長くないと悟って慌てて結婚式をあげようとしたのか。
講堂の真ん中の床に二人を寝かせたルドーとフランゲルに、エリンジとカイムが走り寄ってしゃがみ込み、リリアとアリアの様子をそれぞれ診始める。
「リリ! リリ! しっかりしろ!」
「アリア! おい前見た時より悪化しているぞ!」
「脈はまだある、だかかなり弱い」
「くそ、やっぱり回復効かねぇ……」
それぞれの脈を図るようにエリンジが二人の手を確認する中、カイムが髪で回復魔法をリリアとアリアにかけるものの、また同じように治った後一瞬で元の状態に戻る。
前に見た時はそれでも苦しそうに呻いていたのに、二人ともぐったりと意識を失ったままだった。
「カイム、通信は」
「妨害魔法がまだ残ってやがる、通じねぇ……」
「そんな! このままじゃリリが!」
「ここまできて救えんなどと馬鹿げたことを抜かすな!」
エリンジが救援を呼ぼうとカイムに聞くが、ゲンタイン・マデビラは倒したのに、彼は用意周到だったのか何故か妨害魔法が解除されず、通信が未だ使えないようだった。
今のルドー達ではリリアとアリアをどうすることもできない。
せめてエレイーネーの先生の誰かに連絡を取ることが出来れば。
転移も出来ない以上このままではリリアもアリアも危険だった。
「……あ?」
「どうした」
「シッ」
ルドーとフランゲルがそれぞれリリアとアリアに縋るように声を掛け続ける中、カイムがなにかに気付いたかのように上を向いた。
まだ何者かが残って潜んでいるのかとエリンジが警戒するように同じく木製の天井を見上げる。
ルドーとフランゲルがその様子に気付いて同じように上を見上げれば、入って来た際外で見た教会の高さより天井の位置が低いことにルドーは気付く。
ひょっとして二階でもあるのか、そういえばリリアとアリアをここに運んだはずの元幹部の二人組はまだ見掛けていない。
取引を終えてさっさと逃げてしまったのかと思っていたが、まさかこの上に潜んでいるのか。
使われていなかった廃教会の、薄汚れてあちこち朽ちたために所々隙間のある木製の天井を見上げ続ける。
全員が警戒するように上を向いたまま武器を構えようとしたが、カイムが手を上げて違うというように首を横に振った。
そのまま静かにし続けるようにと、カイムは指を立てて口元に持ってきたまま探るようにあちこち視線を向けながら上を向いて、音も立てずに髪を伸ばして天井の板の隙間からその先を探るように入れ始める。
ルドー達が警戒しながら固唾を飲んで見守る中、しばらくして手ごたえを感じたのか、髪が急にビシッと固まったかと思ったら、バキッと天井を突き破って髪にグルグル巻きにされた下向きの宙づり状態になった誰かが悲鳴と一緒にブラブラ落ちてきた。
「くそが、手間取らせやがって。随分元気そうにしてんじゃねぇかよ」
「あー……なんでわかったわけ?」
「クロノ!?」
ぐるぐる巻きにされた相手を見てルドー達は驚いて目を見開く。
黒帽子を被ったクロノが、また革の旅人服に身を包んで、カイムの髪にグルグル巻きの状態で天井から逆さに吊り下げられていた。
『探してる時は見つからねぇのに、探してなけりゃあっさり見つかるもんだな』
「しかも今まで探してた方向と全然別ときてらぁ、くそが」
「なぜここに居る」
「貴様! ここで何が起こっていたかわかっていたのか! わかっていて放置したのか!?」
「いや知らないよ、上に居たらなんか下がうるさくなって出られなくなったから隙伺ってただけだし」
聖剣が感想を言い始める中、すかさずエリンジとフランゲルから非難の声が上がったが、どうやらクロノはたまたまこの廃教会の上に逃げ込んで潜伏していたところに、リリアとアリアを連れたゲンタイン・マデビラの集団がやってきて動けなくなっていただけだったようだ。
天井板の小さな隙間からでは下の様子は伺えなかったのか、それとも知っていて放置するつもりでいたのか、ルドーには判別がつかなかった。
「ていうかカイムなんでわかったわけ?」
「そこの割れたガラスだ、反射した隙間からてめぇが見えたんだよ」
「あー、アナログ。魔法ばっかり警戒するのは悪い癖かな、直しとかないと……」
クロノの質問にカイムが指し示したのは、使用人たちが逃げる際に更に割って床に飛び散った窓のガラス片だった。
どうやらそこに天井板の上にいたクロノの影が、隙間から反射して見えたらしい。
ようやく見つかったクロノだが、まるで逃げ道を探すかのように首を回して周囲を見渡していたが、はたとその首が止まって、見たくないものでも見たかのように、不快気に口元が固く結ばれた。
「……カイム、降ろして」
「聞かねぇ、降ろしたらまた逃げる気だろてめぇ」
「今は逃げない。そこの倒れてる二人の様子を見たい、降ろして」
クロノの言葉に、カイムは片眉を上げてじっと見つめていたが、しばらく沈黙が続いた後カイムの舌打ちが聞こえて髪を切り落した。
講堂内に身を翻してスタっと着地したクロノは、そのままリリアとアリアの傍にしゃがむルドーとフランゲルの横に静かな足取りで近付く。
「……いつからこの状態?」
「長く見積もって三日程だ」
「そう、ちょっと見せて」
クロノの問いにエリンジが答えた後、クロノは更に二人に近寄って帽子の鍔を握って引き上げた。
ルドー達が初めて見るその帽子の下には、血のような赤い瞳が薄暗い魔の森の廃教会の中輝くように怪しげに光り輝いて見えた。
クロノは帽子の鍔を掴んだまま、その目を細めてリリアとアリアをそれぞれ上から下までじっくり観察するように視線を動かしている。
魔力の反応はまるでない、魔法は何も使っていなかった。
なにかリリアとアリアを救える手立てでもあるのかと、ルドー達はクロノの様子をじっと見つめる。
「……やっぱりか……普段潜ってるのに……」
「リリに何が起きたか知ってんのか!?」
「五月蠅い黙って! 二人とも聖女だからまだ耐えられてるけど、流石に三日ともなると……位置は……そこか、となるとあとは……」
クロノはリリアとアリアを見ながらまた小さくブツブツと何か知っているように呟き始めたので、ルドーが藁にも縋る思いで立ち上がって近寄り大声をあげたが、邪魔だとでもいうように逆に押し返される。
魔法は使っていなかったはずなのに、クロノには一体何が見えているのか。
クロノはそのまま探るようにリリアとアリアに一通り視線を動かした後、帽子を上げたまま徐に顔を上げてエリンジに声を掛けた。
「エリンジ」
「なんだ」
「……その魔力、リリアのだね。って事は魔法使えるね? この二人に回復魔法使える?」
クロノはエリンジがリンソウの襲撃者に魔力を奪われたことが分かっている様子だ。
そして何らかの方法でエリンジがリリアから魔力を補充している事もどうやら見ただけで察したらしい。
魔力伝達の魔力の補充を見ていない上、魔法も使わずなぜそこまで分かるのだろう。
そこまでクロノに察せられたエリンジも、驚いた後困惑するように眉間に皺が寄ったが、今は二人が優先だと聞かれたことに答え始める。
「……魔力の残りから一回だけならなんとかなるが、使っても戻る。ならばまだ余力のあるカイムに任せるべきだ」
「知ってる。でもカイムには別のこと頼みたい、待機しててくれる?」
エリンジの返答にクロノは帽子の鍔を引き下ろしていつもの目の下まで顔を隠した状態に戻した後、今度はカイムに顔を向けた。
回復魔法をかけるだけならエリンジの言う通り魔力に余裕のあるカイムに任せるべきだとルドーも考えるが、クロノは別のことを頼みたいという。
一体クロノは何を考えているのか。
どうやってリリアとアリアの二人を助けるつもりでいるのか。
助ける気でいてくれているのか。
何も話してくれないせいでルドーには不安ばかりが募る。
「俺じゃなくて一回が限度のそいつに回復任せて待機だぁ? 何する気だよ」
「この状態じゃ説明してる時間がない。ごめんルドー、先に謝っとく」
「え?」
突然謝罪されたルドーが困惑の声を上げると同時に、クロノはリリアとアリアの傍に素早くしゃがみこんだと思ったら――――
――――リリアとアリアの腹部に、その両手を深く突き刺した。




