第百五話 交差する様々な思惑
突如として視界が無くなったと思ったら、ガラガラという轟音と共に全身が硬い何かに殴られ続ける様な衝撃が続いた。
真暗で息が出来ない、何かが強烈に吹き付けて思わず咳込む。
『魔の森じゃねぇのになんだこの超濃度瘴気の量は! おい、おい! 崩れてるぞ逃げろ!』
薄らと聖剣の叫ぶ声が聞こえる。
逃げろと言われても、この先にはリリアがいる。
建物が崩れているなら同じ建物の中にいるリリアも危ない。
先に進まなければ。
なんで身体が指一本動かない。
「くそが……間一髪……」
「助かる」
「危なかった、流石だカイム」
「いやはやいつ以来かなこんな危機的状況」
「全員無事かい!?」
「ハイハイハイ何とか無事ですよ!」
「かすり傷だけどだいじょーぶ!」
「潰れるかと、思った」
「いやいやいや潰れるどころか死ぬとこだったって!」
「それよりこの先はどうなったのだ! アリアもそこにいるのだろう!」
収まってきた轟音と聞こえてきた話し声にルドーがぼやける視界を痛みに呻きながらなんとか身を起こせば、頭からぽたぽたと血が滴り、ガラガラと身体に降りかかっていたレンガの瓦礫が崩れ落ちた。
ルドーが振り返れば、白く光る球体の光魔法で周囲の安全を確認しているカイムが、大量に降り注いでいたレンガの瓦礫から髪を大量に広げて傘のような状態にしてなんとか全員包んでいたところだった。
髪で何とか維持している光魔法で照らされた下の空間は、最初の人一人しか通れなかった通路が崩れてかなり開けた状態になっている。
ルドーは先行し過ぎていたせいで、既に身体がいくらか瓦礫に埋もれていたものの、なんとか潰れる直前にカイムの伸ばした髪が間に合った様子だった。
『ルドー! ルドー! しっかりしろ!』
「先行すんなっつってたのは誰だよ! ふざけてんじゃねぇぞ!」
「リリ! リリは……」
ルドーの身を案じて叫んだ聖剣とカイムにも答えず、ルドーは瓦礫の中から無理矢理身体を引き抜くと、あちこち身体が傷付いた状態も気付かないまま、通路がどこに向かっていたか何とか辿ろうとする。
通路は瓦礫で塞がれる様に山になっていて先に進めなくなっていた。
同じように通路の先も瓦礫で潰されていたとしたら。
視界に、小さな妹が首を絞められてぐったりしていく様子が過った。
「リリ! 嘘だろ、やめろ! やめてくれ! また殺さないでくれ!」
「落ち着け! メロン、反応は!」
「てめぇ傷だらけの自分の身も案じろってアホが!」
取り乱したルドーが叫びながら聖剣の存在も忘れて瓦礫を掘るように素手でひっかき始めて、エリンジがルドーの後ろから両肩を強引に掴んで瓦礫から引き離して叫ぶ。
カイムが空間を維持しながらも髪を伸ばしてルドーに回復魔法をかけ始めた。
「薄らだけどこの先にまだ残滓の反応があるよ!」
「ハイハイハイ道っぽい瓦礫ここにあります!」
「なんだと! 塞がってしまっているではないか! アリア!」
「どけ! 道を塞いだ瓦礫を潰す!」
メロンの返答とウォポンの指摘に、フランゲルがアリアを呼び叫んでいる中、ボンブが三人を退けて前に躍り出て大きく吠えるように構えた後、赤黒い魔力が拳に宿って、殴るように勢いよく押し出せば正面の瓦礫の山が大きく爆発した。
途端にまた恐ろしく黒い瘴気が溢れるように噴き出したが、それと同時に先程叫ばれた女性の声も響いて来る。
「……そんな……なんで!? ちょっと! 誰か! 誰かいないの!?」
「この声、三年のシマス聖女ケリアノンだ!」
『攫われた聖女がこの先にいるって事か』
「今の瘴気、この先に空間がまだある!」
「道を作る、ルドー君合図したら走れ!」
叫ばれた女性の声にネルテ先生が気付いたように反応すれば、噴き出した瘴気におおよその推測を出したエリンジに、モネアネ魔導士長が腕を振って風魔法でザクザクと瓦礫を切り刻み始めた。
ボンブの空けた穴が風魔法で切り刻まれてどんどん広がっていく。
「出来た、行け!」
モネアネ魔導士長の叫びに、待っている間に回復し終えたルドーは再び走り出す。
背後から続けと叫ぶモネアネ魔導士長の叫びも続く足音も聞こえないまま、足場の悪い瓦礫の山に空いた隙間をただひたすら走り続けた。
走った先で穴が繋がったのか、突然空間が開ける。
かなり広い空間が崩れたのか、あちこち瓦礫が散乱する中、倒れた人々を瓦礫から守るように張られていた大きな結界魔法が消えていくところだった。
倒れた人の中にウェンユーとピナを視認する中、うつ伏せにぐったりと倒れているリリアを見つけてルドーは叫びなら駆け寄った。
「リリ! リリしっかりしろ!」
「うっ……」
『なんじゃこりゃあ……』
うつ伏せになったリリアを抱き抱えれば、呻くようにしながらもなんとか反応があった。
しかし抱き起した瞬間見たリリアの状態にルドーは恐怖する。
首回りに黒い斑点が浮かび上がり、その周囲の皮膚がまるで腐食するかのように薄黒く染まっていた。
「なんで、なんだ……? 回復! 誰か回復魔法を……!」
「回復、効かないの……!」
「ケリアノン! 何があった!」
「アリア!」
「アリアさん!」
リリアの横に、同じようにぐったりと倒れているアリアを見つけたフランゲルたちが駆け寄る中、ネルテ先生とエリンジ達がリリアを抱えるルドーの傍に駆け寄る。
ネルテ先生が叫ぶように呼びかけたことで、二人の傍にしゃがみ込んで泣きそうな顔をしているエレイーネーの制服を着た女性がいることにルドーはようやく気付いた。
淡いプラチナが毛先に行くほど薄水色と薄紫が混じったふんわりした癖のある髪、牡丹色の瞳に涙を滲ませていた。
フランゲルが抱き起したアリアも、リリアと同じように首元に斑点に皮膚が薄黒く染まっていて、呼吸しにくいのか二人とも咳込んで苦しそうにしている。
涙目になったその女性、ケリアノンが両手をかざしてリリアとアリアに回復魔法をかけるが、回復が効いて斑点が無くなり皮膚が戻ったと思ったら、回復し終わった途端また斑点が出現して腐食していくかのように皮膚が薄黒く染まっていく。
「なんだこれは……!」
「見たことが無い」
「聖剣! なんだよこれ、何がどうなってる!?」
『すまん、専門外過ぎて流石にわからん』
ルドーがリリアを抱き抱える中、なんとか必死に聖剣に原因を聞くが分からない様子だった。
ルドーは苦しむリリアを抱きかかえて必死に声を掛ける、声に対する反応はないが呻いている様子から、意識は朦朧としているがまだ何とか息がある状態だった。
二人の様子を見た後ネルテ先生がケリアノンに振り返った。
「ケリアノン、ここで何があった!」
「わからない! 私がここで倒れている事に気付いた時に、薄暗い中二人の傍に誰かが立っているのだけが薄ら見えて、しかもその時点で二人とも倒れたまま苦しそうに呻いていたの! だから大声をあげたら、瘴気が溢れて何も見えなくなって!」
ケリアノンの話では、灯りもない中倒れている事にようやく気付いて頭だけ起こすと、呻き声が聞こえてそちらを向けば、薄暗い中誰か立っているのが見えて、その足元でアリアとリリアが倒れて呻いていたという。
「瘴気? さっきの爆発か!」
「それでようやく視界が見えるようになったらその誰かも消えていて、でも二人ぐったりしたままだから慌てて回復魔法をさっきからかけているのに……!」
ケリアノンが声を上げた瞬間何も見えなくなり、次に気が付いたら瓦礫が降り注いできたため慌てて結界魔法を張ってこの場の全員を何とか助けたそうだ。
その時点で二人の傍にいた何者かは影も形もなく消えており、苦しむ二人に慌てて近寄って回復魔法を即座にかけたが、同じように一瞬だけ治ってまた元に戻ってしまったそうだ。
「そいつがリリに何かしたのか!?」
「ダメだ、俺の回復も効かねぇ……」
カイムもリリアとフランゲルが抱えたアリアにそれぞれ髪を伸ばして回復魔法をかけ始めたが、それでも同じように一瞬治ったと思ったらまた元に戻って二人とも苦しそうに呻いている。
エリンジが即座にケリアノンが指し示した男がいたという場所を調べ始めた。
「転移魔法で逃げた。残滓が薄ら残っている」
「ひょ、ひょっとしてみんなを攫ったのがそいつだったりする!?」
「いーんや、主犯はこいつっぽいな。そこの猫毛ちゃん、ちょっと確認できる?」
いつの間にか崩れた空間の奥の方に移動してしゃがみ込んでいたモネアネ魔導士長、その奥に倒れた誰かの足が見えた。
靴のサイズからどうやら誰か男か何かが倒れているようだ。
イエディは手を繋いだままのメロンとゆっくり顔を見合わせた後、お互い頷いてゆっくり手を放してそちらに近寄っていった。
「……っ! ここの領主、リギト・ジョーンワートです……」
「確認ありがとう、ひどいからもう見ない方がいい」
イエディが呼ばれたモネアネ魔導士長の横まで歩いた後見たそれは、人とは思いたくないものだった。
髪は全て抜け落ち、皮膚が全て黒く変質して、干からびたように萎びている。
顔からはまるで大きな膿が中から噴き出すように、顔中に散らばったできものから中身がどろりと噴き出ている。
苦しみ死んでいったかのように、その顔は苦悶に満ちたまま固まっていた。
イエディが気持ち悪そうに手で口を押えて顔を真っ青にして戻ってきて、メロンが慌てて支えるようにその横に寄り添う。
モネアネ魔導士長とイエディの反応からどうやら主犯のリギト・ジョーンワートはもう既に亡くなっている様子だ。
「それよりアリアのこの状態をどうにかしないか貴様ら!」
「魔法の回復がダメなら、回復魔法薬はいけるか!?」
謹慎の後、急いでノースターに会って回復魔法薬を補充してもらっていたルドーが、大慌てで懐からガラスの瓶を取り出す。
なんとか瓦礫に押しつぶされた際に割れなかったそれを開いて、緑の液体をリリアとアリアにそれぞれ振りかけるが、バシャリと頭から被って治ったと思ったら、また同じように元に戻ってしまう。
「なんで、どうして……リリ!」
「回復が効かなかったあいつの時とも動きがちげぇ、おいなんかわかんねぇのか!」
「言っただろう、見たことがない、なにも分からん……」
ノースターの回復魔法薬も効かなかった。万事休すだ。
上擦るようなルドーの悲鳴に、カイムとエリンジが悔しそうに話しているが何もわからない。
リリアを必死に助けようとルドーは周囲を見渡すが、誰からも希望的な表情は返されない。
『っ、こんな時に! おい伏せろ!』
バチンと聖剣が弾けたと思ったら、崩れた空間の辛うじてわかる壁側が外側から爆発した。
大きな穴が開いたと思ったら、外で戦闘していたはずの男達が続々と中に入ってくる。
「聖女に紛れた歌姫がいるから見つけたらいくらでも金払うって話じゃなかったのか!」
「おい! あいつ死んでやがるぞ、ここもこいつらがやったのか!?」
「このままじゃ大損だぞ! そこの聖女もう一回攫って売り飛ばせ! 少しでも損失回収しろ!」
叫ぶ男達の会話に、ルドーは頭に血が上った。
もう一度攫って、確かにそういった。
こいつらがリリアをクバヘクソで誘拐した元凶。
こいつらがリリアを攫ったせいで今リリアはこんな目に遭っている。
聖剣の制御が効かない様に周囲にバチバチと雷が大量に溢れ出した。
『あーダメだこりゃ、完全に切れたぞ。防御魔法は効かん、下がれお前ら』
「なるほど、聖女に歌姫が紛れ込んでいると思っての犯行のわけか。そんな根も葉もない話よくも信じたものだ、歌姫派閥筆頭ならではか」
雷を大量に纏わせながら顔を真っ黒にさせて目だけを光らせたルドーから、生徒達をそこから離すように手で庇いながら前に出張ってきたモネアネ魔導士長が呟く。
しかしルドーにとってはもう動機などどうでもいい、目の前にいる集団を叩きのめすこと以外考えていなかった。
アリアを抱えたままのフランゲル、ウェポンやヘルシュ、メロンやイエディ、そしてエリンジとカイムの叫びかける声ももうルドーには聞こえていなかった。
「魔力暴走ともまた違う、怒りに我を忘れたか……ボンブ! 生徒達を守ってくれ!」
「構わんが、お前も自衛は厳しいぞ!」
「私は私なりに生徒を引き戻さないと」
ネルテ先生の呼びかけで、ボンブもモネアネ魔導士長の横に並んで構えた。
その様子を見届けた後、ネルテ先生は倒れている聖女の一人の元へと駆け寄る。
「ウェンユー! ウェンユー! すまない、起きてくれ! 大至急診て欲しい急患が二人いるんだ! 倒れたあの子じゃないと、リリアじゃないと、きっとルドーは止まらない!」
砂漠地帯特有の黒装束に身を包んだまま倒れているウェンユーに、ネルテ先生は必死に呼び掛けているが、気絶したまま全く反応がない。
そのネルテ先生の様子を見たカイムが、倒れたウェンユーにも髪を伸ばして回復魔法をかけ始める。
しかしウェンユーも誘拐された際戦闘でもしたのか、魔力をかなり消耗しているようでなかなか回復されきる様子がなく、回復魔法に呻くように身じろぐものの中々起き上がってこない。
大量の男達が攻撃魔法を飛ばせば、ルドーは聖剣を片手で握ったまま、その黒い刀身を恐ろしい速さで振り下ろす。
周囲を貫くおぞましい雷鳴と共に、雷閃が十本纏まったような極太の雷が即座に男達周囲に出現し、辺り一帯を真白に照らし出した。
一瞬にして黒焦げになった男達をその場に放置して、聖女をもう一度誘拐しようと、抗争を辞めて崩れた空間の中に更に続くように突撃してきた男達に向かって、ルドーは真っ黒な顔で走り出した。
怒りに我を忘れて、ただただ聖剣を振り下ろし続ける。
「もう前しか見えてないな、やれやれ。君たち気を付けて、後ろからも来てる」
「臭うぞ、かなり多い」
ルドーが聖剣を振るって雷魔法を襲ってくる男達に浴びせながらズンズンと先に進むのを眺めていたモネアネ魔導士長が警告し、ボンブもゆっくりと匂いを追うように鼻をひくらせながら後ろを振り向いた。
苦しんでいるリリアとアリアを守るように中心に寝かせた後、フランゲル達も立ち上がって構えた。
お互いの身を案じるように、メロンとイエディが固くその手を握り直す。
ルドー達が空間に入ってきた崩れた通路側からも、崩れた周辺の壁が攻撃魔法で破壊されて穴が開いた。
続々と入って来る集団が、構えて狙い始めている。
ボンブが吠えるように大声をあげて赤黒い魔力を殴るように飛ばせば、瓦礫と一緒に男達が吹き飛んだ。
モネアネ魔導士長が次々と腕を振るえば、途端に渦巻く竜巻が複数発生して、周辺にいた男達を巻き込んで吹き飛ばしている。
カイムがネルテ先生と倒れたウェンユーとピナを守るように、髪を広げて襲い掛かってくる男達をまとめて掴んで薙ぎ払う
フランゲルとウォポンがそれぞれ剣を構え、フランゲルが火炎魔法で近寄ってきていた男達を焼き払い、ヘルシュがそれに合わせるように風魔法を発動させて炎を拡散させる。
ウォポンが物凄い速さで走り込んだと思ったら、一気に複数の相手を剣で叩きあげた。
様子を見ていたエリンジは一人歯噛みしていた。
「くそ、この戦闘を出来るのだけの魔力が足らん……」
リリアが誘拐されてから魔力伝達の魔力の補充が出来ていなかったエリンジは、消費こそあまりしていなかったものの、大量に雪崩れ込んできた裏組織の戦闘員たちと連続してまともに戦えるだけの魔力はなかった。
失敗を取り戻すためにここまで来たのに、肝心な時に役に立てていないことにエリンジは歯噛みする。
「メロン、離れないで」
「イエディ、なんか変な感じする」
お互い戦闘魔法が上手く出来ず乏しかったせいで、エリンジと同じように戦えずに身を案じて手を繋いでいたメロンとイエディは、今まで感じたことのない温かみが二人を包んでいる事に気付いた。
エリンジがその二人の声に顔を向ければ驚愕に目を見開く。
「魔力伝達、出来ているぞ」
「えっ? えっ!?」
「メロン、落ち着いて、大丈夫」
エリンジに指摘され、メロンとイエディはお互いの魔力がお互いを守るように包み込みながら循環して渦巻いている事に気付く。
驚愕に慌てようとしたメロンの肩をイエディがゆっくり撫でて、周囲を見渡すように二人首を回した。
「ねーねー、ちょっと試したいこと出来たよ。イエディ助けてくれる?」
「助けてもらってるの、いつも私。だから、大丈夫」
「そうだっけ?」
「そうだよ」
お互い顔を見た後クスリと笑い合って、メロンはイエディの前に躍り出る。
イエディが構えるように両手を縦に並べて開き、戦闘を続けている周囲を二人ゆっくり見渡した。
「見える、良い感じの流れ。どう? イエディ」
「目潰しみたいに、ピンポイントで。やろう、メロン」
イエディが右手の指を二本、拳銃で狙うように構えた。
混乱する周囲の戦闘の中、二人、狙いを定めているのを横でエリンジはただ見守っていた。
「メロン!」
「いっきまーす!!!」
どかんと大きく爆発するように、メロンが魔力に押し出されて大きく飛び出した。
そのまま開いた穴から入ってきた大量の戦闘員の集団に向かって飛び込んで、魔力伝達で増幅された二人の魔力がまたドカンと大きく爆発して戦闘員たちを巻き上げた。
まさしく人間大砲だ。
「もう一発いける! イエディ!」
「離れても分かる、メロン!」
イエディがさらに狙うように次の視点を二本指で定めれば、またメロンがどかんと飛び出した。
そのまま戦闘を続けているボンブとフランゲルの間を器用に縫うように避けながら、その背後からまた侵入してきた戦闘人の集団に突っ込んでドカンと爆発して大量に吹き飛ばす。
爆発した衝撃を利用して、メロンはそのまま大きく後退してイエディのすぐ傍で着地した。
「わぁ! わぁ! すごい思った通りに出来た! 加減わかんなくてガス欠しちゃったからもう難しいかもだけど!」
「まだ慣れない、下手をすると敵陣に突っ込む、無茶はしない」
「その方がいい」
ブンブン両手を振り回して喜ぶメロンにイエディが笑って返し、エリンジも静かに続けた。
初めての魔力伝達と、まともに戦闘が出来たことに、二人は喜んでいた。
まだ厳しい状況ではあるものの、戦闘員を倒し切れば、少なくとももう一度聖女たちが誘拐されるリスクは無くなる。
数をかなり減らす協力が出来たのは充分な成果だ。
「護衛対象の近くに戦闘できるやつは残しとくのが本来吉なんですよぉー?」
初めて聞く声に、エリンジが咄嗟に防御魔法を張り、同じようにカイムも髪を強化して防御した。
魔力伝達後で魔力の切れたメロンとイエディを庇うようにエリンジが前に出た瞬間、大きな岩のような硬い何かにぶん殴られて、後ろにいたメロンとイエディも巻き込んで悲鳴をあげる二人と共にエリンジも大きく吹き飛ばされる。
同じようにネルテ先生と倒れたウェンユーとピナを守るように髪を広げたカイムも、後ろの三人ごと大きな硬い何かに殴られて吹き飛ばされる。
「あっはー! 聖女ちゃんってば、人をこんな身にさせといてまぁ! 苦しんでいい気味ですことー!」
「レモコ、これはかなり値のついた商品だ、私怨はやめな。いい具合に転移出来たんだ、さっさと攫って逃げるよ」
「はーい」
リリアとアリアを守るように周囲で戦っていた全員が、突如としてその中心から響いてきた声に一斉に振り向いた。
怒りに我を忘れていたルドーも、その事に気付いて怒りも忘れて戦慄して振り返る。
たった今リリアとアリアのすぐ横に転移してきたかのように、エリンジとカイムを殴りつけた身長の二倍ほどはある大きな岩の人形を従え、身体のあちこち半分を魔道具が埋め尽くしている水色髪のツインテールの少女と、かなり着崩した着物を着た臙脂色の髪の色っぽい女性が二人の傍に立って、リリアとアリアを回収するかのように抱き抱え始めていた。
それを目にしたルドーは無意識に雷転斬を放ってリリアの傍に移動し、二人の近くにいたエリンジとカイム、そしてアリアから一定の距離を保っていたフランゲルが即座に動いた。
苦しんでいる二人を、また攫われてなるものかと。
転移魔法が発動する光が走って、リリアとアリアを回収した二人と一緒に、その四人も転移魔法に巻き込まれて消えた。




