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第百三話 チュニ王国聖女救出依頼

 翌日、ようやく謹慎が解かれて部屋から出られるようになったルドーは、情報を得るために足早に職員室に向かった。


「色々気を使ってくれてた相手に恩を仇で返す形になっちゃってまぁ、散々だなカイム」


「……」


「ありゃま、噛みつき返す元気もないか」


「そりゃ突っ走った挙句のこれだしなぁ……」


 横開きのドアをガラリと開けた先には、カイムが膝を抱えるように隅に置いてあった木製の丸椅子に丸まって座っていた。

 心配したアーゲストとボンブが囲むようにして声を掛けている。


 どうやら昨日のベクチニセンスの城で救出した、頭に羽の生えた魔人族の搬送に来ていたらしいが、カイムの余りの落ち込みように心配したのか、行くに行けない様子のようだ。

 助けてもらった頭に羽の生えた魔人族の女性も、かなり心配そうな顔でカイムの方を見ている。


 その横を見れば、エリンジも丸椅子に項垂れるように座っていた。

 エリンジに至ってはリリアと最近行動を共にすることも多く、魔力伝達で魔力の補充をしていたのもあって酷い落ち込みようだ。


 そんな二人の様子を見てしまったルドーは、被害者でもあることもありつい苛立ちを隠せなくなる。


「ルドー、悪いけど君が来てもまだ動かすわけにはいかないよ」


 ルドーが睨み付けるように二人を見ながら職員室に入ってきたことに気付いたネルテ先生が声を掛ければ、エリンジとカイムはビクッと身体を跳ね上げさせた。

 険しい顔で両手を腰に当てて二人に何を言うでもなくしていたネルテ先生は、ルドーの方にも厳しい視線を向ける。

 他の先生方は聖女が連続して誘拐された件もあり、調査の為に出払っているのかネルテ先生以外見当たらない。

 ネルテ先生もきっと情報収集の為に動きたいのだろうが、二人の罰則のせいで職員室から動けなくなっているのだろう。


「情報ももらえないんですか」


「悪いね、ルドーは当事者だから伝えられないのは心苦しいけど、先の今だ。エレイーネーとしてこれ以上勝手に動かれても困る」


「そうですか、ならエレイーネーとしては動きません」


 ルドーの返答にネルテ先生は片眉を上げて怪訝な視線を返す。

 やはり昨日予想した通り、勝手に生徒だけで救出に行ったことに難色を示されているようだった。

 ルドーは未だ項垂れて落ち込んでいる二人の方を見やる。


 視線を合わせることすら気まずいのか、ネルテ先生のルドーを呼ぶ声を聞いてから壁の方を向いている二人に、ルドーはズンズンと進んでいき、まずエリンジの頬を力の限り殴りつけた。


 ゴスッという大きな音が部屋に響く。


 近寄られたことでようやく視線を上げたエリンジは、いつもなら防御魔法で難なく防ぐであろうルドーの、魔法も籠ってない素手の拳をあっさり受けて大きく吹っ飛ぶ。

 殴られた頬に手を当てながら大きな音を立てて床に転がるエリンジを一瞥した後、ルドーは今度は膝を抱えたままのカイムに向き直って、アーゲストとボンブがさっと後ろに下がる中、制止してきた羽の生えた女性の横を乱暴に通り過ぎた後、同じようにその横顔を殴りつけた。


 ガスッと大きな音が響き渡った。


『ヒュー、いいねぇ派手な一撃なこって』


「はぁ、気持ちはわかるけどやるなら外でやらないかね」


「すんません、一発だけです」


 その心境から殴る事自体は否定しないというような、呆れた様子のネルテ先生からの叱責にルドーは小さく返す。

 二人を殴った拳を左手で押さえながら、高ぶる気持ちを落ち着けるようにルドーは大きく息を吸って吐き出した。


「いつまでしょぼくれてんだよ! いい加減にしてくれ! リリが大変な時にそんなんでどうやって頼ればいいってんだよ!」


「……しかし、もう動くこともままならん」


「……焦って余計な事したせいで、散々だっつの、顔向けできねぇ」


「うるせぇ! 気に病んでんなら落ち込んでねぇで行動で挽回しろよお前ら!」


 二人とも殴られるのが当然だというように項垂れて地面に転がったままのところに、ルドーは白い封筒を懐から取り出してそれぞれの顔に叩き付ける。

 バシンバシンと紙が当たる小さい音が職員室に響いた。


「ルドー? なにしてるんだい」


「エレイーネーとしては動きません。今の俺はチュニ王国勇者です。ほら、二人ともさっさと読めよ」


 ルドーの大声に倒れたままの二人がようやく顔を上げ、訳が分からなさそうに叩きつけられた封筒を拾って、エリンジがそこに書かれていた表紙に驚愕して目を見開いた。


「依頼状だと?」


「はぁ?」


「チュニ王国勇者ルドーからの、個別の協力依頼だ。エレイーネー在学中でも勇者や聖女は国経由で依頼が出せるから、協力者が欲しいなら書いとけってモネアネ魔導士長に言われたんだよ」


「まっ、そゆことねー。預けてた聖女が攫われたんじゃ、流石にチュニ王国も動かないわけにはいかないですからね」


 ガラッと扉が開いて、あっけらかんとした笑顔を携えたモネアネ魔導士長が、高貴な緑のマントをはためかせながら入ってきた。

 そうやって職員室に入ってきたモネアネ魔導士長は、想定外の来客に驚いているネルテ先生の横まで歩いてきて、はいとかなり気楽に豪華な封筒を雑に手渡した。


「チュニ王国からより……聖女救出活動のため勇者一時休学要請? あぁもうやってくれたね!」


「ちゃーんと王家の押印入ってまーす、正規の文章でーす。受け取らないわけにはいかないでしょう、平和維持機関エレイーネーさーん」


 モネアネ魔導士長から渡された封筒を怪訝な顔で開いて内容を読んだネルテ先生がぐしゃぐしゃと頭をかいて大きく声を上げ、茶化すようにあっけらかんと告げるモネアネ魔導士長。

 話の内容にぽかんとしていたエリンジとカイムの方に向き直って、ルドーは更に告げる。


「そういうわけで、俺はリリを助けるためにチュニ王国勇者として動く。そんでどうなんだよお前ら、依頼受けんの、受けねぇの」


「しかし、俺が勝手な行動したばかりに」


「自分だけ全部被せんな、俺だって同じだくそが」


「だから今度は勝手にする行動じゃない。正式に依頼して、正規の手順踏んで助けに行くんだよ」


「俺が同伴するから、多少の荒事は大丈夫だよ。国王も攫われたんなら好きなだけやっちゃえって好意的だから後ろ盾はばっちりだからさ」


「いや気楽すぎだろ国王、会った事ねぇけどどういう奴だよ……」


 モネアネ魔導士長から軽く語られる国王の様子にルドーは思わず項垂れた。

 小さく溜息を吐いた後エリンジとカイムの方に改めて向き直る。

 二人ともしばらく呆然としていたが、お互いがゆっくりと顔を見合わせた後、それぞれが力強く拳を握りしめて立ち上がる。


「自身の失態は自身で取り返す」


「ケッ、恩を仇で返すのは魔人族の名折れだ」


 エリンジとカイムが立ち上がってルドーに力強い視線を返してきた。

 ようやっと調子を取り戻した二人を見て、ルドーはまだ不安ながらも少し胸を撫で下ろした。

 様子を見ていたアーゲストが安心したように首を振って笑い、ボンブもやれやれといったように腕を組んだまま首を振っている。

 ルドーに付いてくる気満々になった二人に、今度は様子を見ていたネルテ先生が慌て始める。


「いやいや二人とも監視対象の罰則中だよ!」


「知ってます、はい」


「……私も来なってかい?」


 ルドーが同じ要領でネルテ先生にも依頼状を渡す。

 呆れるように大きく声を上げながら息を吐いた後、ネルテ先生は改めてルドーが渡した依頼状を開いて中身を確認していた。


「先生も来るなら監視対象の罰則からも外れないし、二人がまた無茶しようとしても止められます」


 ルドーがそう訴えれば、依頼の中身を確認し終えたネルテ先生は項垂れてこちらをジトリと睨み付けた後、同じようにモネアネ魔導士長の方も睨み付けた。


「全く、悪知恵ばかり付けて。これだからチュニは嫌なんだ、いつも正攻法でゴリ押してくるんだから」


「正規の手順踏んでゴリ押すのが一番気分いいじゃないですか、問題あります?」


『正当法で暴れる事ほど楽しいもんはねぇよなぁ?』


 ネルテ先生のジト目にも、モネアネ魔導士長は手を振りながらあっけらかんと笑い飛ばし、聖剣(レギア)もつられてクツクツ笑い出した。

 その様子を見た後また大きく溜息を吐いたネルテ先生だが、これ以上反対する意見を持ち合わせていないようで諦めたようだ。


「正規の手順踏まれたんじゃ動かさないわけにはいかないじゃないかもう。ボンブ、私はまだ本調子じゃないからついて来てくれるかい?」


「構わん、それに俺がいたほうがカイムもまだ止まりやすい」


「流石にもう勝手に突っ走らねぇよ!」


「どうだか、そういって結局いつも突っ走ってるくせに」


「そんじゃ依頼した当事国という事で詳しい状況聞かせてもらいましょうか」


 先程まであっけらかんと笑っていたモネアネ魔導士長が、真顔になって空気が変わる。

 真面目に仕事を取り組む姿勢に変わって空気に緊張が走り始めた。


「そんじゃ俺はお暇するかね。ボンブ、カイム頼んだ」


 部外者がいたままでは話しにくいだろうと、状況を察したアーゲストが、頭に羽の生えた魔人族の女性を引き連れて、ボンブに軽く声を掛けて外に出ていく。

 女性はまだ後ろ髪を引かれるようにこちらを見ていたが、アーゲストが強めに引っ張った事で諦めたように俯いてゆっくり後に続いて行った。


「ここに来る前に少し調べてきたんだけどね、どうやらあの後ジュエリもやられたようだよ」


「なんだって!? 聞いてないよ!」


「やられたのがついさっきみたいだからさ。隣国だからね、飛行魔法でこっちに来るついでに遠視で軽ーく状況確認してたわけ。例のどでかい封印魔物倒して未だ動けない勇者がとんでもなくキレてたから、動けるようになったら凄いことになるだろうね」


 モネアネ魔導士長の話にその場の一同は驚愕して狼狽える。

 ジュエリの聖女、ピナも攫われた。

 ムスクはまだ例の大蛇の魔物を倒したデメリットで動けないようだ。

 ルドーがエリンジの方を見れば、どうやらエリンジも初耳のようで驚愕の無表情を浮かべている。

 受けた報告にネルテ先生は驚愕に目を見開いた後、首を振りながら口を開く。


「今朝、フランゲルと一緒にシュミックからも報告があったんだ。ただ幸い、あそこは聖女の歴が一番長い大ベテランだ。返り討ちにして追い返したらしい」


「返り討ちに!?」


「歳で寝ていると見せかけて油断させてからベッドの下に魔法を編んで、襲い掛かった瞬間に全員一気に吹き飛ばしたそうだ。ただそれでも戦闘仕掛けてきたそうでかなりの手練れだったと報告は受けている。急だったせいでぎっくり腰になって捕縛できなかったと悔しそうに報告されたよ」


 語られる内容に、ルドーとエリンジ二人が動揺する。

 ネルテ先生の話から、どうやらシュミックの聖女はかなりの老齢らしい。

 それでも集団で襲い掛かってきた手練れを返り討ちにするとは恐ろしい。

 しかしこれで世界の半数以上の国の聖女が襲われている事ははっきりした。

 やはり聖女そのものを狙った犯行とみていいだろう。


「先生、根拠はないんですけど、俺ソラウが怪しいと思うんです」


「ソラウか、まぁ大方察しは付くが、聞こうじゃないか」


「あそこはまだアシュの一件で聖女が行方不明になってから聖女不在です。それにこれだけの数の聖女を誘拐しているなら、もう国でも後ろにいないと説明がつかない、それだけのことをする国で、聖女関連って言ったらソラウかなって」


 かなり曖昧な内容で根拠もないが、ルドーはなんとかネルテ先生に説明した。

 周囲で話を聞いていたみんなもそれぞれ思案顔で考え込んでいる。

 ネルテ先生はルドーの話を聞いて、頭痛がするように眉間を揉みながら目を細めた。


「大分乏しい推測だな……しかしまぁ、ソラウが怪しいのは確かだ。ただ決定的な証拠がないから」


 そう言ってネルテ先生がエレイーネーに報告のあった情報を話し始める。

 護衛科副担任のターチス先生が鉄線殲滅戦前、ソラウ王国を保護が必要な役職持ちがいないかと訪れていた際、そこの領地を治める貴族の一人が、各国聖女の情報を欲して接触してきたそうだ。

 自国の行方不明になっている聖女を探して情報を集めているだけならまだしも、他国の聖女の情報まで聞き出そうとしてきたその貴族に不信感を抱いたターチス先生は、機密事項もあるからと公表されている情報だけを話してその場を収めたが、その後歩き回ったその貴族の収める領地でも、他国の聖女の情報を欲しているとお触れが回っていて疑問に思って報告してきたそうだ。

 ただ今のところ聖女の情報を欲していただけで、実際に今回の聖女連続誘拐の実行犯である確証がない。


「あくまで聖女について調べていただけじゃ、いくら怪しくても突入どころか調査もできなくてね。興味本位だったと言われたらどうしようもない。だからこそ聖女を捕えているならその証拠がいるんだ。きな臭い動きこそあるもののどうやら情報統制がされているのか中々尻尾が掴めないのが現状だ」


 状況証拠しかない為エレイーネーの先生方で周辺状況を探ろうと近辺に調べに入っていたところだったらしい。

 その報告を待っている状態だったと語るネルテ先生。

 しかし聖女を一斉に誘拐しているのが本当ならば、向こうもかなり用意周到な筈、簡単に尻尾は掴めないだろうと語られる。

 その上あくまでその領主の貴族が怪しいというだけで、本当にそいつが黒だったとして、聖女はどこに隠されているのか、何が目的なのか、攫った組織は何者なのか、わかっていない事の方が多いという。


「うーん、流石にこの情報だけじゃ理由が乏し過ぎて動けないなぁ」


 なにか一つでも情報があれば動けるのに、用意周到に計画されていたのかその一つの情報もないために、モネアネ魔導士長も流石に動けないと意見する。


 こうしている間にもリリアがどんな目に遭っているか分からないのに。


「先生、話したいことがあります」


 全員が厳しい顔に変わって、何か手はないかと考え込み始めた時、職員室の扉がガラリと開かれる。


「イエディ、悪いけど今は緊急事態で……」


「実家に連絡しました。ソラウに、怪しい動きのある、場所に見当が」


 職員室に入ってきたイエディに外に出るように伝えようとしたネルテ先生は、真っすぐ視線を向けられながら告げられた言葉に固まる。


「……実家に? ルッツ伯爵家とはあまり関係は良くなかったんじゃなかったかい?」


「もうそんなこと、言ってられない。それに、敵対派閥の弱味になるなら、私相手でも、動きます」


 そう語って、中で話していいですかと、イエディはネルテ先生を真直ぐ見つめる。

 実家とあまり関係が良くない、何の話をしているのかはよくわからないし、今必要な話かどうかも分からないが、イエディは確か昨日ソラウの方はなんとかすると話していた。その事だろうか。

 中に入ってきたイエディはネルテ先生の横に立ち、職員室にいる全員が今回の聖女連続誘拐事件に対する協力者かとルドーに確認してきたので、肯定の頷きで返した。

 ルドーの頷きを見たイエディは早速話し出す。


「私の実家はルッツ伯爵家、ソラウの貴族。だから、エレイーネーより、ソラウ国の情報は入る」


「関係よくないって言ってたけど大丈夫か?」


「さっきも言った、今はそれどころじゃない。話の腰、折らないで」


「わ、悪い……」


 いつもひっそりとメロンの後ろに佇んでいるイエディの、見た目こそ変わらないが、纏う雰囲気がガラリと変わっていた。

 きっとメロンの為に、出来る限りのことをしようと決意したためだろう。

 そんな強気の雰囲気を纏ったイエディが、実家から聞いたという詳細を話し出す。


「女神教で扱っていた、女性保護施設。ここを二年前、秘密裏に買い取った、ソラウの貴族がいる。表向きは、女神教の女性保護施設のまま、その実態は、娼館に様変わりさせて」


「そこが怪しいって?」


「女性保護施設、家庭内暴力や、家に居場所がない、そういった女性が、逃げ込む保護施設だったから、探知不可や、遠視不可、他にも色々、保護した女性を探せない様に、多数の阻害魔法がかかってる。そこに昨日から、裏から集団で、人を運び込んでいる確認が取れた」


 イエディが実家であるルッツ伯爵家に昨日連絡を取って、ソラウ国内で聖女について最近情報収集をしている貴族家を調べた所、敵対派閥のジョーンワート家が、何やら怪しい動きをしていることが分かったそうだ。

 最初こそイエディの申し出にそっけない反応を示していたルッツ家は、敵対派閥を攻撃する絶好の機会だと目の色を変えて嬉々として調べ始めたという。

 そうして人を派遣して秘密裏に調べてみたら、明らかに裏稼業をしている様な集団が、何やら人を運び込むように偽装した荷物を複数運び込んでいると分かったそうだ。


「外面が保護施設のまま、中身は娼館か。随分な事をする」


「娼館ってなんだ?」


『んー、簡単に言えば女性を性的に商売するとこだな、裏なら暴行もありえる』


「そんなとこにリリが運び込まれてる可能性があるって!? ふざけんじゃねぇよ!」


 エリンジが不快気に端的な感想を述べて、ルドーは聖剣(レギア)の説明を聞いてリリアが酷い目に遭っている可能性が出てきてダンと左手を机に叩き付けた。

 机周辺が拳で揺れ、叩いた拳から若干血が滲んだが、ルドーは痛みも感じない程怒気を放っていた為、ネルテがぺチンと頭を軽く叩く。


「落ち着きなルドー。娼館の客から情報がバレたら首が締まるのはあっちだ、そういう扱いはさせないはずだ」


「昨日誘拐したばっかりだしねぇ、しかしその運び込んだ集団が今回の誘拐犯と合致すればいい証拠になるな、現場抑えてみるかい?」


『とっとと突入して暴れようぜ』


「あぁもうまだ集団の確認できてないから突入する証拠がないって言ってるだろう! 血の気が多いんだよチュニ王国一同!」


「先生! ちょっとお話いいですか!」


「メロン?」


 ガラリとまた職員室の扉が開いて、薄オレンジの髪を大きく靡かせながら両手をブンブン振ってメロンが入ってきた。

 かなり泣いた後なのか、そのピンクの目の周辺が赤く腫れ上がり、まだ涙の跡も残っていて悲壮さがあるが、ネルテ先生に向けるその表情はとても強く明るかった。


「メロン、悪いけどいま緊急の話し合いの最中で……」


「リリアちゃんが今どこにいるか! 多分わかります!!!」


 ネルテ先生がメロンを職員室から追い出そうと近寄った瞬間、両手を広げたまま大声で叫ばれた内容に一同は驚きの声を上げる。

 その言葉にルドーはメロンに駆け寄って両肩に掴み掛りながら叫んだ。


「リリがどこにいるかわかるって!?」


「うん! 遺跡の時と一緒! 泣いてばっかいないで何かできないかって一生懸命がんばったら、リリアちゃんの魔力の残滓、なんとなく追えるようになった!」


 メロンの言葉に大声で叫び返したルドーに向かって、きっと近くに行ったらもっと分かると同じ声量で叫んだメロン。

 妨害魔法でも使われているのか、リリア本人の居場所はエレイーネーの探知魔法でも引っかからなかった。

 だがメロンが扱うのは魔力の残滓を追う方法、言うなれば魔力の足跡をたどるやり方だ。

 本人の居場所を分からない様に阻害しても、移動した場所があればそこに残滓が残る。

 かなり高度なものになるが、遺跡で聖剣(レギア)を追跡して要領を得ていたからこそ、責任感から必死になったメロンはリリアの残滓を追えるようになったのだ。

 一同は混乱しつつも希望的な表情を向ける。


「誘拐された本人の居場所が分かるなら、証拠がなくても捜索目的でそこに行くことが出来る!」


「正攻法で堂々と乗り込めるね、これは楽しくなってきた」


「状況楽しんでんじゃねぇよこのぶっ飛ばし魔導士長! メロン、間違いないんだよな!?」


「うん! ここからだと大体あっち方面!」


「ソラウ王国方面、間違いなさそうだね」


 メロンが指差した方向をネルテ先生が確認する。

 どうやら推測は当たっていたらしい。


「メロン……」


「私一人じゃ頭悪くてまた良くない事思いついちゃう、傍にいてイエディ」


 心配そうにメロンに駆け寄ったイエディに、メロンが真直ぐ向き合って伝えれば、イエディはゆっくりと頷いてその両手を優しくそっと包むように両手で握りしめた。

 リリアの居場所が分かるというメロンと一緒にイエディも付いてくるようだ。

 自力で立ち直ったメロンと寄り添うイエディを見ながら、ルドーは振り返って大声で叫んだ。


「おっしゃ乗り込むぞ! エリンジ、カイム、頼んだぞ!」


『ようやく暴れられるぜ』


「任された」


「受けた恩は返すぞ、やってやらぁ」


 ルドーの叫びにエリンジとカイムは力強く頷いて返してきた。

 リリア救出にようやく動くことが出来るようになった一同は、リリアの現在地が分かるメロンも連れて、逸る足取りで一同転移門を起動させてソラウ王国に向かった。


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