第百話 ベクチニセンスの古城
次々と現れる組織立った相手は、皆同じような濃紫のスーツを纏って、それぞれがメイスを手にしてそれに魔力を纏わせ、魔法攻撃を放ったりそのまま魔力を纏わせて殴り掛かってきていた。
ハルバードを手にしたムーワ団がその集団相手に次々と相手取り、塔への入り口から階段を見つけて登るようにどんどん奥へと突き進んでいた。
『向こうの方が魔力が多いのによくやるもんだ』
「なんだと?」
『魔力を魔道具に溜め込んでるようだな、それで互角以上に戦えてる』
聖剣の分析にエリンジが驚愕の声を上げている。
下層を救う義賊の空賊ムーワ団は、下層民に知られたその活動内容から団員は下層民、つまり被差別される魔力の少ない人員で構成されているようだ。
魔力の少ない者の戦い方を熟知しているのか、魔道具のハルバードや飛行魔道具に少ない魔力を溜め込んで、必要な時にいつも以上の力を発揮できるようにしていると聖剣はその様子から説明する。
「チッ、くそが邪魔だぁ!」
互角以上に戦えているものの、相手の人数の方が多いようで少しずつ足止めをくらうように先に進めなくなってきた頃、痺れを切らしたカイムが髪を大量に伸ばして、濃紫の連中をぐるぐる巻きにしてそのまま階段手摺に吊り下げた。
武器のメイスごとぐるぐる巻きにされた彼らはそこから脱出しようともがいているが、武器に魔力を込めれば近すぎて自爆するようで、一人脱出しようと魔力を無暗に放ったせいでボカンと爆発して動かなくなったのを見て、魔力ではなく自力脱出しようともがき続けている。
「おい先を急ぐな待てって!」
起動したカプセルに同胞が捕まっていると分かったカイムが相手を一通り吊り下げた後、髪を切り落して先を走るラモジに続くように走り始めたため、イシュトワール先輩が大声で呼びかけながら追いかけ始める。
「……けが人出ちまったか」
「ほっときな、こいつらはベクチニセンスの部下どもだ、一般人じゃないよ」
一瞬戸惑うように爆発したやつを見ていたルドーの発言に階段上からバナスコスが立ち止まって吐き捨てる様に言った後、その横を通り過ぎたカイムとイシュトワール先輩が目に入って、ルドー達もラモジとバナスコスに続くムーワ団の後を慌てて追いかける。
円形の塔を螺旋状に続く階段を皆で走り登る。
ラモジとバナスコスの話から、カプセルはおおよそ古代魔道具の近くにあるはず、そして王族を証明するために古代魔道具を使うなら、ラモジとバナスコスが目標としている偽物の王族も近くにいるはず、つまり目的地は同じという訳だ。
「これだけの人数ならあんたらならなんとかなったんじゃないのか!?」
「部下たちだけならなんとかなるけどね! 問題は一番上にいるベクチニセンスの方さ」
先を走るラモジとカイムを追いかけながら叫んだイシュトワール先輩の叫びに、すぐ後ろにいたバナスコスが返す。
これだけ人数のいるムーワ団でも厳しい、内戦決起を企むあたりかなり厄介な相手らしい。
全員で階段を走り上がっていると前方からカプセルが起動した青白い光が階下を照らしているのが見えてきた。
同様にカプセルの中の魔人族の悲鳴と、凄まじい魔力の轟音も階段を上がるほどにどんどん近付いて来る。
先を走るカイムがその悲鳴にどんどん速くなっていった。
「さっきの事忘れんじゃねぇ! 先行するな! 止まれ!」
「余り前に出るな危険だからな!」
戦闘を走るラモジがイシュトワール先輩の叫びに物凄い速度で迫ってきたカイムに気付いて押し留める様に後ろに手を振った。
カイムも後ろから叫ばれたイシュトワール先輩の言葉にハッとしたように一瞬速度が遅くなる。
その瞬間カイムがそのまま突っ走っていたら直撃するような位置に巨大なレーザー砲が扉ごと突き破って飛んできた。
古代魔道具の攻撃なら防御魔法を貫通する、防ぎきれない。危なかった。
冷汗をかきながらルドーは先を急ぐように更に駆け上がった。
古代魔道具の攻撃なら聖剣でなければ防げない、この狭い塔の階段では逃げ場所もなく狙い撃ちされる。
「髪使って階段避けろ! 古代魔道具があるなら近くにカプセルもあるはずだ!」
イシュトワール先輩が攻撃に呆然としていたカイムに叫んだ。
先輩の叫びにカイムは素早く顔を向けた後、冷静さを保つように首を振って髪で周囲の壁を掴むように伸ばして階段を避ける様に飛び上がり始める。
「ジャスティイイイイイイス!」
カイムが階段を避ける中、攻撃に貫かれて穴が開いた天辺のドアに辿り着いたラモジが叫びながら体当たりで突撃した。
続くようにカイムとイシュトワール先輩、そこからバナスコスとルドーとエリンジ、アルスとムーワ団が続々と中に入っていく。
「ラモー! バナー!」
「テナン! あとちょっと踏ん張れ! 必ず助ける!」
「このロリコン野郎! うちのテナンに手ぇ出したらタダじゃ置かないよ!」
部屋に入ったと同時に叫ばれたラモジとバナスコスの言葉にルドー達は驚いて二人の視線を辿る。
それぞれが拳を握りしめてギリギリと歯軋りしている様子の二人の視線の先には、言葉も覚束ない様な、ライアたちよりも小さな少女が男に抑えられるように抱えられていた。
四十代くらいの大柄な、貴族の風貌の茶色いスーツを着た男が部屋の中心に立っている。
七三分けにされたふさふさの濃い茶髪に冷たそうな紫の瞳を宿し、右手にサーベルをもって左腕で小さなバタつく少女を抱えていた。
「お前らの様な出来損ないといるよりこちらにいる方が有意義というものだろう、分かったらさっさとくたばれ」
男がそういうが早くサーベルを振り上げれば、その横にあった大きなものにビシュンと魔力が溜まるのが見えてルドーが咄嗟に二人の前に躍り出た。
「でりゃあ!」
瞬時に飛ばされた魔力のレーザーを叩き切るように聖剣を振るえば、その攻撃は聖剣の黒い刀身に留まるように溜まり、雷を纏いながら別方向に飛んでいった。
どうやら古代魔道具の聖剣なら古代魔道具の攻撃を防ぐことは十分可能なようだ。
『確認もせずに振るうか、ギリギリだったな』
「出来たんだからいいだろ! というかあの小さな女の子なんだよ!?」
「うちの子だよ! あいつが勝手に王族の血だとか言って掻っ攫ってったんだ!」
「孤児院育ちに貴様らとの血縁もないだろう! 魔力も多いなら空賊にいるよりこちらにいる方が世間的に正しい!」
「やー!」
ルドーの叫びに叫び返されたバナスコスの言葉、明らかに両手足をばたつかせて嫌がっている様子の少女から、ベクチニセンスが強要しているのがどう見ても明らかだった。
ラモジとバナスコスの話では確か娶るとか言っていたはず、あんな小さな女の子を。
魔力が高いというだけで、ムーワ団にいた言葉も覚束ない小さな女の子を誘拐して、行方不明のマー国王族に仕立て上げようとしていたという事か。
どう見ても常軌を逸しているのはベクチニセンスの方だ。
ようやくムーワ団の事情を理解したルドー達は先程まで抱いていた警戒心が一気に無くなった。
ルドーは改めて部屋を見渡す。
塔の上層は大きな造りになっており、突撃してきたムーワ団とルドー達全員が入ってもまだ空間があるくらいには広い。
部屋の中央に立っている男がおおよそ決起を計画したベクチニセンスだろう。
ベクチニセンスの横には、台座に置かれた四角い鉄の箱のようなものが置かれていた。
その人の頭くらいしかない四角い鉄の箱はどこを狙っているのかすら分からず、その中心には大きく血のように真っ赤な水晶のようなものがはめ込まれていて、まるで心臓の周囲に巡る血管のように大量の赤い管がその周囲に張り巡らされていた。
鉄の箱にへばりついた管の先を辿れば、ベクチニセンスの背後の方でカプセルが起動状態になっており、青白い光を部屋中に放ちながら甲高い悲鳴が部屋いっぱいに鳴り響いている。
ベクチニセンスはラモジとバナスコスに必死に手を伸ばしてバタつく青い髪の小さな少女を抱えたまま、サーベルを振るってこちらを睨み付けていた。
「その事情もっと早く言えばちゃんと協力したって!」
「時間も余裕もなかったんだよこっちは! いいからさっさとカプセル何とかしな!」
「何とかしようにも起動してるとこに下手入れると魔力逆流すんだよ!」
「だからそれはそっちで何とかしな!」
「空賊ムーワ団、正義突撃いいいいいいいい!」
叫ぶが早く、ラモジとバナスコス、そしてムーワ団が一斉にベクチニセンスに構えて走り始めた。
一人相手にそこまでの人数でとルドーが訝しく思った瞬間――――
――――ベクチニセンスが一気に三十人に増えた。
『分身魔法、しかも実体ありの奴か! なるほど人手がいるわけだ!』
「大した魔力もないくせに私に勝てると思うな!」
分身したベクチニセンスとムーワ団が一斉に戦い始める中、カイムが一人カプセルに向かって大急ぎで駆け寄る。
それを見た一人のベクチニセンスがサーベルを振り下ろせば、鉄の箱の赤い水晶がまた怪しく光を溜め始めた。
「アルス! エリンジ! カイム援護してくれ! 先輩! サポート頼んます!」
「いい判断だ! 遅れんなよ!」
ルドーの叫びにアルスとエリンジがカイムを追う中、イシュトワール先輩が両手を鉤爪の様に変化させ、更に分身してルドーに迫ってくるベクチニセンスを一振りで複数薙ぎ払った。
鉄の箱から伸びる魔力が一気に集まり、発せられたレーザー砲にルドーはまたしても聖剣を振るい、カイムやカプセルに攻撃が届かない様に防ぎながら、ベクチニセンスの分身を少しでも減らそうとそちらに攻撃を逸らす。
カプセルの魔力で無理矢理動かしている影響か、ベクチニセンスにも攻撃は通るようで、砲撃をくらった分身が次々魔力に戻って溶けていく。
「クッソが、どう止めりゃいい……」
「下手に触ると魔力が逆流するぞ」
「うわこっちにも来ないで!」
カイム達が青白く光り輝くカプセルの前に辿り着いたところで、ベクチニセンスの分身が迫ってきてアルスが咄嗟に氷魔法を周囲に張り巡らせる。
檻のような形に展開して両手で支える様にベクチニセンスの接近を防ぐ中、カイムとエリンジが悲鳴の上がるカプセルを何とかしようとするが、止め方が分からずただただ狼狽えている。
「ライアの時はどうやったってんだよ!?」
「あれやったの俺じゃねぇし気絶してたから知らねぇんだよ!」
カイムがカプセルの解除方法を知ろうと大声をあげるが、やり方が分からないルドーは叫び返す。
あの時ライアをカプセルから助け出したのはゲリックだ。
どうやってカプセルを解除したのかきちんと聞いておけばよかったとルドーは後悔する。
「鉄線の時はクロノが逆流魔力をすべて請け負っていた、しかしあいつもいない上一つでは……」
「はぁ!? なんだよそれ! 聞いてねぇぞあいつくそが……!」
エリンジの言葉にカイムは悲鳴を上げ続ける青白く光るカプセルに髪を伸ばして確認するかのように触れ、周囲の管を確認するように首を回して見まわす。
「逆流、請け負い、一人分なら……チッ、同胞の為だ、おい手ぇ貸せ!」
「どうする」
「俺が逆流する魔力を受けらぁ、その間にカプセルから同胞引き出せ!」
「なっ、無茶を言うな! 只ではすまんぞ!」
「焦って突っ走ってこんな目になってんだ! 多少無茶しねーと示しつかねぇだろが!」
『止めろ! いくら頑丈でも回復もかけながらカプセルで強引に引き出してるあの量は厳しいどころじゃねぇ!』
「おい馬鹿カイム! やめろってそんなこと!」
「反省しろとは言ったがそういう意味じゃねぇぞ!」
「下手したら死んじゃうって、それはダメだって!」
「うるせぇすっこんでろ!」
止めようとするルドー達の叫ぶ言葉も振り払うかのように、カイムは叫んで床を伝う赤い管を追う。
ベクチニセンスの分身に阻まれて、ルドー達がカイムの方に近寄る前に、カイムは古代魔道具の鉄の箱と繋がっている血管の様な赤い管を髪で全て巻き付けて遮断した。
途端に古代魔道具に注がれていたカプセルの魔力が逆流したのか、カイムに向かって青白い魔力が走って全身を覆い尽くす。
最初の一撃にカイムは大声をあげたが、その後なんとか歯を食いしばって踏ん張り始め、あちこちから血を噴き出しながら逆流する青白い魔力に耐えようと必死に唸り始めた。
「早く……しろ……くそがぁ!!!」
「っ……死ぬんじゃないぞ!」
管が遮断された影響か、カプセルの起動が止まったようで、エリンジが何とかカプセルから魔人族を助け出そうと開き始める。
その様子を見たベクチニセンスの分身たちが次々とカイムの方に押し寄せ始め、ルドーとイシュトワール先輩の二人でなんとか食い止めようと奮闘する。
ベクチニセンスの一人がまたサーベルを振るい、魔力が逆流しつつもまだ動けるだけの容量が残っていたのか、鉄の箱が震えて動いてカイムを狙おうと空中で魔力が動き始めたので、ルドーは咄嗟に聖剣を空中に放ってカイムの前方にぶん投げた。
レーザー砲がカイムに発射されるのとほぼ同時に雷転斬を何とか発動させて間一髪間に合ったが、焦りのせいで叩き切る速度が速すぎて裁き切れなかったレーザー砲がルドーに直撃して大声を上げながら吹き飛ばされた。
『ルドー! おい、しっかりしろ!』
「いっづ……」
衝撃のまま床を転がりながらルドーは被弾した右手を押さえる。
レーザー砲が直撃して二の腕から下が煙を上げて真っ黒に焼け焦げていた。
痛みに蹲って動けないルドーにベクチニセンスの分身が迫る中、イシュトワール先輩が走り寄って分身を何とか複数吹き飛ばすが、魔力に変わって霧散するその後ろで分身は更に数を増していく。
分身の数が多くてイシュトワール先輩がルドーの回復に近寄りたくしているのに近寄れない。
ラモジとバナスコスを筆頭にムーワ団も何とか戦っているが、倒しても倒しても向かってくるベクチニセンスの分身に押され始めていた。
少女を抱えたベクチニセンス本体は分身が多すぎてどこにいるのかわからない。
「……取り出した! カイムもういい! やめろ!」
「くそ……が……」
カプセルの扉を開いてそこから頭に羽の生えた魔人族の女性を助け出したエリンジが叫べば、カイムはようやく管を遮断していた髪を解いて、逆流した魔力に焼け焦げて煙を上げながら血まみれの状態で意識を失ったのかその場に倒れる。
カプセルの起動が止まったせいか、古代魔道具の鉄の箱は起動音が消えていくように音がどんどん小さくなってそのまま光が消えて動かなくなった。
ルドーの持つ回復薬はムーワ団に使われ、エリンジとカイムの持っていた回復薬もクバヘクソの住民に叩き割られていた。
今カイムを回復できるのはアルスとイシュトワール先輩しかいない。
しかし二人ともベクチニセンスの分身を押さえるのに必死で動けそうにない、魔力の逆流をもろに浴びた怪我では、このままだとカイムが危険だ。
「やってくれたな! 代わりにそこの倒れた小僧を入れてやる!」
「させるかぁ!!!」
ベクチニセンスのカイムを狙う叫びに、怒りが勝ったルドーが咄嗟に黒焦げの右腕を庇いながら左手を振るって聖剣を動かし、瞬時に雷閃を大量に叩き込んでカプセルをぶち壊した。
大きく爆発して粉々になったカプセルならもう古代魔道具を動かすことは出来ない。
後はラモジとバナスコスが助けようとしている少女だけだ。
「下層の住民どもが! 黙って我々に支配されておけばいいものを!」
「自分が上層でも上に行けずに支配できないからって変な事考えてんじゃないよ!」
「空賊ムーワ団をなめるなぁ! 一斉展開!」
ラモジの号令と共にムーワ団が手に持っていた飛行魔道具がまた一斉に巨大化した。
エンジンのような部分をベクチニセンスの分身たちの方に向けたと思ったら、そのまま豪速で空を飛ぶための強力な魔力の炎を分身にぶつけ始める。
次々と分身が魔力に戻って霧散していく中、ようやく分身たちの中心にいた本体と少女がちらりと顔をのぞかせる。
「アルス! あいつの動きを止めろ!」
「こっちも精一杯なのに相変わらず無茶苦茶言うなぁ!」
エリンジが魔人族の女性を背負いながらカイムの様子を確認するように傍にしゃがんだままアルスに叫べば、苦笑いをしているアルスがベクチニセンスの分身を抑えている氷の檻を片手で維持しながら、分身たちの中心にいた本体に素早く手を向ける。
ガキンと大きな音と共に周囲の温度が下がったかと思えば、分身の中心にいた本体とその周辺の足から下が氷漬けにされ、突然の凍傷にベクチニセンス本体が悲鳴をあげた。
防御魔法を張っていても瞬時に凍り付く氷点下の温度までは防げないようだ。
突然の氷魔法で動きを阻害されたベクチニセンスの分身が更に次々と魔力に戻って霧散しどんどん本体周辺の空間を広げていく。
「ジャスティイイイイイイス!!!」
ベクチニセンスの動きの止まった隙をついて、ラモジがハルバードを両手に構えながら真直ぐ本体へと突っ込んだ。
勢いよく振り回されたハルバードの柄が、ベクチニセンスがテナンを抱えていた腕にクリーンヒットしてボキンと嫌な音と怒号が響く。
腕の骨が折れて抱えることが出来なくなったテナンをラモジが瞬時に掴み取り、ベクチニセンスが奪われまいと抵抗するもテナンが激しく暴れたために折れた腕を蹴りつけて痛みに大声をあげて手を離れ、テナンはそのままラモジにしがみ付く。
「魔力にかまけて基礎鍛錬怠ってるから肝心な時に防御出来ねぇんだよ!」
嘲笑うようにイシュトワール先輩が叫べば、腕を押さえたベクチニセンスが憎悪の顔を向けるが、氷魔法で阻まれてまともに動けないせいで憤怒の顔を向けて低い唸り声をあげるだけだ。
「目標確保! 一斉離脱するぞ!」
カプセルを破壊して魔人族を救出し、王族を騙らせようとしていた相手を奪取した。
ここにこれ以上留まる理由はないと、ムーワ団は室内のまま次々と飛行魔道具に跨り、ラモジがテナンを抱えたまま飛行魔道具に乗って部屋の壁に向かって激突すれば、古いレンガ壁をバラバラにぶち破って外に脱出する。
ラモジに続いてムーワ団が続々とその穴から脱出していく中、倒れたままのルドーは唐突に背中を掴まれて恐ろしい速さで穴から外に出たと思ったら飛行魔道具の座席にドスンと置かれる。
「ごくろーさんいい子ちゃん。悪人も悪かないだろ?」
後ろからも同じように背中を掴まれたのか、魔人族を背負ったままのエリンジと、苦笑いしているアルス、気絶したカイムを抱えたイシュトワール先輩も飛行魔道具の後ろにそれぞれ乗せられていた。
そのまま重力が襲い掛かったと思ったら、エンジン部分に魔力が渦巻いて青い魔力の炎を噴き出し、来た時と同じように物凄い速さでルドー達はムーワ団と共にベクチニセンスの城を後にした。




