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第九十八話 焦燥の代償

 真暗な空間に僅かな水が滴る音がした。

 頭にぴちゃんと水が当たってルドーは目を覚ます。


「いってぇ……」


 どのくらいの高さを落下したのだろうか、全身打撲をしたような痛みの中ルドーがうつ伏せに倒れていたところを起き上がろうとしたら、首元にひやりと金属が当たる感触に動きがとまる。


「動くなよ、一緒に落ちてきたお仲間さんがただじゃ済まない」


 背後の頭上から男の声が聞こえ、痛みも忘れて身体を強張らせながらルドーが正面を向けば、薄暗い通路に照らされる魔道具のカンテラの灯りの中、アルスとイシュトワール先輩も既に集団に押さえられていた。

 二人とも降伏するように抵抗なく両手を上げた状態で蹲っている。

 どうやらルドーが気絶している間に自身が人質に取られていたらしい。


 二人を押さえている集団に改めて視線を向ける。

 フルフェイスのヘルメットのようなものを被っているせいで誰一人顔が見えない。茶色のレザージャケットに全身を包み、その上から黒い防弾ジャケットのようなものに身を包み、まるで制服のように同じ服を着ているせいで見分けがつかない。

 刃渡りの大きなハルバードを一人一人が装備して、アルスとイシュトワール先輩の首に後ろからそれぞれ当てて動きを封じている。

 ルドーの首元に当たっている冷たい金属の感覚からも同じようにされている事だろうと予測できた。


「もう一度聞く、何が目的でここに入った」


「だから入って来たのは事故だって!」


 この場のリーダー格だろうか、ヘルメットで顔が見えない、声からして男らしい相手から発せられた質問にアルスが叫ぶように答えたが、信じられないというように首元のハルバードが動いて黙らせている。


 ルドーも二人と同じようにゆっくりと両手を上げながら顔を動かさずに周囲を視線だけで探る。

 かなり薄暗く、水音と鼻につく臭いがすることから、見えにくいがどこか地下の下水道か何かの通路らしい。パラパラと土が落ちる音と光が届かない程の灯りの無さから、例の襲撃犯に地面ごとぶち抜かれてそのままかなり深いここまで落ちてきたようだった。


「街の住人じゃない、それにこれはエレイーネーの制服だな」


 男の声にルドーははっとする。

 どうやら気絶している間に荷物を調べられたようだ、やたら軽い背中と腕の感覚に聖剣(レギア)の声がしないと思ったら、既に腕輪と一緒に押収されていた。

 ルドー以外が持つと雷魔法が発動する聖剣(レギア)は、既に誰か一人犠牲になったのか近くに焼け焦げたやつが一人居たものの、要は人が触らなければいいとでもいうように浮かぶ箱型の魔道具の中に腕輪ごと納められてしまっている。

 押収した物品に混じって魔道具の中に押し込まれている聖剣(レギア)をルドーが横目で確認していると、男が分かりやすい青い制服を掲げてこちらに問いかけていた。


「エレイーネーが何の用だ、シマスは要請を出していないはずだぞ」


「要請で来たわけじゃない! 友達を探しに来ただけなんだって!」


「おい!」


 男の質問にアルスが叫ぶように答え、情報を渡したことに難色を示すようにイシュトワール先輩が声を上げるが、喉元に刃物を突き付けられて黙らされていた。


「友達だ?」


「二人とも危ないんだ! シマスの状況を知らないから、住民に攻撃されてると思って慌てて連れ戻しに来ただけなんだ!」


 男はアルスの前に歩み寄ってきて続きを促すように上から聞き返せば、アルスは男に視線を上げて真直ぐ見つめながら叫んだ。

 アルスが叫んだあとお互い睨み合うかのように沈黙が続いたが、男が顔をアルスに向けたまま横にいる部下らしい後ろにいた同じ服を着た隊員たちのような数人に顎を振ると、確認作業でもするように魔道具で通信魔法をし始める。

 部下たちが通信魔法をしている間にも、男はアルスに向かって更に話し始める。


「随分素直にしゃべるじゃないか」


「僕もシマス出身だ、だから情報はある程度分かる。ムーワ団の一味だろ?」


「……なるほどな」


 アルスの発言に、ルドーは先程クバヘクソの街道を歩いていた時一瞬だけ聞いた単語が出てきたことに気付く。

 ムーワの連中、確か襲撃犯を噂していた住民から発せられた言葉だったような気がした。

 アルスが男に真直ぐ視線を投げ続ける中、通信魔法を行っていた部下が男に近寄って耳打ちする。確認するように小さく聞き返した後、男は部下と一緒に顔を見合わせて小さく頷いた。


「姐さんがあんたたちを確認したいんだとよ、大人しくついて来るんだな」


 武器を向けられたため顔を動かせなかったルドー達だが、三人は疑問に思うように視線を見合わせる。

 拒否も抵抗も出来ないまま、そのまま立ち上がらされてそれぞれが囲まれる様にしながら連行される。

 光がほとんどない下水道の通路のようなところを、水音と複数の響く足音を立てながら会話もなく静かに進んでいく。

 聖剣(レギア)に制服にノースターから貰った回復魔法薬も奪われたまま、水道が合流するために直角に曲がっている通路を何度か曲がったり別の通路に橋渡ししたりしながら歩いて行くと、しばらくして重厚な大きな鉄扉に辿り着く。

 男たちがまるで鍵のように専用魔道具を使ってそれを開き、中に入れば二重扉になっているのか更に同じような扉が続いていて、別の専用魔道具で男達が次の扉を開けていくのを止まったまま三人見つめる。


 開かれた扉に入るように促されて男達に続けば、とんでもない光景が目に飛び込んできてルドーは思わず大声で叫んだ。


「エリンジ! カイム!」


 満身創痍のボロボロの状態の二人が、治療を受けているのか荷箱に座っているのを目にしてルドーは思わず駆け寄ろうとしたが、勝手に動くなといわんばかりにハルバードを首元に出されて押し留められた。

 エリンジとカイムはあげられた大声に反応するようにこちらを向いて驚くように目を見開いた後、バツが悪そうにそれぞれ顔を背ける。

 かなりの暴力を振るわれたのか、二人とも全身が青痣まみれの血まみれだった。

 グルグル巻かれた包帯と大きな絆創膏をあちこちに貼られてそれでも覆いきれない傷跡、見ているだけで目を背けたくなるような悲惨さだった。


「……誰にやられたんだよ、エリンジ」


「……」


「エリンジ!」


「……クバヘクソの住民だ」


「……多少魔力があっても住民相手で抵抗出来なかったのかよ、くそっ……」


 大声で呼びかけたルドーに、エリンジは一瞬だけ顔を向けて答えたが、また気まずそうに顔を逸らした。

 イシュトワール先輩やアルスが予想したように、魔力が少ないことが住民にバレてエリンジは暴行を受けた。

 魔力伝達で魔法が多少使えても、一般人である住民相手には安易に攻撃魔法は使えない、襲撃犯を探していたなら尚更無駄に魔法は使えないだろう。


 だからこそ抵抗出来ずにエリンジはここまで酷く暴行を受けてしまった。


 顔を逸らしたエリンジの傷を直視できずにルドーが視線を逸らせば、その視線の先にいたカイムには大きな手錠と首輪のようなものまでつけられている事に気付く。

 ルドーも見覚えのあるそれは、アシュや鉄線施設のカプセルで目撃した、魔封じの腕輪と首輪だった。

 あまりのことにルドーの口から胸が潰れる様な声が出る。


「なんで……魔力が少なくて抵抗出来ないエリンジだけならまだしも、カイム、なんだよそれ」


「……」


「黙ってねぇで答えろよ! それにあれだけ頑丈なお前がなんでそこまで怪我してんだ!」


「……持ってたやつに付けられただけだ、魔力封じられりゃ身体も脆くならぁ」


 顔を背けたまま絞り出したカイムの言葉にルドーは絶句する。

 カイムの肉体の頑丈さは魔人族の高い魔力が由来で、魔封じを付けられると一気に身体の頑丈さも下がって攻撃が通りやすくなるということだろう。

 まさかそれがわかっている元魔道具製造施設の関係者に付けられたのか、暴力を振るわれるためだけに。


 変わり果てた姿になったエリンジとカイムにルドーは愕然とする。

 アルスの息をのむ音も、イシュトワール先輩が同じように愕然としたことにもルドーは気付かなかった。


「情報がないからって……何のために止めてたと思ってんだよ! 馬鹿野郎!」


 男にハルバードで押し留められながらも、ルドーは思わず責める様に二人に大声をあげてしまった。

 バツの悪そうに顔を背けたままの二人はルドーの大声にさらに下を向く。


「へーん、お友達探しに来たっつーのは本当だったわけか。感動の再会ねぇ、まぁ止められなかったんじゃなんにもならないだろに」


 値踏みするようなダミ声が聞こえてそちらを向くと、男達と同じようなレザージャケットに黒い防弾ジャケットを着た、しかしヘルメットを外している女性が荷箱の上で胡坐をかいてこちらを観察するように見ている事に気付く。

 健康的な小麦肌に少し外にはねた灰緑のショートボブ、怪しく光る蜜柑色の垂れ目が興味深そうにこちらを凝視していた。


「ったくよ、今このクバヘクソは情報操作されてて街の連中の危険度が段違いだっつーのに、なんも知らずにノコノコ良く来たもんだ。恐ろしくブチギレてた住民からうちらが見つけて掻っ攫わなきゃ、もっと痛めつけられてまともに歩けないくらいの後遺症が残ったか、下手したら変な所に売っぱらわれてたかもしれねってのに」


 指をくるくる回して何でもない様に語られたその内容にルドーはぞっとした。

 想像以上に酷い目に遭っていた二人を、どうやらこのムーワという連中が見つけて暴力を振るう住民から助け出したらしい。

 ボロボロ状態になりながらも、最悪の事態にならなかったことに、二人が見つかったことに安堵したルドーは大きく息を吐いた。


「二人を助けてくれて、ありがとうございます」


「あん? 何勘違いしてんだか、誰が助けたっつった?」


 ルドーが感謝を述べて頭を下げようとしたが、その瞬間女性の声と共に指を差されて一斉にハルバードを全員が向けられる。

 丸腰状態に武器を向けられ、ルドー達は想定外の危機的状況に目を見開いてそれぞれ警戒するように身体を固くした。


「こっちはそちらさんと違って慈善事業じゃないんだ。目的があって手を出したに決まってんじゃん。安心しな、言う通りにしてりゃ解放してやるよ」


 へっと笑って指をぐるりと回したあと、礼を言おうとしたルドーを指差して怪しくニヤリと笑う女性。

 聖剣(レギア)を奪われ、怪我をしたエリンジとカイムを押さえられている以上、逆らう事は出来ない。

 そのまま女性ついて来なと言われて、有無を言わさず全員が囲まれて連行される。

 エリンジとカイムが怪我の痛みに顔を強張らせながら歩かされていた。

 二人に声を掛けたいが、この場のそれぞれがハルバードを向けられているため安易に声を出せない。


 そのままぞろぞろコツコツと、足音だけが水路の石造りの廊下を木霊していた。

 しばらくしてまた重厚な鉄の扉が現れ、女性が左手中指に付けている青い指輪を扉に掲げれば、指輪と扉が認証するように同じ色に光ってガコンと開く。


 扉から進んだ先の中はまるで戦闘グループの基地だった。

 今まで通ってきた水路の通路とは違ってかなり広い空間のあちこちに木箱が詰まれ、色々な書類や写真が壁や机にあちこち置かれたり貼られたりしており、ビカビカ光るランタンの魔道具が部屋を照らすように一定間隔で天井に取り付けられている。

 ここまで連れてきた連中と同じ服装をした人間がかなりの数集まる中、入ってきた女性とルドー達の方に注目するように一斉にこちらに顔を向けた。


「ラモジー、打開策連れてきたぜ」


「バナスコス、急に出てったと思ったら……ってなんだその人数!?」


 部屋に入ったと思ったら女性に後ろ手に親指で指され、何の話か分からずルドー達は全員困惑する。

 女性がラモジと呼んで声を掛けた二十代後半くらいの男性は、油色の髪を短く縛り、海老色の瞳で女性とルドー達を何度も交互に見比べていた。

 動きやすい袖なしの胸にヒラヒラが付いた青いシャツを着て、色々な魔道具が吊り下げられたゴツゴツしい革ベルトに持っていた魔道具を戻しながら、ラインの入ったズボンに膝までのゴテゴテしたブーツを踏み鳴らしながら女性の方に歩いて行った。


「全員エレイーネーの連中だってよ、適当に脅して使えばこれで戦力は足りるんじゃね?」


正義(ジャスティス)!!! いや脅すのは良くないな。怪我してるじゃないか、この怪我お前がやったんじゃないだろうなバナスコス」


「知らね、見つけた時にはすでに満身創痍だったからさー」


 ラモジと呼ばれた男性は、バナスコスと呼ばれた女性の説明に一瞬ガッツポーズをした後、エリンジとカイムの怪我をまじまじと見て、確認するようにもう一度バナスコスの方を見やる。

 何の話をされているのか一切分からないルドー達は男達に囲まれつつ、不安な表情を隠せないままお互い顔を見比べていた。

 そのルドー達の不安な表情に、見かねたイシュトワール先輩が警告するように声を上げる。


「俺たちに何させようってんだよ、犯罪に加担するつもりはねぇぞ」


「ヘン、犯罪が怖くてムーワ団がやれるかって」


「我々は正義(ジャスティス)な空賊ムーワ団だ! 犯罪は程々に頼むバナスコス」


 二人の語りからムーワの連中というのはどうやら空賊らしい、空賊を名乗るのに正義(ジャスティス)とは一体どういうことか。

 イシュトワール先輩の非難めいた声に返すバナスコスとラモジ、だが詳しい説明をされないため一体何が起こっているのかルドー達はさっぱりわからない。


「安心しなよ、そこのそいつ魔人族っしょ? なら動く理由はあるってね、ホラコイツ」


 バナスコスがピッと一枚の紙を机から拾い上げると、そのままカイムの方に向かって素早く放り投げる。

 ボロボロになりながらも手錠が付いたままの右手で、痛みに顔を顰めながらなんとか投げられた紙を掴んだカイムがそれを見た瞬間、顔を真っ黒にさせてどす黒い空気を放ち大きく唸り始めた。


「……なんでまだカプセルが残ってやがる」


 カイムが発した言葉にルドー達は囲む男越しにカイムに一斉に振り向いた。

 ハルバードを持った男越しにカイムが受け取った紙を見ればどうやら写真だったようで、そこにはカプセルに入れられた魔人族が魔力を吸い出される様子が撮影されていた。

 写真を凝視したまま唸り始めたカイムからルドー達がバナスコスに視線を移せば、ハッと鼻で笑うようにしながら指を回して説明し始めた。


「エレイーネーが潰したのは製造の方だろ? すでに作られて売られた分はまだ健在ってね。裏ルートで取引されたそれがシマスで厄介ごとになってる。ホラ、エレイーネーの話通りなら魔人族が動く理由には十分じゃん?」


 指をくるくる回した後カイムの方を指して不敵に笑うバナスコス。

 まるで協力することにお互い利益があるだろうというその口調に、写真から顔を上げたカイムがバナスコスのその笑みを携えた顔を睨み付けた。


「同胞を救出しろってか? 何が目的だよ」


「それ放置してたらシマスで内戦が始まっちまうんだよ」


正義(ジャスティス)! それを防がねばならんが戦力が足らん、悪いが協力してもらうぞ平和維持機関!」


 シマスで内戦が始まるという二人の穏やかではない話、ルドーは思わず指示を仰ぐようにイシュトワール先輩の方を見る。

 イシュトワール先輩も驚いたようにラモジとバナスコスを凝視し、ルドー達に一瞬視線を向けた後二人に向き直って険しい顔に変わった。

 その険しい顔を見たバナスコスがイシュトワール先輩に不敵に笑いながら近寄ってその胸に指を突き付ける。


「まだ動くのに理由がいるって? いくらでも脅してやってもいいってもんだよ」


「犯罪には加担しねぇ、それにシマスからはそんな要請も来てねぇ。話せ、内容次第だ」


 イシュトワール先輩が二人に言えば、バナスコスが不敵にニヤリと笑ってラモジの方を向く。

 ラモジはふむと小さく声を上げた後イシュトワール先輩の方に近付いて説明を始めた。


「ここ数ヶ月、シマスではクバヘクソを中心に情報が操作され始めた。そのせいでただでさえ魔力差別が酷かったのが上層と下層に分断されてしまい、そして分断された下層住民を煽るような情報が出回り始めた。三十年前に滅んだユランシエルを復権して差別国家シマスを打破しようとな」


 ラモジの説明した内容に、ルドーは驚愕して混乱した。

 それはイシュトワール先輩も同じだったようで、情報を整理するように慎重に口を開いている。


「……なんだそりゃ、そんな情報エレイーネーには全く来てねぇぞ」


「下層の与太話だとまともに取り合わないシマス上層がエレイーネーに情報流すもんか、でも事態は深刻ってね。行方不明のマー国王族が見つかったって吹聴して、そいつを娶って後ろ盾にして、王族を保護したってユランシエルを復権させる大義名分を作ろうとしてんのさ、アホらしいだろ」


「おいおいおいマジの話かよそれは」


 イシュトワール先輩があまりのことに目を見開いて狼狽えている。

 先輩に任せて黙っていたルドー達も、ラモジとバナスコスに話された内容に動揺してとうとう声を上げ始めた。


「マーって王族行方不明だったのか?」


「三十年前滅んだユランシエルに訪問中だった。以来見つかってない」


「王族が見つかったって話が本当ならとんでもないことだけど、よりにもよってその見つかった王族娶って滅んだユランシエルを復権? しかも打倒シマス? 内乱どころか下手したらシマス国乗っ取りじゃない?」


 ルドーが声を上げれば怪我をしたままのエリンジが無表情に答え、アルスも当事国の為困惑を隠し切れない。

 ルドー達の話を聞いていたカイムが苛立ちを隠し切れずに叫んだ。


「その話になんで同胞とカプセルが絡んでくんだよ!」


「それがマー国王族は何でも特殊な役職持ちのようでな、娶った王族の役職を誤魔化すためにどうやらカプセルの魔力を利用しようとしているようだ」


「はぁ!? んなもんほんとに役職持ってんならそっち使えよ! なんで同胞が巻き込まれてんだよ!」


「要は旗揚げするとき下層を騙せりゃなんでもいいってことだよ。ユランシエル復権の既成事実さえ作っちまえば、例のマー国王族が本当かどうかなんてどうでもいいって話よ」


「つまりそれ役職持ちの本当の王族じゃないってことか、詐欺じゃんそんなの……」


「詐欺だろうが何だろうが、問題はその旗揚げが目前に迫っちまってるってこと」


正義(ジャスティス)! 本日中に決起する話だ、ただでさえシマス国は上層下層と面倒なのに更に三つ巴にされては被害が増えるどころではなく溜まらん!」


「えぇ!? 本日!?」


「時間がないのさうちらは。だからほら、脅されてくれ(協力してくれ)っていってんのさ」


 語られる話の内容に驚愕して狼狽えているルドー達に、バナスコスが不敵な笑みを浮かべてまた指を向ければ、怪我をしたままのエリンジとカイムに一斉にハルバードを突き付けられた。

 動揺するように話していたルドー達は途端に息をするのも忘れる様に黙り込む。


「怪我した友達人質にされて脅されたから仕方なく加担した。エレイーネーでも情状酌量の余地ありだろ?」


「バナスコス! 怪我人だぞ、やり過ぎては良くない!」


「へいへいラモジ団長、私なりの悪人の正義(ジャスティス)ってやつさ」


正義(ジャスティス)! ならば仕方ないな」


 不敵に笑い続けるバナスコスに、言いくるめられてしまったラモジ。

 脅しは本気だと言わんばかりに、バナスコスがさらに指を向けて、エリンジとカイムの頬に当たったハルバードが軽い切り傷を付けて血が滲みだした。

 切り付けられた二人は驚いたように目を見開き、人質にされたことにその両手を震わせながら握りしめていた。

 それが悔しさからなのか怒りからなのか、ルドーにはわからない。

 しかし人質を取られた以上ルドー達はラモジとバナスコスに逆らう事は出来ず、どうしようもなかった。


「大丈夫さ、二人とも一緒に連れてって、終わったら全員自由にしてやるよ」


「……本当だろうな?」


「信用ならねぇだろ? 契約魔道具使ってやるから、ほら、証拠として持って行きな」


 イシュトワール先輩の返事にそう言ってバナスコスは準備よく魔力がこもった契約書のようなものを取り出して、空賊ムーワ団副団長バナスコスとサインした後、ルドー達三人にサインするように強要してきた。

 空賊ムーワ団に今日一日協力する代わりに人質二人を解放すると書かれたそれを見て、三人とも戸惑うように男に囲まれたまま顔を見合わせていたが、またエリンジとカイムにハルバードが向けられて慌てて声を上げる。


「わかった! わかったから二人にこれ以上怪我させんな!」


「いい子ちゃんだね」


 叫んだルドーの大声に、バナスコスは冷笑しながらゆっくりとルドーに近寄ってその頭をぽんと叩く。

 悪人の薄ら笑いを浮かべるバナスコスが見守る中、ルドーとアルスとイシュトワール先輩が渋々書類にサインすれば、まるで契約魔法のように書類に鎖が巻かれた後、エリンジとカイムにも鎖が巻かれ、三人のサインした手にも鎖が巻き付いてバチンと魔力が弾けて契約書と同じ紋様が浮かんで馴染むように消えた。


「へっへ、これでもう逃げられないねぇ、協力感謝だよ、平和維持機関」


正義(ジャスティス)!!! それではこれより本作戦の説明を始める!」


 解放される様に男達が捌けて、ボロボロのエリンジとカイムがルドー達の方に押し出された。

 怪我の具合に倒れそうになる二人を三人で何とか受け止めた後、逆らうことが出来なくなったルドー達は大人しく従った。


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