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1-08 妹がおにぃの恋愛事情に口を出すのは当たり前のことなんだから!

槙田 修哉は転校生であることを除けば、普通の男子高校生……というわけでもなかった

クラスメイトが若干引くほどのシスコンだったり、妹から暑苦しいと言われるくらいの長袖好きだったり

とはいえ、少なくとも当人としては普通の男子高校生であると認識していた


だが、修哉の転校についての話題も落ち着いてきた頃合い。突然に状況が変わる

なぜか三大美少女と呼ばれる女子たちから、謎のアプローチを受けるようになる

理由を聞けば、各々修哉との馴れ初めを語るのだが――


「……記憶に無え」


はたして修哉が忘れているだけなのか、それとも――


嘘か真か、三大美少女と修哉によるドタバタラブコメが、ここに始ま……らないッ!




「妹がおにぃの恋愛事情に口を出すのは当たり前のことなんだから!」




――ひとつ、訂正をしよう


これは、槙田 美鈴という


妹の、妹による、兄のための


ハチャメチャ恋愛心理戦であるッ!

「いやあ、高二の春に突然転校生が来るなんて言われたらさ。華の男子高校生からしてみると色めき立つ話題なわけよ」


 そう堂々と言い放つのはクラスメイトの横沢。サッカー部の現エースというだけあって、カッチリとしたガタイの良い筋肉質の身体は、体育の授業時間だということもありハッキリと見てとることができる。

 程よく焼けた肌とこざっぱりとした短い髪の毛は彼のその性格を表しているようではあった。


「男子が華かは一旦置いておくが。まあ、気持ちはわかる」


「だろ? 男なら誰しもどんな美少女がやってくるんだ!? とか思うもんじゃん? 亜麻色のふんわりとした髪の毛、やや幼くも整った顔つき、キレイな碧眼。程よく実ったふたつの双丘……」


「漫画の読み過ぎな気はするが。理解だけしておく」


 ちなみに、亜麻色や碧眼がどんな色か知ってるか確認してみたが案の定知らなかった。そういうフレーズに憧れているだけだろう。


「だがよお。やっぱそんな現実って甘くねえよなぁ……」


「悪かったな、俺が男で」


 件の転校生こと。俺、槙田 修哉はぶっきらぼうに答えた。


 髪の毛は横沢ほどではないものの程々に短く髪質も硬い方で色は真っ黒。両親ともに黒色だった虹彩は案の定隔世遺伝などもなくこちらも黒色で。無論、乳房などというものはついていない。


 なお、転校は二年次の始業式と同時だから先週のこと。横沢からこの話は定期的に振られているので、彼としては結構ショックなことだったのだろう。


「しかし、ある意味ちょっと安心ではあるけどな。ほら、ただでさえ俺らの学年って三大美少女って呼ばれてるやつらがいるしさ?」


「ああ、そういえばいるらしいな。俺はまだひとりしか見たことないけど」


 そのひとりとは、同じクラスの女子で。名前は冷泉 桔梗。艷やかで長い黒髪に陶磁のような白い肌。凛とした立ち居振る舞いから、どこぞのお嬢様かと見紛うような容貌の人間で。たしかに彼らが騒ぎ立てることも理解できるくらいに綺麗な人である。

 まだ俺は出会っていないものの、三大美少女と言われるということは、彼女クラスの人物があとふたりいるということである。


 なお、同じクラスではあるものの体育は男女別であり女子は体育館で行っているため、現在彼女の姿は見えない。一部男子はそれを悲しがっていたのを覚えている。


「どこのラノベの話だよって感じだよなー!」


 豪快に笑いながら横沢はそう言い放つ。……どうやら漫画ではなくラノベ派だったらしい。勝手に決めつけてて悪かった。


「そういう意味では、修哉の転校生ってだけじゃ要素が弱いし」


「実際、俺の転校に伴う話題も、もう誰も言わなくなっているくらいだしな」


 事実、転校して数日の頃であれば人だかりができていたものではあるが。今ではこうして横沢とグラウンドの端で休憩……もといサボりをしていても誰も気にしないくらいではある。


「そういえば、修哉は三大美少女に興味とかないのか?」


「興味かあ。無いといえば嘘にはなるが、あんまり気にしてないかな」


「へぇ、そりゃ意外。タイプじゃないとか?」


 いや、少なくとも同じクラスの冷泉については、見た目などの観点でいえば全然タイプではあるし。

 却って遠い世界の人、みたいに感じる側面こそなくはないけれど。タイプじゃない、というわけではない。

 ただ、理由としては、どちらかというと。


「なんでも。妹曰く、兄の恋愛事情に妹が口出しをするのは当然だから、まずは私に話を通せって」


「なるほどな――って待て、今お前なんて言った?」


 俺の言葉に、まるで信じられないとでも言わんばかりの表情で横沢がこちらを見てくる。


「まさか、俺に妹がいることを疑ってるのか……? 少し顔立ちは幼いが、めちゃくちゃにかわいい天使みたいな妹がちゃんと――」


「そっちじゃねーよ! てか、説明が絶妙に細かいな!?」


 バシッ、と。手の甲でツッコミを入れてくる横沢。

 加えて。聞きたいのは恋愛云々の報告の方だ、とも。


 なるほど、そっちか。

 たしかに過保護気味な気もしなくはないが。とはいえ、かけがえのない妹が絶対に教えるようにと言っているのだから。それくらいは兄として応えるべきだろう。と、そう説明したのだが。


 怪訝そうな視線を向けながらに、横沢はこちらの様子を伺ってくる。なんだ、その目は。


「まあ、いいか」


「なんか変な妥協をされた気がするんだが」


「いいのいいの。それよりも、まだ春だってのに体育でも長袖着てるのな、お前」


 横沢はちょうど俺の姿を遠目で見たこともあってか、服装についてを言及してくる。

 たしかに彼の言っているとおり、長袖長ズボンの指定ジャージを着用している。四月中頃とはいえ、厚着といえば厚着だ。


「俺は長袖が好きだからな。紫外線は肌の天敵だし」


「へぇ、なんかよくわかんねえが、かっこいいな!」


「だろ?」


 どうやら横沢は理解を示してくれるようだった。妹なんかは夏場に長袖を着ている俺を見ると暑苦しいって言ってくるんだが。


「とはいえ。体育のとき、いつの間にか教室からいなくなったと思ったら俺たちが更衣室につく頃には着替え終わってるしよ。……もしかして実は女子、とかそういうわけじゃねえよな?」


「んな、ラノベじゃねーんだからそんなわけ無いだろ。ほら、気になるなら胸でも触ってみたらいいじゃないか」


 そう言いながら俺は胸部を横沢の方に向ける。

 横沢はペタペタと胸のあたりを触ると、なにが楽しいのか、そのまま興味深そうに入念に揉む。どこに需要があるんだこの映像。


「たしかに無い。でももしかしたらぺったんこなだけの可能性が。やはり股間を確認――」


「さすがにそっちは同性でも嫌だわ!」


 衣服を捲ろうとしてきた横沢から、慌てて距離を取る。

 横沢は悪い悪い、と。軽く謝りながらゆっくりと近づいてくる。……もう股間を確認しようとしないよな?


「だが、今身体を触った感じ。お前、いい筋肉してるよな?」


「まあ、ある程度鍛えてるしな」


「やはり俺のマッスルレーダーに間違いは無かったか」


「どこぞの筋肉タレントみたいなこと言うなよ」


 爽やかな笑顔で白い歯を見せながら筋肉を見せつけてくる横沢。うん、いい身体なのはわかってるから。


「なあ、修哉。一緒にサッカーやらねえか?」


「せっかくだが、断らせてもらうよ。俺、バイトしなきゃだから」


「バイト……ああ、そういえば親元離れての生活って言ってたっけ」


 どうやら転校してきたときの自己紹介を覚えてくれていたようで。横沢の言葉に、俺はコクリと頷く。


「事情があって、母さんと父親から離れる必要ができちまってな」


「へぇ。しかし、ひとり暮らしって大変なんだなあ」


「まあ、俺の場合はひとり暮らしじゃなくてふたり暮らしだが」


「……うん?」


 横沢が、素っ頓狂な声を出す。


「妹が、ここの一年生なんだよ。だから、ふたりで暮らしてる」


「まさかとは思うが、お前が転校してきた理由って――」


 別に隠すようなことでもないので、俺は正直に答える。


「妹がこっちに来たからだな」


 回答を聞いた横沢は、どこか遠いところを見つめながらに。なにかを諦めたような表情でつぶやいた。


「……妹が妹なら、兄も兄だった」











 同時刻。四階の教室、窓際の席に座ったひとりの少女――美鈴は、ハーフアップにセットした自身の黒髪を軽くいじりながら、授業そっちのけでグラウンドの様子を伺っていた。


(……横沢 大吾。サッカー部の現エース)


 現在、修哉とじゃれ合いながら談笑をしている青年。


(裏表の無い性格からくる取っつきやすさなんかもあり、交流の広い人物)


 少なくとも害があるような性分の人間ではないし、現状の修哉との交流も良好。

 やや距離が近い気もしなくはないけど、同性だし大丈夫だろう。女子でも抱きつき合ったりしている姿を見ることもあるし。


 教壇では数学の教師が、論理がどうとか必要十分がなんとか話しているが、どうでもいい。


 今の美鈴にとって重要なのは、そんなことよりも圧倒的に、兄のほうが大切なのである。


(横沢さんは、大丈夫。……それよりも、現状気にしなければいけないのは、三人)


 冷泉 桔梗。大和撫子然とした、容姿や所作の優雅な人物。

 常磐 穂香。誰にでも分け隔てなく、優しさを見せるギャル。

 筒井 真奈。庇護欲をそそられる、皆のマスコット的存在。


 よりにもよって、揃いも揃って三大美少女と呼ばれている人物が、兄のことについてを調べている。


 これが転校直後などならまだしも。転校の話題も落ち着いてきた現状でもなお続いている。

 冷泉は同級生なのでギリギリ理解できなくはないが。しかし、兄以外の同級生には同じように調べて回る素振りは見せていないし。

 他のふたりについては、そもそも別のクラスの人物であり、会話すらしたことがないはずである。


 それなのに、近づこうとしてきているあたり、なにか、理由があるのだろう。


(おにぃに近づこうとするのなら。相応しい人物かどうか、私が見極めるんだから)


 きゅっ、と。机の下で拳を握りしめながら、美鈴は心の中で決心する。




 ここで。高らかにひとつ、宣言をしておこう。





 この物語の主人公は、彼女――槙田 美鈴であり。


(妹がおにぃの恋愛事情に口を出すのは当たり前のことなんだから!)


 この物語は。修哉の彼女となる人物に対して。美鈴が相応しいかどうかを見定める、という物語である。

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