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1-02 首なし奏者と女神の音階

女神に仕える巫女だったドルチェは、たった一つの失敗から女神によって楽譜と首を取り上げられてしまった。


女神を祀る古代神殿で楽譜と首を探すため、ドルチェは側仕えのフラットとともに仲間集めをすることに。


〜打倒、音律の女神! 私の首を返しなさーい!〜

「まって、危ないから! アコーディオン持ったまま走らないで……!」


「じゃまでちゅ、赤犬!」

「お前な、口悪いって」


アコーディオンで奏でるドルチェの音階言語を理解する騎士ルバートと、フラットにちょっかいばかりかける騎士スケルツォ。


仲間になった騎士たちとともに、ドルチェはいざ、古代神殿の攻略へ!


だけど。


〜音律の女神はどうして私を巫女にしたの……!〜


神殿に遺されていたのは、世界を滅ぼす破滅の楽譜で――?


自分の首と女神の真実を見つけるため、ドルチェは今日もアコーディオンを響かせる。

 人々の憩う広場に、デタラメな旋律が響き渡る。


〜楽譜が欲しいわぁー……〜

「ちょうねー」


 広場の中央、石造りの噴水の前で、アコーディオンの音色が流れていく。アコーディオンの奏者の隣で、裏返した帽子を手に持つ少女がこくりとうなずいた。


 そんな二人の前を、一組の男女が微笑ましそうに通りがかる。


「変な曲ねぇ。でもトルソーにアコーディオンを弾かせるなんて、お嬢さんは魔術を使うのがお上手ね」

「君が気に入るなんて珍しい。彼女を喜ばせてくれたお礼だよ」


 少女の持つ帽子の中に、銀貨が一枚落とされる。少女は満面の笑顔を浮かべた。


「ありがとうございまちゅ!」

「あら、可愛い。がんばってね」


 舌足らずな少女に微笑んで、一組のカップルは去っていく。少女の隣でトルソーと言われたアコーディオンの奏者は、悲しそうに鍵盤を鳴らした。


〜またトルソーって言われたわ。かなしいわー……〜

「ちかたないじゃない。女神に取られちゃったんだもの。音律の女神に許されるまで、貴女は首なちよ」

〜だから楽譜が欲しいのよ!〜


 アコーディオンの音がぱぉん! と大きく鳴った。

 通りがかる人々がなんだなんだと寄ってくる。人が集まった以上は仕方ないと、アコーディオンの奏者は鍵盤をつま弾いた。


〜フラット、前口上!〜

「あいあい。――ちゃあちゃ、よってらっちゃい、みてらっちゃい! これなりまちゅは、音を奏でる魔導人形・ドルチェでございまちゅ! 音痴な彼女でありまちゅが、どうか一曲、お聴きくだちゃぁい!」


 舌足らずな少女の声が広場に響き渡り、通りがかりの観客が拍手した。


 少女フラットは見た目が幼く、言葉も舌足らず。頭の上にこんもりと作られた二つの大きなお団子がとても目立って、可愛らしい。


 そんな愛くるしい見た目の少女の隣にいるのが、アコーディオン奏者のドルチェだ。見物人たちは彼女を首のないトルソーや魔導人形だと勘違いし、見世物代を払ってくれるけど、実は違う。


〜私のお話を聞いてくれる? 私、音律の女神の巫女だったのよ。巫女としてのお勤めは、女神に音色を捧げること。それが突然、首なしにされたのよ! 楽譜通りに演奏できない私には、目も耳もいらないってね!〜


 デタラメなアコーディオンの音色は、ドルチェの綴る言葉だった。首を失い、発声することのできなくなったドルチェが、誰かと意思疎通をするための方法の一つ。


 あまりにも特殊な意思疎通方法は、理解できる人が限られる。音階言語というのだけれど、その言語を理解できる一人が、神官であり側仕えでもあるフラットだった。


〜私がこうして日銭を稼ぐなんてね。私は女神に楽譜を取り上げられたから、音楽を弾けないのよ。お怒りになった女神のお怒りをとくには音楽を弾かないといけないのにね。なんて矛盾かしら!〜

「悪口になってまちゅよ」


 フラットがにこにこ微笑みながら釘をさす。観客人が集まってきたから、フラットは表情を取り繕わないといけないけれど、ドルチェには取り繕う顔がないからおかまいなし。


〜早く見つからないかしら。女神の遺した楽譜を、一緒に取りに行ってくれる方。散々、散々、散々っ、探したのに、選ばれし調律騎士だけが足りないのよ!〜


 ドルチェのアコーディオンが荒々しく音色を響かせる。まばらな観客の向こう側、巡回中の二人の騎士たちも、こちらを見てしまうくらいに。


 フラットの視線がそちらに向く。ぴょんっと噴水の縁に飛び乗って、小さな身長で人垣の向こうを覗こうとした。見たいのは、通りがかった二人の騎士たち。赤髪三白眼の騎士と、銀髪の美形騎士の組み合わせは、首なしアコーディオン奏者よりもある意味目立つ。


「今日も懲りずにやってんなぁ。どうするよ」

「まぁ、別に騒動にはなってないからね。まだ様子見でもいいかな」

「ルバートはいつもそう言うよな。そうだとしても、隣の獣人ちゃんはやっぱ駄目だろ。首輪登録のない獣人は条約違反だ」


 話しあっている騎士たちに、フラットのお団子がぴくぴく動く。その表情が一気に不機嫌になった。


 ドルチェの音階言語を理解できる人を探して、彼女たちはこんな目立つところででたらめな演奏をしていた。だけど、条約違反だの獣人だのとを理由に、フラットの身動きがとれなくなるのは本意じゃない。


 フラットがお辞儀をして撤収の合図をドルチェに送る。ドルチェはぱぉんとアコーディオンを鳴らした。


〜おしまい! 皆様、さようなら! ここにはもう来ないかも。またどこかで会いましょうね〜

「あ。スケルツォ、彼女たち、公演をやめるみたいだ」


 そう言ったのは、ルバートと呼ばれていた銀髪の美形騎士だ。

 フラットがもう一回飛び上がる。


「ドルチェ、なんかちゃべって!」

〜え? なんかって? 終わりじゃないの?〜

「いいから!」

〜えー?〜


 よく分からないまま、ドルチェがアコーディオンを鳴らす。


〜じゃあ、いつも大きなお団子頭をしているフラットの話をしましょう。フラットは鼠獣人の先祖返りよ。でも獣人の本能はないわ。つまり獣化ができないの。言葉は獣人のなまりがでちゃうのにね。だから首輪をつけられたくなくて、可愛くて大きいお耳を髪で隠してしまったの〜

「あ、そうなんだ」


 ルバートが楽しそうに笑いをかみ殺している。

 フラットの目が、きらりと光った。


「見つけたあああ! 調律の騎士(きち)を確保ぉおお!」

〜えっ?〜

「は?」


 大きな声をあげてルバートを指さしたフラット。

 観客の視線が一斉にルバートを向く。


「なんだ!?」

「え、分かんない!」

「ドルチェ、早く! あの銀髪! あいつ、やっぱりドルチェの音階言語を理解ちてるっ!」

〜あらっ!〜


 フラットの言葉ですべてを理解したドルチェが両手を上げた。ようやく見つけた探し人!


〜まってまって逃げないで、私の救世主! ちょっと私を助けてください!〜

「なんだなんだ、魔導人形がこっち来たぞ!?」

「うわっ、わ!?」


 アコーディオンをぱぉんぱぉんと弾きながら猛ダッシュするドルチェ。猛烈な勢いで観客をかき分けて二人の騎士の前に躍り出ようとするけれど。


〜jaea!dwtgpa?!mw!!〜


 観客の足に引っかかる。けたたましい音を鳴らすアコーディオン。大切な楽器を壊さないように胸に抱きかかえたドルチェは、首からおもいっきり地面へと倒れ込んで――


「っ!」


 それを、銀髪の騎士が受け止めた。


 ドッドッとドルチェの心臓が大きく早鐘を打つ。そんなドルチェの頭上では、ふー……っと大きな安堵のため息がこぼれ出て。


「えっと……大丈夫かい?」


 とくん、と。

 心臓が、別の理由で鼓動を刻んだ気がする。


 まっすぐに首のない自分を見つめてくれる蜂蜜色の瞳。あまりにもてらいのない澄んだ瞳に、ドルチェは恋に落ちそうになった。



 ♭ ♭ ♭



 さすがに目立ちすぎるからと、ドルチェとフラットの身柄は、銀髪の騎士ルバートと赤髪の騎士スケルツォによって街の詰め所に連行された。


「ちょっと! 何ちゅんのよ! 差別(ちゃべつ)! 偏見! クちょ野郎!」

「おーおー、喚き声が可愛らしいこって」

「うっちゃい赤犬! 家帰ってご主人様(ちゅじんちゃま)の前で腹見ちぇてろ!」

「くちわっる」


 本能抑制の首輪をしていない獣人という理由で詰め所の檻に放り込まれたフラットが、スケルツォにチュウチュウ鳴いている。はたから見れば負けん気の強い幼女を閉じ込めている同僚の図に、ルバートは生ぬるい視線を向けた。


「えぇと、それで……君たちは僕を探していたのかい?」

〜ええ、そうよ。私たち、あなたを探していたのよ〜

「その基準が、えぇと、君たちの言う音階言語?」

〜そのとおり!〜


 ドルチェはぱぉんとアコーディオンを鳴らしてみせた。スケルツォがすごく胡散臭そうに、檻の前で立ち話をする同僚と首なしの演奏家を眺めている。


「ほんとに会話してやがるな……」

「スケルツォには聞こえないんだよね」

「ただの音にしか聞こえない」


 音階言語を理解するには一つの素質が必要だ。

 それが絶対音感。

 そのうえで、言語体系として学ぶ必要があるけれど。


〜あなた、音階言語を誰に学んだの?〜

「いや……学んだって意識はないかな。気づいたら知ってたし、あまりにも世界が言葉にあふれていたから、これがないとまともに声が拾えないんだよ」


 ほら、とルバートが自分の横髪を耳にかけ、そこにある大粒のピアスを見せてくれる。一定範囲以上の音を遮断する魔道具らしい。


〜先天的な音階言語の習得ね。私と一緒。ますます私の騎士っぽいわ!〜

「騎士? 僕はたしかに、このシルファリオン王国の騎士だけど」

「違うわよ。旋律(ちぇんりつ)の巫女に仕える調律の騎士(きち)よ」

「滑舌悪くて聞こえねぇな」

「うっちゃい赤犬!」


 揶揄するスケルツォにフラットが檻の中から威嚇する。スケルツォは知らん顔。そんな二人に苦笑して、ルバートは再度ドルチェのほうを見る。


「えっと……まぁ、巫女とか騎士とかは置いておいて……君たちはいったい僕に何をしてほしいんだい?」


 そう、それが一番大事なお話。

 ようやくお願いできるわね! とドルチェははりきってアコーディオンを鳴らした。


〜音律の女神が遺した楽譜を探すために、一緒に最古の神殿へ行ってほしいのよ!〜


 そうして女神に音楽を捧げ、女神にドルチェの首を返してもらうのだ。



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