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1-21 わんわんダンジョン! 地球に現る!

ゲームのダンジョンが現実世界へ現れた。ダンジョンは異世界を滅ぼし、この世界へと辿り着いたらしい。そしてそのダンジョンのマスターは私である。趣味全開、わんこ系しかいないわんわんダンジョン! 現代地球を守るよりも自分のデザインしたモンスターを守りたいと思ってしまう私は色々な意味で生き残る事ができるのか?


『おめでとうございます。異界 ディファンドラの存在核への侵食を完了しました。これよりダンジョンは実体化します。今後もダンジョンの運営をお願いしますね。マスター』


 ゲームが現実になった日。


 いや、もともと別の世界では現実だったのだろう。

 このダンジョンメイカーというアプリで作ったダンジョンは。

 私もやっているこのアプリは異界においてはダンジョンに干渉するモノとして使われているモノだったのだろう。


 それを知らないで私は……。





 私は育成物のゲームが好きだ。

 1人でコツコツと、ながらでも続ければ、相応の結果がついてくる。

 だから私はそのゲームを始めてしまったのだろう。

 ただのゲームだと思って。



「兄さん、兄さん。これもっと安くならない? ウチからこれオマケだすからさ?」


 ゲームの中、その時はNPC商人だと思っていたリザードマンのグリアとの交渉。

 ゲーム開始当初はシステムサポートが入っていたが、徐々に人間味を帯びた交渉へと変わっていき、ダンジョンのフロア数が10を越えた頃にはシステムのサポートなく交渉ができる様になった。


 このゲームにおいては10階層まではチュートリアルとして扱われていた。プレイヤーからだが。

 できる事の多さとか、交渉の仕方とか、いろいろと掲示板に書かれてゲームの攻略サイトもためになった。

 ゲームだと思っていたから楽しかった。AIを利用したゲームだと思っていた。



「マスター! マスター! 今日はこれを作ったよ!」


 駆け寄ってくるアトス。茶色い毛並みの中型犬モチーフの子。種族としてはコボルトアデプトだったか。見た目は二足歩行の髪や鬣が少し長めの服を着たわんこか。


 VRで見ていた存在が肉を伴って声をかけてくる。

 自分の作ったモンスター。自分の好きなデザインのモンスター。

 そこにあるのは育てた愛着か。それとも罪悪感による嫌悪か。


 50層を超える階層を作るくらいの廃人にとってはゲームこそが世界か。

 部屋の外。冷たい交流関係。日々の糧を得る程度で諦める自分。

 そこに人情を感じる余地はない。いや、人情を感じようとしていない。



「マスター。何か探しているのかい? 仲間にでも聞いてこようか?」


 智謀担当のニコラ。心配性の節がある。白い毛並みの細身な大型犬モチーフの子だ。背筋がスッとしており、同族と比べて手指が発達している。


 この空間への執着が世間に対するモノよりも強いのだろう。

 それが世間に対するうっすらとした後ろめたさ。

 自分という存在を一番否定しているのは自分である。

 分かっていても止まらない自己嫌悪。


 その歪さが表れているかのようで嫌悪。

 世界を贄にして生まれたモノに対し罪悪感。

 負の感情が胃の腑を焼いている。



「マスター! 一手ご指南ください!」


 ジェイス。中型の和犬モチーフ。まじめな子。比較的小柄で私よりも頭一つ小さい。こげ茶でそこそこ筋肉質。黒くて丸い瞳はとっても真っ直ぐ。


 優しくしてくれる、自分を見てくれる様に感じる相手。

 それが現実になった。触れる事の叶わぬ人形が肉を伴った。

 焦がれた存在。自分が育てた、どうしてそういう風なのか分かる相手。

 それを見て嫌い続ける事は多分できないだろう。


 彼らしか味方がいない。彼らのグループこそが自分の交流すべき世界。

 そうやって感じて、考えてしまった段階でもう私は終わりだ。

 私はこの子達を血のつながった家族よりも家族として思っているのだろう。



 あぁ、愚か者の私をどうか許さないでおくれ。


 


「生き残ろう。私はみんなを失いたくない」




 



 やるべき事。やりたい事。ちゃんと理解していない気がする。

 まずはそれを把握するべきだろうか。

 生き残るためにはそれが必要だろう。


 私はダンジョンマスターである事を知られてはいけない。

 そのためには一般的な仕事を続けているのが大事か。

 バレたら……ダンジョンに引きこもるしか選択肢はないだろう。

 ただダンジョンの中にいるとダンジョンの外の出来事が分からないから情報不足で死にそう。だから最終手段でしかない。


「マスター! マスター! 36階に住んでたヤマイヌに子供できた!」


 ダンジョンが現在の地球に現れた事。

 これは地表に開いた穴のせいでバレた。

 突如街中に開いた穴に謎の生物。SNSで話題になっていた。

 作業員が犠牲になったらしい。南無。


 配信者がダンジョン内のモンスターを倒したら魔法が使える様になったらしい。

 最初はネタとして扱われていたが、類似の現象を起こす面々が出てきて真実という話になった。

 最低でも自分のステータスが見られる様になるらしい。ゲームかな。


「マスター、いつもの穴から来る侵入者の数減っちゃってるねぇ」


 今のところはこのラインでとどまっている。

 ダンジョンメイカーのアプリだけではダンジョンマスターにはなれないらしく、どこかのバカなダンジョンマスターが自分こそがダンジョンマスターだとか言ってアプリ画面をさらしたみたいだが、同じゲームをやっていたユーザーにダンジョンマスター乙とかからかわれていた。


 何が条件でダンジョンマスターになっているかが不明。

 一定以上の階層数とかだと廃人並みのデータだったアプリユーザーがマスターになっていない理屈が分からない。

 いや、それがダンジョンマスターが流した欺瞞情報かもしれない。

 アプリのメーカーも普通にSNSやっているしよくわからない。


「マスター。新たにできた入り口からの侵入者は1層目もクリアできない模様。少し弱めた方が得られるエネルギーが増えるかもしれません」


 ダンジョンはその仕組みとして侵入者のエネルギーを吸収しているらしい。

 侵入しているだけで少しだけだがDPが回収できる。

 ただ中で死ぬと滞在時間の数十倍のDPが回収できるため、ダンジョンの維持を考えると死んでほしい。


 DPがないとダンジョンが飢える。飢えたダンジョンは荒れる。

 荒れたダンジョンはスタンピードが起きて、辺りからエサを集めようとする。

 あまり好ましい状態ではない。繰り返すとダンジョンコアがダンジョンを纏って暴れ出す。別名大怪獣モード。

 操作不能だしゲーム続行もできないからマスターとしては詰み。これが現実で起きたらどうなるかは……わからない。


「ひとまずは攻撃力の少ないモンスターだけに変更しておこう。攻撃されたら噛むくらいはしていいな。気に入らないヤツにはお仕置き用モンスターをぶつけてやればいいか」


 雑に作ったというべきか、コストをあまりかけずに作った存在。

 だとしても自分の作ったモンスター。それが死ぬのが役目といえど無下にしたくない。

 それがどんな子であろうと我が子だ。死ぬのが役目だというのが最悪。でもそれをしないともっと多くの子が死ぬのだ。

 そんな可哀想な子だからこそせめて苦痛なく終わってほしい。


 侵入者を釣るエサとして、踏み込む旨みのある存在として、適度に認識させないといけない。

 元々の設定は仔狼で、お仕置きモンスターは親狼だったか。

 侵入者のレベルに応じて解放するお仕置きモンスターを強くする仕様だった。


「はーい! マスター!」


 システムコンソールは現実になってもスマホからの操作だった。

 でも他人からの操作は受け付けない様子。あの子達が触ろうとしても、該当機能だけは反応しない。

 スマホ以外からでも操作をしようと思えば、宙空に現れる私にしか見えない画面で出来た。写真には写らない模様。不思議。


 出来るだけ人を傷つけたくはないけれど、それをすれば大惨事になりかねない。

 人を呼び込みつつ、居座らせる構造を考えればいいか。

 ……私のダンジョンはもふもふしかいないし、わんわんパーク扱いしてくれないかな……。

 異世界の時は珍獣ハンターと貴族の子女が中心になって潜っていたらしい。そこまでの情報はゲームの時には確認できなかったけれど。







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