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1-14 ドワーフの最強拳士、エルフの幼女に転生して見た目も最強になる!

「互いに転生し、今度こそ決着をつけよう」

不遇の最期を遂げた『ドワーフの拳士ガルム』は、宿敵である『剣魔グリムザール』の秘術を受け入れ転生した。しかし転生先は『エルフの幼女ディアナ』で……?

「ワシの鍛え上げられた上腕二頭筋は!? 苦味走ったいい男ぶりは戻ってこないのか!? おのれ騙したなグリムザールうぅーっ!」

前世とはまったく異なる脆弱な肉体と、傾国レベルの可愛さと。

相反する要素に悩まされつつも、ガルムは修行を続ける。

足りない『気』を『魔力』で補い、脆い『肉体』を『技術』で補う。

すべては宿敵との決着のためなのだが、可愛さのあまり周囲が放っておいてくれず……。

「次はミニスカドレスね! 大丈夫、絶対似合うよ! ディアナちゃん最強に可愛いから!」

「うるさいうるさい! ワシの求める最強はそうゆーのじゃないのだあー!」

ドワーフ→エルフのTS転生バトルコメディの、始まり始まり~。

 人魔決戦――魔族の本拠たる魔王城で行われた一大決戦。


「ワシを残して先に行け……っ」


 アレスたち勇者パーティを魔王の待つ最上階へ送り出してからが、本当の地獄の始まりだった。

 次々湧き出てくる高レベルの魔物どもを一匹倒し二匹倒し……数が百を越えたところで魔王軍最強剣士である『剣魔グリムザール』が出現。死闘の末にこれを倒しはしたものの……。


「さすがに、限界か」


 手足に力が入らない、視界が霞む。

 出血は止まらず、身体各所の骨が断裂。腹には大きな空洞が穿たれている。

 その頑健さから『三つの命を持つ』と形容されるドワーフですら生きのびること叶わぬ、明らかな致命傷だ。


「戦いは……どうなった?」


 床に大の字になり、天井を見上げた。

 あれほど激しかった戦闘音も、今はもう聞こえてこない。


「……ま、あのアレスが敗れるわけもなし、か」


 その圧倒的な強さから『人類の最大戦力』とすら呼ばれた男だ。

 魔王の奴めも、さぞや面食らったことだろう。


「口惜しや……」


 そう呻いたのはワシではない、グリムザールだ。

 紫色の肌の巨人が、壁にもたれながら嘆いている。


「信念を曲げてなお、貴様に勝てんとは……」


 二本あった角が共に折れ、胸には大きな穴が開いている。

 口元からはどす黒い血が流れ、今にも息絶えそうだ。


「口惜しや……口惜しや……」


 百体を超える魔物を率いてワシひとりを襲う。

 軍人としては当たり前の行動だが、武人であるグリムザールにとっては耐えがたい屈辱だったはずだ。

 そのうえ部下は全滅、自身もワシと相討ちでは、情けないにもほどがあるというわけだろうが。


「しかたなかろう。これもまた戦の習いだ」

「スッキリした顔をしているが、貴様は悔しくないのか?」

「ワシが? 何を悔いると?」

「勇者のために犠牲となり、ただの駒として死ぬ運命をだ」


 戦災孤児として生まれた。 

 よき師匠に出会い、弟子として暮らしながら『ドラゴ砕術さいじゅつ』を修めた。

 人類連合に所属した後は転戦につぐ転戦、激闘につぐ激闘。

 人生のすべてを、戦いと魔王討伐のためだけに捧げてきた――そんなワシだからこそ、言えることがある。


「悔いも迷いもあるものか。何度やり直したとしても、ワシはきっと同じように生きて、同じように死ぬ」

「我は嫌だ。どうせ死ぬなら、正々堂々と戦って死にたい」

「……おまえさん、なかなかにわがままだのう」


 この後に及んで子供のように駄々をこねるグリムザールに呆れていると……。


「ガルムよ、ひとつ約束をしないか?」


 グリムザールがポツリと言った。


「互いに転生し、新たな生を得た後また相まみえ、今度こそ一対一で決着をつける。そういう約束だ」

「ふん、幼子に読み聞かせる絵物語の類か?」

 

 今わの際の冗談にしても幼稚な。

 笑うワシに向かって、しかしグリムザールは真剣な顔で手を伸ばしてきた。

 人の頭など容易く握り潰してしまうだろう巨大な掌――そこに虹色の光が輝いている。


「我が一族に伝わる古の秘術だ。受け入れるなら貴様は、次の生を得ることができる」

「……どうやら本気のようだな」


 仮に嘘だったとしても、死出の旅路の土産話ぐらいにはなるだろう。


「よかろう、約束するぞグリムザール」

「ならばまた、次の生で」

「ああ、互いに心ゆくまで殺し合おうや」


 ワシは体から力を抜くと、グリムザールの放つ光を受け入れた。


「数十年後だ。数十年後のある日、貴様は記憶を取り戻す」


 急速に遠ざかる意識の中、奴の声が聞こえてくる。

 

「ただし……は……ぬからな。……であったとしても……なよ」


 言葉の後半はボンヤリとして聞きとれないが……まあよかろう。

 ワシはただ、新たな体で思う存分暴れ回るだけ――



 + + +



 正確にどれほどの時がたったのかはわからんが、ワシは転生し記憶を取り戻した……のだが……。


「これはない、これはないだろうグリムザールよっ」


 昼なお暗い、森の中。

 小川に映る自らの姿に、ワシは絶望した。


 十歳程度の小娘だ。

 ちんまい手足、平らな胸と尻。銀髪の間からは笹穂のように尖った耳が覗いている。

 大きすぎる水色のローブの袖から、ピンクがかった指先がちょこんと覗いている。

 顔の造りは驚くほどに整っている。今はまだあどけない子供だが、将来的にはきっと傾国の美女になることだろう……いや、この際それはどうでもよい。

 問題なのは……。


「エルフではないかああー!」


 ワシは絶叫した。

 

「ということはあれか⁉ ワシの鍛え上げられた上腕二頭筋や苦味走ったいい男ぶりは戻ってこないのか!? おぉのぉれぇグリムザールうぅっ! モヤシのように脆弱な肉体を与えることを見越して『今度こそ決着をつけよう(キリッ)』とか抜かしおったのかあの男はあぁーっ!」


 エルフは全種族の中で最も細く、最も非力だ。

 どれだけ鍛えたとしても、たかが知れている。


「ああもう、声まで可愛らしいしっ。あー、あー。せめてもうちょい、迫力のある声は出んものかのう~……」


 しょんぼりしながら発声練習をしていると、首に何かがぶら下がっているのに気が付いた。

 手にとってみると、それは冒険者ギルドの発行したギルドカードだ。


 名前:ディアナ・ステラ 種族:エルフ

 ジョブ:魔術師 レベル:三 ランク:F 


「エルフ特有の潤沢な魔力を活かして魔術師になったばかりの駆け出しといったところか。ソロで冒険をするジョブとも思えんが、いったいどうして……んんん~?」


 カードを眺めていると、頭上に大きな影が差した。

 振り返ってみると、そこにいたのは……。

  

「ほう、オルグか」


 オルグはオークの上位種だ。

 肌は緑褐色で、岩のような巨体を誇る。

 再生能力があり、魔法にも強い。

 エルフを好物とする、エルフの天敵だ。


「なるほどな。こいつのせいで仲間とはぐれたのか」


 よく見ると、ディアナのローブは泥だらけ、体のあちこちに擦り傷もある。

 背負い袋や水筒などの持ち物がそこら中に散らばっている。

 長杖スタッフにいたってはオルグに踏まれ、真っ二つに折れてしまっている。


「こんな広大な森の中で、よくもまあ運の悪い娘だのう。だが、まあ……」


 ワシはニヤリ、口もとを緩ませた。


運の悪さ(・ ・ ・ ・)じゃ、こいつには負けるか」


 ある日森の中、エルフ狩りを楽しんでいたオルグの前に現れたのは、なんとドワーフの武人だった。

 これほど愉快な筋書きは、絵物語でも描けやしまい。


「殺し合いは人魔決戦以来だな。殴る、蹴る、壊す。あの快感をまた味わえるのか。ウキウキするのう」

「ゴワァ……ッ?」


 ニヤニヤしているワシに違和感を感じたのだろう、オルグがじりじりと後ろへ下がり始めた。

 

「ほう、野生の勘か?」 


 魔法を制御するための長杖を折られ、しかも単独。

 普通に考えたら、この娘に勝ち目はないはずだ。


 だが、オルグは気づいている。

 この娘の中に誰かがいる(・ ・ ・ ・ ・)ことを。


「知能が低い分、勘が働くか。ま、もう手遅れだがな」


 オルグの恐れはさて置き、ワシは準備運動を始めた。


「おいっちにーさんしっ」

 

 まずは膝の屈伸から。


「にいにーさんしっ」

 

 左右交互に体を倒し、脇腹を伸ばす。


「さんにーさんしっ」


 軽くジャンプをし、全身をリズミカルに動かしていく。


「ふむ」


 筋肉は少ないが、体が柔らかいおかげで可動域がやたらと広いな。

 柔らかな体は多様な技を生み出す土台だ、悪くない。


「ほう」


 ドワーフのような『気』の力はなく、代わりにあるのは『魔力』のみか。

 だが、恐ろしく豊富で濃密。『気の代用』には十分だ。


「ならば、全然やれるな」

「ゴワアアアーッ!」


 追い詰められたと感じたのだろう、オルグが捨て身の攻撃を仕掛けて来た。

 酒樽ほどもあるだろうデカい拳を振り下ろし、地面を深く陥没させた――が、そこにワシはいなかった。


「ゴワ……ッ?」

 

 キョロキョロと辺りを見渡すオルグ――その背後にワシはいた。

 魔力を気に変換することで身体機能を高め、瞬時に回り込んだのだ。


「逃げなかったこと、まずは褒めてやろう」


 両足を大きく開くと、腰を落とした。

 息を吸い込み、臍下丹田せいかたんでんに蓄えた。


「そらご褒美だっ。喰らえ……螺子拳ねじけん!」


 変換した気で拳を覆うと、捻りながらオルグの腰に叩きつけた。


 ――ズギュルルウゥゥッッ!


 オルグの巨体は時計回りに回転しながらぶっ飛んだ。

 その勢いは激しく、ぶっとい木を五本もへし折りようやく止まった。


「おおー、飛んだ飛んだあーっ!」


 全盛期には程遠いものの、まあまあの威力だ。


「ひ弱なエルフと侮っていたが、この体は掘り出し物だな! やったぞワシ! あーっはっはっはっ! あ~……おや?」


 腰に手を当て笑いながら、ふと脇に目をやると――十代半ばの人族の娘が腰を抜かしていた。


「あわわわ……」


 ふわふわした桃色の髪の、子犬のような印象の娘だ。

 職業は僧侶だろう、豊穣の女神の意匠が施された戦杖メイスを抱きしめながら震えている。


「ツンツン娘なディアナちゃんが、『ワシ』とか言いながらオルグをグーパンで……?」


 衝撃がデカすぎたのだろう、「はうっ」と呻きながら卒倒した。


 う~む、この状況はもしかすると……。


「……ワシってば、やらかしちゃった?」

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