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健康的にもならないといけませんね

 目を覚ましたまさにその瞬間から僕は異常とも言える違和感を覚えていた。




「ん?真絹?」




 普段なら我が物顔で部屋に入って、朝から美しい顔と身体を惜しげもなく見せてくる真絹がいないのだ。まさか少しは普通の感覚と言うものを身に着けたのかとも一瞬思ったが。




「あいつに限ってそりゃねぇわ」




 リビングに行っても人の気配がしない。今日は休みだが、あいつは僕や姉ちゃんと違って惰眠を貪るタイプではない…一から十まで僕を篭絡するために行動をする女の子だ……まさか




「真絹、いるか?」




 『MAKINU(詠史さんはいつでも入ってきていいですよ♡)』と無駄に長いネームプレートが掲げられた部屋をノックして声をかけるが応答がない。紳士たる僕としては同居していようがベタ惚れされていようが女の子の部屋に勝手に入るのは躊躇いがあるのだが、入ってきてもいいと書かれているし入ってみるか。




「入るぞ」




 そうして入ると一面に広がる僕の写真や等身大パネル、真絹お手製のファングッズである。普段なら辟易したくなる部屋なのだが今は真絹しか目に入らなかった。




「真絹、大丈夫か?」




「……え………詠史………さん?」




 僕が描かれた抱き枕をぎゅっと抱きしめながら床に寝転がっていた真絹は頬を赤く染めており、その全身からは普段溢れ出ている生命力と言うものがほとんど感じられなかった。




「すいません……調子がでなくて……」




「ったく、なんで僕を呼ばないんだよ」




「詠史さんのお手を煩わせてはいけないと思ってしまった」




 この女は……全くもう……僕に全てを捧げすぎなんだよ。そんな気遣いはいらないって言ってんのに……




「もっと自分を大事にしろ。何をするにも、僕を落とすのだって体が資本だろ」




 身体を持ち上げてベッドに寝かせてやる。




「申し訳ございません……」




 いつもなら「詠史さん、ベッドに連れ込むってことは………お好きにしてください、覚悟はできております」とか言ってくるだろうにこの態度……随分と弱ってやがるな。




「ちょっと待ってろ」




 ポカリとゼリー飲料、それに冷えピタを持って真絹の部屋に戻る。




「ほら、ありもんだけど取り合えずこれ食べとけ」




「ありがとうございます……でも食欲がわかなくて」




 普段真絹に知らず知らずのうちに鍛えられているせいなのか、瞬間的に食欲が湧き上がる方法が思いついた。………ちょっとハズいけどまぁいい、弱ってるときは誰だって甘えたくなるもんだ。




「あーん」




 そして、弱った奴には甘くしたくなるもんだ。




「え?まさか」




「なんだ?いらないのか?」




「あーーーんです!」




「大声を出すな、エネルギーがもったいないだろ」




 ゼリー飲料をゆっくりと飲ませて、その後真絹の前髪を軽くかき上げて冷えピタを貼ってやる。細い髪の毛のサラサラの感触が触った指に残った。




「えへへ……詠史さんにお世話されちゃいました」




「経緯はともかく一緒に住んでんだ、弱った時くらい僕を頼れ」




「………そうですね」




 普段からは考えられないほどしおらしく、しかしながら妙に素直に口を開いた。




「恋愛というものは与えるんじゃなくて、与えられることも必要ですよね………忘れてました」




「恋愛じゃねーよ。人として、同居人として当然のことをしてんだ」




「ふふふ………ありがとうございます」




 弱々しく、いつものエネルギッシュな真絹に比べればミクロレベルのその仕草はどうにも……可愛らしい。




「どうされました」




「いや何でもない………」




 ったく、普通にしとけばただの美少女なんだよな………危ない危ない。忘れてた。






「詠史さんに看病していただけるなんて、ストーカー時代には考えられませんでした。何という幸福なんでしょう。この幸せを表現する言葉が思いつかない自分が情けないです」




「そりゃストーカーを看病してやる奇特な奴もいないだろうな」




「うふふ……そうですかね」




「どういうことだ?」




「…詠史さんと一緒に過ごした私は思ったんです……ストーカーの私が詠史さんのベッドで倒れていても看病していただけるって」




「は?そうか?」




「していただけますよ……なんて言ったって私が心の底から惚れこんだ男性なんですから」




 真絹は笑った。心の底から喜んでいると誰であろうと確信できる表情で笑った。




 ドキリと胸が弾む……




「あっそ、惚れたぶん随分過剰な評価しているぞお前。じゃ、少し買い出しに行ってくるからゆっくりしとけ」




「はい」




 真絹の部屋から出た途端大きく息を吐いた。




「ったく……もう………」




 いつも今の調子だったら案外とっくの昔に真絹に陥落していたかもな……そんな考えを思考の遥か彼方においやって、僕は買い出しに向かった。




 ~~~~~~~~~~




「初川真絹、完全復活です!!!!!!!!!」




 翌日の真絹は火山の噴火よりもエネルギッシュだった。




「良かったなぁ」




「はいっ!!詠史さんからの愛を一身に受けることで風邪の前より遥かにパワーアップしましたよ!!」




「お前に愛を渡した覚えは全くないんだけど」




「いいえ、この胸にしっかりと詠史さんの優しさ、愛、私を想う感情が届いております……おかげでますます惚れちゃいましたよ」




 これだなこれ。




「誰だってする当然のことをたまたま僕がお前にしただけだって―の」




「それでもヒシヒシと感じたんです!!私が惚れた男性は、世界で一番私に優しいってことを!!」




 そう、真絹はこうでなくっちゃ駄目だ。




「さて、完全復活したことですし詠史さん」




 するりと服をずらし、すっかり色艶やバイタリティーを取り戻した身体を見せつけてくる。




「快気祝いをいただけますか♡」




「病み上がりは黙って寝とけ」




 これが初川真絹なのだ……ああ、ホッとする。




「ま、元気になって良かった」




「はいっ!!元気になれて良かったです!!!」




 このエネルギーに溢れた笑みこそ、初川真絹だ。

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