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89話  ひと息

魔導都市防衛戦の後、夜も更けてきた頃、諸々の指示を終えたリベルは勢いよく扉を開けた。


「リョウ兄ィ!!」


「し〜…」


するとアンリが人差し指を口に当て、リベルを注意した。

リベルは慌てて謝意を表す。


ここはウィザリアの教会にある病室、アンリはここで六樹を治療していたのだ。他の者達の治療も峠を越えたらしく、どうやら今は六樹に付きっきりらしい。


「アン姉ェ、容態は?」


リベルが六樹の状況を尋ねる。


「安心してください。命に別状はありませんよ。相当無理したのか今は眠ってますけど」


ベッドに眠る六樹の傷はおおよそ治されていた。しかし、カノイに斬られた痕やその止血の際に焼いた火傷痕などはハッキリと見て取れる。


リベルは苦々しい顔をした。あの傷は自身を守る為に負ったと考えているからだ。リベルは姿勢を正しアンリの方を向き、事の経緯を説明しようとした。


「あ、あの…アン姉ェ 「聞きましたよ」


リベルの言葉をアンリが遮った。


「あなたがリョウを助けてくれたんですって?本当にありがとうございます」


その感謝の言葉にリベルは罪悪感を覚え、それを否定した。


「違うんだアン姉ェ!リョウ兄ィは心が折れた私を守る為に一人で剣聖に突っ込んでそんな傷を!!」


「でも戻って来た、でしょ?」


「そ、それは…」


リベルが言葉を詰まらせているとアンリが語った。


「リベル、あなたにとってリョウは超人の様に見えているかもしれません。でも全くそんな事は無いんです」


「そ、そんな事は!?」


咄嗟に否定しようとするが、アンリの優しくも力強い目に言葉をつぐんだ、そしてアンリは鈴の様に澄んだ声で続ける。


「リョウはよく一人で抱え込むし、だらしないですし、すぐ調子に乗ります。悪事だってする人間です。そして臆病なのかあまり人に頼りたがりません」


アンリの悪口はまだまだ続く


「なのに目標だけは高くて、やたらと自分の命を賭けたがる。そして毎回死にかけてフラフラの状態で帰ってくるんです。少しはこちらの心配も考えてください」


アンリの声色が優しくなる。


「……でもいつもリョウは悩んで考えて思案して検討して、私達の為に知恵を絞るんです。そんな彼が_____本当に_」


「__________()()()()


「!」


ベッドに座っていたアンリは六樹の顔を少し撫でた。

六樹は全く起きる気配が無い


アンリはそんな寝顔に優しく微笑みかけると次はリベルを見つめた。


「リベル、リョウはあなたを助け、あなたはリョウを助けた、ただそれだけです。胸を張って下さい、あなたのおかげでリョウは今生きているんですから」


アンリは真っ直ぐ言い切った。


アンリの直球な言葉にリベルも心の内を曝け出す。


「アン姉ェ…私……リョウ兄ィのことが、好き、なんだと…思う」


「…………。」


アンリは少し驚いた顔をするが静かにリベルの言葉を聞く事に徹する。


「リョウ兄ィと話してると楽しいし、戦っている所を見ると心が高鳴る。それに、頭を撫でられると…凄く暖かい」


しおらしくなるリベルにアンリは微笑みかけた。そして今度は眠る六樹にこう言った。


「全く、罪な人ですね」


そう言ってアンリは六樹の鼻を摘んだ、少し苦しそうにする六樹に満足したのかアンリは指を離すとこう言った。


「教えてくれてありがとうございます。でも、こればかりは何とも言えないですね」


「?」


不思議そうな顔をするリベルにアンリは話した。


「リョウは昔に開いた心の穴がずっと残り続けているんです。だから、それが塞がるまでは押しても引いても駄目なんです」


「なんだよそれ…」


リベルの言葉にアンリも同調した。


「はい!本当に困った人です!」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「いや〜、二度とこんな戦やらないっス!」


「同感だな。キシヤ様も今魔法教会本部や街の結界の修繕で大忙しだ」


魔導都市攻防戦の翌日、修繕中の城壁の上で

ウィザリアの防衛の指揮を担うディンと近衛騎士団の一員であり、此度の戦役で獅子奮迅の活躍をしたダリアが話していた。


「そういや、アンリさんが怪我を治してた捕虜達はどうしたんスか?」


ダリアがそんな質問をした。


「あぁアイツらか、将校以外は敵軍に返したさ」


ディンのその回答はダリアにとっては意外だった。


「はえ〜、てっきり拷問にでもかけるかと思ってたっス」


「俺を何だと思ってるんだ?穀潰しを増やしても仕方ないだろう?」


するとダリアは鋭い視線でディンを見つめてこう言った。


「確かにそれもあるけど…それだけじゃないっスよね?」


見透かした様なその表情にディンは降参とばかりに白状する。


「はぁ〜、分かった。敵の進軍速度を下げる為だ」


ダリアは無言で続きを促す。


「デゼルに敵の情報を送った。怪我人を抱えてだと遅れが出る。上手くいけば撤退中を横から追撃出来かもしれない」


「最初からそう言っておけばいいんスよ」


ダリアはディンから本音を引き出して満足気にそう言った。するとディンはバツが悪そうな顔をする。


「あの嬢ちゃんの真っ直ぐな正義を利用してるみたいであまり気乗りしないんだよ」


「確かにあれは凄かったっスね!敵味方関係なく治しまくってたっス!敵兵から聖女って言われる位でしたからね」


「あぁ、そうだったな。俺も同じ立場ならそう言うだろう。攻め込んだ地で死にかけた所を救われたんだ」


するとディンは魔王軍が去った地平線を見ながらこう言った。


「虫のいい話だが、俺は追撃を要請しておいて、それが失敗する事を願ってしまっている」


するとそんなディンの言葉をダリアが肯定した。


「いいんじゃないっスか?やる事やった上で失敗を願うなんて当たり前っスよ。好きで殺し合いしてる訳じゃあるまいし」


ディンがその言葉にポカンとした表情を浮かべた。そんな考え方があったのかと初めて知った様だった。


「それも…そうだな」


「それともう一つ、ついさっき速達が届いたっス」


「??」


ディンはダリアの方に顔を向ける。


「3日前、デゼルへ魔王軍の鬼人族部隊が大規模攻勢の兆候があったとの事っス」


「なに!?つまり同時侵攻だったと」


「多分そう言う事っスね。私の予想だと向こうが陽動で本命は魔導都市の破壊だったんじゃ無いかと思うっスけど」


ディンもダリアの予想に賛同する。


「確かに….魔導都市を破壊すれば魔道列車や魔道具の生産も大打撃だ、そして壊すだけなら剣聖が派遣されたのも納得がいく」


「でも結果的には都市は守り切り、更には剣聖を討ち取る大手柄っス!それにデゼルには勇者レンがいるんで抜かれる心配はいらないっスよ?」


そしてダリアがこうも続けた。


「しかし誠に残念ながら、デゼルの友軍も流石に撤退中の魔人族達を追撃するのは難しいかもしれないっスね?」


「ふん、本当に残念だな」


それはダリアが彼女なりに慰めているのだと分かった。ディンは大きな溜息をついたのちこう言った。


「その知らせを受けたのなら、こちらもうかうかしてられんな!万が一の援軍が遅れる可能性がある以上、城壁の修理を急がせんと」


そう言ってディンは城壁の下に降りて行く


「忙しくなりそうだ」


そう言い残して去って行った。


◇◇


ダリアも景色を眺めていると、スッと城壁の上に飛び乗って来た影があった。


「見つけた。ダリア」


「お久しぶりっス、姫様」


それはリベルだった。リベルは要件を話し始める。


「街にいるのは分かってたけど、まさかリョウ兄ィを差し向けてたとは思わなかったよ」


「あぁ〜、聞いちゃったっスか〜……ていうか差し向けたと言うより半分以上姫様から近づいて来てるっスよね?年上のお兄さんがそんなに気に入ったんスか?痛い!痛いっス!!」


リベルに脛をキックされダリアの軽口が強制中断させられる。ダリアは観念した様に話し始める。


「元々、二次試験で姫様を間接的にサポートさせる為に依頼したんスよ。その途中でちゃんと依頼をこなせるか確かめるついでに賊の討伐を依頼したら、何故か姫様がついて来たんスよ!」


ギクッとリベルが痛いところをつかれた様な顔をした。


「それになんスか!魔法試験のあれ!?姫様が彼に粘着するせいでコッチは気が気じゃ無かったっスよ!!あんなの親しい仲でも迷惑っスよ!!」


「そ、それは…」


ダリアはリベルに不満をぶつける。リベルは突然の反撃にタジタジになる。


「はぁ〜〜本当に姫様は」


溜め込んだものを吐き出したダリアはスッキリしたのか少し落ち着いた様子で話し始めた。


「まぁでも、彼を護衛に付けといて本当に良かったっス。おかげで姫様が五体満足でここにいるんスから」


「それは………同感だな」


リベルもそれには素直に賛同した。

そして、ダリアはリベルに告げた。


「あと姫様、悪いっスけど今回の一件、姫様の手柄にします」


リベルは豆鉄砲を食らった様な顔をした後、ダリアに噛みついた。


「何でだよ!あれはリョウ兄ィとヴェルフの爺さん、他にも魔法使いの皆が死に物狂いで切り開いたんだろ!!」


「それを呼び込んで指揮したのは誰っスか?」


「!」


リベルはピンと来たのか言葉に詰まった。


「彼らを鼓舞したのも指揮したのも姫様っス、それに彼は姫様の護衛っスよ?姫様がどう考えようが、側から見ればこれは姫様の手柄っスよ」


「う〜〜ん……」


不服そうなリベルを見て、ダリアは少し態度を軟化させる。


「心配しないでください。全部一人の手柄なんて言わないっスから、悪い様にはしません」


やれやれと言った様子でダリアは業務連絡を続けた。


「あっそうだ、少ししたら剣聖討伐の論功行賞が王宮で開かれる筈なんで姫様も来て欲しいっス。現状に不満があるならそこで言えばいいっスよ?あと彼も連れて来て下さい」


「分かったよ」


連絡を終えたダリアは少し締めに入る。


「暫くは楽にしててもいいっスけど、今は王族としての振る舞いは心掛けて欲しいっス。皆んなに知られちゃったっスからね。それじゃあ私はこれで!地味に仕事が立て込んでて」


「ちょっと待って!」


ダリアがその場を去ろうとしたその時、リベルが引き留めた。


「?、どうしたんスか?」


ダリアが振り向くとリベルが頭を下げた。


「これまで私を遠くから守ってくれてありがとう」


そしてリベルは顔を上げて真っ直ぐダリアの目を見た。


「でももう大丈夫、これからは一人で歩けるから、もし躓いても寄りかかれる人を見つけたから」


ダリアは一瞬キョトンとした表情をするが、次の瞬間頬が緩み穏やかな顔を見せた。


「はぁ〜全く、手のかかる妹みたいに思ってたっスけど、まさかこんな殊勝な事が言える様になるとは…」


ため息混じりにそう言うと、ダリアはリベルの目を見つめてこう続けた。


「本当に…成長しましたね。リベルテ様」


ダリアは満面の笑みでそう言った。だがその声色は少し寂しそうだった。


「まぁでも私は遠巻きに小石を拾い続けるっスよ。姫様が転ばない様に、でも………もう少し姫様の力を信じてもいいかもっスね!」


そう言ってダリアはその場を離れた。


一人になったリベルは大きく溜息をついて呟いた。


「自由時間も、もうすぐお終いだな」


今回は戦後処理がメインとなりました。少しセンチメンタルな雰囲気でしたが次回は少し明るくいきたいです。勝利の宴はしないとですね。


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