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番外編  ひとりぼっちの少女 後編

アンリの過去後編です。

アンリがゲロンに弟子入りして数ヶ月経過した。

その大部分が筋トレに始まり木刀での素振りなど基礎訓練に費やされ、少し前にやっと魔物の討伐に同行させてもらったところだ。


そして、この日も依頼を受けていた。


「ゲロンさ〜ん、遠くないっすか〜?もう3時間は山道ですぜ〜?」


「文句言うなキョウ、もうすぐ山賊のアジトだ」


この日は山賊討伐の依頼を受けていた。


「なんでこの人連れて来たんですか」


剣を持ち、慣れない武装してゲロンの後をついていくアンリが冷ややかな視線をキョウに向ける。この文句を垂れている青年が首から銀等級の印を下げている事が信じられない。


「前に教えたろ?賊の討伐は最低三人は欲しい。それに、こんなんだがコイツの実力は保証する」


「へ〜!嬉しい事言ってくれるじゃないっすかゲロンさん!?まぁレカルカの嬢ちゃんに何かあったらいけないですもんね。任せてください!」


キョウか調子に乗り始めるのを他所にゲロンが止まる様に指示する。


「ここにいろ、少し様子を見てくる」


そう言うとゲロンは茂みの中に消えていく、するとキョウはアンリに話しかけた。


「ゲロンさんに弟子入りしたのは正解だぜ?レカルカの嬢ちゃん」


「?」


突然の言葉にアンリは驚く、思わず聞き返す。


「そうなんですか?」


「あぁ、あの人は何かに特化してはねーが、冒険者として最低限欲しい能力を全て持ってる。痒い所に手が届く人なんだよ。俺も割とお世話になったし」


素直に褒めるキョウにアンリは聞き返した。


「でも、銅級なんですよね?」


アンリの鋭い指摘にキョウがこう返した。


「まぁな、でもあの人なら銀位には上がれんじゃねーかな?まぁでも本人がそんなに望んでないんだよなぁ」


「どう言う事ですか?」


「ゲロンさんって奥さんと子供いるだろ?だからあんまし危険な事をしたがらないんだよ。それに、ずっと弄ってた畑が上手くいき始めて、冒険者一本って訳でもないしな」


「そうだったんですね」


アンリの言葉にキョウは大きく頷く、そしてアンリにこう忠言をした。


「実力を測るってのはとんでもなく難しいんだぜ?単純に強い奴に殺すのが上手い奴、堅実に仕事をこなす奴、てな感じで色々いるしな」 


「んで、ゲロンさんは最後のやつだな」


すると、偵察を終えたゲロンが戻って来た。


「仕事を始めるぞ」


◇◇


山賊達が寝ぐらにしていた小屋の前に来た3人、するとゲロンが最終確認をする。


「アンリ、今日はあくまで見学だ。俺のやり方を見て自衛に集中しろ」


「私も手伝います」


アンリがそう言うと、ゲロンが冷たく聞き返した。


「お前は人を殺せるのか?」


「っ…!」


アンリは言葉を詰まらせる。これまでの野生動物とは違い今回は生きた人間だ、軽々しく答える事が出来なかった。するとゲロンがこう返した。


「俺はまだ慣れない、慣れなくていいとも思ってる。今回は見るだけにしておけ」


「………はい」


ゲロンの言葉にアンリは何も反論出来ず素直に言う事を聞いた。


「キョウ、正面は俺が行く、それ以外は頼んだぞ」


「おまかせあれ!」


調子の良い事を言うキョウ、そしてゲロンの仕事が始まった。


◇◇


山賊の小屋の前、退屈そうに見張りが立っていた。こんな山奥に誰が来るんだという不満が表情から滲み出ていた。


「ふぅあ〜〜…」


と大きなあくびをした瞬間


ビシッ!  見張りの頭に矢が刺さった。


バタッと特に音もなく見張りは倒れる。すると、小さなクロスボウを携えたゲロンが現れた。


ゲロンは倒れた見張りの死亡を確認しつつ、静かに小屋の戸に耳を立てる。


「。。。。」


すると、すっと扉の後ろに隠れた。


「おい、交代のじかんだ…む!?」


グサッ もう一人現れた男の首筋にナイフを差し込みすぐさま無力化する。


そして、ゲロンは小屋の間取りを確認して何やら地面に何かを描き始めた。


そして、離れた位置から見ているキョウとアンリに合図を送る。


「見てろよレカルカの嬢ちゃん」


「??」


「あれが銅級(普通)の冒険者の一つの目標だ」


そしてゲロンは地面に手を触れた。その瞬間


ズン!!と地面が隆起し、ゲロンのいる出入り口以外を土で塞いでしまった。


更にゲロンは自分の前にある出入り口から小屋に何かを投げ込んだ


どうやらそれは煙玉だったらしく、もくもくと白い煙が小屋を充満した。


「うわー!!」「何だ!?」 「敵か!」


密閉空間に蔓延した煙に燻され、中にいる山賊達が悲鳴をあげる。そしてすぐさま近くの窓や勝手口にとびつくが


「開かない!?どうなってんだ!?」


すでに手は打たれている。焦った山賊達は正面玄関を目指した。しかしそこに待ち構えていたのは、出待ちの体勢を整えたゲロンだった。


「ぎゃーー」 「うぐっ…」


ゲロンは小屋から出て気が緩んだ瞬間を狙い一人一人潰していく。それはもはや作業だ、遠くで見ていたアンリがこう言った。


「何というか、地味ですね」


するとキョウが返す。


「勝つ算段を整えてから挑む勝負は大抵地味なもんだ、だからこそ真似しやすい」


すると、正面玄関での異変に気づいたのか、土で固められた窓を壊し逃げ出す者達も現れ始めた。


「おっと、俺の仕事だ」


すると、キョウが茂みから、文字通り飛び出した。


「速い」


アンリが驚きを口にする。キョウは風の様な速さであぶれた者達を処理していく。すると今度は正面玄関から残った山賊達が一斉に押し寄せた。


「くそ!多いな…」


ゲロンは処理しきれず4〜5人程外に飛び出した。


そして、その中の一人の男とアンリが目が合った


「あっ…」


「うおおおーー!!!」


アンリがそう言ったのも束の間、その男はアンリ目掛けて襲いかかって来た。


アンリは咄嗟に未だ使い慣れていない剣を抜く、そして自分の脚が震えている事に気づく。


男とアンリは近づき剣がぶつかった。


ガギン と大きな音が鳴る。


次の瞬間


ズバンッ!! 「うあぁ!」


山賊の男の手に矢が刺さった。ゲロンがアンリを援護したのだ


千載一遇の好機、すぐさまアンリはトドメを刺そうとするが


「ああ……何で…!?」


()()()()()()()()()()()()


アンリは理解した。先ほどから感じていたのは殺される恐怖もあったがそれよりも殺す事への恐怖だった。


すると


「もらった!!」


隙だらけのアンリに山賊の男は剣を振るった。


キンッ とアンリの剣が弾き飛ばされた。


死ぬ


アンリは直接的に向けられた殺意に対して足がすくんだ


「じゃあな!お人好し!!」


片手を射られ慣れない動きでアンリにトドメを刺そうとする男、アンリは走馬灯の様に両親の事を思い出した。彼らの信念とその理不尽な最期を



「アンリ、隠れなさい。大丈夫、父さん達がなんとかするから』


そう父は言った。そして母も肯定する。


「そうよアンリ、あなたは隠れていて私達二人でお相手をするから、大丈夫、きっと話せば分かるわ」


「でも、敵が向かってきてるんでしょ?逃げようよ!?」


自身の反論した時の、父と母の悔しさと悲しみが入り混じった表情をよく覚えている。まだ幼かったから分からなかったが、あの時既に手遅れだったのだろう。


父は拳を握りしめながらアンリにこう言った。


「逃げたくない」


それは理性的な父には似つかわしくない、あまりにも感情的な言葉だった。


「私達は救いを求める誰に対しても手を差し伸べたんだ!!後指を刺される筋合いはない!!私にも信念がある!私は逃げない!たとえ殺されるとしてもだ!!」


「……………。」コクリッ


と、母は父の言葉を無言で肯定した。そしてアンリに語りかける。


「でもね、アンリ?あなたには生きていて欲しいの」


アンリは答える。


「私だって、誰かを助けたくて…」


「そうね。でもアンリまで居なくなると誰が他の人を助けられるの?」


アンリが言葉を詰まらせる。母の言葉はこう続いた。


「だから隠れていて、あなたの力を必要とする人が必ず現れるから…」


そう言うと母は薬品を保管するための地面をくり抜いた穴の方を見る。蓋を閉めれば辺りと同化し見つけるのが困難だろう。だが小さい、子供一人がやっとの大きさだ


アンリは涙を溜めて頷いた。


「ゔんっ、私絶対色んな人を助けるからっ!!」


そう言うと、アンリは指し示された場所に向かう。


「アンリ」


最後に父に声をかけられた。アンリは振り返ると両親は一言だけ告げた。


「「愛してる」」



すると、アンリの拳に力が入った。


「ああああぁぁぁーーーーーーーー!!!!」


「なに!?ぐふっ…!」


アンリは突発的に握った拳を山賊の男に叩き込んだ


完全に不意を突かれた男は見事にクリーンヒットをくらい地面に叩きつけられた。


「はぁ…はぁ…」


アンリは我に帰ると足元には先程まで自分を殺そうとした男がのされていた。


「いき…てる?」


男は完全に気を失っていたものの息はあった。


「杞憂だったか」


ボウガンを構え、万が一に備えていたゲロンがアンリに駆け寄る。他の掃討を終えたのかキョウも戻って来た。


「ナイスパンチ!」


キョウはそう一言だけ褒めた。ゲロンは弾き飛ばされたアンリの剣を拾い上げた。


「訓練用の安物だったが、ここまで脆いとは……買い替えないとな」


「いえ、大丈夫です」


予想外の言葉にゲロンは首を傾げた。するとアンリが理由を告げる。


「私は(コレ)で戦う事にします」


そう言うとアンリは今大の大人を殴りつけ少し傷付いた拳を見た。


ゲロンが聞き返す。


「分かっていると思うが、危険だぞ?」


ゲロンの言葉にアンリは頷く


「分かっています」


「何故拳にこだわるんだ?」


すると、アンリはひっきりと答えた。


「殺さない選択肢が選べるからです」


ゲロンは鋭い眼光でアンリを睨み付けた。だがアンリは全く臆さない。すると表情が緩み根を上げた。


「やはり、あの人達の子か……分かった。修行を練り直す。武道の心得のある人も何人か紹介しよう」


「ありがとうございます!」


こうしてアンリは冒険者としての一歩を踏み出した。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


それからのアンリは教会での治癒魔法の訓練、そして冒険者としての修行で忙しい日々を過ごした。

幸い両者とも才能があったのか、はたまた師に恵まれた為か、よく伸びた。


そして、15歳の誕生日、つまり成人の日、教会の孤児院を卒業した。プレテやゲロン、ルーナやグレースなど親しい間の人達が最大に祝ってくれた後、アンリはある場所に向かった。


◇◇


「今、帰りました。お父様、お母様……」


そこはアンリの実家だった。ゲロンやプレテが管理してくれていた様で、まるでかつてのまま綺麗な状態で保存されていた。


広い家にたった一人、本当に静かだ

アンリはとりあえず食事を取る為、調理を行う事にする。


とは言っても買って来たパンと塩漬け肉を根菜と湯掻いた簡素なスープだけだ


静寂の中食器の音だけが響く、味気ない食事を喉に流し込む。母が作ってくれたシチューが恋しい。貰い物のジビエ肉を使ったあの優しく味のシチューが


食事が終わるとアンリは生活費を考える為父が管理していた金庫の方に向かった。金庫は昔の記憶から全く動いていない。誰も手を付けなかったのだろう。しかしその隣には知らない物があった。


アンリの両親が残した遺産の横、そこには巾着袋が置かれていた。


中を覗くと、そこにはお金が入っていた。


少し汚れている所から分かる。これはアンリが困らない様にゲロンが気を利かせてくれたものだ


両親はアンリの為にそれなりの蓄えを用意していた様だ、それを切り崩せば10年は遊んで暮らせるだろう。慎ましく生きればもっと長いと思われる。


しかしアンリは一月に掛かる最低限の硬貨のみを取り出し、両親の蓄えもゲロンの巾着袋も誰にも見つからない場所に仕舞い込んでしまう。


彼女にとってこれらは両親や恩人達からの想いであり、消費するものでは無かったからだ。



そして彼女は静かに泣いた。誰にも聞かれない様に静かな声で

そして涙が枯れるとアンリは再び動き出した。


「生きなきゃ」


日々の糧を得る為に。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


それから一年近く経ったある日の事


アンリはいつもの様に修行と狩りを兼ねて山を歩いていた。すると、()()は聞こえた。


「!!!うおおおおおおおおおおおお!!!」


「!?」


突然、遠くから人の叫び声が聞こえた。そしてその直後に動物の咆哮が聞こえた。


「グロロロロォォーーー!!」


アンリには覚えがあった。


「これは、棘獅子!?誰かが襲われてる!!」


アンリは声のする方に走った。


近づくにつれて棘獅子の唸り声が大きくなる。誰かが棘獅子と戦っているのが理解できた。


そして、音の発生源まで到着しそうになったその時


ガシャーーーーーーーーーーーン!!!


という巨大な音と共に微かに地面が揺れた。まるで土砂崩れでも起きたかの様だ。


そして、アンリが草を掻き分け川岸に出る。そしてその震源地に目をやると


()()()()()()()()()()()()()()()()()


奇妙な見た目の少年だった。その肌は褐色で髪は白く見慣れない服装をしていた。辺りには棘獅子のものと思われる獣の血の匂いが漂っているが、何故か死骸が確認できない、あるのは不自然に盛り上がった土砂だけだ


少年が今川岸に横たわっている。アンリは呼びかける。


「大丈夫ですか!?」


アンリが声を掛けるが反応は無い、虫の息だ


「あっ棘獅子にやられてる!」 


少年の手には棘獅子の棘が突き刺さっていた、少年はその手だけを川の水に浸して気絶している。おそらく解毒の為だろう。棘獅子の毒が魔力に由来するものである為、結果的には無意味ではあるものの、痺れる身体で咄嗟にこの行動を取れる辺り、それなりに頭の切れる人物らしい。


アンリは少年の容態を確認しようとした


「ていうか全身ボロボロじゃないですか!?」


アンリはそう声を上げた。


全身から出血しており至る所に内出血の痕跡が見られた。一体何をしたらこんな傷つき方をするのか検討も付かないが、ただ一つ言えるのは目の前の少年が死にかけている事だった。そして、アンリはそれを見捨てない。


回復:上(ヒール)!!」


アンリはありったけの力を込めて少年に回復魔法をかけた。しかし


「??……効きが、弱い?」


全身にかけているはずの魔法の効果が明らかに下振れているのが分かった。出血が止まらない。このままでは失血死しかねない。


「効いてない訳では無いのなら、まずは止血です」


理屈は分からないが、少年に回復魔法は現状効果が薄いと判断したアンリは、そう言うと常に持ち歩いている救急用品から包帯を取り出し、少年に巻き付けた。


「持ってくださいよ」


そう言うとアンリは軽々と少年を担ぎ上げ、自宅を目指す。回復魔法が効果が薄いとはいえ効かない訳では無いのであれば、とりあえず止血しリミットを伸ばし、その間にじっくりと治していけばいい。それが彼女の結論だった。


◇◇


なんとか処置を終えアンリは一息ついていた。


「本当に手間のかかる人でしたね」


アンリがそう小言を言う。どうやらこの少年は魔法に対して強い耐性を持っているらしい。全身を通して耐性があるが、特に皮膚部分がより顕著だった。通りで全身に魔法を掛けても効かない訳だ、殆ど弾かれていたのだ


これらを暴き出す為多くの時間と魔力を労した。もうクタクタだ、しかし一人の命を救えた事の満足感はそれを遥かに上回っている。


落ち着いたアンリは眠る少年の顔をマジマジと見た。


どこか異国を思わせる顔立ちであり、それなりに整っている様に見える。歳は自身とそう変わらない様に思える。本当に一体何者だろうか?


「う…ん……う…ん……」


少年は何やらうなされている様だ、無理も無い、あの体の状態で棘獅子と戦ったのだろうから悪夢くらい見てもおかしくない。


アンリ少し心配そうな表情で少年を見つめる。すると少年はうわ言を呟いた。


「皆んなどこ行ったんだ……」


「?」


「なんで俺だけ……俺だけ独りなんだ……」


「!」


その言葉にアンリは何故か過去の自分を重ねてしまった。


(あぁ…この人は私と同じなんだ、独りぼっちでここまで来たんだ)


「なんで置いてくんだ……なんで…いつも、居なくなるんだ…」


「………。」


気がつくとアンリはうなされる少年の手を優しく握っていた。放っておけなかった。そして、優しく語りかけた。


「大丈夫……大丈夫です。」


それは自身に言い聞かせていたのかもしれない。そしてこう続けた。


「今は、私が側にいますから」


ダイジェストではありますが、アンリの過去について触れられて良かったです。初めの方から六樹に対して割と好感度が高かったのは、庇護欲と自身の身の上との共感があったからですね、本当に優しい娘です。


次回から本編を再開します。

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