88話 兵は拙速を尊ぶ
「何か言い残した事はあるか?」
六樹はカノイにそう言った。意匠返しとも取れる発言だがカノイは穏やかにこう返した。
「………な…いや、有るな」
するとカノイは首にぶら下げていたペンダントを取り外し六樹に優しく投げ渡す。
六樹はカノイから目を離さずそれを受け取り聞き返した。
「これは?」
カノイは答える。
「それに魔力を込めて光らせろ。それで戦闘は終わる」
「話が早くて助かる」
どうやら外にいる別動隊との連絡手段らしい。六樹としてはありがたい話だ
ボタボタッとカノイの傷口から無事では無い量の血が溢れた。
「一つ、頼んでもいいか?」
死を悟るカノイは六樹にそう切り出した。
「聞くだけ聞いてやる」
釣れない態度にカノイは少し穏やか頬を緩めてこう言った。
「軍を率いている娘に伝えてくれ」
「………」
「恨みも、憎しみも、後悔も無いと!!」
「…………分かった、必ず伝える」
六樹の返答を聞きカノイは安堵の表情を浮かべた。そして目を瞑る。それは介錯を求めていた。
六樹は刀を振りかぶり、最期に告げる。
「貴方の剣を忘れない」
「光栄だ」
カノイが満足げな表情を浮かべた。
スパンッ ゴト……
次の瞬間カノイの首が飛んだ。
バタっ とカノイ胴体が落ちる。
六樹は近くに落ちていた葦刈を広い上げる。
そしてカノイの遺体に手を触れた。未だに鬼道の中に入ったエスタが質問する。
「まさかこいつを不死者に?」
その問いに六樹は否定する。
「いや、やらないし出来ないよ。魂が完全に成仏しててどうしようもない。ここまで暴れておいて本当に参るよ。それにもし出来たとして、一秒でも反抗されたら殺されるしな」
恐ろしい程清々しく死んだカノイに対してそう言い放つ六樹、しかしその声色には一種の尊敬の念が見られた。
「だったら何してんだ?」
「念の為、死体に何かされない様に護りをな」
すると服の懐から何かが転げ落ちた。
「?」
それは肉塊の様な物だった
得体の知れないそれに六樹が視線が向かうと突然
ギョロッ!! 「「!?」」
突然肉塊から眼球が現れ六樹と目が合った。
スパン!!直後、六樹はその肉塊を斬り捨てる。
「火炎弾!」
そして魔法で焼き払った。肉塊は炭になって完全に機能を停止する。
急いで他にも怪しい物が無いか物色するが特に見当たらなかった。
「一体なんだったんだ……!?」
六樹が困惑していると聞き慣れた声が迫って来た。
「リョウ兄ィーーーーーー!!!!」
リベルが勢いをそのままに六樹に飛びついて来た。
「良かった…!生きてて良かったーー!!」
リベルは六樹の体温を感じながら感動を噛み締める。
「おい…そんなにくっつくなよ。俺血まみれだぞ」
距離を取ろうとする六樹だが、リベルが本気で心配していると分かり穏やかなため息をつく。
「ありがとな、リベル」
そう言って六樹はリベルの頭を優しく撫でた。
数秒の後、六樹は次の行動に移る。
「リベル、勝利を喧伝しろ。それとこの遺体を頼む。可能なら丁重に弔って欲しい。」
すると六樹は葦刈やカノイに渡されたペンダントをアイテムボックスにしまう。
リベルが聞き返す
「え?うん。リョウ兄ィはどうすんだ!?」
「俺は戦争を終わらせに行く!」
そう言い残すと六樹は馬の様に駆け始めた。
(過負荷は残り147秒、間に合わせるしか無い)
六樹は魔法やスキルを駆使し、常人では出さない速度で先を急いだ
◇◇
「退け!退け!!」
魔導都市攻防戦、城壁付近ではガドル王国軍が撤退していた。
ディンが号令を出し城壁の内側に兵を収容していく
「はぁ〜、流石に疲れたっス」
ディンの近くでは傷だらけのダリアが仰向けに寝転がっていた。疲労困憊のダリアをディンが労う
「よくあの兵器を壊してくれた。お手柄だ」
「もっと褒めていいっスよ?まぁでもこっからは籠城戦っスね。はぁ〜〜….キッツいな〜」
戦況は芳しくなかった。ダリア含め打って出た兵達は何とか攻城兵器である魔導砲の破壊に成功したものの、損害が少なくなかった。
その為にここからは残った僅かな兵達てズタズタになった城壁で援軍が来るまで籠城する事になる。
すると、キシヤ・スレトリアが空から舞い降りて来た。
「魔法攻撃隊はもう直ぐ魔力切れだ、交代の人員は?」
するとディンが申し訳なさそうに告げた。
「それがですね、あの兵器を壊す為に動かしたんですよ」
ディンの言葉にキシヤは溜息をついた。
「ままならないな。やれるだけの事はやろう」
キシヤがそう言って持ち場に戻るとほぼ同時に
伝令兵が上がってきた
「申し上げます!!救護班に敵襲あり!!」
◇◇
全軍城壁の内側まで撤退を命じられ、救護班もその例外では無い。
幸い、怪我人の処置自体はスムーズに終えられた為、撤収は速やかに終えられそうになっていた。だが
「敵襲!!敵襲だーー!!!」
警備をしていた兵達の警戒を呼びかける声が上がる。そしてそれはすぐさま断末魔に変化した。
「えっなに!?何が起こってるの!?」
救護班の一人の看護士が不安そうな声を漏らす。
断末魔が異様な速度で迫って来る。
「うわー!」 「なぁ〜!!」
すると、目の前の兵達が薙ぎ払われ
魔人族の女戦士、ミツナ・ウォレストが彼女目掛けて突っ込んできた。
「はっ…」
呆然とする彼女に対して、ミツナは剣を突き出した。
ガギンッ!!!
重低音が響く
その音は肉を貫いたものではなかった。
何故ならミツナの剣をアンリが横から掴んだからだ
「させませんよ」
彼女にしては珍しい程暗い声色でそう呟く。
龍の鱗で出来た籠手により彼女の手は傷一つ付いていない。
ミツナは剣を引き抜きアンリと向き合う
「何者だ?」
「ボランティアで救護活動をしているただの冒険者ですよ?」
「邪魔するな」
「……流石にそれは駄目でしょう」
アンリがミツナに面と向かってそう言い切った。それに対してミツナが反論する。
「籠城戦になる以上、最も恐るべきは目の前の兵では無く、それらを支える救護班だ」
「それは貴方の判断ですか?」
「いや、上の判断だ」
アンリの表情が強張る。だがミツナはそんな些事は気にせず警告する。
「そこを退け冒険者、関わるなら容赦しない」
「………私は自分の信念に従います」
しかしアンリも引かない。二人の間に緊張が走ったその時
ドオオオーーーーーーーン!!!!
突如、城壁の一部が吹き飛んだ
「「!!」」
二人の視線がそちらに向かう。そこは一度魔導砲で破壊され応急的に魔法で埋められた部分だった。
しかし、論点はそこでは無く、城壁が内側から吹き飛ばされた事だった。
戦場の全員がイレギュラーに目を向ける。
砂煙が落ち着いたと同時に眩い緑の光が煌めいた。
「!?、あの光は!!」
いち早く反応したのはミツナだった。
ミツナは剣を空に掲げ光の柱を放った。
すると、城壁付近にいた人物がこちらに向かってきた。その人物をアンリはよく知っていた。
「リョウ!?」
「アンリ!!無事で良かった!」
アンリの無事を心から喜ぶ六樹はとても無事とは言えなかった。身体中傷だらけで、特に胴体に大きな傷があった。それどころか無理矢理焼いて血を止めた様な火傷がある。今動けているのが不思議な状況だった。
再会の挨拶は程々に、六樹はミツナやその裏にいる魔人族の兵達に対して大きくこう宣言した。
「剣聖!!カノイ・ウォレストは討ち取られた!!!」
そう言って六樹は葦刈とペンダントを上に掲げる。
その場の兵達に激震が走る。
「なに!!?」 「嘘だ!!」「あのカノイさんが!?」
それを見つめたミツナも明らかに動揺している。
「父上が………!?」
「これが証拠だ、信じないなら、死体を持ってくるか?」
そう言って六樹はペンダントをミツナに渡す。
ミツナは未だ信じられないと言った表情だったがそのペンダントをまじまじと観察し肩の力を抜いた。
「いや、不要だ」
ミツナはペンダントを大事そうに抱えながら続けた。
「これは母の形見だ、父が手放す筈が無い………これ以上の戦闘は無用か…」
ミツナはそう呟くと兵達に指令を出した。
「撤退!!」
その一言を持ってして、兵達が退いていく。
しかしミツナは残った。
「どうやって父を?」
ミツナは経緯を六樹に尋ねる。
「魔法で蜂の巣にした上で隙をついて斬った」
嘘は言ってないないが穴だらけの情報を話す六樹をミツナの鋭い視線が捉える。
「それで父が死ぬとは思えんな」
確信を突いた一言を返すミツナを六樹は相手にしない。
「ミスは誰にでもある。例え剣聖でもな」
「………まぁいい、話す気は無いか」
だが六樹から詳細を話そうという意思が感じられずミツナは諦める。すると今度は六樹から切り出した。
「遺言がある」
「父は何と?」
ミツナが真剣な表情で六樹に聞き返した。そして六樹は違える事なくカノイの言葉を紡ぐ。
「怨みも、憎しみも、後悔もない…と」
「………………なるほど、敵討は不要と…父上らしい」
するとミツナの肩の力が抜けた。そして六樹を見据えた。
「我が名はミツナ・ウォレスト!剣聖、カノイウォレストの娘だ!問おう!其方の名は!?」
「六樹亮、百足の六樹だ」
六樹はカノイに付けられた渾名を名乗る事にした。何故そうしたのか自分でも分からない。だが口がそう言っていた。
ミツナは六樹に対して大きく一礼した。
「感謝する」
そう言ってミツナはペンダントを自身の首に付ける。
そして六樹が手に持った葦刈を指差してこう言った。
「葦刈父を討ち取った其方の物だ、砕くなり溶かすなり好きにしろ」
「また、どこかで会うやもしれんな」
そう言ってミツナは翻って撤退を始めた。
魔王軍が去っていく、六樹はそれを警戒し続けた。
軍の影が地平線に消えていく
「……………。」
「リョウ?」
魔王軍を見送る六樹の様子がおかしい事にアンリが気付いた。
ふらっ
すると六樹は糸が切れた様に突然崩れ落ちた。
すると
アンリがそれを優しく包み込んだ。
アンリが様子を見ると六樹は気を失っていた、あるいは眠っているのかもしれない。
アンリは起こさないようにそっと優しく囁いた。
「おやすみなさい。本当によく頑張りました」
魔導都市ウィザリアで繰り広げられた二方面作戦はここに終結した。
魔法試験編これにて終了です。とは言え戦後処理とかはありますがそれはともかく、戦いは終わりました。何気に最後の最後でアンリがヒロインポイントを稼いできましたね。
カノイさんは個人的にかなり好きなキャラなんで殺したくはなかったんですが、流石にここまで大暴れして生き残るのは無いです。まさか最初に倒す魔王軍幹部が最強だなんて、クックック、カノイがやられたか、だが奴は魔王軍幹部の中でも最強!!
次回からは少し穏やかな話が続くと思います。




