87話 魔法使い
ヴェルフ・ウィザード、討死
六樹は一部始終を見ていたが何も出来なかった。いや、それどころかヴェルフは六樹を庇って死んだ。
ドサッ……
ヴェルフの亡き骸が地面に崩れ落ちる。
「………っ!!」
六樹が言葉にならない音を出す。
ヴェルフが消えた事で結界が弱体化されていくのが肌で分かる。
「……………」
死亡確認の為か、あるいは強敵への追悼か、ヴェルフを数秒無言になったカノイは剣を振り上げた。
その目線の先は隔世
(不味い!!まだ出す訳には!!)
未だ距離のある六樹には目もくれずカノイが結界に集中したその刹那
ヴェルフの亡骸を中心に魔法陣が展開された。
そこに供給される筈のない強大な魔力が迸った。
「瘴気!?」
ネクロマンサーである六樹には理解できた。
瘴気 魔力とは命を消費する際の副産物、そして生物が死ぬ際に大量に放出される穢れた魔力を瘴気と呼ぶ。基本的に誰も使いたがらない不浄の存在
だが魔力は魔力、ヴェルフは自らの死すらも利用する。
とてつもない速度で魔法が顕現する。
「!!」
カノイは咄嗟に身を翻す。しかし
グシャッ
次の瞬間、カノイの脇腹が抉れた。
まるで風の様に放たれた魔法、それはカノイの血肉を空間ごと削り取る。
「くっ…」
ボタボタボタッ……とカノイから赤い血が垂れる。致命傷こそ回避したがダメージは少なくない。
「恐れ入った!死んでも魔導師という訳か!」
カノイが負傷した隙を突いて六樹が飛び込む
その手に握られるのは砕け散ったアングリッチではない。
霊剣鬼道、抜刀
六樹はカノイの懐に音もなく潜り込んだ。
「蒼天斬」 ズバン!!!
日本刀を切り上げる。カノイは最小限の動きでそれを避けるが
「紫電一閃!」
今度は横薙ぎの抜刀術を叩き込んだ。カノイは見抜く
「動きが変わったな?……つい先程までは打ち合い、敵を知る為の剣、だがこれは敵を殺す為の剣だ」
カノイの言う通り、アングリッチを装備した時とは方針がまるで正反対だ
するとカノイも剣をあてがう。だが両者共に激しくぶつけ合わせるような真似はしない。鎬を削り、滑らせる様に互いを牽制する。
そして両者は鍔迫り合いにもつれる。そして、カノイが六樹の目的を言い当てる。
「そして、今その殺す為の剣を時間稼ぎの為に使っているな?」
「ほんとアンタ何でも気づくよなぁ」
ドンッ!!
次の瞬間、鍔迫り合いの体勢からカノイが六樹を突き飛ばした。
そして大きく剣を掲げる。先程失敗した技を再び放つ為に
だが六樹はニヤリと笑みを浮かべてこう言った。
「だが今回ばかりは気づくのが遅れたな?カノイさん?」
「…………」
そう煽る六樹は剣筋から離れる。
もうカノイの邪魔をしない
「時間切れだ!!」
「……………………………………………世断」
バリッ!バリバリバリバリバリ………ガシャーーーン!!!!!!!
隔世が崩壊していく、戦闘でボロボロに崩れた闘技場はそのままに、色褪せた世界ではなく鮮やかな夕焼けの空が広がる。
現実世界に戻って来た。
そしてそこで待ち受けていたのは
カノイを取り囲む残り全ての魔法使い達だった。
「撃て!!」
リベルの号令が響き渡る。六樹は素早い動きで瓦礫の中に隠れた。
数百人の魔法使い達による一斉掃射がカノイに向かう。色とりどりの殺意に対してカノイは
「学ばないな…」
少し呆れた様にそう呟いた。そしてすぐさま剣を振るった。
「鎬返し」
ババババッ……!!! カノイは雨粒の如く降り注ぐ魔法を受け流す。いやそれどころか弾き返した。
魔法使い達の阿鼻叫喚の声がこだまする。
カノイに弾き返された魔法は攻撃する魔法使い達に牙を剥き、一人また一人と倒れる。
しかし誰一人として手をとめる者はいない。
「やるんだ!やるしか無いんだ!!」
あるものがそう叫ぶ、その言葉に呼応する様に他の者もまた魔法を撃ち続ける。リベルが叫ぶ
「攻め続けろ!!ここで決める!!」
すると、魔法使い達が各々口ずさむ詠唱に連続性のある羅列が生まれ始める。
その先端を切ったのはリベルだ
「神は理を持って世界を創り、神の御業を我らに託された。ならば我らは理を用い、神の御業を倣するのみ」
リベルだけでなく他の魔法使い達も詠唱に加わる。
『火よ』「怒りではなく理として在れ。」
『水よ』「濁りではなく赦しとして満ちよ」
『風よ』「声なき声を運べ」
『土よ』「壊れぬ秩序として支えよ」
『光よ』「偽りを照らすな、真実のみを示せ。」
『闇よ』「拒まず、終わりを抱け」
「……分担詠唱」
目的を理解したカノイはそう口にする。だが、魔法の弾幕はより激しさを増し、カノイに反撃の隙を与えんと襲いかかる。
「「「我らは乞う」」」
「操らず、抗わず、ただ同調する。」
あらゆる属性の魔力がリベルの下に集められ、虹色に輝く球体のエネルギーが生成される。そして最後の詠唱が行われる。
「「分かたれし位相よ、いま帰一せよ!」」
「「「万なる元素よ、神の秩に従い――」」」
「顕現せよ!!」
リベルに合わせて多くの魔法使いが叫ぶ
『神統元素顕現』
至高の大魔法、理論上発動出来ると聞いた事だけはある絵に描いた餅の様な魔法だとその場の全員が疑っていなかった。
だがいまその魔法が放たれる。
ゴゴゴゴゴゴゴッ!!!!!
虹色に、いやそれでは足りない。筆舌に尽くしがたい彩りを放つ光の塊が破滅的な音を響かせながらカノイに迫った。
「ここまでされるとは、光栄だ」
カノイは考える。
(避ける事は可能、だが……流石に不粋だな)
そしてカノイは口角を釣り上げ獰猛な笑みを浮かべた。
「いいだろう!!受けて立つ!!!」
刹那、カノイは剣を振り、自身に放たれた魔法を全て刈り払う。そして更に、再び魔法を放とうとする有象無象達に広範囲斬撃を放つ。
「葦刈…」
ブシャーー!!
周囲に血飛沫が舞い散る。避け損ねた者達の上半身が無くなっていた。
魔法による一斉掃射が止む
するとカノイは目を瞑った。
「……………………………………………………!」
数刻の瞑想の後、再び目を開け剣を振り上げる。
「刻剣解放_______________」
出し惜しみ無し、魔法使い達が命を賭した至高の魔法に彼は彼の至高の剣技をぶつける。
「_______________世断」
ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ……!!!!
けたたましい轟音が周囲の人間の鼓膜を響かせる。至高の魔法と至高の剣技がせめぎ合う。
しばしの均衡の後、決着する。
………ジュバーーーーーン!!!
カノイの剣技は至高の魔法を破る。
大魔法は二つに分かれ、世界を断つ斬撃に道を譲る。
その一撃はリベルの横を通り過ぎ、街を超え、砂漠すら超えた後、緑の山脈に切り込みを入れた。
一瞬の静寂の後、至高の魔法の残骸が大爆発を起こした。
ズドーーーーーーーン!!!!
辺り一帯が爆煙に包まれた。
最大の切り札すら押し負ける。その絶望的な状況の中リベルが爆発と同時に叫んだ
「やっちまえ!!!リョウ兄ィーーーー!!!」
爆音のなか叫ばれたその声に呼応する様に六樹が再び動き出した。
手に持つのは霊剣鬼道、そしてその中にはエスタが入っていた。
「エスタ!いけるか!?」「任せろ相棒!!」
すると六樹は叫ぶ
「決めるぞ!!過負荷!!!」
すると六樹は全力でカノイに向かって走り始めた。
そして、至高の大魔法を正面から打ち破ったカノイの目前には爆煙が広がる。
それを切り裂き現れたのは日本刀を振り上げた六樹だった。
「うおおお!!!」
威嚇か、あるいは自身への鼓舞か、雄叫びを上げる六樹、しかし心の中では静かにこう唱えた。
[ステータス:オープン]
直後、カノイの眼前にステータスウィンドウが現れた。
「!」
カノイに一瞬困惑の表情が半透明のステータスウィンド越に見える。六樹は全力で剣を振り下ろさんとした。
しかし…
「温い」
ジュバン!!………と風切り音が鳴る。それは
カノイの剣が六樹を真っ二つに切り裂いた音だった
取った カノイにはその確信があった。
一度六樹を斬った時は明らかにおかしな手応えだったが今度は違う。カノイのこれまでの経験から今確実に六樹を斬った事が分かってしまう。
呆気ないものだ、おそらく大魔法を打ち破り気が抜けたタイミングで更に隠し球を使えば不意打ちが成功すると踏んだのだろう。だが勝利を確信した者というのは決定的な隙が生まれる。例えどんな実力者であってもだ、自分さえも例外では無い。
主人の死によるものかステータスウィンドウが閉じられる。
そしてそこに写ったのは
何故か無傷の六樹の姿だった
「なに!?」
確実に斬った、彼の経験がそう断言している。
だがしかし今目の前にいる六樹には先程までの負傷はあれど、体を分つ傷が見当たらない。
六樹の刀、鬼道は既にカノイに振り下ろされている、
カノイは咄嗟に剣を切り替えそうとする。他でもない剣聖である彼の剣捌きならばまだ間に合うかもしれない
だが
ズキッ!! 「くっ!」
カノイの脇腹の傷が痛んだ
偶然か、あるいは必然か、コンマ数秒の、しかしこの状況では致命的な遅れが生じた。
もう間に合わない。
六樹は何かに対して小さく呟いた。
「ありがとな、爺さん…………………魔断!!」
ジュバーン!!!
剣聖カノイ、剣技の頂点に君臨する彼が斬られた。
「かはっ…」
カノイが膝から崩れ落ちる。
スパンッ と六樹はカノイの腕の腱を切った。
勝負あり
カノイは致命傷を負いそしてもう剣を握れない。
カノイは掠れた声で尋ねた。
「な…なにを!?確かに斬った筈だ」
「あぁ斬られたよ、確実にな」
「!?」
六樹はカノイの言葉を肯定する。しかし彼には真っ二つにされた筈の傷が無い。
狐に化かされた様な気分だ、あり得ない。そんなのはもはやまるで_
「……魔法」
カノイがその結論に六樹は頷く
「ダメージを魔力消費に変換する魔法、試験を観てたならアンタも知ってるんじゃないか?」
「!!」
カノイの攻撃は間違いなく効いていた。しかし物理的なダメージから変質されていたのだ。
「何もぶっ放すだけが魔法じゃない」
ヴェルフと同じ事を言う六樹が彼の面影に重なる。
六樹は刀を構えながらカノイに語りかける。
「カノイさん、あんたは俺を一人の剣士として見てたろ?確かにそれは間違いじゃない。だがな___」
そう前置きした上で六樹は続けた。
「俺達は、魔法使いだ」
作戦は全容はこうだ
魔法試験で使われていた魔法は魔核に刻まれていた。しかしその魔核はカノイの手により破壊れていた為修繕する必要があった。
魔核の修繕、そしてそれを悟られない為にカノイを闘技場を丸々利用した結界に幽閉し、時間を稼ぎを行う。
三桁の魔法使い達による総攻撃も至高の合体魔法も全てこの複雑な勝ち筋から目を逸らさせる為の陽動に過ぎない。
そして、満を辞してダメージを魔力消費に変換する魔法を発動、この魔法で六樹が致命傷を踏み倒し
六樹の持つ鬼道とエスタの力で魔法を切り裂きながらカノイを斬ったと言う訳だ。
剣聖カノイ・ウォレストに対して、六樹が唯一剣士として勝っていたのが魔法を断ち切る事であり、カノイにも斬れず六樹には斬れる魔法の存在それが作戦の要であった。
「この場でしか使えない異例の魔法、だがこれでいい」
「ここで確実にあんたを殺せるんだからな」
六樹がそう宣言した。そしてカノイの首元に鬼道を突きつけこう言った。
「終わりだ、剣聖カノイ!何か、言い残した事はあるか?」
剣聖カノイ戦これにて決着です。いやー長かった!しかし反省はすれど後悔はしていません。この展開をやりたいが為にこの章があったと過言ではありませんから。
この倒され方なら誰であろうと対処不可能なので、敵はいくらでも強くしていいよね?という論理でカノイさんが生まれました。
そしてそのカノイに勝つ為の導線を引き六樹を導く為の存在としてヴェルフ翁が、と言った感じです。この爺さんも最後の最後まで活躍してくれました。
ハルゴスを出すパターンも書いていましたが話が散らかるので泣く泣くカット、ヴェルフにスポットを当てる様にしました。
剣聖カノイ戦、いかがでしたでしょうか?
面白いと思って貰えたなら幸いです。次回、終戦です。




