85話 剣聖カノイ
連載開始から一周年です!いつも読んでくださり本当にありがとうございます!
アルマの渾身の一撃を受けたカノイは空中まで吹き飛ばされた。
「…っ!」
眼前には魔法協会の広い敷地が一望出来る。
そしてその中に明らかにおかしな異物が混入していた。カノイの目に映ったのはただひたすらに巨大な土塊、そしてそれは人型だった。
「ゔおおおおおおおおおぉぉーーーーーーー!!!」
まるで山の様な大きさの、上半身だけが地面から生えた様な巨大なゴーレムが地鳴りの様な咆哮をあげながらその姿を現す。
大岩人
タナー・ドーンの奥の手、まるで特撮の怪獣の様なサイズのそのゴーレムは、カノイを見つけるとその巨大な拳を振り翳した。
カノイにとって幸いと言うべきか、その速度は遅い
空中で剣を構え、迎撃に入ろうとしたその時
シュバン!!と、どこからともなく魔法が飛んできた。
「!」
カノイは咄嗟に剣で弾く
(また弾かれた!)
ヒエンだ、彼女は遥か上空、雲の中からカノイを狙っていた。
(こうなったら!)
「空撃ち!連射!」
ダン!ダン!ダン!ダン!……とヒエンは狙撃魔法を連発した。
カノイはそのことごとくを弾く、そして魔法の角度からヒエンのいる方向に顔を向けた。
「不味いかも!?」
ヒエンが咄嗟に射程圏外に入るために高度を上げる。
カノイは剣を構えた。
「雲切」
スパンッ 空の雲が割れ、その割れ目から青空が広がった。
そこに赤い雨が降る。
「あぁぁぁーーー!!!脚がぁーっ!!」
ヒエンの左脚が切り落とされた。あまりの痛みに飛翔魔法が維持出来ずそのまま落下し始めた。
だが彼女の闘志は消えてはいなかった。
(まだ!狙撃手は存在し続けるだけで意義がある!まだ倒れる訳にはいかないんだ!!)
ヒエンを仕留める最大の好機、だがカノイにはそれが出来なかった。何故なら目の前にタナーの大岩人の拳が迫っていたからだ。
「地沈拳!!!!」
ゴーレムの中に居るタナーの咆哮がこだまする。
「疾駆一閃…」
シュシュシュシュ……!ズバン!!!
カノイの出した斬撃がゴーレムの腕を伝い大岩人の頭を切り飛ばした。
「うおおお!!!」
だがタナーは止まらない。
「なら…これなら…」
そう言ってカノイが剣を大きく振り上げた瞬間
ガギン!!! 「!?」
剣に何かが当たった。その感触には心当たりがあった。急いでその振り返る。
「剣先に人かすり…でも、やっと当たったかも!」
そこには自由落下しながらも杖を構えていたヒエンがいた。
「落下中に狙撃とは…」
カノイが驚きを口にする。
カノイに直接狙撃しても勘付かれると悟った彼女は一か八か彼の剣を狙ったのだ。そしてその賭けに勝利した。
「やってくれる…」
カノイに山の様な拳が放たれた。
ドゴーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!
カノイは地面に叩きつけられた。
ドーン! ゴロゴロゴロゴロ……ズズズズ……
咄嗟に受け身を取り、体を回転させ地面を転がる事でカノイはダメージを最小限に抑え込む。
随分と飛ばされたらしい、周囲を見渡すと近くに闘技場が見えた。
「っ…」
彼が額に手を当てるとそこには赤い液体が付着していた。
「…………………」
カノイは自身の血を一瞥し、無言で立ち上がる。
目の前にはタナーの大岩人が追撃をかけようと迫っていた。
「これで決める!!岩衝!!!」
「……………」
カノイは無言で剣を振り上げそして目を瞑った。
彼は周りの空気が様変わりする様な気を放つ。
「うおおおおおおおーーーー!!!」
カノイは目を開けそして、剣を大きく構えた
「…………………世断」
ジュバーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!
カノイのその一撃は世界を断つ、無論目の前にいる山の様に大きいゴーレムすら例外では無い。
大岩人が真っ二つにされバランスを失い崩れ落ちていった。
勝負ありと言わんばかりにカノイが瓦礫に背中を向けその場を離れようとしたその瞬間
「うおおお!!」
突如地面から現れたタナーがカノイの背後に飛び掛かった。無防備な背中に決死の一撃を叩き込まんとタナーは吠える。
だが
「正穿………」 ザシュ!!
「ごふっ…」
カノイの剣がタナーの心臓に突き刺さった。
ボタボタと赤黒い液体が地面に垂れる。
自身の不意打ちなど全て見透かされていたとタナーは理解させられた。
串刺しにされた状態のタナーにカノイが告げる。
「何か、言い残した事はあるか?」
するとタナーは口を歪ませて血を吐きながらこう言った。
「タナー・ドーン!この名を覚えてろ!!」
「心得た」
そう言うと、カノイは剣を振る。
「旋裂」 ズシャ……
タナーの胴体が縦に割れる。
「忘れないさ」
一言、亡骸にそう言い残した。
そして、カノイが元いた場所に戻ろうとした時、茂みの中が妖しく光った。
「無限界破!!」
「?」
バリンバリンバリンバリンバリンバリン!!!
無数に連なる結界がカノイに叩きつけられた。
カノイは剣が防御するも、その推力は凄まじくジリジリと移動させられた。
「こっ!このまま!!」
シギルがカノイを闘技場の前まで押し出す。そしてそのまま押し込もうとした瞬間
「先程から随分と移動させるじゃないか?闘技場に何かあるのか?」
カノイがシギルにそう質問した。
「!?」
(不味い!勘付かれた!どうする!?もう攻撃と見せかけた誘導は使えない!)
図星を突かれ、シギルの力が一瞬緩んだその瞬間
「飛迅」
カノイが斬撃を放った
バリバリバリバリ…………!!!と連なる結界を壊しながらシギルに迫るその時
「輝く光線!!」
突如現れた光線がカノイの剣撃を打ち消した。リヒトだ
「諦めんなシギル!!あと一歩だ!!」
「リヒト…」
カノイは今闘技場の出入り口の目の前にいる。
リヒトはシギルを激励すると動いた。
「光の矢!!」
リヒトはすかさずカノイに魔法を放つ
「鎬返し」
すると、カノイはその魔法を受け流しそしてリヒトに打ち返した。
「光刃!!」
バシュン!!リヒトは打ち返された自身の魔法を光の刃で切り裂く
「本気で行くぜ!光の槍!!」
更に光の槍も携え距離を詰めた。カノイが剣を構えようとしたその時
「聖壁!!」
カノイの眼前に突如光輝く壁が展開、一瞬意識をそちらに向けた瞬間
「!」
リヒトの光の槍が聖壁ごとカノイに叩きつけられた。
バリーーーン!!!
ズズズズ……! カノイが少し後退する。
周囲には先ほどの聖壁の破片が宙を舞っていた。
「リヒト!!」
シギルが仲間の名前を叫んだ、するとリヒトは阿吽の呼吸で魔法を放つ
「ナイスだシギル!!輝く光線!分岐!!」
リヒトが枝分かれした光線を放つ、そしてそれら全てが聖壁の破片にぶつかり進路をカノイの方向に修正した。全方位攻撃だ
「後ろの森人が厄介だな……」
そう言うとカノイは流れる様に剣を振る
「白浪…」
カノイはリヒトの光線を彼の持つ剣の反射で持って受け流し回しながら束ねていく、まるで神話でも見ているかの様な幻想的な光景だった。
そして全てを集めるとシギルの方を見た。
「鎬返し」 「!!?」
集められた光の束は後ろのエルフに放たれた。
パァーーン!!!
仲間の魔法を受けてシギルが吹き飛んだ。
「よくもーー!!!」
リヒトが光の刃でカノイに斬りかかる。
闘技場への入り口まではあと数メートル
カノイもそれに応じた。
「光の槍!」
リヒトが新しく生成した光の槍でカノイを突く、だが
「粗い」
一瞬で弾き飛ばされ、弾かれた槍は爆散した。
リヒトは尚も喰らいつく
「閃光!」
けたたましいと表現したくなるような光が周囲に撒き散らされる。
「うおおお!!」
そこに左手で光の刃を叩き込むがカノイは苦もなくそれを交わした。
そしてリヒトは空いた右手をカノイに向け、そして叫んだ
「ルクス!! スパン……
その瞬間、カノイに向けた右手が飛んだ
一瞬遅れて血が噴き出す。
単純な話だ、剣士に対して無防備に手を突き出したから斬られた、それだけの話だ。
だがリヒトは痛みに歯を食いしばり叫んだ
「っ!!!……バースト!!!」
「!!」
ドオオオオオオオーーーーーーーーーーーーン!!!
リヒトは自身の身に降りかかるであろう反動など一切考慮しない。半ば自爆の様な最大火力を血が噴き出す右手から繰り出した。
バタン リヒトが前向きに倒れこんだ。
先ほどの爆発でカノイを闘技場の中に押し込めただろうか?
そう考え土汚れた顔を前方に向けた。
そこには、いや 目の前には
ボロボロになりながらもギリギリで踏み止まっているカノイがいた。
剣を地面に突き刺し、足は地面を抉る様に深く土を踏みしている。服が焼け焦げながらも彼はまだ闘技場には入っていなかった。
「その度胸、恐れ入った」
開口一番、カノイはリヒトに賞賛を贈る。
「だが、あともう一押し足りない様だ」
しかし同時に現実を突き付けた。
すると、今尚耐えれているリヒトが笑った
「周りをよく見てみろよ!?剣聖!!」
すると、カノイの周囲の景色が変わった。いやそこまで大袈裟ではない、ほんの少しだけズレたのだ。
「!」
そして、今カノイが立っている場所は紛れもなく闘技場の中だ
驚くカノイにリヒトがネタバラシする。
「アンタの目に届く視界を少しだけズラしたんだよ!!」
「………あの時か」
それはリヒトが閃光を放ったタイミングだ、リヒトは一瞬敵の視界を奪ったタイミングで攻撃の起点にしただけでなく、インチキも仕組んでいたのだ。
もし単純にリヒトの動きをズラして見せ、カノイに攻撃を仕掛けたのであればおそらく彼は熟練の技術と長年の直感で1秒と掛からずそれを看破したであろう。
だが戦闘の最中に周辺の景色を事細かく観察する事は流石に現実ではない。ましてや閃光を放たれて視界が遮られた直後なら尚更だ。
またリヒトの直上的な性格からもこの様な絡め手を繰り出すとは考え辛勝っただろう。
だからこそリヒトは賭けた。そして勝った。
カノイは地面に倒れこんだリヒトに敬意の眼差しを向ける。そして剣を振り上げた。
「見事…」
そう言うと剣を振り下ろした。リヒトはもう避ける力も残ってはいなかった。
「守護魔法!!!」
ガギン!! リヒトに振り下ろされた剣が止まる。
「はぁ…はぁ……」
そこにはシギルがいた。リヒトの魔法をモロに食らって生きている筈がない、恐らく咄嗟に魔法で防いだのだろう。彼も無事では無い。
そして、シギルは小さく唱えた
「二つの現を重ね、隔よ」
「隔世」
その瞬間、景色が色褪せた。
カノイの前に広がったのは色褪せた不思議ない世界、先ほどまでいた場所と変わらない筈だ、今も闘技場の入り口に一歩入った場所にいる。
だが明らかに違うとわかる。
目の前からシギルも倒れていたリヒトも消えている。
端的に言えばそこは現実世界に限りなく近い異界とでも言うべき空間だった。
カノイはおもむろに闘技場の外に出ようとする。
だが出る事は出来ない。まるで磁石の同極が離れようとする様に近づく事が出来ない。
剣を一振りするが空を切るようで手応えがなかった。
「……………いいだろう」
そう言うとカノイは翻り、闘技場の中央、アリーナの方へと歩みを進めた。
カノイの足音だけが廊下に響く、そしてアリーナにたどり着いた。
色褪せた空が広がる。その景色にカノイが眉を顰めた。
するとカノイが現れた反対側から
歩いてくる二つの人影が見えた。
「全く、老人をここまでこき使うとは、これだから最近の若造は」
「文句言うなよ爺さん。俺達が考えた作戦だろ?て言うかさっきまで死にかけてた俺を労って欲しいんだけど」
「流石は百足、しぶといな?」
「聞いてやがったのか爺さん」
そこにいたのは灰色のローブにとんがり帽子を被った老人に、褐色肌に白い髪、そして痛々しい右目に切り傷のある少年だった。
その少年は変則的な両刃剣を握りしめ、胴体に血の滲んだ包帯を巻き付け、その上に上着を纏っている。明らかに怪我人だ。だがその立ち姿は怪我を思わせない。
カノイは優しく微笑んだ。
「待っていたぞ、百足のムツキ」
するとその少年、いや、六樹亮はこう返した。
「リベンジいいかな?剣聖カノイ」
キャラ紹介
名前 カノイ・ウォレスト
年齢 262歳
身長 190cm
容姿 群青色と黒の肌、角、尻尾
ステータス 筋力B 魔力E 機動B 技術S+ 射程A+
備考 元白金級冒険者であり現魔王軍幹部最強の剣聖の肩書きを持つ男。この作品において最強格の一人、ただただ強い人。基本的には善良で生真面目な性格である。かつては魔人族と人間の溝を埋めようと奔走するも、叶わず戦争が始まり今に至る。仲間や同族からの信頼は厚く、その為彼らの信頼を裏切らない様に、また後の世代に禍根を残さない為に己の役目を徹底している。彼の剣である葦刈は、かつて修行と村落の手伝いを兼ねて厄介な雑草である葦を刈っていた事が由来であり、剣聖の称号を得る前は葦刈のカノイと呼ばれていた。カノイの名前は剣聖上泉信綱からの三文字抜き取った。
ちなみに冒険者としても剣士としても後輩であり、何度も立ち塞がる六樹を実はかなり気に入っている。娘ミツナの縁談の話もあながち全て冗談ではない。




