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82話  救護班

お久しぶりです。なかなか執筆出来ずお待たせして申し訳ありません。


「魔導砲!発射!!」


魔王軍の魔人族部隊を指揮するミツナ・ウォレストの声が響き、その直後雷の様な轟音と共に、戦術兵器が放たれる。


ドッシャーーン!!!と轟音が起こった、魔導砲によってまたしても城壁が削られた為だ



「ぐっあーー!!!」 「うぁーー!!」


兵士が宙を舞いそして、数秒の後地面に叩きつけられる。


「ちっ!これで三箇所目だ」


魔導都市の防衛指揮を預かるディンが苦々しげにそう漏らす。そしてすぐさま指示をだす。


「魔法支援部隊!直ぐに壁の修復に取り掛かれ!、三番隊!一番隊の増援に行け!!あの兵器を直ぐに潰せ!!、魔法攻撃隊は三番隊の援護だ!!」


『はっ!!』



前線ではダリアが暴れているのが目視で確認できた。


「オラァ!!どこに逃げようってんスか!?」


およそ女性には似合わないサイズの大斧を振り回して鬼の形相で、まるで小石を蹴り飛ばすかの様に敵兵を吹き飛ばしていた。流石は王族専属の護衛だと納得する。



あたりを見回すと多くの負傷者が戦場に取り残されている。

ディンは少し考えた後、次の指示を出す。


「救護班は負傷者の回収を行え!!」


すぐさま救護班が動き出す。


そして、全体の戦場を俯瞰する。


魔王軍が用意した虎の子の兵器に対してガドル王国軍は熾烈に攻め掛かる事によって何とか戦線を維持していた。しかし純粋な数において現在不利を背負っている。それすなわち


「息切れしたら終わりだな」


ディンは苦々しげに誰にも聞こえない音量でそう呟いた。


◇◇



「怪我人はこちらへ!!」


ガドル王国の救護班は戦場での負傷者の回収に駆り出された。


本来であれば城壁の内側の比較的安全な場所での作業となる筈なのだが、城壁が破られその穴を埋めるべく本隊が攻勢に出た事により籠城戦から野戦に切り替わった為だ。


救護班は敵軍が後退した隙に負傷者に駆け寄り介抱や、必要なら移動させ本格的な治療を行う。少しでも多くの命を救うのが彼らの役割だ。


「誰か!?」 「助けてくれ!」 「負傷者がここに!」


「怪我の状況は?」 「もう大丈夫です!」「助けに来ました!」


テキパキと怪我人を治療していく

だが、その救いの範囲に該当しない者達がいる。


「だれか……助けて…」


重症を負った一人の魔人族の兵士が助けを求めていた。だがその声は誰にも届かない。彼だけではない、戦場には深手を負い取り残された敵兵が多くいた。


一縷の望みに縋り助けを乞うが相手にされない。至極当然の話だ、彼らはこの街に攻め入る侵略者に他ならない。助ける道義が見当たらない。


そうでなくとも自国の兵士を優先するべきだ


そういうわけで救護班の者達は当たり前の判断で少しだけバツの悪そうな顔をして無視していた。


出血により意識がぼんやりとする一人の敵兵、だがそんな時、目の前に一人の人物が現れた。


「もう大丈夫です。あなたを助けます」


その敵兵は呆気に取られた。目の前に現れたのは一人の少女、明るい茶髪でその青い目はしっかりと自分を見ていた。


アンリ・レカルカだ


その敵兵が何か言いかける前に近くにいた他の救護班の女性が信じられないと言ったふうに声を上げた。


「あなた何考えてるの!?そいつは敵なのよ!」


ぐうの音も出ない正論に対して、アンリは特に動じる事なく答える。


「私は冒険者ですので中立です。敵ではありません」


「なっ」


あっけらかんとした物言いにその女性は一瞬気圧されたがすぐに反論する。


「侵略者を癒してどうするの!?また襲ってくるわよ!?」


「流石に完治はさせません。ですが命は救います」


アンリは淡々と答える。


「生かしておいてその後はどうするのよ!?」


「捕虜、もしくはギルドに引き渡します。それすら不可能ならば教会が責任を持って預かります」


その女性は言葉を詰まらせた。感情的に動いている様に見えたアンリの言い分には意外にも妥当性があったからだ、軍が捕虜と認めるかどうかは分からないが、中立を謳うギルドや全ての人に救いの手を差し伸べる事を是とする教会であれば受け入れる可能性が高い。


軍属では無いアンリに命令は通じない、彼女は何とか否定する材料を探す。


「そっ、そんな奴よりも他に優先すべき負傷者がいるでしょう!?」


その女性はせめて自国の兵士を優先すべきと主張する。だが


「いえ、今は彼が優先です。これ以上の重症者は全て治しましたので」


そう言うとアンリは処置を施した者達を指差した。確かに彼女の言う通り今目の前にいる敵兵以上に逼迫した者はいなかった。アンリは重症者を優先して処置をしている。ただそこに敵味方の境界が無いだけだ。


「でっ、でも…!」


女性は何か否定材料を探す。確かにアンリの言い分は分かるが自分の住む街を襲う輩を治療するのが納得出来なかったのだ、だが後ろから別の声が聞こえた。


「分かりました。治療行為を認めます」


救護班の班長の男性が現れたのだ、彼はアンリに一つ条件を提示する。


「しかし、治療した後攻撃される訳にはいけません。レカルカさん、有事の際はあなたが責任を持ち処理する様に」


「分かりました。暴れたら私が押さえ込みます。寛大な心に感謝します」


それを聞くと班長は戻って行った。


すると、敵兵がアンリに質問した。


「よかったのか?」


敵兵はそう聞く、共に働く者達と険悪な状況になってもアンリは意見を曲げなかった。


「いいんです。命のやり取りをする以上、死者が出る事は仕方の無い事かもしれません。……でも私は、なるべくそれを減らしたい」


拾える命は拾いたいとアンリは答える。すると


「何で、俺を助けてくれるんだ?」


素朴な疑問、それにアンリは即答する。


「それが、私にとっての()()だからです」



そしてアンリは優しく、そして力強く敵兵に告げる。


「だから、暴れないでくださいね?」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


恨めしい、憎らしい、忌々しい、悔しい………


六樹の頭の中に大量の怨嗟の声が溢れ返る。心当たりがある。それらは六樹が無理矢理使役している死者達だ。


『何故お前がのうのうと生きているんだ?』

『早くこっちに来い』『地獄に堕ちろ』『呪ってやる』


死者達は六樹に呪詛を吐く、さながら悪魔のような精神の中、だが六樹はそれらを気に留めない。彼の頭の中では壊れたテープの様にカノイの剣技がひたすら繰り返されていた。


戦っていた時は攻撃を凌ぐ事に必死でそれどころではなかった。だが、生死の境を彷徨いながら彼の技がフラッシュバックする。それに対して


美しい


ただひたすらにそう感じてしまった。エスタの知識により理想的な身体の動きというものは知ってはいる。


だが実際に見た無駄のないそれは確かに一種の機能美の様なものが六樹の脳に焼き付いて離れない。


『こっちに来い!!』


死者達の声が頭に響いた。


「黙れ」


六樹はそれらを一蹴する。六樹は恐ろしく冷淡に告げる。


「お前らにかける情はない。情けをかけるべき相手を使った覚えもない」


『………』


同意の下協力してもらう事はある。だが六樹が使役するのは犯罪者や悪人だけだ、そして彼らを使い潰す事に対して六樹は何ら罪悪感を覚えない。


「どうせお前らは地獄行きだ、なら黙って俺に従え、少しだけ猶予を与えてやる」


六樹はそこまで言い放つ、死者達は黙りこみ反論しなくなる。

六樹は自身が死に目に遭った事によって死霊遣い(ネクロマンサー)としての支配力が向上した事を実感する。


(!?)


すると次の瞬間、突然意識を呼び起こされた



「はっ……!」


「起きましたか!?」



六樹が目を覚ますとそこは岩陰だった。

修行僧のような男フルスとその手伝いの数人に戦場から少しだけ離れた場所まで運ばれていた様だ。


「どれくらい気を失ってましたか?」


「ほんの一瞬の事です」


六樹は先程何が起こっていたのか考える。おそらく死の淵に際し走馬灯の様にカノイの剣を思い出していたのだろう。そして同時に死に近づいた事により死者達が干渉して来た様だ。これも死霊遣い(ネクロマンサー)の代償なのかもしれない。


そんな事を考えているとけたたましい音が鼓膜を揺らした。


ズドーンッ!!ビュンビュン!!


ある程度離れたこの場所からでも魔法による爆音や超常にも等しい斬撃が放たれる音が聞こえた。


「…よく一人で剣聖(アレ)を抑え込めましたな」


フルスは半分独り言の様にそう言った。


「抑え込めなくてこのざまです」


それを聞いた六樹は苦笑いしながらそう答えた。

するとフルスは本題に入る。


「拙僧は貴方の治療を任されたフルスと申します。」


そして、フルスは丁度確認出来たばかりの容態を説明した。


「貴方の傷口は肋骨を半分削る程度で止まり、幸い内臓は無事です。しかし出血が酷い。ともかくまずは傷口を塞ぐとしましょう」


そう言うと、フルスは六樹の傷口に触れて魔法を唱えた。


回復:中(ヒール)…」


今も血が流れ出す傷口に優しい魔力が流れる。傷口が塞がっていく、だが


「拙僧の術ではここまでの様です。面目ない」


フルスがそう告げた。六樹の傷口はまだ塞がっていない。どうやら中級の回復魔法の範疇ではない様だ。


「重ねがけ出来ないんですか?」


六樹の質問にフルスは首を振る。


「こればかりは、分相応な魔法を使うしかありません」


重ねがけは無意味であるとフルスは伝える。つまり専門技術を持つ人を連れて来るしかないというわけだ、どんな重症でも即座に治してくれるアンリの凄さを実感する。


「………()く」


「?」


六樹の口から出た言葉にフルスは一瞬フリーズした。


「傷口を灼きます。焼いて塞ぐ」


「なんと!?」


フルスは信じられないと言った表情だ、周りの者も同感だった様で六樹の提案を止める。


「無茶だ兄ちゃん!」 「そうだ!やめとけ!」


「縫合の手筈を整えましょう。すぐに道具を用意しますので」


フルスの提案を六樹は遮る。


「それでどれだけ時間がかかりますか!?早く行かないと…今は流れ出る血の一滴が惜しい!」


リベルは今も戦い、今にも死ぬかもしれない。今の自分にどれだけの価値があるかは分からないが、少なくともカノイの足止めは出来た。


フルスはそんな六樹の顔を見て、目を瞑って考えた後こう答えた。


「…………承りました。拙僧は火炎魔法が不得手故、後の癒術に備えます。」


「ありがとうございます。焼灼は俺がやります。自分の事は自分が一番分かる」


するとフルスは念仏のような言葉を唱え始めた。詠唱しているのだ。少しでも早く戦線復帰しようとする六樹の意思を尊重した結果だろう。


六樹は頭の中でエスタに頼み事をする。


六樹(エスタ、俺が魔法を使う。だから体の操作を頼む。痛みでブレさせるな)


エスタ(分かった、歯ぁ食いしばれよ!)


エスタは呆れたような声でそう呟くと傷口に手を当てた。そして六樹は唱える。


「火球」


傷口の前に火の玉が現れ、肉に押し当てられる。


ジューーー!!!という肉が焼ける音が響き傷口が炙られる。


(ああぁあぁあぁぁーーーーーーー!!!)


六樹は痛みに悶え苦しむ。本来であればのたうち回る所だが、エスタに身体の主導権を預けている為手足も口も動いていない。側から見れば黙々と傷口を焼く異常者に見える事だろう。


ジューーー!……… 熱で傷口が塞がるとゆっくりと火球を移動させていく、カノイに斬られた箇所を沿うように続ける。


幸いと言うべきか魔法が効かずらい体質により、ゆっくりと火が入る為、必要以上に焼く事はない。


だがそれは同時に通常よりも長時間苦しむ事も意味していた。


「ぐっ…ぐっ…くっ……」


無限に感じられた地獄のような少しの時間が続いた。



そして、全ての裂傷が火傷に変わった。


すると詠唱を続けていたフルスが六樹に魔法を唱えた。


「参る!常若の御霊(とこわかのみたま)!!」


フルスが唱えた瞬間、何か透明なオーラの様な物が六樹に伝わる。なんとも不思議な感覚だった、通常の治癒魔法とは似ているようで違う。身体に活力が溢れるような感覚。


溢れ出た魔法の一滴が地面に触れるとそこの部分だけ草が急成長したのが見えた。おそらく生命エネルギーの様な物なのだろう。


「はあぁ!!……ハァ…ハァ……」


六樹の顔色が良くなった。


そして六樹はフルスが用意した塩水をグビッ!グビッ!体が欲するままに飲む。その横でフルスは軽く説明した。


「常若の御霊、生物が持つ回復能力を底上げする術です。」


フルスの施術は自然回復を底上げするものだった。そのスタンスには東洋医学に近しいものを感じる。


「何か、デメリットは?」


六樹がそう質問した。するとフルスは答える。


「身体に負担があります故、明日は寝込む事になります。」


「ゆっくり眠れるならいい、ちょうど今死ぬほど疲れてるから」


六樹は仰向けに大の字で横になり血が充填されるのを待つ、もう少しで動ける。


すると、どこからともなく声が聞こえてきた。


『聞こえてるかムツキ?』


どこでもなかった、それは頭の中から響いていた。

そしてその声に聞き覚えがある


(この声、爺さんか!?念話かこれ!?)


『察しがいいな、細かい事は置いておく。本題に入るぞ、お前が剣聖と戦った時の状況を全て伝えろ』


そしてヴェルフはこう言った。


『今からあのカノイ(あの化け物)をどう落とすか考えるぞ』


すごく久しぶりにアンリが登場した様な気がする。

アンリは頑固な理想主義者の様な一面があり、その上で誰に似たのか理論武装を身につけているので、口論した場合かなり厄介なんでよね。六樹も尻に敷かれる訳です。

一方の六樹がヴェルフ翁とどんな悪巧みをするのかはお楽しみという事で

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