80話 私と共に
更新頻度が下がり気味で申し訳ありません。
カノイとヴェルフ、二人の人物が明らかに敵意を散らしているのを感じる。先に口を開いたのはカノイだ
「直接話すのは初めてだな、貴殿には多くの仲間を討ち取られた」
「こっちの台詞じゃ、儂の部下を草刈りみたいに切り捨ておって」
ヴェルフはそう吐き捨てる。
六樹が見てきた中で最強の剣士と最強の魔法使いが会する。
「この試験に参加しているとは聞いていた。やはり立ち塞がるか、だが意外だな?距離をとって攻撃してくるかと考えていた」
確かにカノイの言う通りヴェルフは中・遠距離の魔法が多く使える。身を隠しながらジリジリとカノイの体力を削るという選択肢もあったはずだ、だがヴェルフは否定した。
「お前さんにあの馬鹿みたいな斬撃を飛ばされる訳にもいかんので、な!」
言い終わる瞬間、ヴェルフが杖を地面に突き刺す。すると足元に妖しい光が広がった。魔法陣だ
「……」
すると、カノイが一歩大きく後ろに下がる。すると次の瞬間
ガリッ!!
という異様な音がなり先程までカノイがいた場所を何かが抉った。
「随分と血の気が多い御老体だ」
カノイがいきなり不意打ちをかましたヴェルフをそう評した。しかしヴェルフはまだ止まらない。
「樫突き!」
杖による恐ろしい程正確な突き技がカノイに迫る。
ガシンッ!!と重たい音が鳴る。
カノイはそれを剣で受け止めたのだ、するとヴェルフは一瞬で杖を引きながら唱える。
「天下」
「!」
カノイの真上、そこに空気の塊が猛スピードで落ちてきた。カノイは剣を振る。
「空断」
スパッと聞こえたとほぼ同時、二つに切られた空気の塊はカノイの左右に大穴を開けた。おそらく直撃すればすり潰されていたのだろう。
一撃必殺の応酬、だがカノイにはまだ余裕があった。
それを証明するかの様に、ヴェルフにこう語りかけた。
「しかし残念だ、出来る事なら全盛期の貴殿と戦いたかった」
その言葉は暗にカノイの方が上であると示していた。
「確かに儂ももう歳じゃ。儂一人でお前さんに勝てるなどと言うつもりはない」
ヴェルフはカノイの言葉を肯定する。だが彼の目は燃えていた。
「……儂一人、ではな?」
「………」
ヴェルフがそう言った瞬間、カノイに複数の魔法が襲いかかった。
ズドーン!!シュシュ! バーン!!
電撃、黒い矢、そして爆破
多様な攻撃が突然何も無い場所から放たれた。
六樹は状況が飲み込めないがとにかくカノイの生死を見定める。だが
ビュン!ビュン!
と辺りの煙を切り分けながらカノイが現れた。
「無詠唱か…」
カノイはそう呟くと、何も無い場所に向かってこう言った。
「出て来たらどうだ?」
カノイの呼び掛けに何物かが応じた。
フッと、先ほど魔法が放たれた場所の近くから大きなコートを着た男が現れた。
その男はフードを外す事で魔法を解除した様だ、そして、六樹はその人物を知っていた。
「!?」
「見苦しい所を見せたな、少年」
そこには陣羽織のガイトと呼ばれる魔法使いがいた。
そしてガイトはヴェルフに話しかけた。
「ヴェルフ翁、どうやら失敗の様です」
「見れば分かる。まぁ予想通りだ」
すると今度は隠す気などさらさら無い様な大きな声が響き渡る。
「本気でいくぜ!!光の槍!!!」
その直後、もはやミサイルの様に太い光の槍がカノイに迫った。
「旋裂」
カノイはそれを特に臆することもなく剣で切った。それはまるで映画の弾丸を切って防ぐ様な滑らかな動きだ、縦に真っ二つになった光の槍はカノイを通り過ぎた後大爆発を引き起こした。
攻撃はまたしても失敗したがその声は高らかな声で名乗る。
「光術師リヒト!!ここに参上!!」
そう言うと近く森からリヒトが現れた。
「不意打ちなら静かにやれ」
カノイのダメ出しをリヒトは吹き飛ばす。
「不意打ちじゃねー!宣戦布告だ!」
そう言うと、リヒトだけでなく他の魔法使い達も続々と姿を現した。
「我が名はアルマ!錬金術師だ!」
大きな鎧を纏った鬼人族の戦士が名乗りを上げる。それに呼応してか他の者達も次々に名乗り始めた。
「タナー・ドーン!」
一人は野人の様な粗暴な男で、拳を突き合わせながら己の名前を叫ぶ
「拙僧はフルスと言う者です。お見知り置きを」
また一人は修行僧の様な格好であり、穏やかな表情でそう言った。
「ちくしょう!こうなったらやってやる!!僕は結界術師シギルだ!!」
エルフの少年が半ばヤケクソ気味にそう叫んだ。
増援
指揮系統は壊滅していたので援軍の望みは薄いと考えていた。皆が逃げている筈だと
だが、現実はもう少し救いがあった。多くの者が立ち上がってくれた。
六樹は安心感からか、もしくは大量の出血の為か力が抜け、その場に倒れ込みそうになった。だが
グッと下から誰かに肩を支えられた。
そして、その者の声が六樹の朦朧とし始めた意識を繋ぎ止める。
「リョウ兄ィ、良かった。生きてる」
六樹の肩を支えたリベルが心の底から安堵した様な表情で傷だらけで今にも倒れそうな、だが確実に生きている六樹にそう言った。
彼女の髪は魔法で染める事のない純白だった
「リベル…なんでここに?」
掠れる様な声で六樹がそう尋ねた。するとリベルが答える。
「私が連れてきたからだ」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「お願いします!!」
魔法協会本部、いや厳密には既に跡地とでも言うべき箇所で一人の少女の声が響く。
瓦礫の山の前でリベルが魔法使い達に頭を下げていた。そのうちの一人がバツの悪そうな顔をした。
「すまないな嬢ちゃん。瓦礫に埋められてた俺たちを助けてくれたのは感謝してるんだが…あの剣聖と戦ってくれって?助けてやりたいが、正直言って命が惜しい」
その場にいた多くの者が俯いた。剣聖カノイと戦うと言うことは、死地に向かう事と同義だからだ。
遠距離から放たれたたったの一振りで先程まで生き埋めになっていたのだ、運悪く斬撃が直撃した者も見た。彼らがどうなったかは言うまでも無い。本部にいたのは試験で魔力を使い果たした者達であった為、被害が甚大だったのだ。
ある者は目を逸らし、またある者はこう呟く。
「私には家族がいるんだ…死にたくない…」
だがリベルはめげない、そう呟いた一人の男に対して問う。
「なら、逃げた先で死にますか?」
リベルのその言葉に周囲が凍りつく。
リベルは続けた。
「聞いてください!!今、剣聖を叩かなければこの街は確実に落ちる!その先に何があるかはわかるはずです!!だから私達は戦わなければいけない!戦かって死ぬか逃げて殺されるかどちらか選べ!!」
魔法使い達に動揺が走った。そして一人の魔女がこう漏らす。
「奇跡に命を賭けるの?」
リベルはハッキリと返した。
「いえ違います。奇跡ではない!勝算です!私は最も高い可能性に賭ける!!」
リベルは更に全員に対して問いかける。
「この場にいる魔法使い達に問います?あなた達は何故この試験に参加しましたか!?自身の力を確かめる為?それとも地位や名声ですか?」
「それは分かりません!ですが少なくとも私は、あなた達が自身の技に誇りを持っている事は分かります!積み上げて来た強さを私は知っています!ならばこそここでそれを示しなさい!!」
リベルの言葉に熱が籠り始める。
「たった今!私達の為に命を賭けて戦っている者がいます!私はあの人の為なら命を賭けられる!彼が私の為に死んでもいいと言ったから!」
そして、リベルは問いかけた。
「問います。あなた達は何になら命を賭けられますか?」
リベルの髪が魔法で染めていた水色から彼女本来の純白に戻る。そして、宝石の様な紫の瞳で魔法使い達に告げた。
「自己紹介が遅れました。私はガドル王国第二王女、リベルテ・エト・バシレウスと申します!!ここにはいない父上の名代として告げる!!私と共に戦え!!」
リベルの突然の告白と、真に迫る迫力にその場の全員に動揺が走った。
「王女様!?」「ほんとか!?」「嘘だろ!?」
疑念と困惑が辺りを包む、そこに別の方向から声が響いた。
「間違い無い!!そのお方は王女殿下だ!この儂が保証しよう!」
それは魔法使い達にとっては知らないも者はいない人物だった。
「ヴェルフ翁!?」
杖を持った老人が大勢の前に現れる。そして、リベルの前に跪く。
「お久しゅうございます姫様、ヴェルフ・ウィザード、ここに参陣いたす。少しばかり早く棺桶に入るとしましょう」
その言葉を聞いた者達が一斉に息を呑む。すると、すぐさま一人の青年が名乗りが上げた。
「俺は行くぜ!」
現れたのはリヒトだ。リヒトはリベルにこう聞いた。
「今剣聖と戦ってるってのは、あの褐色白髪の目に傷のある剣士だろ?」
リベルは黙って頷いた。するとリヒトはニヤリと笑う。
「なら戦友だ!俺は友達の為なら命を賭けれるぜ!シギル!お前も行くよな!?」
「えぇ!?」
リヒトの突然の呼び掛けに遠巻きに見ていたシギルが間の抜けた声を上げた。
「……分かったよ。やるしか無さそうだし」
「そうこなくっちゃな!」
「私も同行する。今戦っている彼を見捨てる訳にはいかない」
そう言ったのはアルマだ、彼女は付近の鉄を集め戦闘準備を整え始めていた。そして、十数人の男達がリベルに駆け寄る。
「王女殿下、我々も王国軍としての責務を果たします。どうぞご命令を」
先頭に立つガイトがそう言ってリベルに跪いた。後ろの男達はどうやら彼が集めていたらしい。
「他に、私と共に死んでくれる者はいますか?」
一瞬の沈黙の後、全員の目の色が変わる。迷いが消えた顔をしていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
そして、リベルは多くの者を引き連れてここにいる。
エゴとプライドと責任を胸にカノイと対峙することを選んだ。
「私に出来る事をした結果だ、後悔はない!」
六樹に対してリベルはそう答える。そしてこうも続けた。
「あとリョウ兄ィ!私を郵便代わりにしてんじゃねー!謝りたいなら自分の口で謝れ!!この大嘘吐き!!」
リベルがそう激昂した。六樹は狼狽えながら質問した。
「な、なんで逃げなかった!?」
六樹は信じられないと言った様子でそんな事を口走った。この場においてまだそんな事を言う六樹がリベルの逆鱗に触れる。
「うるせぇ!!言わせんなよクソボケが!!!だいたい私の護衛なら私に従え!私を守れ!!私に寄り添え!私を見ろ!!」
「ずっと私の…側にいろ!!!」
「な………」
リベルに捲し立てられ六樹は言葉を詰まらせた。
さらにリベルは六樹を支えながらカノイにこう宣言する。
「私はガドル王国第二王女、リベルテ・エト・バシレウスです。剣聖カノイ、この国の王族の責務として、貴方を討伐します」
いつもとは違う凛々しい声での宣戦布告、それを受けたカノイの口元が少し綻んだ。
「いいだろう。受けて立つ!」
そしてカノイもその場の全員に宣言する。
「手間が省けた。全員纏めてかかってこい」
今回の話でリベルは良い意味でわがままになった様な、自身の生まれなどの特権も利用する様になったと言うか、とにかく一皮剥けた様な気がします。
リベルは父親に似て残酷な事を言う事もありますが、真っ当に悩んで真っ直ぐに成長するので気持ちが良いです。




