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76話  護衛対象

気合いを入れて書こうとすればするほど筆が重くなるというジレンマ


「最強の男か………」


六樹は絶句する。カノイと剣を交えたのは小手調べ程度だったが確かにあれは想像を絶する強者だった。だからリベルの言葉に納得出来てしまった。


「リベル、王女だってのはバレてないな?」


「う、うん。多分」


リベルはよほど恐ろしい目にあったのか項垂れていた。六樹は淡々と対応する。


「魔力はどれくらい残ってる?」


「残り2割位だ」


「じゃあこれを飲め」


そう言うと、六樹は魔力回復のポーションを5本差し出した、六樹が持っていた全ての数だ。


リベルはポーションを飲んで魔力を回復する。体の中にエネルギーが補充されるのを感じる。


「あっ、来たか…」 「?」


すると、六樹が突然虚空に向かって話始めた。


「……かなり不味いな」 「それは本当か?…そうか」

「………分かった」



六樹の奇行にリベルが質問する。


「リョウ兄ィ、誰と話してんだ?」


「あぁ、浮遊霊に色々と様子を伺わせてたんだ」


六樹はそう答えた。そして仕入れた情報を共有する。


「今この都市は魔王軍に包囲されている。その上で一箇所城壁が壊されて魔王軍が侵入しようとしてる。幸い今は食い止めているらしいが…」


「そんな!……そっか、結界が破られたんだ」


六樹は更に付け加えた。


「そして、恐らくその場にアンリがいる」


「アン姉ェが!?」


「宿屋に救護活動に参加するっていう書き置きがあったらしい。確かにアンリらしい行動ではある」


六樹は頭を抱えながらもう一つの報告を話した。


「もう一つ、さっきの魔法協会を両断した所を確認させた。本部は全壊、指揮系統も壊滅、援軍は期待出来ない。やられたな」


最悪の報告、六樹はさらに付け足す


「あと、妙な事が分かった…」


リベルが怪訝な表情をする。六樹は神妙な面持ちで話した。


「さっきの一撃、あれは本部の建物を丁度切る位で止まってた」


「それがどうしたんだ?」


リベルが素朴な疑問を投げかけた。六樹は懸念を話す


「おそらくアイツは必要な分だけぶった斬ったって事だ、つまりまだアイツの底が見えない。更に射程を伸ばす事が出来ると考えた方がいい」


「ウソだろ!?あれだけの一撃がまだ本気じゃないって!?」


リベルは信じられないといった様子だった。

それを横目に六樹は今後の方針を考えた。


「…………はぁ〜…」


六樹は大きなため息をつくとリベルにこう言った。



「リベル、お前は逃げろ」



「….え?」


六樹は淡々と続ける。


「どこか安全な場所、冒険者ギルドか教会の地下なんかに避難しろ」


リベルは一瞬キョトンとした後聞き返した。


「私()ってどう言う事だよリョウ兄ィ?リョウ兄ィはどうするんだよ!?」


「俺はアイツを排除する」


「無理だ!!死んじまう!!」


リベルはそうはっきり断言した。


「死んじゃうよ…いっしょに逃げよう?」


リベルが彼女にしては考えられないほど弱々しい声で六樹にそう言った。


「そういう訳にもいかない」


だが、六樹の答えは変わらない。


「なっなんで!?」


リベルの問いに六樹は気が心底嫌そうな様子で答えた。


「選択肢が無いからだ」


「!?……」


困惑するリベルに六樹は説明した。


「アイツの攻撃範囲だと恐らくこの都市を更地にする事もできると思う。さっき本部を切った斬撃を遠距離からいくつも飛ばされたら詰む」


「でも流石に街までは攻撃してこないかも」


「相手の善性を信じて行動するのはリスクが高すぎる」


リベルの考えを六樹は退ける。そしてこうも続ける


「それにもし上手く隠れられたとしてもアイツは次に外で敵軍を食い止めてる守備兵を狙う、そこにはアンリがいる。そしてこの街も落ちる。だから根本を断つ」


「だっ!だったら私も!」


「駄目だ」


六樹はリベルの言葉を遮った。その言葉にリベルが反発する。


「なんで!?」


「お前を死なせる訳にはいかない。俺だけでいい」


リベルは聞きたくない事を聞かずにはいられなかった。


「そ、それは私が…()()だから?」



「……そうだ」



六樹はリベルの問いに肯定した。


「リベル、お前は王族で女子供でおまけに弱い。だから死なせる訳にはいかない」


六樹は冷たくそう言い放つ。それは恐らく彼女が聞きたくない言葉だからだ。



「なんで王族かどうかなんてリョウ兄ィが気にするんだよ!?関係ないだろ!!」


六樹はその言葉に少し考えた後、こう返した。


「………関係ある。黙ってて悪かったリベル、実は俺はお前の護衛だ」


「え?……それってどういう……」


六樹の突然の告白にリベルが信じられない様な顔をした。対する六樹は経緯を説明し始めた。



「元々魔法試験に参加するお前の護衛と支援を頼まれてた。その道中で明らかに王女を狙った人攫いが起こってたから潰しに向かい、その時にたまたまお前と会った。」




「えっ…じゃあ…」


「あぁ、今まで一緒にいたのは護衛対象が近くにいてくれると助かるから、試験中お前を攻撃しなかったのはお前を試験に受からせるためだ」


「嘘だ!!そ、それじゃあ!?これまで一緒に街を巡ったり、美味い飯作ってくれたらしたのはなんだったんだ!?」


リベルは受け入れられないと言った様子で六樹に声を張り上げる。たが、その回答は冷たいものだった。




「もちろん、王女様(お前)の機嫌を取る為だ、決まってるだろ?」




リベルはこれまでの関係が偽りだと言われ、膝から崩れ落ちる。


「う、嘘だ……」


六樹はそんなリベルに目をくれず紙とペンを取り出し何かを書き始めた。


「私は、どこまでいっても守られるだけの存在なのか……私は世界を自由に旅してると思ってた、でも……私が見ていた世界は、綺麗に手入れされた…箱庭だったのか……」


「……………」


六樹はリベルの方を向かず、そして何も言わない。ただ紙に何かを書き続ける。


そして、書き終えるとそれを封筒に入れ封をする。そしてリベルにこう言った。


「俺はもう行く、()()()()()()、お前はなるべく安全な場所に逃げろ。そして自分の出来る事をしろ」


「私に出来る、こと?」


「あぁ、そうだ。お前に出来る事、お前にしか出来ない事をするんだ。………あともし俺が帰らなければ、悪いがアンリにこれを渡してくれないか?」


六樹はそう言うと封筒を手渡した。リベルは力無くそれを受け取る。


「……これは?」


「聞かないで欲しい。俺が言えた義理じゃないが………頼む」


「!」


その時リベルは気付いた。封筒を手渡した六樹の腕が震えている事に、そして察した。六樹が渡した封筒、それには恐らく遺書の類が入っているのだと。


「…………リョウ兄ィ」


「行け」


六樹の言葉に封筒を持ったリベルが駆け出す。必死に堪えようとしていたがその目には涙を流していた。


六樹はその背中を見つめる。


エスタ(これでよかったのか?)



「あぁ………これでいい。リベル(あいつ)が傷付くとこなんて、ましてや死ぬとこなんて見たく無い。それにこうしておけばまだ後腐れもないだろう」


エスタ(自分すら騙せないクソみたいな言い訳だな?だがまぁ…あの娘をこの場から離すのは賛成だ、それに普通に言っても聞かないだろうしな)


エスタは消極的に賛成した。六樹は大きく深呼吸すると先程カノイがいた方向に振り返り歩き始めた。



六樹は歩きながら準備を整える。緋影を両腕に一つ、両脚に二つずつ忍ばせる。いつでも投げたり刺したり出来る様にする為だ。


アングリッチの汚れを拭き取り切れ味を保つ。


魔力漬けにされた猪の干し肉を齧り、魔力を限界まで身体に押し込める。


六樹は内心考える。


(もしもの時はハルゴス(あれ)を出すか?)


六樹が考えたのはハルゴスをカノイにぶつけるという事だ。正直言ってどちらが強いのか分からないが勝負にはなりそうだ。しかし


(いや、やめておいた方がいいか)


六樹はその考えを否定した。ここは都市部で人が多い。ハルゴスが見境なく暴れ回るとなれば収集がつかなくなる可能性が高い。それにもし出しても両者がそう上手くかち合ってくれるとも限らない。カノイにこの街を守る義務はないからだ、普通にスルーされて危険因子が二つになるだけの可能性の方が高い。


これらの理由から六樹はハルゴスを出す事はメリットよりもデメリットが大きいと判断した。最大の切り札は使えない。


「エスタ、俺……勝てるかな?」


六樹が珍しく弱音を吐く。するとエスタが答えた。


エスタ(真っ当に行けば9割負ける。だけどな相棒!お前は真っ当からは一番遠い存在だろ?)


「ふふ、言ってくれるな」


六樹が静かに笑う。すると今度はエスタが六樹に問う。


エスタ(相棒、これが最善手なのか?)


エスタはこれから死地に飛び込む六樹にそう確認した。


「いや、悪手だな。あんな化け物と敵対してる時点で悪手以外の何物でもない。本当の最善手は戦争なんか起こさない事だ、もう手遅れだけどな」


だが六樹はそれを否定した、それどころか悪手だと断じる。そして最善手はもうないのだと。


エスタ(なら、何故向かう?)


六樹はその答えに迷わなかった。


「最悪よりはマシだからだ」


そう言った六樹の目には死への覚悟の様なものがあった。


そしてエスタに、あるいは自身に告げる。



「………………行くぞ」




◇◇


「う……ゔぅ…」


リベルは涙を流しながら走っていた。


その内心は嵐の様に荒れていた。


カノイと遭遇した時に味わった本能的な死への恐怖

六樹とのこれまでの思い出は全てまやかしだったかもしれない虚無感

弱いと言われた時何も言い返せなかった悔しさ

あらゆる負の感情が決壊した様に押し寄せる。



そして何より、六樹がカノイを抑えくれる。そして自分は逃げていいと言われた時に心のどこかで安心してしまった自分が、震えた手で渡された遺書を受け取ってしまった自分が心の底から許せなかった。


六樹の遺書を強く握りしめながら走るリベル、だが


「はっ!ぐっ……」


涙で視界がぼやけた為か、足に躓いて転倒してしまう。そしてその表紙に封筒が破けてしまい、中の手紙が飛び出す。


「……リョウ兄ィ…」


リベルは気が付いた時にはその手紙を読んでしまっていた。そこには習いたての様な拙い字でこう書かれていた。


アンリへ

『まずは謝罪をしなければいけない。この手紙を読んでいる場合は俺がしくじった時だと思う。その場合また君の心に傷を与える事になるかもしれません。

この世界に来てから不運な事ばかりだけど君と出会えた事は確実に幸運だったと言えます。

もしよければ最期に一つ頼みを聞いてください。

リベルの事を気にかけてくれませんか?実は彼女を逃がす為に心を傷付けたからです。もう私が謝罪する事は出来ません。だから後を頼みたい。まぁでもアイツを守って死ぬと言われれば意外と悪くないないかも?なんて考えてみたり


短い間だったけど君のおかげでこの世界もいいと思えれた。心より感謝を          六樹・亮』


一心不乱に手紙を読んだリベルが苦痛の様な声を上げる。


「嘘つき!!嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき!リョウ兄ィの嘘つき!!」


リベルはそう六樹を罵倒する。普段から腹の内が読めない男だった。アンリはそんな彼の心根を見透かしている様だったが、知り合って日の浅いリベルは彼の冷たくて痛くて残酷で、それでいて優しい嘘に騙されてしまった。


リベルは大粒の涙を腕で拭き取り、そして止める。


「死なせてなんてやらない!この手紙は届かない!!」


リベルは六樹の言葉を思い出していた。自分に出来ること、自分にしか出来ない事を


そしてリベルは顔を上げる。そこには先ほどの涙は無く凛々しさだけが残っていた。彼女の意思が一つにまとまる。それは


あの()()()()()()()()()()()()()()()というものだった。


そして、彼女が目にした先には………


今回の話は六樹とリベルの関係の捩れみたいなものが表出した回だった気がします。リベルの再起と恐怖に直面した六樹の人間臭さが見られたので私は満足です。それはそれとして六樹は筆が早い。

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