73話 侵入者
ここからしばらく別地点の物語が同時進行で進む事になると思います。
「……?」
ヴェルフがふと上を見た瞬間
ウウウウウウウウウウウーーーーーーーーーー!!!
と周囲にサイレンが鳴り響いた。そして放送が始まる。
「ウィザリア郊外において魔王軍の侵攻を確認。住民の皆様は指定の避難場所、もしくは冒険者ギルドへの避難を速やかに行ってください。また、ウィザリア支部所属の冒険者各位はすぐさま指定の場所への避難誘導を行なってください。」
繰り返し流される放送、それを聞いたヴェルフが眉を顰めた。
「魔王軍とな……」
「またか、クソ、よりによってこんなタイミングで」
「まぁ偶然ではないわな」
ヴェルフの答えに六樹は苦笑いしながら賛同する。
「そうだよなぁ、明らかに意図的に仕掛けてきてるよなぁ」
すると、別の放送が流れた。それは先程と違う声だった。
「二次試験に参加した皆様、只今魔法協会は充分な警備の元皆様の安全を確保しております。つきましては軽率な行動は控え、魔法協会本部の方に向かって下さい。」
避難しろとの指示が入った。
六樹は焦らながら今やるべき事を整理する。
魔法協会本部の建物があるのは今六樹がいる荒野エリアから北に向かえばすぐだ。
だが今一番優先するべきはリベルの身の安全だ。南東の森林エリアに吹き飛ばした筈なので急いで合流しておきたい。
アンリの身の安全も気になる所だが彼女なら冒険者ギルドに避難するだろう。ギルドは中立なので襲われる心配は少ない。もし襲われても屈強な冒険者達が応戦するためそう簡単に落ちる事はないだろう。
そういう訳で、六樹はリベルがいるであろう森林エリアの方向に足を向けた。すると
「おい貴様、どこへ行くつもりだ?」
そう言ってヴェルフに引き留められた。
「一緒に試験に参加した仲間を迎えに行く」
「そうか、ならこう言い直そう。その状態で行くつもりか?」
ヴェルフが六樹に指を刺す。確かに六樹は今はボロボロの状態だ、肉体的なダメージこそ無いものの魔力は空っぽに近い。十全に戦える状態とは言えない。
「魔力はポーションとかで回復するよ」
「たわけ!これから戦闘が始まるかもしれん状況で物資を浪費するな!少し待て、魔力を補給してやる」
ヴェルフは六樹を先程戦闘していた場所まで引き連れた。
「ここは龍脈が流れておる。これを使って体内に魔力を流し込む、手を出せ」
「魔導師ってそんな事も出来るのか」
六樹が感心していると、ヴェルフが訂正する。
「違うな、儂だから出来るんじゃ」
六樹が手を出すとヴェルフはそれをがっしりと掴み、何やら集中し始めた。六樹も手に何かのエネルギーが当たってるのを感じる。だが
「??……おかしい、貴様なぜ魔力が通らん?」
ヴェルフが困惑した表情を浮かべた。六樹は体質的に魔力に対する高い耐性を持つ、特に変色した皮膚は魔力を殆ど通さない。それなりに恩恵が多いこの体質はこの状況では足枷となった訳だ。
「え〜と、体質的に魔力を通さない体でして…」
そう弁明する六樹、するとヴェルフはすかさず質問する。
「……ポーションは効くんじゃな?先程も魔力漬けにした趣味の悪い肉を食っていただろう?」
「ええ?まぁ…はい…」
だがヴェルフは別の方法を模索する。そしてどうやらあのイノシシの肉は魔導師からすれば悪趣味な食べ物と見えるらしい。
「跪け、そして上を向いて口を開けろ」
「………?」
とりあえず言う通りにしてみる六樹、するとヴェルフは手に持っていた杖を六樹の口に突っ込んだ
「!??ぐぇ!!?あにを!?」
「少し黙れ……やはり内部からならいけるか、今お前の体に魔力を流し込んでおる。少しばかりの辛抱じゃ」
「グオ!!ゴホッ!!…ぐ……」
(正気かこのジジイ!!?やるなら先に説明しろよ!!うぅぅ、気持ち悪い……吐きそう)
悶絶する六樹、それはまるでホースを食道に突っ込まれて無理やり水を飲まされてる様な感覚だった。
エスタ(相棒、お前には悪いがここは耐えろ。魔力がどんどん回復してきた。これなら存分に動けるぞ!)
エスタの願いにより六樹は苦行を耐え続ける事にする。そんな六樹に魔力を流し続けるヴェルフが一言
「……?、貴様の体は魔力が大量に詰め込めるな?ここまで圧縮出来るのは初めてじゃ、破裂したりせんだろうな?……まぁ、その場合どうなるか見てみたいとものだが…」
(このクソジジイ!!いつかまたブン殴る!!)
六樹は静かにそう心に誓うのだった。
◇◇
「はぁ〜〜〜〜…リョウ兄ィにしてやられたのは腹立つけど、とりあえず受かってよかった。結局あの後は雑魚としか当たらなかったな〜」
森林エリア、試験を最後まで勝ち抜いたリベルは大きく伸びをして体の疲れを取っていた。
「確かにこのまま帰っていいんだよな?はぁ〜汗臭〜、早く帰って風呂入りたいぜ」
戦場跡に残ったリベルはそのまま直帰する事にした。
魔法協会の広大な敷地の南にある門がこの日は開放されるらしいのでそこから出ようとリベルはエリアの南門を目指す。
フィールドのヘリを伝って移動して森林エリアと雪山エリアの境目を付近まで行く、そこではもう用済みとばかりに雪が溶け始めていた。
雪が溶けた事によって可視化されたのか、あるいはつい先程出現したのか、石畳みの立派な道が南北へと続いていた。北の方を見ると先程大乱戦を行なった闘技場とその先に魔法協会本部の大きな建物が見える。
「ひえ〜、スゲー魔法技術だな」
好きな様にフィールドを書き換える技術力に驚くリベル。すると、係員の声が聞こえてきた。
「参加者の方はこちらはどうぞー!」
「こっちから帰れるんですか?」
「はい、南門はあちらです。あっ、それと魔核の方には近づかないでくださいね。見学する分には構いませんが」
指示に従って南門に誘導されるリベル、数人だがポツポツと他の参加者達の姿も見えた。
通路を進むと道が円形に大きく広がり、その中心に大きな青い宝石の様なものが現れた。それを周囲に警備兵がついて見張っている。
「これがこの街の結界の核か、初めて見たな」
それは巨大な魔石にビッシリと魔法陣が描き込まれたものだった。魔導師ではないリベルでも明らかに魔力が大量に流れているのを感じる。
都市防衛の機構とあり、普段は閉め切られ近づく事すら許されないのだが、今日のような試験の際は魔法使い達に見学させる意味も込めて近くに来る事が許可されていた。
指示に従い魔核と一定の距離を取りながら少し立ち止まって観察するリベル、そして見張りの兵士の一人に少し話を聞いてみる事にした。
「すみません、この魔核ってどんな魔法が入ってるですか?なんか色々描いてるけど」
すると兵士は快く教えてくれた。どうやらこの街の住人なら誰でも知っている情報だそうだ。
「あー、これね。街を守る結界もそうだけどこの下に通ってる龍脈から魔力を汲み出して街中に送ったりしてるんだよ。他にも色々機能があるけど…そうだ!さっきまで発動してた肉体的ダメージを魔力消費に変換する魔法なんかもこれで動かしてるんだよ」
「あ〜!あれか!結構手広くやってるんだなぁ」
リベルが兵士と話をしていると
突然どこからともなくサイレンの音がが鳴り響いた。
周囲の兵士達が一斉に身構える中、放送が始まった。
「……マジかよ」
放送を聞いたリベルがそう呟いた。兵達は裏門を閉め切り警戒態勢に入る。そして、一人の中年の兵士がリベルに呼びかけた。
「嬢ちゃん、早く本部に行っておいで!あそこなら安全だ」
「そうだな……」
帰ろうとしていた所だったがこうなってしまえば仕方がない、リベルはそれまでとは真逆の方向に向かって歩き出した。
「………ん?」
しかし、少し歩いた所で違和感を感じた。何やら後ろの方が騒がしかった。妙な胸騒ぎを覚えた。
◇◇
南門の警備兵は門を閉め切り警戒態勢を整えていた。
当然ながら魔法協会の門というのはそこらの屋敷にある物とは訳が違う。いくつもの防御魔法が施されており、それはまるで開け閉め出来る城壁と言っても過言ではないほど頑強なものだ。
これさえあればおよそ心配は無いだろうと多くの兵達が内心そう考えていた。信頼していたとも言える。
そんな南門の前にローブを羽織った一人の人物が現れた、体格からして男だろう。
「そこの君!ここからは魔法協会の土地だ!通り抜けは出来ないよ!」
「…………」
一人の兵士がローブの男にそう告げる。だが、その男は尚も近付いてくる。その場にいる20人余りの兵士達が腰の剣を握る。兵士は尚も警告を続けた。
「止まりなさい!!一般人の魔法協会への立ち入りは出来ない!それ以上近付くなら攻撃も辞さない!!」
「……警告は不要だ。俺がここに来た理由、それは討ち入りの為だ」
そう言うと男はローブを脱いだ。ローブの男、いやカノイの姿が陽の光に照らされる。
「魔人族だと!……魔王軍か!?」
兵達が一斉に武器を構える。カノイのその姿は悪魔と人間の中間の様な姿だった。その肌は群青色と黒が入り乱れた様な模様であり、悪魔の様な尻尾、そして頭には山羊の様な角が生えていた。
そんな異常事態に兵士達の対応は早かった。
「かかれーーー!!!」
その場の兵達が一斉に走り、カノイに斬りかかる。相手に何もさせない為に先手を打つ為だ、確かにそれは悪い手ではなかった、相手が彼でなければだが。
「何か、言い残したこと事はあるか?」
カノイは腰に据えた剣の柄に触れると兵達にそう問うた。
「うおおお!」「動くなー!」「降伏しろ!」
警備兵達は侵入者の戯言に構わず進む。
「無いようだな…」
カノイはそうため息をついた。
『うおおああおーーーー!!!』
兵達がカノイに迫る。このままでは、あと一秒もかからないうちに大量の剣撃が浴びせかけられるだろう。
カノイは剣の柄を握った。そして呟く
「紫電一閃」
スパッ……………
「……は?」
その様な気の抜けた声を誰かが出した。
その場の兵達の視界がズレたからだ。真っ直ぐ進んだ筈なのに何故か空を見上げている。また別の物は地面を直視し、またある者は左右のあらぬ方向に視線を向けている。
「………がっ!?」
そして、一瞬の間を置いて全員が気付いた。
自分たちが真っ二つにされている事に
ガシャーーン!!!というけたたましい金属音が響く、それは彼らが守ろうとしていた南門が先ほどの斬撃で崩壊した音だった。
「かっ…のっ……!」
気付いた時にはもう遅い。もう彼らに下半身は無く何も言い残すことは出来ない。遅れて吹き出した鮮血の中兵達の意識は遠のいていった。
カノイは兵達の亡骸を踏まない様に通る。
切り裂いた南門を素通りし、そして自身に言い聞かせる様にこう呟いた。
「仕方ない。仕事といこうか」
ここまで長くなってしまいましたが魔導都市の戦い開始です。




