70話 小狡い奴ら
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「…………なんか変だな」
ヴェルフとの戦いの中、六樹はある違和感を抱えていた。一方のヴェルフは、ずっと振り回していた杖を今度は地面に突き刺した。
「そうちょこまかと逃げるでない、断崖!」
ゴゴゴゴッ、と六樹の左右に分厚い土の壁が出現した。
獲物の行動範囲を狭めた上でヴェルフは大技を放つ。
「豪炎!!」
「この技!!」
左右に逃げられない状態でまるで竜の息吹のような炎が六樹に迫る。
それは過去に倉目が放った上級魔法だった。あの時は杖を封じ込めて半ば投げやり状態の不完全な一撃を無理矢理受けたが、今回は既に万全の状態で放たれている。前回のようにはいかないだろう。
六樹はアングリッチを高々と掲げ、しっかりと地面を踏み込み、そして正面から迎え撃つ。
「……魔断」
六樹の斬撃は迫り来る炎を一刀両断し、安全地帯を作り出した。しかし六樹はそれだけでは満足しない。
正面にいるヴェルフに向かって一直線に走り出した。
だが、それを見たヴェルフはニヤリと笑う。
「青いのう……土蛇」
「!?……がっ!!」
全力で走っていた六樹が突然転倒する。六樹は違和感を感じた右足を見ると、そこには土で出来た蛇のような縄が脚に足に絡みついていた。
六樹は急いでそれを振り解くが、それを黙って見ているヴェルフではなかった。
ヴェルフは両手を縦に構えてまるで一本締めを行うように勢いよく手を叩いた。
パァン! と乾いた音が響く
ゴオーーーーーン!!ズシャン!!
その直後左右に展開されていた大きな土壁が左右から押し寄せ六樹を挟み込んだ。さながら羽虫を両手で潰す様な光景だった。
大地震の様な音が消えると、先ほどまでと打って変わって辺りが静寂に包まれた。
「…………今のは自信あっんじゃがな、よく避けたのう?」
ヴェルフがそう言ったと同時に六樹が地面から這い出て来た。
「下からなら逃げられたんで」
六樹がそう返した。あの時六樹は転倒した状態で体勢が手が地面についていた。
その為地面に付いた手でそのままアイテムボックスを発動、地面を抉り自身が穴に落ちる事で圧殺を免れたという訳だった。
そして、先ほどから抱いていた疑念が確信に変わる。
(違和感は二つ、一つはこれだけ大技を連発してるのに魔力切れが起こらない事、そして二つ目、この爺さん……さっきから上級魔法の詠唱をしていない)
「爺さん。あんたさっきから大技連発してるけど、よく魔力が持つな?」
「自分で考えてみろ若造?簡単な話だ」
六樹は頭を巡らせる。
前提としてヴェルフは魔導師である為、周囲の魔力に依存するはずだ、同じ魔導師であるアンリは常に同じ場所に留まらない様にする事で周囲の魔力を使い尽くさない様にしていると言っていた。
しかし先程から特に移動する事なく魔法を放ち続けている。六樹は知識を頼りに考えた。そして
「……あぁ、そうか!龍脈か!?」
龍脈の近くは魔導師にとってのボーナスステージ、そんな事をアンリが言っていたのを思い出した。
「ちと気づくのが遅すぎるな…」
「生憎と魔導師の才能が無いもんでね」
エスタの視覚を共有してもらうと、確かに地下の奥深くに魔力が流れていた。ヴェルフは最初から自身のホームに誘い込んでいた訳だ。今になってしてやられたという感覚が押し寄せる。
対するヴェルフは看破されて当たり前といった様子だった。
一つの疑問が解消された。だが、後者の方が全く検討がつかなかった。
下級魔法や中級魔法と違い、上級魔法というものは強い威力を生み出したり、高度な働きをする一方で、ある程度長文での詠唱というのが必須となる。一応下級・中級でも追加で詠唱する事によりカスタマイズするといった芸当が出来るが、それはあくまで追加要素であり必須ではない。ゲームに例えるとタメを必要とする大技の様なものだ。
だが、ヴェルフは何故かそのタメが無い。
六樹はそれまで違和感こそ感じていたものの、未知の魔法ばかりで確信が持てなかった。だがそれを与えたのがヴェルフが放った豪炎という魔法だった。
(あの魔法の詠唱を倉目は取り巻きと分担する事で速射性を上げてた。本来そういう工夫が必要な類の大技の筈だ。でもこの爺さんはそれすら無い、それどころかさっきは手を叩いただけで潰されかけた。無詠唱?いやもしそれが出来れば他もそうなる筈だ、何かある筈だ…何か工夫が……)
六樹はヴェルフが行っていた行動や言動を思い出す。
「…………………………」
そして、答えを導き出した。
「………魔法陣!!アンタはずっと杖を振り回してる時に魔法陣を描いていた!?」
六樹の答えを聞いたヴェルフが満足そうに答えた。
「やっと気づいたか、儂がただ儂の棒捌きを自慢する為に杖を振りましていたと思うか?」
「……意外とそうなんじゃ?」
「その通りじゃ」
「合ってんのかよ!」
肩から力が抜ける六樹、そしてヴェルフは続けた。
「だが、それを見せつけつつ地面に魔法陣を描き大技を放つ。覚えておくといい、魔法使いにとってズルや卑怯は賞賛よ」
ヴェルフの発言に六樹も肯定した。
「確かに、同感だな……風刃!」
「!?守護!」
六樹はヴェルフの魔法陣に対抗すべく、多言語詠唱を解禁した。ヴェルフは予想外の事態を分析し始めた。
「………なるほどのう。詠唱言語をいじって魔法名を秘匿しつつ速射性を上げたか、ホッホッホ!小狡い奴め!」
ヴェルフは賛辞を送った瞬間、杖で六樹に殴りかかった。六樹は剣でそれを受け止める。
ギギギギギ…と互いの武器が軋む音が聞こえる。
ズルズル…とヴェルフが脚で地面をなぞる。すると地面の魔法陣が起動した。
「避けてみろ若造!!|烈海派!!」
「マジか!」
鍔迫り合いの最中、ヴェルフはなんと自身も巻き込んだ上で上級魔法を叩き込んだ。至近距離から水蒸気爆発が叩き込まれる。
「暗障!!」
六樹は防御魔法を展開、そして自身の体にも硬化スキルを施し魔法を受け止めた。ヴェルフの魔法はそれらを突破し六樹を襲った。
「…はぁ…はぁ……」
だが、六樹には上級魔法とて決定打にならなかった。
至近距離で大技を放ち、反動を受けたヴェルフがぼやく
「ふ〜む、何故効かん?まったく最近の若造の人間離れが深刻だな」
六樹の無駄に高いタフネスは究極的には体質によるものだが、教えてやる義理はない。六樹もヴェルフに質問した。
「そう言えば聞いていなかったな、貴様は何故この試験を受けた?先ほどから剣を主力にしている所を見るに生粋の魔術師と言う訳ではないだろう?何が目的だ?」
ヴェルフは話しかけつつも魔法陣を作動させる。六樹の足元から氷の棘が無数に生えて出た。
「あぶねっ!…ったく油断も隙もないな。俺は国王に会う為にこの試験に参加したっ!」
六樹は緋影を投擲する。二人は魔法と近接戦闘を交えながら話す。
「ほう?儂と似た様な理由とな、会ってどうする?まさか陛下の命を狙っているのではないだろうな?」
緋影を杖で振り払ったヴェルフかそう尋ねた。
「まさか、国王の近くに会いたい人間と知りたい情報がある。それを手に入れる為だ、黒拳・噴出!!」
「ほう?」 「うおおお!!」
六樹は魔法を吹かす事で無理矢理間合いを詰め、ヴェルフに漆黒の拳を叩き込む。その拳は防御されたもののヴェルフを龍脈の上から無理矢理退かすことに成功した。
「なるほどな、だが甘いな!」
「何が甘いって!?」
六樹はヴェルフに追撃をかける。あくまでも接近戦で勝負をつける腹づもりだ。
「陛下はそう暇ではないぞ?たかが試験を合格しただけの平民が、そう面倒を見てもらえるとは思えんな!」
ヴェルフは杖を地面と直角になる様に振り上げる、そしてこれ以上無いくらい綺麗に振り下ろした。
「打突!!」 「蒼天斬!」
振り下ろした杖と振り上げた剣が響く、側から見れば演舞の様な光景であった。六樹は少し考えた後、ヴェルフにこう言った。
「爺さん。俺が異世界、いや日本から来たって言ったら、信じるか?」
「!?…………」
ヴェルフは一瞬訝しげな表情をした後、六樹にこう問い返した。
「オマエハ、あの黒イ海を見タカ?」
ヴェルフが放った一言は片言ではあるが、正真正銘日本語だった。六樹は翻訳スキルを使わずに日本語で返した。
「あぁ見た。いや、俺だけあそこに落ちたから今ここにいる」
「!?…そうか……確かにあの時一人撃ち落とされた。まさか生きておったとは……」
ヴェルフは幽霊を見たかのような表情を浮かべた後、六樹にこう言った。
「信じようムツキ・リョウ。いや、最後の勇者よ」
杖で魔法を発動しつつも直接物理で殴り、その上でこっそり魔法陣を描くという様な老獪さがヴェルフさんの強みです。倉目くんも同じ様な上級魔法連打が出来ますがヴェルフさんの方が魔法使いとしての技量や近接対策などあらゆる面で上回っている様なイメージです。
少し長くなりましたが一級魔法試験、次回決着です。




