67話 ヴェルフ・ウィザード
ここから2話は丸々過去回想です。
「ヴェルフ隊長!魔法大隊出撃準備が整いました!」
「よし、ご苦労。それではこれより前線の援護を行う」
『はっ!』
一年前、ヴェルフは宮廷魔導師として300人規模の魔法使い専門部隊を率いていた。
魔法大隊の役割はその高い火力を活かした遊撃戦だ、前線にいる味方の援護、拠点防御、敵の追撃、殲滅など魔法使いは射程が広い分出来る事が多い。
もちろん敵は侵攻をかける魔王軍だ。
ヴェルフ・ウィザード
彼は貧しい農民の子供に生まれた只人である。しかし彼は天運に恵まれていた。口減しに親に売られた先が魔法使いだったのだ。
その魔法使いは買い取った子供を雑用として働かせたが一方で教育も施した。ヴェルフはその当時では秘中とされていた魔法を幼少期から身近に学んでいたのだ。また、彼の魔力親和性が高く、魔導師としての適性があったことも幸運であった。
魔法使いの雑用係兼弟子として過ごす日々、するとある出会いがあった。それはヴェルフが17の頃だ、正式な弟子として認められたはいいものの依然として雑用だった彼が呼び鈴に反応してドアを開けると、そこにあの人が立っていた。
「すみません。魔法というものを教えていただけませんか?埋め合わせはします。」
それは3〜40代位の中年の男だった。少しみすぼらしい格好をしていて言葉も片言だ、異国の者だろうか?顔の雰囲気もこの町の者とは少し違った。
魔法使いにとって魔法とは生きる糧であり、既得権益かつ知的財産だ。当然ながらその辺の流浪者に教えるわけがない。師匠はまったく相手にせず、すぐに突き出した。
だが、ヴェルフは彼の後を追った。魔導師であるヴェルフには見えたのだ、彼の尋常ではない魔力量を
ヴェルフには何故か彼が特別な存在だという不思議な確信があった。
「ありがとうございます。私の名前は江川歩です。」
ヴェルフは江川に魔法の基礎を教えた、彼はその膨大な魔力をもって魔法を使いこなし、それらて得た利益を魔法使いだけに留まらず、一般市民にも還元する事により信頼を勝ち取り、更に魔法を収集した。
そして江川歩はあれよあれよと生きる伝説の様な偉人となった。
「初めまして、ヴェルフ様ですね?私、セスタ・スレトリアという者です。お見知り置きを」
「スレトリア家の事は常々お聞きしています。魔術師の名門であると、まさか協力してくれるとは思いませんでした。」
「いえいえ、あなたの魔導師としての知識を発揮してください。なにせ今から一つの都市、そして魔法使い達の寄り合いを創るのはですから」
江川の名が知れ渡ると共に仕事が増え、魔導都市、そして魔法協会を設立する。ヴェルフはその創設者の末席に加わった。そのおかげかヴェルフの顔が知れ渡り、国家の目に留まる事となった。
「ヴェルフ、軍に入ったらしいですね。すごい逸材が来たって話題になってましたよ?」
江川歩は少しからかった様子でそう祝福した。
「いえ、あなたが魔法の教えを広げたおかげです歩さん。幸運にも私は新しく創設される魔法使いの部隊の育成と運用を任されただけです。ちょうど子供も産まれたのでいい仕事につけてよかったです」
「……そうですね。家族は大事にして下さい……」
江川歩がその時の悲しそうな顔をして微笑んだのをよく覚えている。
ヴェルフは軍では忙しい日々を過ごした。魔法というものが急速に普及するのを肌で感じる。これまで一部の魔法使いしか知らなかった技術が今では勉強と練習さえ行えば子供でも使える便利な道具になった。
魔法使いを育成して部隊をつくる。そして、有事の際にはそれを使い解決する。マニュアルなど無い、一からの手探り、しかし弟子が育っていく事は決して悪い気がしなかった。
「そなたを宮廷魔導師に任命する。そして魔法使いの最高位、ウィザードの名を与える。ヴェルフ・ウィザード!そなたの国家への貢献に期待する」
前王が崩御し、現国王が就任した。
するとヴェルフついに宮廷魔導師の地位まで貰い、苗字を与えられた。これは成り上がり者のヴェルフにとっては夢にまで見た特別な話だった。
しかし反発もあった。
「平民上がりを王宮に入れるのか?それもあの汚い軍人を…」
「あいつは江川様のコネで成り上がったんだ!じゃなきゃ平民が高貴な俺と同じ位まで上がってくる訳がない!」
王族こそヴェルフを重用したが、王宮内も軍内も貴族達の発言力が強かった。その為ヴェルフはあくまで一つの部隊の隊長でしかなかった。
「隊長に一部隊しか与えられないなんて不条理ですよ!師団の一つでもいいくらいです!」
部下からそんな事を言われる事もあったが、ヴェルフは笑って流した。
「権威というものは尊重するものだ、それに私は今の地位で必要十分だと感じている。これ以上貰っても身を滅ぼすだけだ」
権力闘争の末、悲惨な末路を辿る者達を見ていたヴェルフはそう考えていた。
一方、ガドル王国はこれまでの歴史と比べると信じられ無いほど平和な日々が過ぎた。
「俺、じいちゃんみたいに軍に入るよ!」
ある日、孫のクインが軍に入った。ヴェルフは心配はあるものの内心孫が自身の後を追ってきた事に悪い気はしなかった。
しかしその数年後、そんな事を考えていた自分を呪うこととなる。
「ヴェルフ、私はもう長くない。あなたは悔いを残さない様にして下さい」
江川歩がこの世を去った。完全無欠に思われた彼でも定命には勝てなかった。
そして、彼の死は想像以上に大きな波紋を呼んだ。
最強の存在がいなくなった事により、これまで潜んでいたもの達が一気に溢れたのだ。
しばらくは突発的な賊達が大量に現れた。一つ潰せば二つ出てくる。そんなイタチごっこが延々と続く
そして遂には…
「モルガル共和国が我が国に宣戦布告、すでに陸路からはデゼル、海路からはアルヒに同時に向かっています!」
「とうとうこの時が来たか…」
これまで抑圧されていた者達が徒党を組み一斉放棄した。そしてそれは国家間の戦争という最悪の形で出力された。
人々から魔王と呼ばれる存在に率いられたモルガル共和国軍は強かった。一兵卒一人一人が明確な戦意をもち指揮が高かったからだ。
そして、戦争初期の二方面の大規模侵攻において、ガドル王国軍は大敗した。
厳密には戦略的勝利こそ得たものの、失ったものが多過ぎた。
拠点こそなんとか守り抜いたが、多くの人材が失われ、長期的な視野で敗戦が濃厚となった。
そして、王がある決断をした。
その決断にヴェルフは猛反対した。
「陛下!!このヴェルフ・ウィザード、この場においては立場を置き、歩殿の一友人として進言します!なりませぬ!!我々の世界の確執に別の世界の者を巻き込むなど!!」
「ヴェルフ、ならばこの国が蹂躙させるのを指を咥えて見ているか?我が使命は国とその民を守る事だ!ヴェルフ・ウィザード!、グラン・メレフ・エト・バシレウスが命ずる!江川歩の研究を利用し異世界から勇者を召喚せよ!」
国王はその権限を持ってヴェルフに命令した。だがヴェルフは納得しかねる。
「しかし…」
「くどい!これは決定であり命令だ!!…………………分かってくれ…地獄には私一人で行く」
「………………ならば、お供しましょう」
ヴェルフは優秀な魔法使い達を集め江川歩の研究を基に勇者を召喚した。
「話は分かりました。俺は戦います。それで帰れるんですね?」
幸運にも召喚された勇者達は理不尽を飲み込んでくれた。それもこれも神宮寺という青年がその場を取り仕切ってくれたため無闇な軋轢が起こらず、殆どの者が参戦する事となった。
勇者達に様々な異能が与えられた。そして、前線に出る者には兵もつけられた。そしてその中にヴェルフの孫であるクインの姿もあった。
「あなたがヴェルフさんですね?俺、峰山大輝って言います!お孫さん預からせていただきます!」
「ミネヤマ殿、クインは未熟者ですが、よろしくお願いします。」
「背中を預ける人達なんで、俺も命を賭けて守ります!死なせません!」
「じいちゃん…行ってくる!」
峰山はそう宣言した。送り出すヴェルフの内心は穏やかではなかった。勇者ともてはやされた彼は孫とそう変わらない年代、いやそれよりも若い。それが自分たちの国の負債を背負わされているからだ、そしてそれを押し殺して明るく振る舞っていた。ヴェルフはそれがやるせなかった。
「………これだから最近の若造は…」
二人の背中を見送る際に、ヴェルフは誰にも聞こえない位の声で、そう弱々しく呟いた。
異世界の勇者達の活躍は目覚ましく戦局は拮抗、いやそれどころか少しずつだが好転した。
ガドル王国軍は勇者を前線に出し攻勢を強めた。対する魔王軍も七人の幹部を筆頭に応戦、結果前線が入り乱れる混沌とした戦場が出来上がった。
その中で特に意欲的に活動していたのが蟲人族を指揮する蜘蛛人、女郎蜘蛛のラネアだった。
「ヴェルフ隊長!出撃命令です!先日占領されたスカラ村に敵将ラネアが巣を張り巡られ歩兵では奪還困難とのこと」
「あの蜘蛛女め…余計な手間をかけさせよる。承ったと伝えろ!準備が整い次第出撃じゃ!」
町や村、拠点や城を奪っては奪われる泥沼の戦いが続いた。戦争は長期化の兆候を見せ始める。
「隊長、このままダラダラ戦い続けて勝てるんでしょうか?もう勇者の追加はないんですよね?」
部下からはそんな不安の声も出てきた。
「そうだな、確かに勇者が増えることはない。だがこのまま長期戦となればこちらが勝つ可能性が高い」
「それは何故ですか?」
「理由は二つある。まず一つ目にガドル王国はモルガル共和国よりも国力で勝る。人口や石高は国の体力だ、これが多ければじわりじわりと有利となる。そして、二つ目は人材だ」
その言葉に部下は眉を顰めて質問した。
「お言葉ですが敵にはあの幹部達がいますよ?これは不利では?」
「確かにあやつらは優秀だ、だが層が薄い。」
「……層ですか?」
「敵は七人の幹部に頼りすぎている節がある。それは指揮と武勇の両方行う者が多い。そして今その骨組み達が露出しておる。つまりだ、幹部が倒れれば相手は急に旗色が悪くなるぞ」
ヴェルフはそう分析した。魔王軍の幹部達はエースとリーダーを兼任している者が多く、いわばワンマン体制を敷いている状態だ。それは幹部を倒すことは一つの軍団が機能不全に陥ることを意味していた。
そここそが勇者をエースとして活用しつつも指揮系統は別で設けているガドル王国との違いだった。
だが、ヴェルフには懸念があった。
(現状優勢のため勇者達は従っているが、旗色が悪くなれば離脱者が続出しかねんな)
そして、懸念していた事態が現実となる。
ダイジェストなんでキャラが多い。ヴェルフさんの交友関係が無駄に広いせいで大変でした。
地味に江川さんが初めて話したような…




