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66話  最近の若造

六樹と対峙したヴェルフは名乗りを挙げた。


「まずは名乗りと行こうか……儂の名はヴェルフ、ヴェル爺と読んでもいいぞ?昔はやんちゃしたものだが、今はただのしがない老いぼれ魔導師だ」


そう言うと、ヴェルフは古めかしい所作でお辞儀をした。意外にもフランクな名乗りに六樹は少し肩透かしを喰らう。そして剣を鞘に納めて名乗り返す。


「……六樹亮、アルヒの町の銀等級冒険者です。」


「ほう、最低限の礼儀は弁えてあるようだな?」


六樹もお辞儀をすると、ヴェルフは満足そうな様子で挑発した。


「かかって来い若造、ボコボコにしてやる」


すると六樹は挨拶がてらの抜刀術を叩き込んだ


「紫電一閃……!」


だが、ガギンッという明らかに固い物体に斬撃が阻まれた。


それは一目見て分かるものの、若干の困惑を覚えた。

何故ならそれはヴェルフが持っていた木の杖だったからだ。


長さ2メートル程のその杖はまるでその辺りの枝を切ってきて質素な装飾を施しただけの様にも見えるが、事実として今六樹のアングリッチを真正面から受け止めていた。


(受け止められた!?この杖鋼鉄かなんかか?)


「その顔、儂の杖が特殊な素材で出来ておると思っておるな?」


六樹の反応が初めてではないのか、ヴェルフはニヤリと笑う。


「なに、簡単な事だ。この樫の杖に強化の魔法を、ほんの50年かけ続けただけだ」


「……お手軽ですね」


すると、ヴェルフは杖を振り回し始めた。その動きにエスタが反応を示す。


エスタ(この動き、棒術だな…)


六樹(棒術か、名前くらいしか知らないな)


エスタ(この爺さんの技術は明らかに剣術に対策した動きだ、つまりメタられてるってやつだ)


六樹(そりゃしんどいな…)


そして次の瞬間、ヴェルフの杖が六樹に振り下ろされた。六樹はアングリッチを横にしてその攻撃を防ぐ。だが


「ほれ!」 「ぐっ!」 


ヴェルフは素早く杖を回して下から六樹の顎に一撃を叩き込んだ。

更にヴェルフは六樹の胸に杖による突きを繰り出した。


「暗障!」 「ほう」


六樹は杖を暗障に突っ込ませ更にそれを硬化させ、固定した。手が止まるヴェルフに対して反撃に出ようとする。


「甘いわ!破杖棍(はじょうこん)!」


しかし、杖から衝撃波の様なものが放たれ暗障は砕け散る。そして杖はそのまま六樹に襲いかかる。


「……くっ!」 


六樹は咄嗟に剣で受け止める。だがヴェルフは余裕の表情だ


「まだまだ!!」「ぐはっ!」


衝撃波は出力を上げ、剣で受け止める六樹を吹き飛ばした。六樹は近くの岩に叩きつけられた。背中の痛みと共に肺から空気が押し出されるのを感じる。


「か…はぁ…」


六樹の様子を見たヴェルフはため息をついた。


「まったく最近の若造は貧弱だな。儂の弟子共も近接を教えようとすると何故魔法使いがなぜそんな事しないといけないんですか?なんぞぬかしよる。それでも兵士か…」


「さいですか」


(この爺さんを倒す事が一番だけど、釘付けにしてるだけでも一定の効果がある。会話は続けておこう)


リベルは既に合格確定だろうが、一応念には念を入れる。六樹は戦闘を続けながらも老人話に付き合うことにした。


「でも、後衛が攻め込まれてるなら戦わずに退くのも一つでは?ショット!」


話しながら六樹は緋影を射出する。


「聖壁、…なかなか小賢しい。たわけ、そこまで攻め込んで来た者をボコボコに返り討ちにすればいいだけの話だ!打ち水!」


「脳筋じゃねーか」


六樹はヴェルフの反撃の水の弾丸をアングリッチで散らした。そして、距離を詰め再び近接を挑む。


「まったく、これだから最近の若造は…すぐに暴力はしる」


「それあんたが言うのか?……蒼天斬!」


六樹は右腕で剣を切り上げた。ヴェルフは杖で剣の軌道を逸らした。


「……ほう?」


六樹が剣を切り上げ天に翳した先、ヴェルフが目にした物は空中に投げられた緋影だった。鮮やかな赤色の短剣は嫌でも目につく。


ヴェルフは咄嗟に頭を巡らせた。


(これは……何かの仕込み、上に注目させると言うことは、下!)


しかしヴェルフは長年の勘でそれが見せ札である事を察知し、急いで足元を確認する。するともう一本緋影が足元に突き刺さっていた。


能力(スキル)[アイテムボックス]収納


六樹が脳内で唱えるとヴェルフの足元がくり抜かれ落とし穴が突然現れた。混乱必至のこの状況の中、ヴェルフは落ち着いていた。


「考えたのう…空歩、」


トッとヴェルフは空中を蹴り落下を回避した。


そしてもう一歩高度を上げた瞬間、六樹の二の矢が押し寄せた。


[アイテムボックス]展開


その瞬間、空中に投げられていた緋影を起点に先ほど削り取った地面がヴェルフの目と鼻の先に現れた。


「ほほう。これは予想外」


ヴェルフは土塊に当たり、そのまま落とし穴に叩き落とされた。


アイテムボックスの展開は基本的には六樹の身の回り、せいぜい半径2メートル程の距離でしか行えない。しかしスキル剣心刀身の効果により六樹の所有する刀剣も六樹の一部とみなされる。

その結果、飛ばした緋影を起点に使う方法を考えた訳だ。


(ハルゴス戦(あの時)は自分が跳ぶ必要がなかったな……まぁ、あの時の反省で思いついたしセーフ)


すると、地面が揺れヒビが入った。


ビキッビキビキビキ……ドオオオーーン!!!


土が舞い散りヴェルフが這い上がる。彼が纏う灰色のローブは汚れていなかった。


そしてヴェルフは六樹を煽る。


「ふむ。肩叩きにしては上出来だな」


対する六樹も皮肉で返した。


「せっかく埋葬してあげたのに、勝手に出てきちゃダメでしょ?おじいちゃん?」


「ほっほっほ!ぬかしよる!」


(これが、元宮廷魔導師か……)


六樹はダリアから聞いていた情報を思い出した。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「この似顔絵の爺さんがこの試験において最大の懸念材料っス!」


「……ヴェルフ・ウィザード?.……魔法使い…」


「あっ、後ろの苗字は官位みたいなものっス。優れた魔法使いに与えられる称号であり特別に名前に付け足されるんスよ」


「つまり相当優秀な魔法使いと…」


「その通りっス!なんせこの爺さん一年前まで宮廷魔導師だったんスよ。国王のお墨付きっスよ?」


「なんでそんな人が試験に参加してるんですか?」


六樹はダリアに質問する。するとダリアは少しばつの悪そうな様子で答えた。


「いや〜それがこの爺さん。軍属だったんすけど、思いっきり軍律違反したんスよ…」


「何したんですか?」


「上官をぶん殴った上で勝手に部下を連れて出陣したそうっス」


「え〜…」


六樹はシンプルにドン引きした。軍律違反、それも上官を直接ぶん殴るとはとんだ狂犬だ。


「よく処刑されませんでしたね」


「実際そうなる可能性もあったっス。でもそれまでの功績と王の一言で追放っていうかなり緩い処罰で済んだらしいっス!まぁ今年で72歳らしいんでほとんど隠居っスよ」


「なんでそんな事したんですか?」


「えっと、詳しくは知らないんスけど、なんかお孫さんのいる部隊を救援に行きたかったとかなんとかで上と揉めたとかなんとか…」


イマイチ煮え切らないが、とりあえず常識はともかく良識はありそうな雰囲気だ。


「で、理由は知らないんスけど、とにかく今回参加してる事は確実です。この試験ではこの爺さんがまず間違いなく暴れ回ってるっス。君は倒すか押さえ込むか気を引くかしてください。初期位置で姫様の隣にいない事を祈るっス」


ダリアはそう六樹に念を押すのだった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


そして、現在六樹は件の狂犬ジジイ(ヴェルフ)と対峙している。そして、六樹は身をもって実感していた。


(確かにダリアさんの言う通りだ、この爺さんなら本当にやる!)


「ミストメイク……閃光(フラッシュ)!」


「くそっ!」


霧に光が乱反射し六樹の視界を奪う。そしてすぐさま乱撃が飛んでくる。


「ほれちゃんと相手を見んか、石飛礫」


ガキィン!


六樹は剣で攻撃を弾く、すると、氷の剣が飛んできた。霧に隠れて直前まで姿を隠していたのだ。


「うお!?…蒼天斬!」


氷の剣を霧もろとも晴らす六樹、しかしヴェルフの攻勢は終わらない。


把捉(グラスプ)」 「…ん!?」


突然六樹の腕が見えない何かに掴まれた。ヴェルフはニヤリと笑う。


「来い!」 「うおっ!?」


ヴェルフは魔法でつかんだ六樹を無理やり引っ張った。そして


ボガンッ!!!  「かはっ……」


体勢を崩した六樹にヴェルフの杖によるフルスイングが炸裂した。


「……痛い…」


ダメージそのものは魔力に変換されるが痛覚は感じる。六樹は顔をおさえながら立ち上がる。


「やっと減らず口を閉じたな若造!覚えておけ、こういう魔法の使い方で実力が分かるというものだ」


「最後杖で殴ってただろ、魔法関係ないだろ」


六樹の小言が気に食わなかったのか、ヴェルフはもう一度行う。


「まったく最近の若造は小言が多いのう、把捉(グラスプ)!」「…ショット!」


だが、六樹もタダではやられない。緋影をヴェルフの足元に突き刺した。そしてヴェルフが引き寄せるタイミングでスキルを発動した。


[摩擦:減(スリップ)]


「なんだ?滑る。ぐほっ……」


ズルズルズル……滑ったヴェルフも体勢を崩し、引き寄せた六樹と滑りながら接近した。


「生意気な奴だ!」 「ぶった斬ってやる」


近づく二人は立ち上がり杖と剣を叩き込んだ。



「破杖棍!!」「紫電一閃!」


二つの攻撃がぶつかり合い。なんと衝撃で互いの武器が飛んだ。


「「………なっ!、オラァーー!!」」


ボガンッ!!  


だがその直後には互いに拳が飛び交い双方のストレートが綺麗なクロスを作り炸裂した。


「「ぐふっ!!……」」


魔法とは無関係な物理攻撃を受け互いに倒れ込んだだ。


「ごほっ…全く、老い先短い老人に手を上げるとはけしからんのう…これだから最近の若造は」


「はぁ…これからの未来を担う若者を殴りつけるとはとんだ暴力ジジイだ」


「「ハハハハ」」


互いに減らず口を叩く二人、そしてお互いに不敵に笑い合う。


六樹は気まぐれか、はたまた70代の老人と初めて殴り合った事により興味が湧いてきためか、ヴェルフに質問してみる事にした。


「爺さん、あんた元宮廷魔導師だったんだろ?」


「それがどうした?」


「なんでこの試験に参加してるんだ?」


「ふ〜〜む…」


ヴェルフは少し考え込んだ後、六樹に確認を取る。


「ムツキとやら、あまり面白い話ではないぞ?それでも聞きたいか?」


六樹は無言でコクリと頷いた。


「……よかろう」


ヴェルフは六樹の真剣な表情を見て、自身の身の上を話す事を了承した。


「儂がこの試験に参加した理由。それは、儂の孫を窮地に追いやり、勇者の一人、()()殿()を死に追いやった者に復讐する為だ」


その言葉を聞いた六樹は一瞬凍りつく、友人の死は聞かされていた。戦いでの死はある意味仕方のない事だと心の中で押さえ込んでいた。


しかしそれが仕組まれたものなのだとしたら話が変わる。六樹は話を促した。


「……峰山の死が仕組まれたものだと……そういう事ですか?」


「そういう事だ…」


「聞かせて下さい」


ヴェルフは頷くと一年前の事件について話し始めた。


次回から過去回想になります。結構本筋と関わりが深い話になるので許してください。

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