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60話  高嶺の狙撃手

今回でなんと60話です。


「ここで()()()()()の長距離スナイプ!!ムツキ選手得点を横取りされた!!これは悔しい所だ!!」


「遠距離のメリットを活かしましたね、しかしヒエン選手はムツキ選手を仕留めきれなかったのは痛いですね。狙撃は来ると分かっていれば対処可能です。初撃が最大のチャンスでした」


「なるほど!ヒエン選手!このままではムツキ選手に詰められて絶体絶命か!?」


「厳しい戦いになりそうです。しかし彼女の持つ()()()()()を活かせばあるいは…と言った所でしょうか」


◇◇


六樹は狙撃が飛んできた方向に全力で走っていた。


(ここまでの長距離スナイパーがいるとは聞いていなかった。無名の新人かもな?、だがこれは危険だ、必ず潰しておきたい)


完全にマークした六樹に再び狙撃が飛んで来た。


しかし六樹は冷静に魔法を叩き斬る。


「空気の塊みたいなものを打ち出してるのか、視認し辛くて厄介だな」


敵の攻撃パターンを分析する。そして確信した。


「同じ方向から飛んで来たって事は…狙撃位置を動けない、もしくは動きたくないって事だな?どちらにせよ好都合だ」


そして、先を進む六樹の目の前にエリアの境界が現れた。


「雪山エリアか、射線が通りそうだな」


一方、当の狙撃手ヒエンは頭を悩ませていた。そこは雪山エリアの中央部、一つの塔が建っている場所だ。


射線が確保でき、かつ近くに強い選手がいない為狙撃には好条件の場所だった。彼女はうつ伏せになりながら長い木の杖を横に構える。さながら本物のスナイパーライフルを構えるような体勢だ。


「褐色の君、厄介かも」


狙撃手としての性か、小さい声で独り言を呟く。たが相当内心では焦っていた。


(どうしよ?全力で逃げる?いや周りは敵だらけ、ノコノコ移動してれば囲まれて終わりかも、それにアイツの移動速度なら追いつかれかねない。この辺り龍脈が通ってるから離れたくないし、地図で確認出来る以上隠れても見つかるかも。あの方法で迎え撃てる?いやでもアイツ、完全に不意打ちの初弾に反応してた。考えろ私、何かいい案は……)


その時ヒエンの頭に一つの考えが浮かんだ。


「!………我ながらこれは最悪のアイデアかも」


そう呟くとヒエンは六樹から視線を放し、地図を確認して近くの選手に闇雲に魔法を撃ち始めた。


「がぁ!!」 「ふぇ!なんだ!?」 「危ない!…狙撃!」


普段の彼女であればあり得ない程の雑な狙撃、10発撃ったとしたら命中したのは一、二発程度の精度だ。


そして生き残った者達の多くがこう考えた。


(狙撃手だ!早く潰さないと!!)


そして、もう一人……


「リョウ兄ィなんか凄い勢いで移動してないか?……あぁなるほど!多分目的はこの12点の…いや13…14点!?」


その瞬間、リベルの元に狙撃が飛んで来た。それは確実にリベルの頭部に命中する軌道だった。だが


着弾の直前、突如リベルの近くに氷のシールドが展開される。それはまるで雪の結晶のような模様だ。


ビキビキビキッ!!とヒビ割れながらも氷のシールドはリベルを守り切る。


「よっしゃブチ殺す!!リョウ兄ィも向かってるみたいだし丁度いいや!」



こうして付近の魔法使いがヒエンのいる方向に一斉に足を向ける。一人にマークされた状態から10人にマークされた。だがこれでいい


「集まっておいで〜、てか今の私、超モテモテかも」


ヒエンはそう苦笑いするのだった。


◇◇


「あれは自動魔法(オートマジック)!!?とんでもない高等技術だ!!ナノハ選手もヒエン選手を狙い始めた!」


「事前に発動条件を設定した魔法陣を用意してたんでしょうね。魔術師としての技量もさることながら、狙撃対策も万全の様です。素晴らしい」


リベルの技術に会場もざわつく、そして実況は現在の状況を整理した。


「ヒエン選手の元にさらに10人の選手が押し寄せる!一見すると不可解ですが、これをどう見ますかネクトさん!?」


「ヒエン選手、なかなかの賭けに出ましたね。このままではムツキ選手に詰められて終わり、だったら近くにライバル達を集めて潰し合わせる。面白い、試験の特性(バトルロワイヤル)を利用した斬新な方法です」


「ヒエン選手は現在14点!先程ガイト選手を仕留めてもぎ取った8点が大きいですね!彼女が潜伏する塔にゾクゾクと集まり始めた!さてどうなるのか!?」


◇◇


「あの塔だな」


六樹が雪景色の中にある一つの塔に目をやる。

地図を確認すると狙撃手はあそこで間違いなさそうだ。だが六樹は今の状況を知り驚きの声を上げる。


「これは……ほかの奴らがあの塔に集まってる。いや集めたのか」


地図上の近くの魔法使い達が一斉にこちらへ向かって来ていた。地図上だけでない、目を凝らすと既に人影が見え隠れしていた。


「潰し合うのを待つか?……いや、時間を無駄にしたくない。行くしかないな」


六樹は岩陰から飛び出して射線の通る雪原を駆け抜ける。


(右前方に4、左から2、とりあえず先制だ)


「風刃!」 「ギャァ!!」


六樹が開口一番攻撃した事により、攻撃の機会を伺っていた者達が思い思いに魔法を放ち乱戦となる。


「フレイム!!」「打ち水!!」「岩生成(クリエイト・ロック)、射出!」「聖壁!光の矢(ライト・オブ・アロー)!!」


六樹も魔法の応酬にさらされるが、基本的に守りを固めて前に進む。


「魔剣士め!近寄るな!電撃派!!」


「紫電一閃」 


「何!?剣で魔法を切った!?」


すると…ズドンズドンッ!!と狙撃が飛んできた。


「くっ、暗障!」 「なぁ〜!!」


隣にいた六樹を攻撃した魔法使いは狙撃の餌食となる。


「面倒くさいな……ならアイツら餌にするか」


六樹は緋影を3本取り出した。


[摩擦:減(スリップ)] 「トリプルショット!!」


「ぐあっ!」 「な!?ああああ…」 「クソ、bbbb…」


摩擦係数を下げた状態で打ち出された短剣は空気抵抗を受けず真っ直ぐ敵に突き刺さった。その結果、一人を仕留め二人を麻痺させる。


残り二人を仕留めるには絶好のチャンスだが、六樹は放置して塔に向かった。何故ならチャンスなのは六樹だけではないからだ。


ズドン!「あがっ!」 ズドン!「あー!クソ!」


と六樹の後ろで動けなくなった魔法使いが狙撃の餌食となる音が聞こえる。だが撒き餌の効果か六樹は塔にたどり着いた。


「!?なんだ貴様!?」「邪魔だ」「ギャァ!」


反対側から来ていたのだろうか、たまたま遭遇した魔法使いを切り捨て六樹は塔に入る。中は螺旋階段となっていた。


六樹は念の為地図を確認する。


「よし、ここで間違いない」


狙撃手はこの塔に確かにいる。そして、階段を駆け上がっていった。


「この階は違う………この階もか…」


一つ一つ狙撃手がいないか確認する六樹、残るは頂上だけとなった。


(敵は頂上にいる。おそらく出た瞬間に撃ってくるだろうな)


満を持して六樹は屋上に飛び出した。周囲に広がる雪景色が光を反射して目を細める。


だがある筈な物がない。いやそれだけでなくあるはずの物がいなかった。



「な!?……ここにもいない!!?」



塔の頂上、そこには誰もいなかった。


確かに地図上では狙撃手はここにいた筈だ、散々飛んで来た魔法もこの塔の頂上付近から発射された様に見えた。


困惑した六樹は地図を見て確認しようと考えた。敵がいる筈の場所でだ、しかしこんな考えが頭をよぎった。



(待て!!地図上だと縦横の軸しか分からない!!地図が正しいとするならば………高さ!!)




六樹はハッと頭上を見上げた。


六樹の上空、うっすら雲のかかった場所に彼女はいた。空中で逆さまの体勢となり杖を構えるヒエンと目が合う。その瞬間に魔法は放たれた。


(!…もう気づいたんだ…やっぱり君、厄介かも…)


空撃ち(エアショット)!!」


その威力と弾速はこれまでと比較にならない。六樹が来るまでひたすら詠唱を行なっていたからだ。


六樹の目前に空気の弾が迫る。


六樹(エスタ!!リミッター解除だ!!)


六樹は体に無理やりブーストをかけ、アングリッチで天を斬りあげた。


「うおおお!!斬り上げろォ〜!!!」


ギリギリギリギリ…と魔法と剣技がせめぎ合う。そして


ジュバーンッ!!という金切り音と共に狙撃魔法は切り裂かれた。空気の塊が破裂して若干のダメージを受けたが、間一髪で魔法を凌ぎきった。


「はぁ…はぁ…今のは危なかった」


すると脳内アナウンスが流れた。スキル、[蒼天斬(せいてんざん)]獲得しました。


[蒼天斬] 斬り上げる斬撃の際に威力、射程、速度が上昇


「まさか魔法試験で剣士として成長するとはな…でも今は、アイツをどう叩くかだ」


六樹は上空にいるヒエンを見据えた。目標は遥か上空、六樹は空を飛べない。


互いが決定打に欠ける中、六時がある方法を実践する。


六樹はアイテムボックスから一本の剣を取り出した。人攫いの一団を退治した時に回収しておいた内の一つのなんの変哲もないただの粗悪な剣


六樹は振りかぶって、その剣をヒエンに向かって投擲した。そして更に魔法を唱える。


噴出(ジェット)!!」


バシュッーーー!!と剣が打ち出される。

さながらロケットやミサイルの様だ。


噴出魔法、魔導列車の推進力にも使われる物だ、魔力の消費が少なくないが生み出されるエネルギーは射出魔法とは比にならない。


「なにか打ってきた!?不味いかも!」


ヒエンは更に上空へ逃げる。彼女の持つ飛翔魔法は素早く高度を調節でき、空中での姿勢を安定させる事が出来る反面、横方向への移動が出来ないというデメリットがあったからだ。


だが、打ち出された剣はそれ以上の速度で彼女に迫る。そして六樹が唱えた


「散々撃ってきた分だ、集積(エキュムレイト)衝撃(インパクト)!!」


ヒエンの目前で衝撃波が巻き起こる。これまで一方的に攻撃したツケが回ったかの様だった。


「きゃあーーー!!」


ヒエンが悲鳴を上げた。剣は大破し飛び散った破片も攻撃力を底上げする。だが……


「くっ!まだ!!まだ終わってないかも!もっと上へ!!」


宙に浮いていたため威力が上手く伝わらなかったのか、ヒエンは大きなダメージこそ受けたものの未だ健在だった。


「クソ!受け流されたか」


そして、六樹ではどうしようもないほどの高度に達した。


「ここまで来れば流石に攻撃は届かない筈!君も諦めた方がいいかもね!」


ヒエンが逃げ切った宣言をする。


しかし、胸騒ぎがした。何か聞こえる。まるで風の様な音だ、そしてそれはこちらに向かって来ていた。そして、周囲を見渡すとそれはあった。


「何!?風の塊!?」


ヒエンの言う通りそれは風の塊の様に見えた。まるで小さな竜巻を纏った様にも見える何かが一直線にこちらに向かって来ていた。そして、目を凝らすとその竜巻の中には少女がいた。水色の髪の獰猛な笑みを浮かべた少女が


「やっと見つけだぜ!スナイパー!!まさか上空とは、考えたな!」


「な!?」


(この娘、どうやってこんな高さまで!?箒でも到達出来ない筈なのに!まさかこの風魔法で!?あり得ないかも!どんなバランス感覚してるの!?とにかく今は対策かも!何か、なにか無いの!?)


そんな考えた裏腹にリベルはヒエンに風を纏いながら肉薄し、トドメの一撃を喰らわせた。


「氷剣!!じゃあな!」


「かっ………最悪かも……」


ヒエンはそう言い残し、魔力が無くなり落下する。その途中に魔法陣が作動し本部に転送された。


「やっと見つけたぜ、リョウ兄ィ」


そしてリベルは地上に降りる。そこには待望の六樹がいるからだ、そして絶望の表情を浮かべる六樹に向かって愛嬌たっぷりにこう言った。


「リョウ兄ィ!……来ちゃった ♪」


試験終了まで、残り79分


ヒエンは手札こそ少ないものの知恵を絞ってそれを補おうとするタイプです。クールに見せかけて割と俗っぽい所や妙にギャンブラー気質な所があり書いていて結構気に入りました。

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