59話 安全な果し合い
魔法試験開始です。
やあ!俺の名前はリョウ!どこにでもいる元高校生だ。
ひょんな事から護衛対象にマンマークされちまったぜ!
俺の異世界生活、どうなることやら…
エスタ(馬鹿みたいな独白してないで対策考えろ!)
六樹がいるのは森の中、いや正しくは魔法協会本部の隣にある広大なバトルフィールドの中だ、魔法協会の内部だけで使える転送魔法でランダムな場所に配置されたようだ。
しかし試験の合図があるまで動いてはいけない。
「タスクが一つ増えた。まさか保護対象に攻撃されるとは、それもちゃんと強い奴に…」
六樹はこれから強豪魔法使い達を片っ端から動ける限り潰しに行かないといけない。それだけでもかなり大変なのだが、そこにリベルが追跡してくるというおまけが付いた。
まさかこんな形で美少女に追われる日が来るとは夢にも思わなかった。
「リベルには悪いが、役割を放棄する訳にも行かないな」
エスタ(相棒、ならやる事は一つだ、隠し通せ、それがお前があの娘に出来る最大の配慮だ)
「確かにそうだな…知らぬが仏ってやつか…」
すると上空に青い花火が打ち上げられた。
パァーンッという音が響き開始の合図となる。
合図と同時に六樹は地図を取り出し確認した。
それはバトルフィールドのマップだ、フィールドは大きく4つのエリアに区分けされていて、北西に荒野、北東に市街地、南西に雪山、そして南東に森林があり全体の中央には大きな闘技場がある。六樹がいるのは南東の森林エリアだ。
そしてその地図には少し趣向が凝らされていた。
「この数字が持ち点か」
地図上にはいくつも1という数字が大量に書かれており、それらは常に移動し続けていた。
この地図は魔道具であり参加者の位置と持ち点を表している。最初は全員共通で1点、そして他の参加者を倒すとその相手が持っていた点数と同じだけ加算されるというルールだ。
例えば今1点持つ六樹が3点の選手を倒すと六樹は4点となり、倒された選手は3点で終了となる。試合時間は120分、最後まで生き残ればボーナスとして10点加算されるというルールだ。
「で、上位5%まで入れと…割と運が絡むな」
もし隣が優勝候補だった場合即倒されて終了になる可能性もある。リベルの間接的な支援を頼まれたのはそういう運要素を減らすためなのだろう。
「あっ、もう一人消えて2点の奴が出て来た。早いな……」
感心していると、六樹は1人近づいて来ている事に気づいた。
「石飛礫!」
茂みから突然魔法使いの少年が飛び出して魔法を放つが、六樹はアングリッチで易々と防ぐ。そしてスッと近づいてこう言った。
「奇襲なら静かにやれ、暗刃」
「やめろ!がっ!!」
六樹はその少年を漆黒の刃でなんと数箇所同時に突き刺した。
心臓などの急所には当てていないものの、本来ならば大怪我は免れない攻撃だ、そう本来ならば
「クソ!もう退場かよ!!ついてねぇー!!」
しかし六樹に数箇所刺された筈の少年はピンピンしている。
そして少年の下に魔法陣が現れ、どこかに転送された。
六樹はそれをみて感嘆の言葉が出る。
「すごいな、このシステム。ダメージを魔力に変換するなんてな……」
魔法協会が今年から初めて導入した画期的な方法、それが本来なら身体的な損傷となる筈のダメージを魔力消費に変換する魔法だ。
これによりこの試験会場ではどんな怪我をしても死ぬ事は無い。本来致命傷となるようなダメージを受けても魔力が全損するだけで済む。最も若干の痛みは感じるそうだが…
そして魔力がゼロになった者は魔法陣で強制転送させられるという仕組みだ。
「こんな技術あるなら、いくらでも使えそうなのに……」
六樹の至極当然な意見にエスタが精霊としての見解を述べる。
エスタ(今この場所の魔力の流れを見ているが、相当複雑な魔法陣を敷いてるな、使う魔力も莫大だ、これを戦場で準備するのは相当難しいな)
確かにそれくらいの制約がある方が自然だなと六樹は納得する。
再び地図を確認すると、そこには既に4点や5点の猛者が現れ始めていた。
「よし!じゃあ行くか!」
エスタ(魔法使いとの連戦か!主人様との日々を思い出すぜ!!)
◇◇
「試験開始からわずか5分!既に脱落者多数!!開幕からアクセル全開だ!!いや〜やはり軍人や冒険者など、常日頃から戦闘を経験している者達は一味違いますね〜。解説のネクトさん、どう思われますか?」
スクリーンに各参加者の戦闘が映し出される。やはり戦いを牽引するのは経験が豊富な者達だ。それを見て実況は解説に話を振る。
「自明の理ですね。実戦を経験した者は自身の出来る事と出来ない事をよく把握しているため、自分という駒の動かし方を理解しているんです」
「確かにそう実感させられますね。そして今回から初めて施行された目玉!それがなんとダメージを魔力に変換する魔法!!これにより参加者が心置きなく戦えるようになりました!!」
「前回までは降伏させるか気絶させるかだったんで事故が絶えず危険でしたからね、技術部の方々には頭が上がりません」
そして、実況役はこの試験の一見不公平にも見える箇所に言及する。
「ところで!この試験は武器の持ち込みが可能であり、魔剣士などの近接戦闘が得意な者がかなり有利に見えますが、どう思われますか?」
「それは当たり前ですよ。魔法も近接も出来る者が有利なのは当然の帰結です」
しかし、解説はその意見をバッサリと切り捨てた。
「しかし、遠距離戦を得意とする魔法使いにその考え方は酷ではないでしょうか?」
「確かにその通りではあります。しかし実環境においてはそんな事は言ってられません。戦場で敵に接近されるなんて事はザラにありますから」
「寄られた時の対策は魔法使いとして避けては通れない道という事ですか?」
「その通りです。だから彼らは知恵を絞るんです」
その言葉を聞いたアンリは怪訝な顔をした。
「随分と厳しいんですね」
「そりゃそうっスよ、一級魔法使いってのは戦場では火力担当になる事が多くて敵からは積極的に狙われる存在っス、寄られたから負けましたって訳にはいかないんスよ。」
「重い称号ですね」
「期待の裏返しでもあるっス、あっ!ムツキ君が映ったっス!」
ダリアの指摘でアンリはスクリーンを凝視する。そこには六樹が1人の魔法使いと対峙していた。
◇◇
森林エリア、六樹の前にはダリアに教えられていた一人の人物がいた。
「その黒いロングコート、陣羽織のガイトだな?」
「どうやら知られていたようだ、いかにも、私はそのように呼ばれている」
(8点のマークを追いかけたら早速要注意人物を一人発見、幸先いいかもな)
「始めますか」
「いい心がけだ、では決闘といこうか」
そこには30代位の男がいた。その男は厚手のコートを羽織っていた。彼は軍所属の魔術師ガイト、陣羽織のガイトという名で知られている。
「「………………」」
二人は何も言わずに一歩二歩とジリジリと間合いを見極める。さながら西部劇の様な緊張感が走る。
「ダブルショット!!」
先に動いたのは六樹だった。2本の緋影をガイトの腕と脚にそれぞれ放つ。
「ふん!ぬるい!」
しかしガイトはそれを羽織っていたコートで受け流した。パサッとはためくコート、その内側には魔法陣が光を放っていた。
(!…聞いてた通りだ、来る!)
次の瞬間、コートに刻まれていた魔法陣が発動し、ガイトが手から火炎放射を魔法を放つ
ゴオオオオオ!! 「暗障!」
六樹はそれを魔法で防ぎきる。
「…なるほど、服飾に魔法陣を大量に刻みつけておいて臨機応変に即発動、詠唱も必要ないと」
「ただの小細工だよ。もっとも、この小細工のおかげで私は生き残ってこられた訳だが」
ガイトは魔法陣を羽織る。それが陣羽織の由来であり彼の戦法だ。
そして再びコートの魔法陣が発動した。今度は複数同時だ。
[鑑定]目線・発動魔法・魔力感知
まず突風を吹かせ、そして地面から岩の槍が隆起し、最後に漆黒の矢が射出された。
魔法の蓮撃が六樹を襲うが、鑑定魔法を駆使して前兆を予知した為回避に成功する。
それを見たガイトは素直に感心する。
「どうやら君も小細工を用しているようだな」
「まぁ色々とね」
(それにしても、よく切り替えミスらないな、俺ならパニックになる)
通常、魔法陣を装備に刻むのは1つか2つ程度に留まるものだ、何故なら魔法陣に魔力を流し込む関係上、多すぎると切り替えが困難になり、制御不能に陥りかねないからだ。
だがガイトは大量の魔法陣をその都度適切に使い分けている。それは彼の魔力操作が非凡である事の証明であった。
六樹は思考を巡らせる。この試験に臨むにあたり、六樹はいくつか自身に縛りを設けていた。
解毒魔法の禁止、霊剣鬼道の使用制限、多言語詠唱と死霊遣いの技能の封印だ。
前二つは人に向けて使うと試験のセーフティを突破しかねない為危険と判断した。また死霊遣いである事は隠しておいた方が身のためであり、アンデットのストックを減らしたくもない。それに試験でゾンビパニックを起こす訳にもいかない。多言語詠唱に関してはシンプルに手の内を晒したくない為だ。
(敵は多数の魔法陣を装備に刻印。魔力を流し込む事で発動、無詠唱かつ速射可能、ならどうする?)
次の瞬間、六樹は緋影を今度は一本だけ構えた。
[摩擦:増、能力刺突]
「……ショット!!」
「どうやら学ばなかった様だな…………何?」
ガイトは再びコートを使い受け流そうとする。だが今回は上手くいかずコートに緋影が突き刺さる。刺突スキルによる貫通力のバフと摩擦係数が増えた事により滑らせて受け流す事が出来なくなったからだ。
「ふん、だがこの短剣がなんだ!」
予想外ではあった、しかしガイトはそれほど危機感を持っていなかった。コートに短剣が突き刺さっただけだからだ、しかしその認識の甘さをすぐに後悔する。
「……?…!?」
バチッ!と電撃が彼を襲った。その発生源は自身のコートだ。
「ぐはっ!?……くっ!?」
(まさか!?魔法陣の暴発!!…だが何故だ!魔力なんて流して……あの短剣!!)
緋影は突き刺さった対象に特殊な魔力を流し込む。生物にとっては麻痺毒のように作用するが、無機物に打ち込んでも特に意味はない。
しかし今回は違う。ガイトのコートは魔法陣が刻み込まれている。そこに特殊なチューニングの魔力を流し込んで正常に動作するはずがなかった。
「か、……!」 「詰める」
ガイトが体勢を整える隙を与えず、六樹はアングリッチでトドメを刺しに行く。そして剣による一撃を浴びせた。
「くっ!、まだだ!」 「……浅い、もう一発」
たがガイトはギリギリの所で決定打を回避、六樹が追い討ちをかけようとしたその時
エスタ(相棒!!何か来る!!)
ズドンッ!!という音が響き、ガイトが背中から攻撃された。
「………かはっ」
ガイトは決定打を与えられその場にダウンする。六樹は即座に状況を整理した。
「!?…狙撃か!………来る!!」 バギンッ!
六樹は剣で魔法の第二波を切り裂き、なんとか不意打ちを回避した。
「風魔法による長距離狙撃か……どうやら私もまだまだな様だ」
ガイトが自身で受けた攻撃をそう分析する。
「さらばだ、君の合格を陰で願っているよ」
そう言い残しガイトは転送される。六樹はしばらく無言だった。
「………まぁ横取りキルパクはバトロワの醍醐味だけどな〜」
8点を横取りされた六樹は狙撃の飛んできた方向を向いてこう吐き捨てた。
「でも今のはちっとばっか…イラっときたな」
◇◇
一方その頃、雪山エリアではリベルが地図を見ていた。周囲には魔法を放った跡があちこちにある。
「さてと、これで11点、雑魚狩りばかりじゃつまんねーな、となると…」
リベルは上機嫌に地図を開く、そして懐から一本の髪の毛を取り出した。リベルはそれを地面に突き刺した棒に縛り付ける。その髪の毛は白かった。
「私から逃げられるかな?リョウ兄ィ……ふふ〜ん…どこにいるかな〜♪お兄様〜♪」
鼻歌を歌いながらリベルは不敵な笑みを浮かべるのだった。
ガイトさんはちゃんと強いんですけど六樹は魔法使いメタみたいな所があるんで早々に退場しました、可哀想に。せっかくのバトルロワイヤルなので、それならではの展開を書いていきたいです。私のキャパが持つかは分かりませんが(震え声)




