56話 有意義な待ち時間
魔導都市に到着して2日目
ウィザリアには二週間以上とそれなりの日数滞在するため、通常の宿屋ではなく自由に使える小さな家のような場所を借りる事となった。この世界のモーテルと言うのが近いかもしれない。食事はつかないが問題ない、六樹もアンリも料理が出来るのでその分節約になるからだ。
「私は街を観光してくる!」
2日目の早朝、リベルはそう言い残して宿を飛び出した。色々と見て周りたかったらしい、元気そうでなによりだ。
落ち着いた所で六樹はアンリは旅費の勘定をしてみる。
「仕方ないけど宿代とかの固定費はそれなりに痛い出費だな…」
「まぁ抑えている方ではあります。そうだ、そろそろ宝を換金しておいた方がいいかもですね」
アンリがそう提案した。
「そうだな、この規模の街なら買い取って貰えるか」
ハルゴス戦やその他諸々での報酬はまだ残っているものの、やはり現金は多い方がいい。旅先を楽しむ為にも何かと入り用だ
という訳で二人はハルゴスの洞窟にあった財宝を換金するべく街の古物商や宝石商を回ることにした。アルヒの町にはそれらがない為、換金する手段がなかった為だ。
ウィザリアの街はかなりの賑わいであり、様々な場所で魔法陣が描かれている。どうやら魔法でインフラを整えているようだ。
そして、さらに六樹が驚いた物があった。
「うお!?これ?スクリーンか!?」
街の中の石畳みの広場に映画館のようなスクリーンが設置されていた。
そのスクリーンにはニュースのような映像が映っており、道行く人々が自分の興味のあるものだけ見ては去って行く。
アンリが感嘆の声を上げる。
「これがウィザリアが誇る映像魔法ですか……私も初めて見ましたがとんでもない技術ですね」
「よく再現できたな江川さん……」
六樹もまさか映像を見る日が来るとは思わずそう漏らす。
「ちなみに聞いた話だと魔法試験の映像は街中に放送されるらしいですよ?」
「大衆の娯楽になるのか、それに試験の透明性もバッチリって訳だ」
魔法試験では不正をし辛いというような話だったがそれもその要因の一つなのだろうか?
六樹はそんな事を考えながら宝石商にたどり着いた。
「いらっしゃいませ」
「始めまして、宝石の買い取りをお願いしたいのですが」
「買い取りですね?ではこちらの部屋へどうぞ」
やはり宝石商となるとそれなりに接客がしっかりしている。六樹とアンリは奥の部屋に通された。そこのテーブルには天秤が置いてあった。
「では、商品をお見せください」
「分かりました。」
六樹がハルゴスの洞窟から持ってきた宝石を取り出す。商人はそれをマジマジと見つめ、鑑定する。
「ふむ、質は悪くないですね…それでは重さを計らせていただきます。」
そう言って天秤の皿に宝石を乗せ、そして反対の皿に重しを乗せて行く。
「……この重量でしたら、この宝石は銀貨12枚で取り引きさせていただきます。質が良いので相場より少し色を付けさせていただきました。」
「確かに相場より少し高いか……」
「…………………」
六樹は事前に調べていた宝石の相場より少し高く買い取って貰えることに安堵していたが、アンリは何故か黙って見ていた。
その後も鑑定と買い取りは続いた。
「では、これも重さを計らせていただき「待ってください!」
そう言ってアンリは商人の手を掴んだ。
「アンリ!?どうした?」
「リョウ、この人は不正をしています」
その言葉に六樹と商人の二人がギョッとした表情を浮かべた。
「お嬢さん!言いがかりはやめてください!私は正規の手順を踏んで鑑定しています。どこに不正する場所があるんですか!?」
「重さを測る際、何か魔法を使っていましたね?あなたが天秤にこっそり魔力を流していたのを確認してます。」
「……!?本当だ、確かに天秤の底に小さいけど魔法陣が彫られてる」
「なっ!?」
商人は引きつった顔をする。そして六樹は天秤の皿に何も乗せず魔法陣に魔力を流して効果を見た。
「……傾いた、本当に黒だな」
「これは何の魔法ですか?」
「……………触れた物の重さを足す魔法です」
商人が渋々白状する。そしてアンリはこう言った。
「もう一度、計測して適正な値段で買い取ってください。いいですね?」
「……はい」
そして、六樹がそこに条件を付け足した。
「あと、その魔法も教えろ」
「なっ!?この魔法は我々商人の秘中の秘、江川歩にすら漏らした事が無いのに!」
「バラすぞ?」
不正は許せない、もしくは俺も混ぜろ。六樹はそう言っている。商人は気乗りはしないが了承した。
「分かりました。宝石は相場より高く買い取りますし魔法も伝授しますから……誰にも言わないでください」
◇◇
「いや〜、まさかこんなことになるとは思わなかったけど、怪我の功名だった!これで俺も搾取される側から搾取する側になるんだ!」
「リョウ?一応言っておきますが、その魔法を人を騙す為に使ってはいけませんよ?」
六樹がはしゃいでいるとアンリが冷ややかな言葉をかける。
「えっと…もちろん普通の人には使わないよ?でも悪い奴とか犯罪者なら…?」
「ダメです」
「…………はい」
六樹の詐欺師への道は10秒と経たず打ち砕かれたのであった。
◇◇
二人は帰り道、ある建物が目につく。大きな石造りの建物でその看板にはこう書かれていた。
[スレトリア鉄道・魔導列車博物館]
「昨日見た列車のやつか?」
車輪では無くソリの様に滑らせる事で動かしていた列車に少し興味があった。するとアンリがそれを察したのかこう提案する。
「時間はありますし、少し寄って行きますか?」
「いいのか?ありがとう」
アンリの気遣いに感謝しつつ博物館に足を運んだ。
中は使わなくなった日本の鉄道博物館の様に列車が飾られており、そして解説などが貼られていた。
「へぇ〜……この列車は推進力こそジェット噴射みたいな魔法を使ってるけど、滑らせる方は乗組員が能力でやってるのか」
解説によると江川歩は元々蒸気機関車を造ろうとしていたが、一から専用の製鉄所を創るよりも魔法を使い、この世界により適応した乗り物を創った方が良いと考えたらしい。
そしてその結果、魔法の力で列車を押し出し、乗組員がスキルを発動して滑って移動するという形になったとの事だ。
ところでこのスレトリアという名前、どこかで聞いた事ある様な……
「え!?ムツキ様!?」
そんな事を考えていると突然後ろから声をかけられた。
「……スレッタ!?何でここに?」
そこには礼服に身を包んだスレッタがいた。その隣には何人かの明らかに身分の高そうな大人達がいる。
「私は父の仕事の付き添いです」
スレッタは上品な口調でそう言い、チラッと父親の方を見た。するとスレッタの父親が六樹達に挨拶に来た。
「私はリエル・スレトリア、この鉄道会社の代表をしている者だ。もしや君達が娘を助けてくれた冒険者かい?」
「はい、お父様。こちらがムツキ様とレカルカ様です。」
「そうか……先日の一件、君達には感謝してもしきれない。一人の父親として言わせてくれ!私の娘を助けてくれて本当にありがとう!」
スレッタが社長令嬢であった事に内心納得する六樹、育ちが良かったためリベルと間違われた訳だ。
そしてスレッタの父親リエルにこう返した。
「いえ、当然の事をしたまでです。ギルドの依頼を受けたただの冒険者ですよ」
「確かにそうかもしれない、だが君達がいなければ私は二度と娘と会えなかったかもしれないんだ。こればかりは理屈じゃない」
「お父様……」
リエルが深々と頭を下げる。その声は震えていた。
どんなに社会的に成功した人だったとしても家族を失うのは恐ろしいのだ。そして六樹達にこう告げた。
「何かお礼をしなければいけないな」
「いえ、報酬はギルドの方から受け取ってますし…」
「謙虚なのは素晴らしいが、ここは私の顔を立てて受け取ってくれないだろうか?」
六樹とアンリは向き合いアイコンタクトを取り、そして善意に甘える事にした。
「…分かりました。ではお言葉に甘えさせていただきます。」
周囲の社員に甲斐性を見せたかったのか、あるいは父親としての矜持だろうか、リエルは少しホッとした様な表情を浮かべた。
「品が良いとは言えないが、それなりに手持ちはある。もし入り用なら好きな額を言って欲しい。それ以外にも私に出来ることがあれば善処する。」
微妙に乗りづらい話が出て来た。
六樹とアンリはすこし話し合う事にする。
「リョウ、どうします?」
「う〜ん、シンプルにお金か?でもなんだかなぁ〜、こう善意に漬け込んでる感じがあって気が引ける。アンリは何かある?」
「私も特にないです。それに資金繰り自体は割と余裕がありますよ?私達それなりに質素ですし」
二人は普段から自給自足的な生活を送り、そこまで散財する事もなかった為、正直言ってお金にはそこまで困っている訳ではない。勿論ある事に越した事は無いが優先順位という点ではそこまで高くは無なかった。
「アンリ、こんなのはどうだ?……」
そして話し合った末に結論を出した。
「決まったかい?」
「はい、決めました」
六樹はリエルにこう頼み込む。
「魔導列車に使われている魔法やスキルを伝授して下さい」
余談
スレッタの家系、スレトリア家は代々魔法の研究などを行なっていましたが、江川歩と組み魔導列車、都市開発などに貢献した事により大きな権力を持ちました。そのため魔導都市ではかなり有名な一族であり、いわゆる財閥なんかに近い存在です。




