50話 気に食わない奴
今回でなんと50話となりました。今はただ、読者に感謝を…
六樹は会話により情報収集を始める。
「勇者としての役割はどうした?安永」
「あんなモンに命を賭けるなんて間抜けのする事だ」
「あっそ、少なくとも人攫いよりはマシだと思うけどな」
六樹は興味なしといった具合に話を流す。まだ安永が攻撃してこないところを見ると、安永自身も六樹の素性に多少の関心があるのだろう。
「単刀直入に聞く、お前はなぜ白髪の少女を狙う?誰に命令された?」
「上からだ、この付近を通過する筈の王女様を攫えってな、使い道はいくらでもあるからな」
(上ね……前提として安永はガドル王国に仕えていない。となるとよほど大規模な犯罪組織か、もしくは敵対国家あたりが妥当、つまり本命は)
「………魔王軍か」
安永のピクリと眉を動かす。どうやら正解を引き当てたらしい。
(裏切った元勇者がいるとは聞いていたがコイツの事か、それなら仮面で素性を隠してたのも納得がいく)
六樹はまだ対話が成立している内に気になっていた事を質問した。
「ところでお前、佐韋島がどこにいるか知ってるか?確かよくつるんでたよな?」
その質問に安永の機嫌が露骨に悪くなる。
「知るかよ!あの野郎の話はやめろ!アイツの話には付き合いきれねー!!だから手を切ってやった!」
佐韋島は野心家だった事を思い出す。実は六樹は、その野心の高さを尊敬していたりもする。
ハルゴスの記憶では、確か世界を統べようと画策するような事を言っていた。大事になる前に手を打った方がいいのだが
しかし安永はその野望には乗らなかったという事なのだろう。
(少しつついてやるか)
「手を切ったんじゃなくて、お前が置いて行かれたんじゃないのか?」
安永の顔に青筋が浮かぶ
「黙れ!!舐めた口効きやがって!」
「なんだ図星か?まぁクラスメイトを裏切って、こそこそ女の子を攫って回る奴だからなぁ?佐韋島も見捨てるよなぁ?」
「黙りやがれ!!殺すぞ!!」
「安永、お前の言葉は軽いな………本気で殺す気のある奴はそんな簡単に口には出さないんだよ」
六樹の声が急に低くなる。その言葉には何故か芯があった。
「そういうとこだ六樹!俺はお前が嫌いだった!!クラスで俺より下の立場の癖に!!孤高を気取りやがる!そのくせ普通に連れがいるのが気に食わねー!!ゲームオタクの癖してクラスで一目置かれてるのも気に食わない!!極め付けは神宮寺の野郎がお前を右腕扱いしてた事だ!!気に入らねー!!お前は俺より下なんだ!!調子乗りやがって!!!あの暗闇で死ねばよかったんだ!!」
六樹に対する不満を爆発させる安永、そして罵倒に愉悦が混ざる。
「だが良い気味だ!お前はあの場にいなかった!お前にチートは無い!!雑魚が!この世界ではお前は正式に俺よりも下だ!!!」
対する六樹は冷めた視線で言い返す。
「安心しろ安永、お前が俺を見下してるより100倍位は、俺はお前を見下してるからな。だってほらお前、自分より弱そうな奴にしか手を出さないだろ?」
六樹の挑発に安永は我を忘れる。
「こ、殺す!絶対にころ」
言い切る前にビュン!という風切り音が響いた
激昂したタイミングで安永の顔に緋影を投擲したのだ。
今度は魔法を使わない素手による投擲、暗殺者のような一撃は安永の額に命中したと同時にピタッと止まる。
安永には一切傷がついていない
「何!?一体何が起こった!!?」
六樹がそう狼狽する。彼にしては珍しい
「言うわけねーだろ!自分で考えやがれ」
「……………ちっ、駄目か」
六樹がそう舌打ちする。狼狽えた様子を見せれば安永が調子に乗ってペラペラと手の内を晒すかと考えたが、どうやら当ては外れたらしい。
「六樹!お前は俺がこの手で確実に殺してやる!……?いや待てよ?お前はこんな正面から乗り込んで来るようなタマか?もし俺が戦う事自体がコイツの勝ちなんだとしたら………!!陽動か!!」
(クソ!バレた、意外と勘がいいな)
「安永、足りない頭をよく使ったじゃねーか?今月は残高不足で苦しむんじゃねーか?」
「お前の挑発には乗らねー!!おいお前ら!!コイツを殺しやがれ!!俺は地下牢に向かう」
「クソ、待て!この腰抜けが!!」
だが、挑発には乗らず安永はその場をその場を去ろうとする。アンリ達の方に向かうつもりだ
去り際にこう吐き捨てた
「じゃあな神宮寺のコバンザメ!せいぜい苦しんで死にやがれ!」
そう言うと安永は見えなくなる。残ったのは六樹とそれを取り囲むおよそ三十人の賊達だった。その場の全員が静まり返り攻撃の隙を伺う。それは嵐の前の静けさのようだった。
六樹は賊達に最初で最後の警告をした。
「一度しか言わない、この場から立ち去れ、さもなくば……殺すぞ?」
六樹が先ほど言っていた言葉を思い出し、賊達は六樹の冷たい警告に息を飲む。
だがその警告を受け入れる者は現れなかった。そして、その場の賊達が堰を切ったように六樹に襲いかかった。
「やっちまえ」 「殺せ」 「行くぞぉ!?が、ガガガ…
グサッという鈍い音が響き真っ先に動いた者達の頭部に緋影が突き刺さる。急所を避けた者もいたがすぐに麻痺して動けなくなる。
出鼻をくじかれ、包囲していた筈の賊達に動揺が走る。しかし、指揮官らしき立場の1人はすぐに指示を出した。
「魔法だ!魔法を放て!……おい!何やってるん……だ?」
誰も指示に従わず後ろを振り返ると、魔法使い達の亡き骸が転がっていた。すでに六樹に撃ち抜かれた後だった。
「う、殺せー!!!」
声を上げた者、行動を起こそうとした者から順番に殺される。後衛はすでに潰された。もはや連携は困難と悟るやいなや、やけくそ気味に六樹に襲いかかった。
もはや包囲など関係ない、ここからは乱戦だ。
「死に晒せ!!」
三人の男が六樹に武器を構えながら駆け寄る。六樹は緋影をその男達の地面に飛ばした。
「落ちろ」 「!!?……うわぁ〜!!」
突然地面が消え失せ、落とし穴に落とされる。そしてその直後、消えた筈の地面が真上に現れた。
「嘘だろ!?逃げろ!!逃げ…
グチャッという共に肉が潰れる音が聞こえる。
「これで九人」
六樹が無機質そう呟く、まるで害虫駆除でも行っているような口ぶりだ。
賊達は一刻も早く六樹を処理しようと全力で攻撃し始める。
二人の剣士が二方向から六樹に飛びかかる。六樹は心の中でこう唱えた。
[ステータスオープン]
二人の剣士の目の前に突然ステータスウィンドが現れた。
「な!!?」 「前が!?」
「紫電一閃!」
ズバンッと人間が切り裂かれる音がする。
二人一太刀、剣士達のが綺麗に真っ二つに切断される。六樹の技の威力は修行の成果だけでは説明がつかないほど上昇していた。
「ぐっ!!取り押さえたぞ!!」
そして立て続けにもう一人、勇敢にも攻撃の隙を縫い六樹の腕を掴み無力化しようと試みた。
「暗刃!」 「??何言って、ぐげっ!?」
[暗刃] 、暗障の応用魔法だ、本来粘土のような黒い物体だがそれを刃状に加工する。それだけでは殺傷能力は無いが硬化スキルを併用する事により刃物としての最低限の強度を与える。
その結果、本来ならば防御魔法である暗障は、どこから飛び出すか分からない不定形の刃へと変容する。
六樹の腕から突然漆黒の刃が現れ、腕を掴んでいた男は喉を突かれて倒れ込んだ。
しかし賊達の攻撃は留まる事を知らない。
ある者は武闘家であり、六樹の首をへし折ろうと回し蹴りを繰り出した。しかし
「ぐっ!離せ!!」
その蹴りは鑑定スキルで動きを先読みしている六樹に見切られた。それどころか脚を掴まれる。
そして彼は知らない、六樹が敵に触れている。それは死を意味する事に
「解毒:特」「かっ…」
武闘家は訳もわからないまま即死する。その一部始終を見ていた他のものは当然警戒した。
「あいつに触れられると死ぬぞ!!気をつけろ!!」
その対策としてか、ある者はフルアーマーを装備して六樹に挑んだ。
「これなら触れられまい!?」 「鈍いな」
ザシュと、足の関節の隙間を縫って六樹が切り付ける。鎧の男は脚の鍵を切られて動けなくなった。
重症だかフルアーマーのおかげで致命傷は避けられた。たがそれを装備していた事をすぐに後悔する事となる。
「加熱」
六樹は鉄の鎧に加熱魔法をかける。熱はとんでもない速度で鎧を伝う。
ジューッという音が響き、男を守っていた筈の鉄の鎧は、一瞬にして灼熱の牢獄と化しのだった。
「熱い!!あついあついあつい……!!誰か!?誰かここから出してくれーー!!」
肉の焼ける匂いがする。鎧の男はしばらく悲鳴をあげながら暴れたのち動かなくなった。そして六樹は独り言のようなものを呟く、決して大声などではなかったが、その場にいた者達は一言一句聞き逃せなかった。
「これで14…半分くらいは間引いたか、意外と楽だな」
無機質、たった今人間を一人焼き殺した者とは思えないほどひたすら無機質に呟いている。そして次の瞬間、六樹の周りにアンデット達が突如として姿を現した。
数は十数体、アンデット達は周囲に撒き散らされた障気を吸い込み強化された、最後の拠り所であった数的有利すら失われる。
「お前らもだ、食人鬼化」
更に絶望が追加される。損傷が少ない遺体がアンデットとして立ち上がる。その視線は元は仲間だった者に向けられる。
「殺せ、誰も残すな」 「グアァーー!!」
六樹の命令を聞きアンデット達が襲いかかる。
その場の賊達は理解し始めた。
もはや自分達はまともな死に方すら出来ないのだと
敵に回してはいけない相手が今目の前にいる。
賊の一人が仲間の死によるものか、死者達によるものか恐怖に震え始め、遂には理性が決壊する。
「い、いやだ〜〜〜!!死にたく無い!!」
そう言って背中を向け一心不乱に走り出した。一人の恐怖と絶望はあっという間に全員に感染し、ほとんどの者が逃亡を始めた。
所詮は賊、利益と恐怖で動いていた者達だ。自身の命を賭けて戦う者では無い。
いや厳密にはいたかもしれないがそう言う奴らは最初に飛び出して真っ先に殺され今自分達に襲いかかってきている。
「暗障・前進」
しかし賊達が目指した出口は黒い粘土のような物体に塞がれる。
「そ、そんな……」「石飛礫」「がっ!」
「グルル…!」「バルカ!!正気に戻れ!」「グアァ!!」「やめてくれ!!あぁー!!」
逃げ場を失った者達に後ろから魔法による追撃とアンデットが襲う。あたりはもはや戦いと言うにはあまりにも一方的な地獄絵図と化していた。
「なんで、こんな酷い…」「それをお前らが言うのか?」
絶望を口に漏らした男に六樹はまるで理解できないような口ぶりで返した。
六樹に情は無い、少なくとも俺たちのような悪人は虫よりも軽く殺す。そう理解すると最後の力が湧いてきた。
「エクマ…行くぞ!!俺たちの最期だ!!」「死ぬ時は一緒だ!相棒!!」
最後に残った二人は顔をぐずぐずにしながら六樹に一矢報いようと突撃した。
「「うおおおおおお!!!」「ショット」「がはっ」
「エクマ!!……クソ!死ねー!!!」
頭部に赤い短剣の刺さった仲間であり友人であった者を横目に最後の一人は六樹目掛けて剣を突き立てた。
グサッという音が響いた。確実に刺した、この感触は人を貫いた時のものだ何度も経験したから間違いない。
男はその手の感触に少し安堵しながら突き刺した獲物を確認した。
「………エクマ?」
そこには先ほど殺された友人がいた。いや自身が死体に剣を突き立てていた。
すると次は友人の死体から剣が飛び出し自身の胸を貫いた。
「……くふっ、!?……なんでお前が?……なんで」
死体の後ろから最後の一人に致命傷を与えた六樹が現れた。六樹はアイテムボックスを応用して死体を目の前に移動させ身代わりとしたのだ
「死ぬ時は一緒なんだろ?良かったな」
バタッと最後の一人が倒れる。安永がこの場に残した賊達約三十名は、三分と掛からず殲滅されたのだった。
六樹がアンリ達の元に向おうとした時だった。
「あ、あの!助けに来てくれた方ですか!?」
突然先ほどまで安永がいた2階部分から声が聞こえた。
「あぁそうだ!俺は冒険者だ!ここは制圧した!とりあえずは安全だ!」
六樹が返事をすると声の主降りてきてが姿を見せる。それは白い髪に紫の瞳の少女だった。
(おい、嘘だろ?本当に彼女なのか?)
「私はスレッタと言います!私を、いえ私達を助けてください!!」
50話目にして六樹が初めて無双展開を書く事が出来ました。これから増えてくるかも?強くなったというか怖くなったというか……
気が向けばブックマークや評価ポイントなどをつけていただけると幸いです。




