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46話  野伏の追跡術

ギルドの報告にあった人攫いの犯行現場に向かう三人、しばらく無言で歩いていたがその空気を変えようとアンリが少女に話しかけた


「えっと……自己紹介がまだでしたね!私はアンリ!アンリ・レカルカです!」


「俺は六樹亮だ、よろしくな!そっちはなんて呼べばいい?」


「私はナノハだ」


「菜の葉?菜の花?……いやナノハか」


「私の名前がなんか変かよ?」


「変というかなんと言うか……」


六樹にとっては変じゃないから問題なのだ


「いや、もしかして江川歩に名付けて貰ってたりする?もしくは日本人由来とか」


「……いや、違うな」


「そうか、じゅあいいや」


何となく和風っぽい響きが出たので一瞬脳が混乱した。


この世界だと普通なのだろうか?それともこいつは日本人に関係しているのか?


いや落ち着け、日本人は地毛で水色は生えない。そう現在進行形で地毛で白髪を生やしている六樹が考える。


まぁ響きが似ている事なんて別にそこまで珍しくもない事だと流す事にする。


「ナノハ、共闘するにあたって職業(ジョブ)を教えてもらってもいいか?」


六樹のその提案にナノハは素直に応じた。


「私は魔術師と野伏(レンジャー)だ、魔法は得意だぜ!そんでもって近接も多少の心得がある」


「私は武闘家と神官です。治癒系魔法が得意です。」


「……俺は剣士と魔術師だ、魔法は中級までなら使える」


死霊遣い(ネクロマンサー)のジョブは忌み嫌われているらしいので一応隠しておく事にした。


しばらく歩いて人気が無くなるとナノハはフードを外した。


「ふう!やっと解放されたぜ!」


フードを外し、ナノハの顔がはっきりと見える。彼女は水色の髪を後ろに束ねたポニーテールだった。そして彼女の肌は透き通るような白色で瞳は碧く、その顔はおおよそお目にかかれない程に容姿が整っていた。


「なんで顔を隠してたんだ?」


「軟派な野郎共が声かけて来てうるせーんだよ。ホラ私!美少女だから!」


「自分で言うのか…」


「アタシ全然可愛くないですぅ〜とか言う奴よりはいいだろ?」


「……確かに!」


「リョウ、乗せられないでください」


アンリに軽く小突かれたので話を変える事にする。


「同行者が俺たちで良かったのか?」


「まぁな、ギルドの条件を満たす為以外だとアンタらを選んだ理由は三つある」


そう言ってナノハは指を3本立てた。


「まず一つ目、単純に強そうだから。アンタらは他の冒険者よりも死線を潜って来たような顔つきをしてた」


「そりゃ光栄だな」


「二つ目にバランスが良さそうだったから。私はなんだかんだ後衛に偏るから前衛が厚い方が良かったんだ。兄ちゃんは帯刀してるから剣士ってわかったし、姉ちゃんも一目で前衛だってわかった」


「リョウ!私ってそんなに前衛っぽいですか!?」


「アンリは鎧と籠手を付けてるからじゃない?」


「そっか……そうですよね!」


一目で前衛だと見抜かれたのがショックだったのだろうか?乙女心は複雑らしい


「三つ目は…なんだ、兄ちゃんは女連れだから変な気起こさないかと思って、また返り討ちにしなくて済むし」


ナノハは少しバツの悪そうに語る。その言葉にアンリが元気よく反応した。


「はい!リョウは安心していいですよ!昨夜だって私が同じ部屋にいるのにベッドに横になった途端、本気で死んだかと思うくらい熟睡してましたから!」


「アンリストップ!やめるんだ!」



突然プライベートを暴露されて珍しく狼狽える六樹


アンリは援護射撃のつもりかもしれないが六樹からすれば銃殺刑だ、急いでアンリの口を塞ぐ


「と、とにかく!お前も色々と大変なんだな」


「お、おう。それはお互い様みたいだな」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


三人はギルドから教えてもらった直近の事件の犯行現場に足を運んだ。その場所は峠道のど真ん中だった。


「ここだな、確か馬車に乗っていた所を突然襲われたんだよな?」


「はい、突然襲われたために御者は馬車から転落して気を失い、起きた時には馬車そのものと同乗者の少女が消えていたと」


「まっ、とりあえず馬車の形跡を辿ろうぜ?」


そう言って、ナノハは馬車の車輪の跡がついた方に指を指した。その轍は近くの茂みに突っ込んでいた。


誘拐犯の追跡を行う三人、馬車の跡は草や茂みを踏み倒して進んでいたためそれなりに分かりやすく、しばらく歩みを進めると森の中の少し開けた空間に打ち捨てられた馬車があった。


「見つけた、これだな」


「問題はこっからだぜ?兄ちゃん」


そう言うと、ナノハは馬車に近づき中を確認した。


「金目の物は盗られてるな、でも食糧は放置と……金のついでに女を攫ったか、それともその逆か……」


ナノハが馬車の中を調べている横で六樹とアンリは馬車の外を見て回る。


「馬の足跡が茂みに突っ込んでるな、ここで馬が逃げたか……いや違うな、馬車の進行方向と同じ向きに走ってる。これは馬を切り離したのか」


六樹が考察していると反対側を見ていたアンリが声を掛けて来た。


「リョウ!ナノハちゃん!なにやら争ったような形跡がありますよ!?」


すぐにアンリの指した方を見る2人、そこには確かに地面に不自然な乱れがあった。


「いいね姉ちゃん、確かにここで揉み合いになってんな、見た所女子が下になって押さえつけられて抵抗した感じだな。押さえつけたのは大柄の奴が二人がかりってとこか」


一目見ただけでズバズバと状況を推察していくナノハに六樹は関心する。


「この荒れた地面を見ただけでよくわかるな?」


「私はこれでも野伏(レンジャー)だからな」


「何人で襲撃したか分かるか?」


「足跡からして6人、結構規模デカいぞこの組織」


最近この付近で攫われた少女達の特徴は第二王女と一致しているそうだ、おそらくただの金目当ての集団という訳では無いのだろう。


アンリが素朴な疑問を口にする。


「6人もいて食糧は持って行かなかったんですね…近くに拠点でもあるんでしょうか?」


「かもしんねーな、欲に目が眩んだ奴等なら普通誰かしらは運ぶだろ。それすらしねーって事は、よほどすぐにこの場を離れたかったのか、単純にしくじりたくなかったかってとこか?」


ナノハが考えを巡らせている間、六樹は人攫い達の足跡を見ていた。


「足跡を辿るか?」


「いや、その足跡は偽装だぜ?バタバタと一心不乱に一直線、出来すぎてる。十中八九途中で撒かれるな」


「ならどうする?」


「近くに被害者の髪の毛でも落ちてねーか探してくれ」


ナノハの指示に従い付近を入念に見て回る三人、そして


「あった!この白くて長い髪……多分被害者のだ!」


「お手柄だぜ兄ちゃん!!ちょいよこしな!」


ナノハは髪の毛を六樹から受け取ると地面に突き立てた棒に縛り、何か呪文を唱え始めた。


「……その身断たれて別れようとも、その霊魂は細部に宿り、再び帰らんと示しを残す。身体返還(リターン)


そう魔法を唱えた瞬間、髪の毛が発光し始め、まるで引っ張られるように一方向に伸びた。しかし地面に突き刺さった棒によってピンと張った状態で止まる。


「これは?」


「髪の毛が持ち主の元に戻る魔法を応用して方角を割り出した。この髪が張る方向に被害者がいるって訳だ!」


「そんな応用を……すごい発想力ですね」


「探知魔法が使えねーだけだ」


アンリが関心しているとナノハは話をまとめる。


「方角はこれ、距離は長くても徒歩2日ってとこか……地図出してくれ!」


六樹がギルドで受け取っていたこの周辺の地図を出す。


「……それなりに規模がデカい組織の可能性があって、かつ攫った奴を輸送しないといけねーだろうから近くに道がある方がいい……となるとここだな!」


ナノハが地図に丸印をつける。


「……ここは?」


赤鴉(アカガラス)の物見砦、昔使われてた砦で今は廃墟だ、だがおそらく人攫い共はここにいる」


ナノハは自信に満ち溢れた表情でそう宣言したのだった。







赤鴉の物見砦、緑の山脈の中腹の見晴らしの良い峰に築かれかつては街道の監視、防衛、封鎖などを行う要所の一つとして機能していたそうだ。当時の砦の管理者が赤色のカラスを飼っていてよく砦の上を飛んでいた事からそう呼ばれているらしい。


もっとも時代が進み平和になると使われなくなり今は廃墟となって放置されているそうだが


「で、今は賊が居着いてるってわけか」


「その可能性が高いって話だ」


「ここからどれくらい歩くんだ?」


「そこまで遠くはねーよ?夕方には着く筈だ」


先頭にいるナノハは近くの茂みを掻き分け、こう言う。


「私の推測は間違ってねーと思うぜ!ほらコレ見てみろ!」


六樹とアンリは彼女が指し示すものを見る。


「これは!足跡ですか!?」


「……ちゃんと6種類あるな」


先程馬車の近くで確認したのと同じ痕跡を発見する。ナノハが得意げに解説を始めた。


「追跡を蒔くためにしばらくウロウロしてからこの最短コースに戻ってきたんだろ、どうやらこの先で間違いなさそうだな」


ここからはシンプルに足跡を追跡する。


少し進んだ場所に丸太や岩が明らかに人為的に配置されているスペースがあった。


「ここで休憩したみたいだな」


「ちょうどいいや!私らもここいらでちょい休むか」


三人は丸太などに腰掛け少しだけ休憩を取る。

少し息をつくとナノハが話し始めた。


「じゃあ、ここからの道を説明するぞ」


それと同時に六樹に緊張が走る。突然エスタが警告を発したからだ。


エスタ(相棒!気をつけろ!誰かが見てる)


六樹(本当か!?どこだ!?)


エスタ(視線を感じるが大雑把にしか分からん。だが一つ確実なのは、敵だ!)


エスタの警告を受け、六樹はとにかく野伏であるナノハに警戒を呼びかける事にする。


「ナノh… 「焦んなよ兄ちゃん」


しかし、ナノハは六樹の言葉を遮る。


「分かってるって!直ぐにでも動きたいよな?でも今は落ち着いて聞け、今から地図を描いて説明してやるから」


そう言うと、ナノハは木の枝で地面に文字を書き始めた。断じて地図などでは無い。


「ここから沢を登って尾根に出る。そんでもって……」


そう口にはするものの、地面にこう書いていた。


[敵は三人か四人、囲まれてる。1人は見つけた。私が最初に動くから二人は防御に徹して居場所を割り出してくれ]


その文章を見て、六樹も返事をする。


「なるほどな、スッと頭に入るな」


「分かりました!」


意思疎通が終わるとナノハは立ち上がりアイコンタクトを取る。


「よし!じゃあ出発するか!」


一歩、二歩、三歩

ナノハは歩き始め数歩進んだ次の瞬間、突然後ろに振り向き魔法を放った。


風刃(ふうじん)!!」


生み出された風の刃はアンリと六樹の間を通り過ぎて隠れていた賊の1人に命中した。


「ぐあああぁ!!」


風の刃に斬りつけられ、血飛沫をあげて倒れ込む。


だが、一瞬の間を置いてすぐさま反撃が来た。ナノハに向かって矢が飛んできたのだ。


「暗障」


六樹は漆黒の粘土のような物質を腕に纏わせナノハを狙う矢を受け止めた。


「見えました!私が行きます!」


矢が飛んできた方向に射手を確認し、アンリが確保に向かった次の瞬間


「「死ねー!!」」


近くの茂みから2人の男が飛び出した。


「お粗末だな」


「うっ!?」 「イテッ!」


六樹は緋影を投擲し、2人に突き刺さる。


「あぁん?なんnnnんn…」「アバババババ」


奇襲を仕掛けて来た2人は緋影の効果により麻痺して動けなくなる。


「確保!!」


遠くからアンリの声が響いた。どうやら射手を捕まえたらしい。そんな中


「アイツ!まだ動けんのか」


ナノハが視線を向けた先には先程風刃を食らった男が一目散に逃げていた。


「問題ない…………ショット!」 「ぐはっ!」


最後の1人に六樹が魔法で飛ばした緋影を打ち込み、その場を制圧した。


「強えーな兄ちゃん!思ってた以上だぜ!」


「武器の性能が良いからな、それよりコイツらを縛り上げるぞ」


「おっそうだな、聞き出したい事が山ほどある。………ちょっと寝とけ」


ナノハが魔法を使い、賊達は眠りにつく。


「兄ちゃん、私は尋問や拷問の類の経験が少ないんだが、口を割らせる方法を知ってるか?」


「俺もその手の方法は知らないが、苦しませる方法ならいくつか思い当たる。アンリには見せられないかもな……」


自身がこれから行う事を想像して六樹はそう呟くのだった。


レンジャーが形跡を辿って追跡する展開というのは結構好きなんですよね、今回は魔法という飛び道具を使いながら地道に調べるような形になりました。


次回は少しキツイ内容になる可能性があります。グロ注意でお願いします。

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