44話 谷間の町ナポス
今回はかなりほのぼのしてます。
「リョウ!そっち行きました!」
「よし来い!ダブルショット!」
六樹が緋影を2本同時に放ち、両方が獲物に命中し、すぐさま麻痺して動けなくなる。
しかしまだ終わっていなかった。
「ギイーー!」
「おっとあぶね!刺突!」
六樹の顔に飛びかかって来たそれを、咄嗟に腰に帯びたアングリッチを引き抜き串刺しにした。
エスタ(相棒!俺の補助無しでもかなり動けるようになって来たな!いい傾向だ!)
「エスタのおかげだ、身体が覚えてるもんなんだな、癖って言うか…こうスッと最適な剣捌きが出来るようになって来た」
エスタの補助を外して戦闘を行うのにもかなり慣れてきた。狩りの時などは練習としてちょうどいい。
六樹は捕まえた獲物を確認する。どうやら三匹だけのようだ
「よし、昼飯ゲット!……捕まえたはいいけど、コイツ何?」
六樹が捕まえたのは大型の齧歯類だ、ぱっと見はカピバラのようだが、長い尻尾がありのでよく見たらヌートリアのようにも見える。だが、明らかにおかしいところがあった
「なんかコイツら銀歯付けてない?」
ヌートリアもどきの歯茎には、綺麗な金属光沢を放つ牙が上下2本ずつ付いていた。
「お疲れ様です。それは鉄牙鼠ですね」
「テツガネズミ?」
この世界でまたも出会した珍獣をアンリが解説してくれる。
「この生き物は体内で鉄を生成して鋭い牙を作り、それを木や動物に突き立てて魔力を吸うんです。」
「体内で鉄を生成!?」
齧歯類の前歯には鉄分を含まれているみたいな話は聞いた事があるが、一から鉄を創り出す生物とは恐れ入る。
「そうです。色々な物に穴を開ける厄介者ですけど、繁殖力が高くて牙からは鉄が取れるので歩く鉱山と呼ばれたりもしてますよ」
「枯れる事の無い鉱山か、かなり有用な生物だな」
「市場では肉も皮も安売りされてますけど、味は及第点ですよ。」
「よし、じゃあ少し早いけど昼飯にするか、スタミナをつけないといけないしな」
そう言って六樹は緑の山脈の方を見る。そこにはいかにもここを通って下さいと言わんばかりの谷があり、そこに峠道が通っているのが見えた。
「いよいよ山越えですね」
アルヒの町を出発して5日、六樹達は緑の山脈の谷間部分にあるダールの町に向かっていた。旅は順調に進んでおり、それどころか当初の予定より1日ほど早く進んでいる。
そしてこの日はナポスの町に着く予定だ
昼食を終えいよいよ山越えをスタートする二人。
峠道はグネグネと捻じ曲がりながら標高を上げていった。主要な街道とあり、これまでの殆ど人影の見えない田舎道と違いそれなりに通行人が多く、行商人と思わしき馬車なども通っている。
峠の頂上が近くと道路の舗装が砂利道から石畳に代わり歩きやすくなる。
「リョウ、もうすぐナポスです。仕事の顔合わせはいつどこで行うんですか?」
アンリの質問に六樹は手紙を改めて確認した。
「えっと……なんか輓馬亭って宿にここしばらく滞在してるらしいからそこに日暮れ位にいけば会えるはず」
「そうですか、それならそんなに急ぐ必要もなさそうです。」
「確かに、俺たちは今日泊まる宿を確保しないとな」
そして、遂に5日かけてチェックポイントであるナポスの町に到着した。
「それにしても、よくこんなとこに町を作ろうと思ったな……」
その町の外観を見て六樹が呟く、というのもナポスの町は左右に切り立った山がそびえてそこにまるで巨人が切り込みを入れたような谷間に街道が通り、その横に民家や出店、宿などが所狭しと並んでいる。規模こそ小さいが密度が高い。
「小さい頃以来ですが、やはり賑わってますね」
「宿が埋まるかもな、早くしよう」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「今日は満員だよ」
「すみません、予約済みのお客様がいらっしゃるので」
「すまん!他所を当たってくれ」
「ここもダメか、この町はいつも宿が満員なのか?」
「いや、そうでもないさ…」
宿屋の店主がこっそりと内情を話してくれた。
「実はな、ここん所この周辺で人攫いが増えてるんだよ。だから普段は野宿していた者も安全のために宿を取るようになってんだ」
「思ったよりも物騒だな」
「お前らも気をつけろよ」
やたらと縦に長いナポスの町を歩き回り宿を探す。なにやら近頃人攫いが増え物騒になっているらしく、いつもよりは混んでいたらしい。
「今日なんですが、部屋は空いてますか?」
「あんちゃんついてるね!さっき取り消しがあって丁度空いてるよ」
5軒ほど周り遂に見つけた。かれこれ1時間くらい探していた。
「お願いします!」
「あいよ、一部屋だよな?」
その質問に少しギョッとする。アンリは年頃の少女だ、なるべく部屋を分けたい。幸いハルゴスの一件のおかげで金銭的には余裕がある。
「あの、二部屋あれば助かるんですが……」
「一部屋しか余ってないんだよ」
どうしようか、ここはアンリに譲って別の宿を探そうかなどと考えているとアンリが割って入った
「確認なんですけど寝具は二つあるんですか?」
「あぁそれは大丈夫だ、うちのはよく眠れるって評判だぜ」
「じゃあ一部屋お願いします」
「あいよ!毎度あり!二人で銀貨一枚だ」
あっという間にアンリが手続きを済ませてしまった。
「あの〜アンリさん?同室でよかったのか?」
「リョウ、私の家に居候しておいて今さら何を言ってるんですか?」
少し呆れたような声色でアンリは返す
「いやまぁ、あれは別室だったし……」
「あなたは何もしないでしょ?信用してますよヘタレ君?」
アンリに褒められているのか煽られているのか分からない言葉を投げかけられた。
ナニかしてやろうか?そんな度胸ないけど、とすぐにバカな考えを切り替え部屋に向かった。
「はぁ〜〜フカフカのベッドです!」
アンリがそう言ってベッドの上に飛び込みそうになるのを抑えて座るだけにとどめる。なんだか育ちの良さが滲み出ているように感じた。
六樹も武器や装備などを置きホッと一息着く。一週間弱野宿していたのだ、多少の慣れたとしても身体に疲れが溜まっている。
アンリが宿屋の店主に貰った地図を広げている。町の周辺だけを記しているのでどちらかと言うとパンフレットと言った方が近いだろうか
「リョウ!町の端にお湯が出る泉があるそうですよ!」
「…もしかしてその泉、浸かれたりする?」
温泉だ、確かに山の中だからあってもおかしくは無い。
「公衆浴場だそうですよ?」
心の中でガッツポーズをする六樹、日本人としての本能が温泉を欲していた。
「よし!すぐ行こう!」
「え〜もう少し休みましょうよ〜」
だがアンリはもう少し休憩したいようだ
「温泉に浸かれば疲れなんて吹っ飛ぶ、それに汗を落としたいし」
「……確かに汚れてますね、行きましょうか」
こうして二人は温泉に向かった。
「すげ〜完全に日本の岩風呂だな」
男湯に入る六樹はその見慣れた本来あり得ない施設に驚く。高温の源泉が湧き出る場所から岩風呂へ冷ましながら温泉を流し込んでいる。
施設は室内の風呂と露天風呂の二つがあり、多くの客で賑わっていた。
「まさかシャワーがあるとは……流石だ江川さん、いや江川様」
だが六樹が最も驚いたのがこれだ、そこには固定式シャワーが用意されていたからだ仕組みを観察すると銭湯の上に貯水槽が用意されていて川の水を貯水槽に引き、水を上から流しているらしい。そして肝心なのはお湯に加熱する多段階だが、これがよく分からない。シャワーベッドと配管部分を触りながら確認していると
「ここは冷たい、ここも冷たい…あっつ!」
シャワーベッドの部分だけが異様に熱せられていた。
「このシャワーベッドの形なんか変だな……まさかこれ自体が魔法陣か?」
普段見慣れた円形ではなく六角形のような形になっていたシャワーベッドは加熱装置だったと言うわけだ。
「便利だな、後でここの番台の人に教えてもらおう」
そんな知的好奇心をくすぐられるような事もあったが六樹はじっくりと温泉を楽しんだ、危うく湯当たりを起こすところだった。
「リョウ、夕飯を食べに行きましょう!」
温泉の後、アンリにそう提案されたが六樹は申し訳無さそうに首を振る。
「ごめん、もうすぐ日暮れだから行かないと……空腹なら先に行っててくれ、あとで追いつくから」
アンリは少し寂しそうな顔で六樹を見つめるが、聞き分けは良かった。
「そうですか……でもリョウの用事が終わるまで待ってます。」
「気を使わなくてもいいんだよ?」
「いいんです!せっかく遠い町に来たんですから二人で食卓を囲みたいです!」
「分かった!それなら早く終わらせてくる!」
そう言って六樹はアンリと別れる。
「宿で待ってます!美味しいお店も調べておきます!」
アンリはそう言って送り出した。六樹は腕を振って返事をした。
「こりゃ早く済ませないとな」
そう呟いて急ぎ足で輓馬亭に向かった。
生物紹介
鉄牙鼠
体長 約120cm (内50cm位が尾)
体重 推定10kg
外見 ヌートリアのような見た目、金属製の牙
食性 雑食
備考 見た目は大型齧歯類のようだが、鉄製の歯をあらゆる物に突き刺して魔力を吸い取ると言う血吸いコウモリのような食事をする。魔道具など色々な物に穴を開けるので厄介者扱いされている。体内で鉄を生成出来ることから繁殖させられて飼われる事もあるが、逃げ出して問題となるケースが多い。




