43話 旅立ち
「お父様、お母様……行ってきます!」
アンリがそう言って扉を閉める。
今日は1ヶ月に渡る修行を経てアルヒの町を出発する日だ。
必要な物資をアイテムボックスに詰め込み山を降りる。そしてギルドに寄りダクトやキョウといった先輩方に出発の挨拶をした。
「ふむ、もう出発か、早いものだな」
「リョウ!お前は対人なら金等級に匹敵する強さだ!胸を張って行ってこい!!」
二人と別れを告げていると支部長が奥から姿を見せた。
「リョウ君、貴方なら問題ないでしょうが道中は危険も多い、お気を付けて。貴方の望みが叶う事を願います。」
「はい!色々とお世話になりました」
「命を大事にして下さいね、くれぐれも」
案にスケルトンドラゴンを外に出すなと釘を刺している。
「なるべく死なないようにしますよ」
「頼みますよ?あぁ、そうでした。これをお渡ししなければ」
そう言って渡されたのは手紙だ、それも質の高そうな紙を使っている。支部長は周囲を憚りながらこう言った。
「道中、仕事の依頼者と顔見せを行う事になります。詳細はこちらに」
六樹は手紙を開けて少し読んでみた
「谷間の町ナポスで待つ?」
「交通の要所の小さい宿場町です。あなたがウィザリアに行こうとするならばおおよそ通るであろう場所にありますので特に問題ないでしょう」
「分かりました。必ず通るようにします」
こうしてギルドを後にする。
町の出口にプレテが立っていた。
「ムツキさん、彼女の事をお願いします。」
「プレテさん、心配しすぎです。そうでしょ?リョウ?」
「分かりました。命に変えても」
アンリは過保護にされて少し不服そうだが六樹の真剣な顔を見て言葉を止めた。
「あなた達の道に神のご加護が在らん事を」
「ありがとうございます。でも俺には彼女がついてます」
その六樹の発言にプレテは少し頬を緩めた
「レカルカさん、随分と信頼されていますね。あなたのご両親も喜んでいるでしょう」
「そうですね……そうだと思います!」
「いつでも帰って来なさい。この町はあなた達を待っています」
こうして六樹とアンリはプレテに送り出され、アルヒの町を後にした。
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アルヒの町は二つの大きな山脈の狭間に位置している。一つはガドル王国とモルガル共和国との国境に位置し、南北に連なる白の山脈だ。その標高から大規模な進軍が難しく、アルヒの町を地理的に護っている。
そしてもう一つは緑の山脈である。東西に広大な距離に渡り連なる一面が深い森に覆われた大規模な山脈。
もし衛星写真があれば左に倒したT字型のように見えるはずだ。アンリの家も広い目で見れば緑の山脈の一部という事になる。
そして現在六樹達は緑の山脈の峠道を目指して南側の山の裾部分に沿って東に歩いている。左側には新緑に包まれた山々が連なっていた。
ふと六樹はアンリにこんな質問をした
「ちなみにナポスって町を通らない山越えルートもあるのか?」
約束があるためどのみち向かわないと行けないが、どうにも左の山々を街道を使わないと越えられないとは思えない
「あるにはあると思いますけど、そうそう使われるものではないですね」
「そうなのか?山越えルートなんていくらでも使われそうなものなのに」
少なくとも日本では市街地を結ぶための山越えルートは多少不便であろうともそれなりに交通量が多く需要があったと思う。先人達がどうやって楽に山を越えるかを試行錯誤して来た結果、様々なルートが開発されて来たからだ。
「リョウ、あなたは知らないと思いますけど緑の山脈は幅も広いんです。そう易々と越えられません。」
「そんなに難易度が高いのか?」
「はい、何度も山を上り下りして数えきれないほど渡河したりと、とにかく大変です。よほど土地勘が無いと遭難します。極め付けは気を抜けば魔物や動物に襲われますし」
「なるほど、舐めてかかると痛い目にあうのか…」
これは大人しく峠道を使う必要がありそうだ
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旅の行程はおよそ二週間、1ヶ月後に行われる魔法試験
に半月ほど余裕を持って到着する予定である。
道中は人里すら無い田舎道を進むので夜は野営する事になるわけだ。
幸いにもエスタが夜間に周囲を警戒してくれるので危険を気にせずに眠れるのだが、快適に眠れるかと言われればそうでも無い。
「しばらくは野宿かぁ、これはフカフカのベットが恋しくなるな」
手早く初日の拠点を設営を終え、夕食を準備しながら六樹がそんなことを呟いた。
今はあらかじめ仕込んでおいた固形コンソメを鍋で溶かして近くに生えていた食べられる野草を加えた野菜スープならぬ野草スープをかき混ぜている。
「そう言う割には手慣れてますね、野宿に慣れてるんですか?」
やたらと要領の良い六樹を見てアンリが疑問を口にした
「まぁそうだな、それなりには慣れてる。日本だとよくやってたからな」
六樹の言葉にアンリが首を傾げる。
「あなたは元の世界だと野伏だったんですか?」
アンリの突拍子の無い質問に六樹は慌てて否定する。
「違う違う、日本でそんなの見たことないし」
しかしアンリの質問はもっともな話だ、行商人や兵士、野伏などはともかく、一般人野宿に慣れると言うのはこの世界であってもそこまで多くは無い。
「前から気になってたんですけど、あなたのご両親はどんな人なんですか?どんな環境で育ったんですか?」
アンリの問いかけに、六樹は自身の出自を話し始める。
「そうだなぁ……俺の家はアンリの家と同じくらいの山奥に住んでた。」
「お袋は農家でいつも畑を耕して、親父は会社員と猟師を兼業してた。俺が野営に慣れてるのは親父の狩猟に付き合ってたからだ」
「狩人だったんですね!だからやたらと肉を捌くのが上手いわけです」
「とは言っても、狩猟の方は大して教えてもらえなかったけどな」
そう言うと、六樹はよく洗い焚き火で熱していた岩盤にアイテムボックスに入れていた角猪の肩ロースを取り出して焼き始めた。
ジューという音と共に脂の匂いが立ち込める。
「美味しそうです!早く食べたいですね」
「まあまあ、ジビエはじっくり火を入れないと」
焦らされるアンリは六樹の両親の話に戻した。
「どんな方達だったんですか?」
「う〜ん、変わり者ではあったと思う。例えば教育方針が[どんな環境でも生きていける強い子に育てる!]って目標らしくて」
「フフフッ、超人でも育成してたんですか?」
六樹家のおよそ現代人とは思えない教育方針に生まれも育ちも異世界のアンリですら笑みが溢れた。
「友達にもよく笑われたよ。そんなだから自分達で消費する物はなるべく自分達で調達するってポリシーだったから半分くらい自給自足みたいな生活をしてた。」
「不便な暮らしだったんですか?」
「そこまででもないよ、普通に電気もネットも通ってたし」
「……ねっと?」
「あぁそっか、まぁ最低限のインフラは整ってたって感じ」
人里離れた場所でところどころ現代人らしからぬ生活をしていた六樹家、しかしその経験のおかげでこの異世界に適応出来ているのでわからないものだ。
「リョウ、そろそろ良い感じに焼けてきたんじゃないですか?」
「そうだな、せっかくだしこのまま岩盤で焼きながら食べるか」
「賛成です!ではいただきます!」
長い時間歩いていたためか、岩盤焼肉にがっつくアンリ、そして六樹も切り分けて食べ始めた。
「リョウ、凄いです!全くパサついてなくてすごくジューシーです。これが岩盤焼きのメリットという事ですか……」
「あんまりがっつくと火傷するぞ、ほらスープ」
六樹が野草の入ったコンソメスープを手渡す。
アンリはスープを飲みホッと一息つく
「確かに野営は不便かもしれませんが、リョウがいれば楽しさが勝ります」
「嬉しい事言ってくれるじゃん」
「はい!少なくとも外で星空を眺めながら食べるご飯は美味しいですから!」
「そうだな」
ウィザリアに向かうしばしの二人旅の幕が開けた。
文字だと位置関係が分かりずらいので大雑把な位置関係と六樹達が通ろうとしてるルートを出しときます。〜で表してるのは山々です。ーや/は海岸線です。★マークはアンリの家の大雑把な位置です。
〜 目的地ウィザリア
〜 ↑
白 ↑
の 〜★〜〜〜緑の山脈〜〜峠〜〜〜〜〜〜〜
山 アルヒの町→→→→→→↑ /ーーーー
脈 /
〜 /ーーーーーーーーーーーーーー/
〜/ 海




