番外編 暇つぶしの夜
最新話を書いている現在少しシリアスに寄りすぎてる気がするので気分転換も兼ねて、日常回を書いてみました。本筋とは関わらないので別に飛ばしてもらっても構いません。
「はぁ〜〜〜〜………死ぬほど暇だな………」
魔法試験に向けた修行の一日が終わり、夕食を終えた六樹がそうため息を漏らした。
現代社会を生きる日本人であった六樹にとって、異世界は娯楽に乏しいのが最大の問題だった。
基本的にこの世界の人々は夕食が終わると何かしら内職をするか、もしくはさっさと寝るらしい。実際アンリも健康優良児のような時間に寝てしまう。
金に余裕があれば夜遅くまで飲み歩く者もいるが、流石に毎日のようにはいかない。六樹は未成年であり、元の世界の法律と照らし合わせると飲酒は出来ない、そしてそれ抜きでも別に飲みたいとも思ってなかった。
また、それらの部分を差し置いても町まで遠すぎるのが問題だった。流石に真夜中に森を抜けるのは色々と大変であり普通に怖い。どこまでも続く暗闇というのは本能的に恐怖を覚える。
六樹は普段の暇つぶしとしては基本的に何か作業する事で気を紛らわしている。
例えば明日の食事の仕込みを行なったり、筋トレや魔法の練習をしたりなどだ。
最近はネクロマンサーとしての訓練も行なっているが、拘束したゾンビに永遠と話しかけるのは少し気が滅入る。
そして他に暇つぶしになるものは勉強か読者位だった。
この世界に持って来る事が出来た文庫本などは、すぐに読み終えてしまい、レカルカ邸にある本もそこまで多いと言う訳では無い為、あとはひたすら教科書を眺めて勉強するくらいしかやる事がなかった。
「なんかどんどん健全になってる気がする」
しかしやはりと言うか別に歴史や国語といった物語がある科目ならともかく数学をしていても楽しいとは言えなかった、こればかりは感性の問題である。
「はぁ〜…………アイテムボックス」
シュッと六樹は虚空からゲーム機を取り出した。元の世界のオーパーツであるゲーム機、しかし既に充電は切れている。
スマホの方は万が一に使えるように電源を落としてアイテムボックスに保管してある。アイテムボックスは物理的な時間が流れてないようなので、おそらく放電の心配はないだろう。だが充電を無駄遣いするような余裕は無い。
「魔法で充電できたりしないのか?」
六樹はそう考える。最近ダクトに雷撃という雷属性の魔法を教わったからだ。電気を発生させて充電器に流し込めばもしや、などと考えたが
「……流石に無茶だな」
そう結論づけた。精密機器に適当に電気を流して壊れない方がおかしい。六樹は諦めて国語の教科書を開いた。現代文でも読んで気を紛らわせる為だ。
「………古典ばっかだな」
しかし六樹の期待とは裏腹に教科書は古典文学に埋め尽くされていた。
「なんでこんな大量に平安貴族たちの痴話喧嘩を読まされないといけないんだよ〜何がいとおかしだ、何がおかしい?」
ブツクサと文句を言いつつ文章を眺める六樹、するとある事に気づいた。
「あっ、これ翻訳スキル使えるかも?」
テストであれだけ苦労した現代語訳は今の六樹なら力技で突破出来るのではないかと考え、脳内で意識してみた。すると
「お〜!すごい!めっちゃ読める!」
翻訳スキルの影響で、それまで解読を必要としていた文章がサラサラと頭に入って来た。そして、読み終えた六樹は一言
「シンプルに面白くない。」
流石に現代の漫画や小説と比べるとメッセージ性やエンタメ性がある訳ではない。創作物の長年の研鑽に敬意を込めながら、六樹はそっと教科書を閉じた。
「はぁ〜〜、明日の仕込みでもするか」
そう言うと、六樹は気晴らしにキッチンに移動した。
◇◇
「あっリョウ、料理ですか?」
キッチンとダイニング兼リビングスペースに移動すると、そこにはアンリがいた。彼女は暖炉をの火を見ながらお茶を飲んでいた。
「アンリ、起きてたのか」
「そうですね。今日はなんだか寝付けなくて」
正確な時間は分からないが今は大体夜の9時位だ。
日本では小学生でも起きているような時間だが、アンリは普段はこの時間には寝ている。
六樹も最初は合わせようとしたものの、流石に長年染みついた生活スタイルはどうしようもなく、自然と眠くなるまで趣味と実益を兼ねた暇つぶしに興じている次第だ。
「リョウ、お茶入れましょうか?」
「ありがとう。貰うよ」
アンリはポットに沸かしていた野草茶をコップに入れると六樹に手渡した。アンリは様々な種類の野草をブレンドして絶妙に香りの良いお茶を淹れてくれる。コツは全て勘らしい。
六樹は手渡されたお茶を飲んで一息ついた。
「うん、美味しい」
六樹がダイニングの椅子に腰掛けるとアンリが暖炉から移動してきた。
「リョウ、あれやりませんか?あの白と黒のひっくり返すやつ」
「あ〜オセロね。やろっか」
アンリの誘いを受け、六樹はオセロの盤を取り出す。盤とは言っても紙に線を引いたものにすぎない。そして河原の平たい石の片面に炭を付けて碁石にしたものも取り出した。異世界で作った簡易的なオセロセットだ。
「今日は負けませんよ?」
アンリがそう言って先手を打った。どうやら六樹が教えたオセロが気に入ってもらえたらしい。
オセロ以外にも五目並べなども既にマスターし、最近は将棋なども覚え始めているがまだ発展途上だ、いずれはトランプなどもやりたいものだ。
「角、貰いました!」
「おっ、やるな」
アンリとしばらくオセロで遊ぶ六樹
(相手がいるって、いいな…)
と、そんなことを考えながら夜はふけていった。
「ふぁ〜〜、私はソロソロ寝ますね」
「そっか、じゃあお開きにしようか」
アンリが眠そうに目をこすりながら六樹に聞いた
「リョウはどうしますか?」
「俺はもう少しだけ起きてるよ。明日の仕込みだけ済ませておく」
六樹はキッチンに立つ。体感では夜の10時位というのもあり、夜更かしが染みついた六樹はまだそんなに眠くないので、当初の目的通り明日の仕込みを済ませることにする。
「何か手伝いましょうか?」
「ありがとう、でも大丈夫。先に寝てて」
「そうですか、じゃあ私は先に休みますね。おやすみなさい」
「おやすみ、アンリ」
挨拶を済ませたアンリがダイニングを離れ、自室に向かい始める。
しかしドアのところで立ち止まると、六樹にこう言った。
「夜、ふと起きた時にリョウの部屋やこの場所から光が溢れるのを見ると、少しホッとするんです。」
「……?、アンリ?」
首を傾げる六樹を他所にアンリは続けた。
「お父様とお母様が残したこの家に私一人しかいない。そんな状況が続いていたせいかもしれん。でも今はあなたがいる。今、私は一人じゃないというのが本当に嬉しいんです。………それだけです!おやすみなさい!」
そう言い残すとアンリは急ぎ足で部屋を後にした。
「…………」
六樹は無言でその背中を見送ると、作業を始めた。
「ちょっと凝ったものでも作るか…」
六樹はポツリとそう呟く、アンリが夜、不安にならない様にもう少しだけ起きていよう。そう考えると、六樹の暇つぶしも意外と悪くないと思えた。
番外編はちょくちょく更新すると思います。今のところキャラ同士の掛け合いや六樹が文化の違いに四苦八苦する所を書けたらと思っています。
もっとほのぼのした話を書くつもりが、なんだか最後はしっとりしてしまいました。




