40話 レベリング
今回はダイジェストでお送りします。
今日もまた六樹の修行の1日が始まる。
朝は日が昇る前に起き、アンリと二人で軽く近くの山をランニング、その際動物を見つければ狩っておく、その後はレカルカ邸の掃除と朝食の準備を分担する。
朝食が終われば山を降りてアルヒの町の冒険者ギルドに向かう。いつもなら依頼を受けるがこの日は先輩方との予定が決まっている。
午前中はまずダクト先生による魔法の講義が行われた。ダクトは他にも門徒を抱えているらしく、ギルドの一室を借りて学校のように魔法の勉強をする。この場には10人程いた。
「攻撃魔法の基本は生成、調節、そして射出だ、一連動作を一つの詠唱で行うのは速射という観念では正しいが細かな変化を加える事で戦術の多様性が広がる……」
と、こんな風に懇切丁寧に説明してくれている。ちなみに六樹の隣ではルーナが居眠りをしていた。
大学の講義はこんな感じなのだろうか?などと、六樹が考えていると、ダクトから指名が入った。
「ではムツキ、これを射出魔法を打ってみろ」
そう言って、ダクトから小石を渡される。そして、指定された木の板を的として照準を定めた。
「ショット!」
バキッという音を立て六樹が放つ小石は木の板を貫通し、壁に傷をつけた。周囲がその威力にざわめく
「うへ!?なに!?」
突然の破壊音にルーナも飛び起きた。
六樹の放った射出魔法、それは明らかにこれまで使用していたものよりも弾速が早くなっていた。
魔力を体内で常に圧縮していた影響は魔法の弾速として現れたのだ。
傷ついた壁を見てダクトが呟く
「板が薄すぎたな、後で直しておくか……」
そして、何事もなかったかのように講義を続けた。
「この者は武器などを射出する事で、殺傷能力を上げている。魔法を分解して使うことによりこのような工夫が出来るという訳だ」
生徒たちに基礎的な部分のおさらいを終えると、ダクトは本題に入った。
「よし、それではお待ちかねの中級魔法の話をしようか」
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午前中に魔法の講義が終わると午後からはキョウやアバルに稽古をつけてもらっている。いつの間にかアンリも参加していた。
今日は使いやすいスキルを伝授してもらっている。六樹とアンリの前でアバルが木の板を持って話し始める。
「ここに何の変哲もない木の板がある。キョウ、これを普通に突いてくれ」
「あいよ!」
キョウがアバルの持つ板に槍を突き刺すと、厚さ10センチはあろう板は易々と貫かれた。
「普通はこうなる。だがこれと同じ板を[硬化]のスキルで補強すれば……頼む」
新しい板にキョウがさっきと同じ要領で槍を突き刺す。だが、ガンッという音が響き板は少し傷がついたが貫かれる事は無かった。
「これが[硬化]だ、盾職だと必須のスキルだ。触れた物や装備した物、自分自身の肉体などが対象に出来る」
アバルの説明に被せて、キョウもスキルの実践を始めた。
「アバル、そのまま硬化させて構えてろ」
「分かった」
先ほど筋力だけで振るった突きを塞いだ板にキョウは再び突きを放つ
「見てろよ、刺突!」
バキッという甲高い音を立ててアバルの持つ板に穴が開けられた。
「スキル[刺突]、俺が常用してる技だ、効果はシンプルで突きを放つ攻撃を強化する。剣だろうが拳だろうが使えるから覚えておけ」
スキルの練習は夕暮れまで続いた
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アンリの家に帰り、夕食を食べ終えると六樹は外に出る。そして、アイテムボックスに閉じ込めた人型のスケルトンを木に縛りつけた状態で取り出し死霊遣いとしての練習を行なっていた。
「服従せよ……」
死霊遣い固有能力[幽冥導者]
このスキルが発現するとアンデットやゴーストといった死者の類を調伏させる事が出来る。だがその効果や精度は術者の技量によって大きく変動する。
ネクロマンサーとしては新人である六樹の命令にスケルトンは反応せず、今も拘束から抜け出そうと足掻いている。
「まだダメか……大勢を操れるようになれば一瞬で部隊を展開出来るようになるのにな…」
六樹がネクロマンサーを選択した理由の一つがこれだ。アンデットを使役してアイテムボックスで持ち運ぶ、個としての活躍だけでなく集団戦が出来るようになると言うことだ、それにハルゴスとも友好な関係を築ける可能性も出てくるかもしれない。
他にも魂を扱う職業がら、エスタが六樹の中にいるというイレギュラーへの対処や、残留思念や記憶を読み取る事など、何かと痒いところに手が届きそうであったからだ。
だが六樹には死者を操るのは早いらしい。
その日はスケルトンの記憶や思念を読み取る練習に切り替えた。
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午前は魔法を学び、午後は稽古、夜はネクロマンサーとしての修行、六樹の1日は忙しなく過ぎていく。
ある日はダクトの個人指導により中級魔法を学んだ。
「ムツキ、お前は死霊遣いだったな?」
「はい、まだ素人ですがすでに職業は取得してます。」
「では、闇属性の魔法を試してみるか……まずは実践だ、私に魔法を撃ってみろ」
六樹はダクトの方に手をかざし、講義で教えてもらった中級魔法を放つ。
「雷撃!!」
稲妻が高速で走る。するとダクトはタイミングを合わせて防御魔法を展開した。
「暗障」
漆黒の粘土のような壁が展開され六樹の稲妻は防がれる。
「もっと撃ってきなさい」
「はい、火炎弾!水撃砲!風刀!石飛礫!」
覚えたての中級魔法を放つ六樹に対して、ダクトは黒い壁をヌルヌルと動かして防御した。漆黒の壁はジリジリと削られていくが形を変えながら攻撃を防ぎきる。
「これが暗障だ、聖壁ほどでなないがそれなりに有名な防御魔法だ」
そういえば倉目が使っていたような
「見たことがあります。そんなに流動的なのは知らなかったですけど…」
「そう、これこそがこの魔法の利点だ、分厚い光の壁を展開する聖壁とは違い、粘度の高い流体で受け止める。上手く扱えないと防御力は低いが逆に使いこなせば自由度が高くなる。お前はこのように闇属性の魔法を覚えるのがいいだろう、他には……」
ダクトが杖を構える。
「影武者……」
すると、近くに影法師のような黒い人影がいくつか出現した。不思議なのはそこに人間がいるような存在感があるという事だ、だが黒い影で出来たマネキンのような完成度だ
「これが影武者、ですか?」
「そんな顔をするな、これは単品では大して使えんが組み合わせると面白いぞ、見ていろ!闇雲!!」
そう唱えるとダクトの周囲から黒いモヤか霧のような煙幕が発生する。それは付近を飲み込み六樹は周囲が見えなくなる。
「私がどれか当ててみろ、放光」
パッと暗闇の隙間から光が差し込み人影だけが目の前に写し出される。視覚によるが出来なくなりどれがダクトでどれが影武者が判別が難しくなる。
「影武者はこんな具合に工夫しろ、今使った魔法も教えておこう」
こうして闇属性の魔法講座が始まった。
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また別の日にはキョウやアバルからスキルを伝授された。
「俺の奥の手、過負荷!これは5分の間、身体強化や魔法やスキルの効果を増強するわけだ!使用後は使った倍の時間だけスキルや、魔法が使えなくなるから気をつけろ!」
キョウの説明に六樹が質問する。
「短時間だけ使う事はできないんですか?」
「無理だ、一度発動すると途中で止められないから使い時は選ぶように!」
キョウの説明が終わると、次はアバルが説明を始めた。
「俺の切り札、集積衝撃はシンプルだ、装備や身体が受けた衝撃をエネルギーとして溜めて任意のタイミングで解放できるスキルだ」
「正直言って、俺みたいな盾職以外は上手く使えるか疑問だが習得して損はないだろう。何か質問はあるか?」
次はアンリが質問した。
「溜めたエネルギーは小分けにして出す事は可能ですか?」
「可能だ、普段は全力で放つ事が多いがな」
説明が終わるといよいよスキルを発現させるための訓練が始まる。
「よし!じゃあお前ら!まずは全力ダッシュ50本だ!そっからは限界まで重りをつけてスクワットだ!」
「それが終われば滝行とぶつかり稽古を行う。俺がポルトに帰るまでにお前達には習得してもらう。急ぎ足でいくぞ」
「あ、あははは」
想像以上にハードな訓練に、アンリが苦笑いしている。強くなるための道は険しいようだ
これがゲームなどの成長イベントの裏の苦労を六樹は嫌というほど知る事になるのだった。
余談
普通の人間は自身から発生した魔力が自然と身体から抜けて発散されますが、六樹は体質により余剰分が殆ど抜けず体内の魔力が高密度になりすぎた事で体調不良を起こしました。しかしそれに適応して体の中に魔力を圧縮して詰め込む事でエアコンプレッサーのように魔法を打ち出す際の圧力が上がり、結果弾速が早くなりました。




