33話 残留思念
「ん?なんだこれ?何が起こった?」
六樹はスケルトンドラゴンによる咆哮を聞いた時、悪魔のようなものが頭に流れ込んできた。そして、気がつくと見たこともない景色が広がっていた。
「どこだここ?洞窟?それに雪?」
六樹は洞窟の中にいて、そして、洞窟の出口からは雪景色が覗いていた。
なんだが、体の調子がおかしい気がする。というか自分の体では無さそうな雰囲気だ、と言うのも身体が六樹の言うことを聞かないし、目線が異様に高い気がする。極め付けはチラチラと視界にドラゴンのものと思しき赤い鱗のついた腕が散見されたからだ。
「スケルトンドラゴンの記憶を追体験してるって事か?」
六樹はそう結論づけた。
「エスタ!いるか?」
六樹が呼びかけるが反応がない
「………やっぱりいないか…」
どうやらエスタはこの空間にはいないらしい、六樹もなんとなくエスタの不在を感じではいたものの、いざいないと分かると心細く感じた。
切り替えて六樹は考える。一体何が起こっているのかと
「確かアンリが言うには、あいつの呪いは傷口の侵食による痛みをトリガーにして錯乱を引き起こすって話だ、そしてその間は悪夢を観ると………となると錯乱を引き起こすのは悪夢で、俺は今その中にいるって事か?」
とりあえず推測してみる。痛みがトリガーとなっているとしたら、痛覚の無いエスタがこの場にいないことにも一応の説明がつく。だが、疑問もある。
「他の人達はもっと効果が大きかった気がするけど、俺はとりあえず冷静に考えられるな……」
他の冒険者達は呪いをくらった直後にはすぐ錯乱していた、現実世界で現在六樹がそうなっていないとも限らないが、少なくとも今は冷静に考えられるだけの余裕がある。六樹はその原因に心当たりがあった
「………体質のおかげだよな……つくづく助けられるな」
そう、六樹には魔法が効きづらい。呪いもその一種であるため効果が少なかったようだ、ようするに錯乱の呪いが体質により弱体化され悪夢の部分のみが残ったという訳だ。
どうにかしてこの夢の世界から出られないかと模索する六樹だったが、突然頭にこんな声が響いた。
「子供達が帰らない、探しに行かねば」
「!?……これは…竜の声か?」
竜の心の声が六樹の中で響いている。
すると竜は動き出し、洞窟から出た。そこには一面の雪景色が広がっていた。洞窟は高所にあるようで、
とても見晴らしの良い景色が広がっていた。おそらく白の山脈のどこかなのだろう。よく見ればアルヒの町と思わしき所も小さく見えた。
竜は山を降り始め森の方に移動する。しばらく子供を探し回るが見つかる気配がない。
「何故だ!何故いない!?杞憂であってくれ!あの子達の身に何かあれば…」
竜は探し続ける。そんな時こんな声が響いた。
「おい!探し物はこれかぁ!?」
「!?」
竜と同時に六樹も反応した、何故ならその声には聞き覚えがあったからだ。
「この声は……佐韋島!?」
そこにはいつの間にか一人の男が立っていた、その男は六樹のクラスメイト佐韋島玄人だったのだ。
そしてその後ろには仲間と思われる人間が10人程度控えている。さらには
「お前たち!!」
「お前の子供だろ?炎竜ハルゴス!!それともこう呼ぼうかぁ?ハルゴスお父さん」
小さな竜が三匹捕えられていた。我が子を人質にとられた竜、ハルゴスだったが一旦怒りを抑え込み子供達に語りかける。
「お前たち!逃げろ!この人間共は私が相手をする!!」
だが、子供達の様子がおかしい。何故かは分からないがハルゴスの言葉に全く反応しない。
「………?!何故逃げない?」
「何言っても無駄だぜ!コイツらは俺の支配下にあるからなぁ!!」
「何者だ貴様!!我が子を放せ!!それに…なぜ言葉が通じる!?」
「お前が質問できる立場だとでも思ってんのかぁ?」
「貴様…何が目的だ?」
「俺はお前を手駒にしたいんだよ、この世界の最強種であるドラゴンをよぉ」
「子供達を人質にすれば言うことを聞くとでも?」
「いや、そんな生温い方法じゃない俺には特別な力があるからなぁ!この世界に来て貰った恩恵、特殊職業」魔物使い!竜種という最強の手駒を揃えれば、俺は世界を手に入れる事だって夢じゃない!!」
「貴様!まさかそれで!?」
「トカゲのくせに勘がいいなぁ!!お前の子供は俺の言いなりだ!あとはお前を手に入れるだけだ」
「外道が!!」
「畜生風情が俺に意見してんじゃねぇ!!」
そして佐韋島が手をハルゴスの方にかざす。
「無駄な抵抗はするなよ?調教!!」
そう唱えると、ハルゴスを謎の黒いモヤが覆う。そして、とてつもない頭痛と共に隷属の呪いのようなものを流し込まれた。
「ぐっ……グアっ!!………グオオオオ!!!」
「!?、なに!跳ね返しやがった!!そんなわけ無い!もう一度だ!!」
「グ……グオオオオ!!!」
「!!………なんだと!」
ハルゴスは隷属の術を跳ね返した。
ゴオオオオオオオオオオオという燃え盛るような音がハルゴスから響き始める。すぐさま火炎の息吹を放とうとしているのだ。
リスクはあるが竜である我が子はブレスに耐えられる可能性が高い、上手くいけば敵のみを焼き尽くせるからだ。だが
「おっと危ない!おい!コイツを見ろ!!」
佐韋島はハルゴスの子供の一匹を近くに呼び出して喉元に剣を突き立てる。その剣は明らかに禍々しい逸品だった。
「コイツを殺されたくはないよなぁ!?大事なお子さんだもんなぁ!?」
「っ!!」
「はっ!俺様の言う事を聞いておけばいいんだよ!!」
ハルゴスの攻撃が中断される。そして佐韋島の持つ剣に注目した。
「その剣からは本能的な嫌悪感を感じる。まさか、竜種を殺す為に創られた逸品か!?」
「へえ〜、分かるもんなんだな、正解だ!この魔剣の名は竜殺しゲオルギウスお前の子供の竜の鱗位なら簡単に貫ける」
「貴様!!そんな物を持っていて何故正々堂々戦わない!?何故我が子を盾にする!!」
「あぁん!?トカゲ風情が俺に説教か?こっちの方が確実だろ!?傷物にせずに隷属させてやろうとした俺の優しさが伝わってなかったか、あ〜これだから理解力の低い奴は……」
「子供を人質に取って何が優しさだ!!」
「もとはお前を隷属させるつもりだったんだけどなぁ…………だがもうやめだ!!お前は殺す!」
佐韋島は子供の一匹に剣を突き立てたまま他の二匹の方を向き、こう発した
「お前ら二匹!アイツを喰い殺せ!」
「貴様ァァ!!!」
「グっ………」 「グルルル………」
だが、二匹は動かない抵抗しているのだ、だが佐韋島はさらに語気を強める。
「もう一度言うぞ!お前達があの竜、父親をを喰い殺せ!!!これは命令だ!!」
ビシッと、まるで操り人形の様に二匹の子竜が動き始める。そして、父親であるハルゴスに飛びついた。
「グアァ!!」 「グオオ!」
「エカイユ!カナフ!やめるんだ!!正気に戻れ!!」
「一応言っとくが、逃げたらコイツを殺すからな」
「!!……ザイル…」
三匹の子竜は佐韋島の支配下にあり父親の声は届かない。ハルゴスは逃げる訳にも反撃する訳にもいかずただひたすらに我が子からの攻撃を受け続ける。
「貴様!!何故こんな事を!!!」
「成竜のお前は言う事を聞かないみたいだからな、子供をじっくり躾ける事にした、お前は見せしめかつ、コイツらの尊厳を破壊するのに役立ってもらう」
我が子達に鱗を剥がされ肉を食われるハルゴス、翼を食い破られ飛ぶ事も出来ず、脚の肉を食われ立つことも出来なくなる。
痛み、悲しみ、怒り、無念、憎悪、といった負の感情が頭を駆け巡る。
それを見て佐韋島は満足そうに笑みを浮かべる。佐韋島の取り巻き達も見学し始めた。
「流石クロト様、ドラゴンも形無しですね」
「うわ〜えげつね〜やばいっすね」
「クロト様〜寒いし早く帰ろ?」
「そうだな、楽な仕事だったぜ」
佐韋島は死にゆくハルゴスにこう言い残す。
「お前の子供は俺が有効的に使ってやるよ!お前みたいに反抗的な態度を取らなければ生かしてやるから安心して死ね!!良かっただろ?子供達の血肉になれて?」
ハルゴスは喉を食い破られもはや話すことすら出来なくなっていたが、佐韋島の姿を目に焼き付け、名前や声を魂に刻みつけた。そして、声にならない声でこう宣言した。
「クロトと言ったな!その名を忘れない!呪ってやる!!この身が朽ち果てようともこの魂はお前を絶対に許さない、必ずお前を見つけ出して我が子を取り戻す。そしてお前を地獄に引き摺り込んでやる!!」
当然その言葉は佐韋島には届かない、佐韋島はハルゴスの三匹の子供達を引き連れてどこかに行ってしまった。
「エカイユ、カナフ、ザイル、私が必ず助けに行く……待っていろ……かならず………」
肉という肉を喰らい尽くされ、骨だけになった。
だが、怨念は残り続けた。
憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い
…………リョウ、リョウ!リョウ!!
「はっ!!」
「リョウ!起きましたか!?」
アンリの声で六樹は現実世界に引き戻された。そして近くではキョウがスケルトンドラゴン、いやハルゴスと戦っている。隣には既に処置を終えたアバルが横たわっていた。
アンリがすぐに状況を説明し始めた。
「リョウ!聞いてください!撤退命令が出ました。既に負傷者の搬送は終わり、キョウさんを殿に他の人達も退いています。私達も移動しましょう、動けますか?」
アンリが六樹の体調を心配している。六樹は自身の状態を確認する。
「………呪いが消えてる」
「ちゃんと解けましたね、良かった」
アンリが呪いを解いてくれたようだアンリが心配そうに顔を覗かせる。
「うなされていましたよ?大丈夫ですか?」
「あぁ、悪夢を通してあいつの過去を見せられた」
「本当ですか!?私の時は何が何やら分からなかったのに」
「………本当に酷い夢だった」
だが、これが夢ではないのが問題だ、ハルゴスの憎しみを見た。そしてそれを引き起こしたのがクラスメイトだったという。
六樹は頭を抱える。ハルゴスの目的は分かったが、佐韋島は一体どこにいるかなんて知らない。そしてハルゴスはあいつを見つけて子供を取り返すまで暴れ回るだろう。
結局のところやる事は変わらない、だが子供を探し回る親の気持ちという物に六樹は触れた事がある。
なつめの両親に浴びせられた言葉が頭をよぎる。
そして、ハルゴスの声を翻訳スキルで拾い上げた。もっと早くにしておくべきだったと後悔する。おそらく今から倒さなくてはいけない敵がただの悪であって欲しいという無意識の願望によって耳を傾けていなかったからだ。ハルゴスは骨になった今もこう叫んでいる。
「憎イ憎イ憎イニクイニクイ!!子供達ハドコニイッタ!!?」
その声は今も怨嗟と悲しみに満ち溢れて、我が子を探し続けていた。六樹はしばらく考え込む。六樹は珍しく骨しか残っていない人外の獣に同情していたのだ
ドラゴン、竜、爬虫類、死骸、死者、骸骨、………と、何か弱点がないかを常に探していた六樹、だが、今打てる有効な手立ては見つからなかった。だがここに少しだけ同情による手心を加えて考えた時、一つの機転が思いついた。
そして大きなため息をついてこう言った。
「アンリごめん…俺、あいつを救ってやりたい」
「………リョウ?」
怪訝な顔をするアンリを他所に六樹はさらに続けた。
「俺はまだ撤退しない、試したい事がある」
「え?一体何をするつもりですか!?」
「碌でもない方法を思いついた、この戦い勝てるかもしれない」
六樹は少し苦々しい表情でそう言うのだった。
余談ですがハルゴスはアンデット化した事によって討伐難易度こそ上がったものの、戦闘能力という点では弱体化してます。成竜にタイマンで勝てる人物はこの世界では片手で数えられる位しかいません。しかし、竜は怒らせない限りは基本何もせず大人しいのでその土地の守り神的な存在でもあります。




