3話 山育ちのゲーム廃人
今回の話は書いてて思ったより長くなったので二つに分割しました。
「アダダダダ…」
結構な距離を滑り降りてしまった。あたりを見回すと開けた場所に出ていた。
よく見ると先ほどの力尽きたイノシシと投擲した学生鞄が転がっている。しかしそれ以上に嬉しいものを見つけた。
「おっ!川があるじゃねーか!」
運良く小川を発見する。水の確保は命に関わる事だ、近づいて水質を見てみる。
「かなり綺麗だな、煮沸するのが安心だけど最悪そのまま飲むか」
とりあえず水分の確保が出来たので、改めて開けた場所から風景を俯瞰してみる。
「とりあえずここは岸越市じゃなさそうだな」
なんというか植生が違う。針葉樹っぽい林と落葉広葉樹のような森が混在している。バイオームに則って考えるなら少し寒い場所の特徴だ、体感温度ではかなりの適温であり春や秋のような温かさだ、ちなみに日本は冬だった。
これまで起こった状況を整理すると
「ここは異世界かそれに近しい何かである事が妥当、かなり甘く見積もっても日本とは別の国だろうな」
「この世界のことは一旦置いといて、とりあえず今日を生き抜く事を考えないとな」
そう言うと六樹はサバイバルを始めた。
まず六樹は学生鞄からハサミやカッターナイフを取り出し、イノシシを小川まで引きずり血抜きを始めた。
専用の道具も無いので、かなり手こずったがなんとか作業を終え、川の水でイノシシの体を冷やし、肉が傷むのを遅らせる。次に周りから枝や枯れ草を集め日に当てて乾燥させる。火を作るためこ火種を確保するためである。
「よし!とりあえずよし!」
最低限の作業を終え、六樹は周辺の散策を開始する。周囲に民家や人がいればありがたいのだが
「ねぇな」
少なくとも近くには無いそれが結論だった
次に六樹が最初に目を覚ました小屋を探す事にする。あそこなら少なくとも雨風を防が事が出来るからだ。
それに椅子や机などの最低限生活出来る物があるはずだ、体は以前傷だらけなのであそこでとりあえず休憩を取りたい。
六樹はあの山小屋を目指して記憶を頼りに戻ってみる。しかし
「あれ?この辺にあったはずなんだが……」
何故かあの小屋は見つからなかった、ちゃんとイノシシが倒した若木や周辺の地形なども考え妥当なところを入念に探したがが、結局見つかる事は無かった。
そうこうしているうちに日がやや傾き始めた。
仕方がない今夜は野宿だ
小川沿いの拠点に戻る
川の横の砂地に落ち葉を敷き詰め寝床とする。
その辺りの枝などを立て掛け、その上に苔や葉をのせて、簡易シェルターを作る。夜になると山から吹き下りる冷気を防ぐ為だ、気休め程度だが無いよりはいい。
いしを集めて竈門を作るそこに乾燥させておいた枯れ草を入れる。
「これがあるのは本当にラッキーだった」
そういう六樹はカバンからライターを取り出した。彼は普段から山に入る事が多いため、最悪の事態に備え火を起こせる道具を持ち歩いていたのだ。
これのおかげで実は裏でタバコを吸っているという噂が流れたが、結果往来だ。ライターを使い火種に火をつける。
「思ってたより枝がシケってるな、教科書使うか」
学生鞄を竈門の近くに移動させ、六樹はおもむろに古典の教科書を破り、丸めて火種した。
(すまない古典、優先順位的にお前が一番低そうなんだ。それにお前には何度も苦しめられたしな)
と心の中で清少納言に懺悔する。若干の私怨が入っている事もいがめないが、火を起こす事には成功した。
六樹はこんな不満を口にする。
「しっかしこのカバン重いなぁ、ファンタジーならもっとこう収納魔法的なやつが……あっ」
すっかり忘れていた、あのアナウンスでアイテムボックスがどうのこうの言っていた。これは試すしかない。
その辺にある石ころを掴んで唱えてみる。ちなみに鞄で試さなかったのはもし取り出し方が分からなかった場合が怖いからだ
「[アイテムボックス]」
すると手に持っていた石ころがスッと消えた。
「うおっ、マジかよ!すげー!」
続けて取り出す方も試す、今度は口には出さずに念じる
[アイテムボックス]
すると先ほど消えた石ころが現れた。どうやら口にする必要は無いらしい。
他のスキルも試してみる事にする。次は鑑定スキルだ
先ほどの石ころを凝視する
[鑑定]
次の瞬間、脳内にこのような鑑定結果が表示された
[鑑定結果 石]
「舐めてんのかテメー!んな事知ってんだよ!」
まぁいい、次だ次
[ステータスオープン]
そう念じると、こんどはよくあるゲームウィンドのような物が目の前に出現した
「うわっ!びっくりした、これはテンプレそのものだな親の顔よりみたやつだ、どれどれ?…」
ステータスウィンドにはこのように書かれていた
六樹 亮 17歳
筋力D 魔力B 機動C 技術C 射程E
所持スキル
翻訳、アイテムボックス、鑑定
「うーん、なんかよくわからんが、あんましパッとしなさそうだな」
そんな感想を抱いた、イマイチ評価基準も分からないわけでどう評価すればいいのかわからない。
一旦放置してもいいかもしれない。
とりあえず今一番有用そうなのはアイテムボックスだ。
とりあえずカバンを収納し、それと同時に夕飯の支度を始める。と言ってもイノシシの肉を焚き火で焼くだけだ
「このイノシシも収納出来んのかな?」
[アイテムボックス]
イノシシがスッと消えた、あっ出来た。
これはいろいろ試してみる価値がありそうだ
夕陽を横にその辺からいろいろと集めて、アイテムボックスに入るか試してみる。
草:可能 木:可能 生きた虫:不可能 死んだ虫:可能
水:可能 空気:可能(多分) 炎:不可能、といった感じだ。
総評すると、植物以外の生物は収納出来ないが、死んでいれば可能、ちなみに自分自身は収納不可能、水、空気などの不定形の物体も収納できるが、炎のようなエネルギー反応のような物は収納不可能、発動するには対象に触れる必要があり、またボックス内は物理的な時間は進んでいないと思われる。といった具合である。
「いやー、これは便利な力をもらったなー」
と呑気な事を言いながらすごく頑張って捌いたイノシシの肉を焼く六樹、後で収納出来る上限数や容量なんかも確認しておくか、などと考えていると肉が焼き上がった。
「塩味もついてないけど、貴重な栄養だ、いただきます」
イノシシ肉を豪快に食べるのだが
「??ん?なんだ?この味?」
別に腐っているような感じはしないが独特の味がする。別にマズいというわけでは無いがとにかく不思議な味だ、そして食べてるとジワジワと栄養のようなものが身体に染み渡っているように感じる。害はなさそうなので食べ進める事にする。
こうして初日の夜を明かした
異世界のリアリティを重要視した結果、ひたすらサバイバルを書く事になってしまいました。私自身のアウトドア知識で書いているのでもし何か間違いがあればすみません。てかサラッとイノシシの血抜きしやがったぞコイツ