27話 足切りライン
何日か間が空きましたが、ここから何話かは戦闘準備に入ります。
長い長い一日が終わり、夜が明けた。六樹とアンリは普段の早起きとは打って変わって、昼近くまで寝てしまっていた。
起きた時には受付の方が何やら騒がしかった。その原因はアルヒ町の冒険者達が集まり始めたからだ。六樹とアンリは急いで身支度をして整列する。
おおよそ集まった後、支部長が話し始めた。
「皆さん、この度は緊急事態のため集まって貰いました。昨日、先のガドル王国軍とモルガル共和国軍の戦場跡にて、スケルトン化したドラゴンの出現が確認されました。皆さんにはこのスケルトンドラゴンの討伐、それが不可能なら封印を依頼したい。」
周囲に動揺が広がりざわつき始めた。
「えっ?ドラゴン!?」「俺たちにどうしろと?」
「勝てるわけないだろ…」「命懸けになりそうだ」
しかし、支部長が話を続けると静まり返る。
「幸いにも昨夜この町とは逆方向の森林地帯に誘導出来たため、多少の猶予が出来ました。この間に我々は出来る限りの対策を行います。キョウ、説明をお願いします。」
支部長は槍使いの青年キョウに説明を促した。
「大きさは一般的な竜の成体サイズだ、肉や皮が全く存在せず骨格だけで動いている。体の周りに瘴気を固めた鱗みたいなのが張り巡らされていて並の攻撃じゃ数一つ付かん、その上で怒らせると呪いの息吹を吐いてきやがる。」
「俺が昨日軽く小突いた限り、銅級以下は役に立たちそうにないな、直接やり合うのは銀級以上でそれ以外はサポートに徹するのが基本になるな」
ざっと概要を説明し終えると支部長が再び話し始める。
「準備時間は今日を含めて3日間、この間に事前の作戦と準備を済ませ、我々から先制攻撃をおこないます。ここまでで質問はありますか?」
支部長は冒険者達にそう質問した。すると、ルーナが手を挙げて質問した。
「はーい!質問なんですけど、放置しておくのはダメなんですか?アンリが瘴気の補給を絶ったはずでしょ?ほっとけばエネルギー切れでそのうち動かなくなるんじゃないですか?」
ルーナのもっともな質問に支部長が答える。
「理論上はそうですが、実際のところそうもいきません。アンデットは周囲の生き物を殺し、そこから発生した瘴気を吸収します。現状では付近の生物を襲っていますが、手頃な獲物を狩り尽くすと次は市街地に向い民間人を蹂躙し続けるでしょう」
「そうなんですね、分かりました…」
想像以上の被害が予想され、ルーナの顔に緊張が走る。
嫌な永久機関だなと六樹は内心そう思う。
次に手を挙げたのはスキンヘッドの中年男性だ、杖を持っているので魔法使いだと思われる。
「他のギルド支部からの増援はありますか?」
「昨日の時点で応援を要請してはいますが、解呪要因しか確保出来ていません。戦闘要員の追加は一旦は無いものとして考えて下さい」
次に質問したのは六樹の隣にいたアンリだった
「スケルトンドラゴンの呪いは強力です。他に対策はありますか?」
「はい、現在付近の教会に大量の聖水と、清めの塩を発注しています。2日後には必要量が揃う予定です。これらを更に聖魔法を付与し効果を高めます。少しの呪いであればこれで対処出来ます。大きく被弾した場合はアンリさんにも協力してもらうかもしれませんが」
「分かりました。昨日は不甲斐ない姿をお見せしましたが、そのおかげで呪いの解析が出来ました。解呪は可能だと思います。」
言葉では冷静なアンリだったが、六樹から見ればまるでリベンジに燃えているようだった。
次に手を挙げたのはゲロンだった。
「冒険者にとって、一番大事な情報が抜けてるぜ支部長、報酬は一体いくらなんだ?」
今回の依頼は通常のものと比べ格段に難易度が高い。命を賭けて戦うのに報酬が低ければ話にならない、とゲロンは暗にそう言っている。
「この依頼に参加した者には銀貨5枚を渡します。スケルトンドラゴンと直接対峙する者には銀貨50枚とします。」
この世界の通貨は金貨、銀貨、銅貨の三種類だ、銅貨100枚で銀貨1枚の価値であり、銀貨100枚で金貨一枚の価値となる。
六樹の感覚的には銅貨一枚が100円位の感覚だ。
銀貨5枚となると五万円相当かと、六樹は少しガッカリする。六樹は等級的にサポートに回されるとはいえ、死ぬかもしれない現場でこの値段は少し安く感じたからだ。そんな不満の声を代弁する者が現れた。
「支部長!それは安すぎだぜ!こっちは命賭けるんだ、俺たちの命はそこまで安かねーよ!」
そう抗議したのは金等級の冒険者であるキョウだ、彼の言葉に他の冒険者も賛同の声を上げた。
「その通りだ!」 「俺達は使い捨てじゃないぞ!」
その場の冒険者達を味方に付けキョウは支部長に迫る。
「二倍だ!参加費銀貨10、奴と直接戦闘するやつは金貨1枚を出せ!」
キョウの強気な交渉に周囲はざわつく、まさか倍の報酬を要求するとは思わなかったらしい。
支部長はしばらく沈黙の後、答えを出す
「…………背に腹は変えられませんね、その要求を飲みましょう。先ほどの二倍の額をお支払いします!また、良い働きをした者には別途報酬を出しましょう!」
「聞いたかおめーら!ボーナスだ!さっさとトカゲを土に還して、戦勝会で散財すっぞ!!」
「「「うおおおーーーーーーー!!!」」」
ギルドの冒険者達が一斉に声を上げた。ヤル気は充分だ。六樹もすっかり熱に浮かされていたが心の中でエスタに声をかけられた。
エスタ(相棒、ありゃ仕込みだぜ、あの支部長もなかなか食えない奴だな)
六樹(えっ?そうなの?)
エスタ(会話の流れが良すぎる。初めからあの額を出すつもりだったが、小芝居を打って士気を上げたんだろ、結果的には成功だな)
六樹(言われてみれば確かに……うわー俺もめちゃくちゃ引っかかってた)
簡単な心理誘導だ、最初から提示された額を引き受けるよりも自分達で交渉して吊り上げたように思わせた方がやる気が上がる。他にもそれ以上吊り上げさせないようにする為かもしれない、抜け目の無い事だ。
支部長の話は最後に号令をかけた
「それではここからは各自対策を行うため、銀等級以上の冒険者はこちらに、銅等級以下は魔法職、前衛職、後衛職、支援職に別れてください」
号令をかけられて、その場にいる冒険者が一斉に動き出す。六樹は前衛職のグループに向かう、アンリは銀等級なので一旦分かれる事になる。
メンバーが揃うとキョウが銀等級の面子を見回して少し考えた後、こんな事を提案した。
「支部長、銅等級以下からも何人か引き抜いていいですか?もうちょい戦力が欲しい」
「構いませんよ、誰を指名しますか?」
「ありがとうございます。じゃあ、ルーキー!お前こっちに混ざれ!」
突然の指名に六樹はきょとんとした
「え?俺ですか?……」
「そうだ、お前だルーキー!銅級以下だとお前が一番頭抜けて強いからな……嫌なら断ってもいいぞ、無理強いはしねー」
「はい!よろしくお願いします!!」
そう勢いよく返事したのだった。こうして六樹は最前線に送られる事になる。
しかし望む所だ、アンリを傷つけ危うく命まで奪いかけた怪物にケジメをつけなければいけないのだから
先日初めて評価ポイントを頂きました。とても嬉しかったです。本当にありがとうございます!これからも投稿頑張ります。




