23話 目を離した責任
ここから六樹の視点に戻ります。
江川歩の手記を読んだ六樹はしばらく考え込んでいた。
「俺のせいだ、俺があの時あんな提案しなければ…」
エスタ(相棒、それは違う、そんなのは結果論だ、たまたまタイミングが重なっただけでお前は悪くない)
「ありがとなエスタ、でも…ただの不幸な事故だったとしても、彼女の人生を狂わせて、この世界に魔王を召喚してしまったのは俺の責任でもあるのは事実だ」
日時を確認したところなつめが召喚されたのは12年前の事であり、時間のズレは存在しない。そして六樹のクラスメイトに配られた力はまさかなつめに継承されるはずの物だったとは、なんともやるせない話だ。
しかしながら召喚の経緯までは判明したものの、結局なつめの行動原理は謎のままだ。
しかし直近の目標は出来た。それは手がかりになるかもしれない。
「この国の王に会う必要があるな」
この国の国王は江川歩と親しい間柄のようだ、国王に謁見し、そして合言葉を使った上で事情を説明し、情報を開示して貰う。少なくとも江川歩が残した帰還魔法について知れるだろう。更に運が良ければ彼の弟子のような存在であったなつめの事情が分かるかもしれない。
これからやるべき事を整理して、ホッと一息ついた所でこんな感想が漏れた。
「しっかし、この世界がやたらゲームみたいだとは思っていたが、まさかゲームシステムを参考に異能を整理したからだったとはな」
ずっと心の中で抱えていた疑問が解けた。確かに普段からゲームや漫画に触れていた六樹にとっては非常に理解しやすく助かったのだが、普通に考えてステータスの概念があるのも脳内アナウンスが流れるのも変だと思っていた。その答えは単純で江川さんがそういう風に整える事で、使いやすくて分かりやすくしたからだ。
「現実とゲームがごっちゃになる人はたまにいるけど、現実とゲームをごっちゃにした人は初めて見た」
世の中には凄い人がいるもんだと感心する。この世界の住人がまるで神のように尊敬していたというのも納得がいく。
ふと机の横を見るとスクロールが沢山入った木箱があった。六樹には見覚えがあった、ディスタブスキルを習得する際に買った物と似ているからだ。開いてみると、そこにはアイテムボックス、鑑定、翻訳、ステータスウィンドのスキル名が4種類のスキル付与のスクロールがあった。
「この四種は量産出来たって事か、俺みたいに転移した日本人の為にここに置いてるんだな」
江川さんなりの気遣いだろう。もし、不意にこの世界に日本人が迷い込んでもある程度対応出来るようにしたのだろう。そう考えればこの本棚もこの世界の事を予習させる為に用意したのかもしれない。
「………流石にこれは置いていくか」
一瞬転売する事を考えた自分を恥じる。この小屋にあるものは、今後迷い混むかもしれない人にとっての命綱だ、残しておく事にする。
「合言葉や手記の大筋はメモに書き写したし、帰るか」
そう言うと六樹は江川歩の小屋を後にした。外に出て少し歩くと結界の影響か小屋が見えなくなる。六樹は山を降り始めた。
日は既に傾いている。日没まであまり時間が無いので少し急ぎ足でアンリの家まで戻る。
「よく見るとちょくちょく日本の植物が生えてるな」
岸越市とこの世界が繋がっているためか、異世界の植物と日本にもある植物が混在している。
「おっ!ヤブニッケイがある。ローリエ代わりに取っておくか」
六樹は帰り道にハーブ類を集めながら帰った。
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アンリの家に到着した。だがアンリはまだ帰って来てはいないようだ、六樹はアンリに、先に帰ったなら夕飯の支度をするように頼まれていたので料理を開始する。
「アンリはジビエ肉好きだからなぁ、今日はこれだな」
そう言って取り出したのは棘獅子の後ろ脚部分だ、既に血抜きを終えて使いやすいようにバラしてある。
六樹はまずは皮引きを行う。ナイフを使いながら綺麗に肉を傷つけず皮だけを取り除くと、次は骨を取り除き始めた。必要な箇所に最小限の刃を入れ綺麗に骨を取り除くと精肉店で売られているようなブロック肉が出来上がった。まるでプロのような手際だ。
「ライオンの肉はクソまずいらしいけど、そもそもコイツはライオンなのか?」
棘獅子の肉を見てそんなことを呟く。シルエットは確かにライオンに近いが、当然のことながらライオンは一部を除いて白い毛皮ではないし赤い棘も生えていない。鑑定して毒は無いことは確認済みだが味の保証はない。六樹はとりあえず少しスライスし、湯どうししてから味見してみた。
「う〜んと…意外といける!癖はあるけど全然アリだ」
素材の味を確認すると六樹は本格的に調理を開始する。まず棘獅子の赤身肉を少し大きめにぶつ切りにし、下茹でして匂いを落とす。
「茹で汁は残しておくか、野菜クズと骨を突っ込んで煮込んでアクを取ればなんちゃってコンソメが出来そうだし」
そして大鍋に脂身部分を温めて油を出すと、先ほど下茹でした肉に小麦粉(多分)をまとわせて揚げ焼きにする。ジューという音が響き、肉の表面に良い焼き色がつけば肉を一度取り出し、鍋に野菜類を入れて食材に油を回すそしてしんなりしてきたら、肉を再度投入して作っておいた、なんちゃってコンソメスープをいれて煮込む。
「安酒でいいから赤ワインでもあればいいんだけどなあ」
などと呟く六樹、この家には明らかに年代物のお酒が多数保管されてはいるものの、そんな高そうな一品は恐れ多くて使える訳がない、六樹は所詮は居候なのだ。
無いものは仕方ない、ヤブニッケイの葉をローリエ代わりに入れ、山に生えていたセリをセロリの代用として入れる。その他にもカキドオシや山椒などを少量加えた、棘獅子の肉の臭み消しの為だ。最後に小麦粉(多分)を油で炒めて簡易的なデミグラスソースのルウを作り、トマトのような野菜と共に鍋に入れて塩胡椒で味を整えればビーフシチューもどきの完成だ。
「あとは煮込めば棘獅子シチューの完成だな」
日本と違い調味料が乏しいが、味見した限りでは及第点だろう、ハーブ類やスパイスがいい仕事をした。いつか味噌や醤油など作ってみたいものだ。
「アンリが帰ってくるのを待つか」
そい呟いて六樹はアンリの帰りを待つ事にした。もうすぐ日が暮れる。いつもなら既に帰って来ている時間だ。六樹は待ち続けた。
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「流石に遅すぎる」
あれからおそらく2時間は経った、辺りはもう真っ暗だ。だがアンリは帰って来ない、依頼が長引いている可能性やギルドで何か用事を頼まれて遅くなっているかもしれないが、灯りもない山奥にある家に暗くなってから帰るとは、アンリの慎重な性格からはあまり考えられない。
「町の方まで行ってみるか……」
そう六樹が呟く、そこにエスタが質問する。
エスタ(相棒、心配するのは分かるが、入れ違いにならないか?)
「いやそれはない、町からこの家まで一本道だ、アンリが帰ってるならどこかでかち合うはずだ。…でも念の為メモを置いとくか」
六樹は書き置きを残し、アルヒの町に走り出した。
元の世界には当たり前に存在した連絡手段が無いことが不便に感じる。辺りの森は真っ暗だ、六樹は慣れているとはいえ、やはり生物としての本能的な恐怖を感じる。
六樹は普段は1時間はかかる山道を走り抜け、アルヒの町にたどり着いた。道中でアンリと遭遇する事はなかった。
「………仕方ない、ギルドに向かうか」
アルヒの町の中を急ぎ足で進み、教会を横目に進んでギルドに到着した。扉を開けて中に入る。しかし受付スペースにはいつもの受付嬢はおろか、係の人は誰もいなかった。
「あれ?誰もいない?…」
すると奥から忙しそうな受付嬢が出てきた。
六樹は受付嬢に話を聞こうとした瞬間、向こうがこちらに気づき、逆に声をかけられた。
「ムツキさん!ちょうど今呼びに行こうとしていたんです!ついて来てもらってもよろしいですか?」
「はい、………アンリ・レカルカさんを探しに来たんですが、もしかしてその事ですか?」
「……はい…」
受付嬢は静かに肯定した。
六樹は案内されるまま医務室に入るとすぐさま絶叫が聞こえてきた。
「ぐ!ぐゔあァァーー!!」
「!?、アンリ!?」
その絶叫の声色には聞き覚えがあった。
そこには医務室のベットにアンリが横たわっていた。
苦しむアンリの前胸部におおきな傷跡があった。拳ほどの大きさのまるで何かに抉られたような痛々しい傷跡だ。いや、傷跡ではない、今現在も何かに焼かれているか抉られているように傷が広がろうとしている。アンリは苦痛にもがいていて六樹の存在に気づいていない。
「ムツキさん、来たんですね」
アンリの横を見ると、この町の神官であるプレテがいた。すぐに分かった、彼はアンリの治療をしている。いまも緊張した面持ちでアンリの傷に治癒魔法をかけ続けている。
「一体何があったんですか!?」
「呪いです。レカルカさんは呪いを受けた為に傷跡が広がり続けているんです。」
そう言うプレテの顔は疲労が滲み出ていた。おそらく広がり続ける傷口を押さえ込んでいるのだろう。アンリの苦痛に叫ぶ声が医務室に響く。
六樹がプレテに事情を聞こうとした時、ギルド支部長が現れた。
「リョウ君、ここから先は私が説明します。治療の邪魔にならないよう一度この場から離れましょう」
六樹と支部長は一度医務室の外に出ると、六樹はすぐに話を切り出した。
「アンリに何があったんですか?」
「今日、私たちギルドはアンリさんに依頼を受けて貰いました。その依頼とはアルヒの町の郊外に発生したアンデットの処理です。彼女はそこで負傷し呪いを受けました」
「彼女の話ですと、相性がよいので問題なく終わると言っていましたが」
今朝のアンリは楽勝だと言っていた。だから今日は一人でも大丈夫だと言って別行動を提案したのだ。
「はい、通常のアンデットであれば彼女が遅れをとることはないでしょう。しかし、今回は相手が悪かった。」
「そんなに強いアンデットがいたんですか?」
六樹が尋ねる。すると支部長は苦々しい顔をしながら頷いた。
「はい、彼女が遭遇したのは、この世界において最強と呼ばれる種がアンデット化したものです。」




