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22話  江川歩の手記

今回は丸々江川歩の手記の内容です。

私の名前は江川歩、日本人だ。

あの日、私は妊娠中の妻に見送られ岸越山にて地質調査を行っていた。あの山の事は知り尽くしている。あの日も山奥に足を踏み入れていた、その時だった。


突如山の景色が一変し、暗闇に放り込まれた。そして謎の液体で満たされた海のような場所に落ちた。そこでは息もできずとてつもない苦痛に襲われた。しばらくもがいていると苦痛は無くなり、さらに足掻いたおかげかいつの間にか別の世界にいた。いや、地上5メートル程の高さから落とされたと言った方が近い、木の上に落ちなければ命はなかった。



転移してから二月ほど経った、ここはまるでよく見たゲームや漫画ような世界だ。最初こそ言葉が通じず苦労したが今ではカタコトではあるものの日常会話位ならば成立するようになった。妻に会いたい、お腹の子供はもう生まれている頃だろうか、日本に帰る方法を見つけなければならない。


この世界の事を調べて分かった事がある。この世界には魔法のようなものが存在する事だ、それだけではない、魔法とは別物の異能、能力(スキル)とでも言うべきものが存在する事も分かった。

しかしそれらは一部の人間だけに独占されているため、情報が広まらず各地に散発的に存在している。これを利用しない手はない、私は魔法やスキルを公共事業や慈善活動、ビジネスに使用し、利益を与え人々の信頼を得る事で、この世界の異能の情報を集め帰還手段を見つける事を目標とする。


魔法使い達を説得して、教えて貰った魔法でインフラを整備した。また、教育施設も作り私が自作した教科書も配った。活動の結果は想像以上のもので人々は喜び私を信頼するようになった。そのおかげか魔法やスキルの情報が前とは比べものにならないほど入手できるようになった。データはいくらでも欲しい。次はこれらを体系化する事でより人々に普及させ、より多くのサンプルを集める事にする。


研究するうちに、魔法やスキルには取得できる条件がある事が判明した。詳しく調べた所、剣士には剣術系スキルが神官は上位の治療系魔法など、特定の職業でないと取得出来ないスキルや魔法などがある事が分かった。さらに身体能力などのステータスとでも言うべき力もそれによる影響が不自然な程みられる事も分かった。私はこの分類を職業(ジョブ)と定義する事にする。魔法、能力(スキル)職業(ジョブ)は私が日本にいた時に遊んでいたゲーム[魔法と剣の異世界無双]、通称魔剣の用語であり、複雑に絡み合う異能をあのゲームのシステムを参考に体系化を行う。


大成功だ!この世界の異能を体系化した事で人々の生活は格段に向上した。まるで産業革命を見ているかのような気分だ。ガドル王国の国王からは研究施設を建設してもらった。この世界の人々は私を見ると一礼し、異能に関する情報はこちらが何もせずとも教えてくれる。これならば本命の帰還方法についても腰を据えて研究できる。




意外な事実が判明した。この世界には日本人の転生者がいたらしい。モノノフの丘にある日本刀の精霊に話を聞いた。話を聞く限りそれは明治時代の人物のようだ、時系列のズレが気になるが多くの情報を得られた。


元の世界に戻るための前段階として、元の世界の物をこちらに転移させる実験を始めた。試行錯誤したものの、現状順調に進んでいる。召喚した物や、私のケース、日本刀の精霊の証言から一つの結論が出た。この世界と繋がっているのは、元いた世界の中の岸越市周辺だけであるという事だ。

無機物から、有機物、植物、と範囲を人間に近づける。座標のデータも取れた、次は哺乳類の召喚を行う、人間を巻き込まない為にも山奥の誰もいない場所に設定し、野生動物を召喚する。


野生動物の召喚は一応成功した。何度か繰り返した事で判明した事で改善点が見つかった。それというのも動物の場合は何故か召喚したはずがこちらに届かない場合がある。この原因としては転移の際に世界の狭間に存在する海に落ちた事が考えられる。その為に、セーフティネットとして、()()()()()()を制作する事にする。これにより召喚した生物は全てこの世界に流れ着く事となる。


興味深い事が判明した。セーフティとして制作した魔法陣に転移した個体はほとんどが絶命か、すでに瀕死の重体であった。だが、面白いのはここからだ、稀に健全な個体が召喚されるがその中にアルビノに似た白い毛皮の不思議な個体が現れた。調べたところ白い個体は異常なほどの魔力耐性がある事が判明した。逆に白くなっていない生き残った個体は異常に高い魔力量を示した。これは、前者は先の日本人、鬼道清兵衛に後者は私の特徴にピッタリと当てはまる。あの海は高密度の魔力の塊であり、それに浸された事で、その過酷な環境で生き残る為に適応したのでは無いだろうか。まだまだ不明な部分が多い、研究を続ける。




やってしまった。私は大きな罪を犯した。償えないほどの大きな罪を、取り返しのつかない事をしてしまった。昨日の事だ、野生動物の召喚実験になぜか小さな少女が巻き込まれてた、年端もいかない少女をこの世界に連れてきてしまった。彼女の名は(あかし)なつめ、7才の小学生だ。どうやら幼馴染と山の中でかくれんぼをしていた所、道に迷い私の召喚魔法に引っかかってしまったようだ。


そして衝撃の事実が判明した。彼女は過去から召喚された。いや違う、おそらく私が召喚された際に時間が大きく前にズレたのだろう。今私が日本に帰っても子供には会えないかもしれない。そう思うと虚無感に襲われる。だが、まだ止まるわけには行かない。

私は家族に会いたいが為に、他人の家族を奪ってしまったからだ、許されない事をした。せめてもの償いとして、彼女を家に返さなければならない、なんとしても帰還魔法の開発を急がねば。


彼女の為に翻訳スキルを創った。他にもこの世界で生活するのに困らないようなスキルを創って大量に保存している。彼女には日本で学ぶはずの教育とこの世界の教育を施している。私が教えられる事はなるべく教えるつもりだ。せめてもの罪滅ぼしだ、こんな事で許されるはずは無いのだが…




いつからだろうか、この世界の人々が私をまるで神ように尊敬しているのを目にする。宗教まで発足したという噂も聞いた。私はそんな彼らの期待の目を無視できない。最近は主要な都市を結ぶ列車を造った。彼らは畏敬の念を示していた。


この世界に来てから50年は経った。依然、私は帰還魔法を完成させられていない。その理由はこの世界と繋がっているのは岸越だけだからだ、コップに入った水を大鍋に注ぐのは簡単だが、逆に大鍋に入った水をコップに綺麗に注ぎ入れるのは難しいように、照準を合わせるのが難しい。なつめへの教育は順調に進んでいる。2年ほどで義務教育の大まかな範囲は網羅したとてつもなく飲み込みが早い。それに彼女は魔法の才能がある。スクスクと成長している。早く返してやらねばならない。


最近、この世界の人々の江川歩こうあるべしという期待や偏見、信仰のようなものに突き動かされている気がする。分からない、私はここまでの聖人君子だっただろうか?果たして今やっている人助けは私の意志によるものだろうか?私には果たすべき責務があるというのに。


まずい、私にはもう時間が無い。日に日に死が近づくのを感じる。万が一の為、彼女に私の持つ様々な異能を付与できるようにしておこう。だが彼女はまだ幼く大きな力を渡すには早すぎる。この国の国王に然るべき時に渡すように預けておく、彼なら大丈夫だろう。

最後の仕事だ、私はこの命が尽きるまで研究を続ける。私に償う手段はもはやそれしかない。


再び日本人が転移した時のためにこの記録を残す。

もし君が日本人なのであれば国王にこう尋ねなさい。


「岸を越えて暗い海を渡って来た、江川歩のラボはどこにある?」と


私の研究成果はそこにある。王宮で彼女が研究を引き継いでいるかもしれない。

これを読んでいる君が家に帰れることを願う。


幸運を祈る。江川歩


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