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17話  エスタ

沈黙の中、睨み合いが続く

刹那、真っ先に動いたのはエスグリミスタだった。

宙に浮いた状態で急発進し、倉目の方に向かっていく。高速で日本刀が突っ込んで来るのだ、当たればただではすまない、だが


「暗障」


グズッという音と共に、突如倉目の魔法によって現れた真っ黒な壁のような物に阻まれた。エスグリミスタは粘土のような黒い壁に突き刺さり、抜くのに苦労している。


六樹はそんな隙を埋めるように魔法を放つ


「火球!射出!」


下級魔法だか撃たないよりマシだ、だが、この魔法も防がれた。


「聖璧、なんだよそのヒョロヒョロ玉は」


倉目が出したのは、少し前にアンリが展開していた光の壁だ、しかし六樹の目的は果たされる。

ジャキンッと音と共にエスグリミスタが倉目の魔法を切り裂き、自由になる。


しかし、倉目は展開している聖璧にもう一捻り加えた。


「潰れろ!前進!」


そう唱えると、光の壁がこちらに突っ込んで来た。

そこで動いたのは、アンリだ


「リョウ!私の後ろに下がってください![瓦拳]!!」


アンリのスキルによる拳が聖璧に当たり、聖璧はバラバラに砕け散った、しかし、それは倉目の予想通りだったようだ。


耳をすませば後ろの少女達が何やら呟いている。

「神は全てを許し、全てを愛し、全てを罰するため……」


違う、これは詠唱だ、倉目は聖璧で時間稼ぎをして長文の詠唱をしていた。


「アンリ!退くぞ!!」


最前線にいたアンリの手を引き、半ば強引にその場から離れる。エスグリミスタも飛んでいくのが見える。その時、倉目の攻撃が来た。


「豪炎!!」


ゴオオオオオオオーーーー!!

という轟きと共に周囲が大きな炎で包まれた。


「危なかった、洞窟が入り組んでて助かった。」


六樹とアンリは今、近くにあった洞窟の岩陰に身を潜め、こっそりと様子を伺っている。先程までいた洞窟の中心部から、倉目の勝ち誇った声が響き渡る。


「どうだ六樹!これが僕の力だ!この僕がもらった異能、それはスキル[魔力無限供給]!これにより僕にはガス欠が存在しない」


なぜ手の内を晒すんだろう?と、六樹は疑問に思うが、好都合なので聞き役に徹する。


「それに加えて、カノジョ達に詠唱を分担して貰う事によって、僕は即座に強力な魔法を放つことが出来る。」


どうやら倉目もいろいろ考えているらしい。

事実、チャージ時間が少なく魔力切れも起こらない魔法使いというのは脅威だ。


しかし穴もあると六樹は分析する。後ろの少女達に、次にどの詠唱をするかを指示する必要があり、咄嗟に大技は放てないからだ。


すると、倉目は出てこない六樹達に痺れを切らしたのか、手に持っていた赤い石が埋め込まれた杖をシュと消し、次の瞬間、稲妻のようなデザインの杖を出現させた。


六樹は咄嗟に鑑定にかけてみる。


鑑定結果[雷の杖] [効果:雷属性魔法の火力増強]

見てのとおりの情報だが、確信する。


(アイテムボックスに杖を入れて攻撃の属性によって使い分けてるのか?)


と、六樹はあたりをつけた。


次の瞬間、雷のような轟音が響き渡ってきた


「おい!出てこいよ、ほら早く!臆病者共が!!」


倉目は電撃の魔法を撒き散らしながら、ゆっくりと歩き始めた。


「電気か……」


と、六樹は呟くそして、アイテムボックスから()()を取り出した。


「水生成」


初心者用の魔法を唱え、宙に浮かぶ水玉が現れる。そこに六樹は()()を入れた。そして隙を伺う。


ステータスウィンドで視界遮断する方法も考えたが、距離が離れ過ぎている。それに六樹が使える手札は相手も使える。あまり見せたくはない。


倉目は相変わらず電撃を放ちながら歩いている。そして洞窟中心部の土が盛り上がった所、いや、鬼道清兵衛の墓に近づいた瞬間に戦局は動いた。


「てめぇ!!誰の墓を踏もうとしてんだぁ!!!」


飛び出したのはエスグリミスタだ、主人の墓を守ろうとする。


「出たな、雷撃!」


しかし、エスグリミスタは魔法を時に躱し、時に受け止め食い下がる。しかし、あまり近づけてもいない。

ここだ!と六樹は音もなく飛び出した。


「射出!」


と、さっき作っていた水玉を飛ばす。急な攻撃に虚を突かれた倉目、しかし、すぐに対応する。


「電撃派!!」


そう唱えると、電気が一帯に放たれ、六樹の放った水玉も迎撃された、エスグリミスタも撤退を余儀なくされる。水玉は分解されたのか、気体になって消えた。


倉目はホッとしたのか勝ち誇った表情でこう告げる。


「さっきのといい、これがお前の攻撃か?いったい何g!ぁ?!ガ、ガァァ!?…


期待通りの成果だ!と、六樹は内心ほくそ笑む。


六樹が先ほど水玉に入れた()()とは、それは塩だ、なんの変哲もない食用の塩を水に入れ塩水を射出したのだ。塩水を電気分解すると発生するのは塩素ガス、元いた世界の戦争でも反則扱いされる様な劇物だ。

六樹は塩素ガスに苦しんでいる倉目に畳みかける。


「火球!射出!」


火球が倉目の付近に届いた瞬間、ボォンッという爆発が起きた。

塩水が分解された時に発生したもう一つの気体である水素に着火したのだ。


土煙が落ち着くと、そこには苦しみながらも、いまだに健在な倉目が立っていた。倉目の前には聖璧が立っていた。足りなかったか、と六樹は心の中で呟く。


「クソッ!解毒:中!回復:中!浄化!!」


三つの魔法を唱え、体の傷を癒しながら、体内と体外の毒物を除去する。


そこにすかさずエスグリミスタが追撃を入れた。


「こんな壁!俺にとっちゃ紙と同じだ!」


そう言って聖璧を破壊する。そして、倉目に飛びかかる。


「雷撃!ぐわっ!」


エスグリミスタの特攻は雷撃に阻まれ倉目の頬を掠めるに留まった。


頬から流れる血を見て、倉目は激昂する。


「この僕をコケにしやがって!!そんなにこの墓が大事なら!!消し飛ばしてやるよ!!皆んな!あの技を使うぞ!!」


後ろの少女達が詠唱を始める。倉目は再び杖を消して、次にドス黒い杖に持ち替えた。まずい、大技がくる。

すると、エスグリミスタが墓跡の前に立ち塞がった。


「ブラックホール!!」


「!?」


倉目が漆黒の大きな玉を放つ、その玉は周囲の物を抉り取っていく。その軌道はちょうど墓を通り六樹達に向かう方向だ。


「主人様!この刀身()に変えてもお守りします!!」


エスグリミスタがそう言って飛び出す。六樹の目からみても分かる。何かとてつもないエネルギーを纏っている。


「一所懸命!!この先には通さん!たとえ命に換えてもだ!!」


そう叫ぶとエスグリミスタは日本刀(その身)を振り下ろすように、漆黒の球体に突っ込んだ


「オオオオォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」


そして次の瞬間!ブラックホールは真っ二つに切断された。そして、エスグリミスタの刀身が砕け、刀の柄の部分が地面に落ちた。

切られたそれは最後にそれまで抉り取った物を解放する事で爆発を引き起こした、周囲に衝撃波と土煙を巻き起こす。


「おい!大丈夫か!?」


急いで拾い上げ、さっと近くの洞窟に隠れる。心配したのかアンリもやって来た


「全く情け無い、主人様がいないと俺はこんなものか、所詮はただの道具なんだな」


「お前はよくやった、俺が保証する。命をかけて戦った」


六樹が自身の力の無さに卑下するエスグリミスタに声をかける。


「アンリ!この状態は大丈夫なのか!?」


刀身がほとんど砕けた彼の容態を聞く。しかしアンリは渋い顔でこう言った。


「残念ながら彼はもう手遅れです。依代が壊れ、精霊の命である核を守る為の魔力もほとんど消費してしまったので、野ざらしになった核が霧散し、消滅してしまいます。」


予想通りの残酷な解答を聞かされるのだった。


「何か無いのか?理論上でもいい、助かるすべは!?」


「理論上は、これ以上彼の魔力が霧散しないような外部との魔力を遮断した環境で、内部から恒久的に魔力を補給出来るようや物に移し替えれば可能ですが、そんな事実上矛盾したような物、自然界にはまず存在しません。特別な設備でも作らないと……」


アンリはそう言って不可能だと断じた、魔力を遮断して、かつ魔力が恒久的に補給出来る場所、なぞなぞみたいだ、外部との魔力を遮断したなら外部から継続的に補給するのは難しい。当然の話だ、一体どこにそんな矛盾したような物が……いやまて、魔力を外部から補給しようとするから矛盾する。ならどうするか?内部だ、外部から遮断した上で内部から補給できるような場所や物、あるいは………




「ある。……………俺の身体の中だ!俺が、俺自体が依代になる!」


六樹はそう言った。それを聞いたアンリは驚き、そしてすかさずが反論する。


「!?、……確かに条件は揃っています。しかし正気とは思えません!」


「過去に事例は?何か問題が起きるのか?」


「試した人はいません、何故なら、試すまでもないからです。精霊は自身を高密度の魔力で固めます。その為、そんな物が体内に入れば、まず間違いなく体に弊害があるからです。通常の人間ならまず耐えられません。」


()()()()()


「俺の体は魔力に特段強い、おそらく問題ない」


どうなるかは未知数、だが、六樹の身体はあの魔力の海に落ちても、すぐに動ける位には耐性がある。

部の悪い賭けでは無いはずだ。


「それに精神面でも、どうなるか分かりません。おそらく一心同体のような状態になる事が予想されます。」


「リョウ、あなたは心の中に二つの人格が同居する事に耐えられますか?」


そうアンリが問いかける。確かに頭の中に人格が丸々二つあるわけだ、気が触れてもおかしくない、だが


「……俺なら耐えられる」


根拠はない、だが自信があった。六樹はいつも理詰めで物事を考える。しかし感情が無いわけではない、切り離しているのだ、利害関係において出した意見と感情で出した意見を常に天秤にかけて答えを出している。

これ自体はどんな人間にも言える事だが、六樹の場合はその利害と感情の切り離し方が少し極端なのだ、それはまるで人格が違うと思えるほどに


だから耐えられる。そう信じて賭けてみる。


「はぁ…止めても無駄ですね、分かりました。彼を中に入れるなら、刃を体のどこかに突き刺してください、傷跡は私が直します。」


アンリは折れ、協力する事を表明する。あとは、エスグリミスタ次第だ


「エスグリミスタ、俺と来い、お前の力が必要だ」


エスグリミスタに表情は無いが、明らかに悩んでいるという事が分かった。


「俺は、俺の主人様は生涯ただ一人、鬼道清兵衛様と決めている。お前について行っても、お前を主人としては認められない、どこまでいっても俺は主人様の道具でしか無い!」


彼の忠誠は強固だった、だからこそ信用出来る、背中を、いや身体を預けられると六樹は考える。


「だったら友として!相棒としてだ!!」


だが、六樹もまた頑固だった。彼にもまた目的がある。助けが欲しい。


「それに今思い出した、お前の名前の意味、エスグリミスタ、スペイン語で剣士って意味だ、どうやら鬼道清兵衛はお前を道具だなんて思ってなかったみたいだぜ?お前は道具なんかじゃない、お前の本心を聞かせてくれ!」


「!……………」


「もう一度聞く!俺と共に来い!エスグリミスタ、お前の力が必要だ」


六樹はそう言って手を伸ばした。


長い沈黙の後、彼は答えを出した。


「ここまで言われて断れるか!二言はねぇぞ六樹亮!一度は落とした命だ、余生はとことん楽しませて貰うぜ!」


六樹は柄を握り、脚に刃を突き刺した。そしてこう言った。


「俺のことはエスタと呼べ!主人様もそう呼んでいた!まずは、あのいけすかねー野郎をぶった斬るぞ!()()!!」


その言葉はエスタが発したものだった。


誓いの通り、その刀身()が朽ち果てるまで、主人の墓を守り抜いた付喪神の余生がいま、始まるのだった。


倉目くんの能力は六樹も落ちたあの世界の狭間から魔力を実質無限に引き出す事が出来る能力です。なので変則的ですが魔導師という事になります。


次回、モノノフの丘の戦い決着

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