16話 憧れの異世界とは程遠く
倉目慎太郎、クラスでは目立つ事のない大人しい生徒だった、ゲームやアニメの話を振れば普通に返してくれる。そんな奴だった、そんな記憶とは、少し違った印象を受ける男が今目の前にいる。
一瞬、六樹の言葉に魔法使いの男改め倉目慎太郎は、ポカンとした。そして
「君は?……六樹か?生きてたのか?!」
と、六樹を初めて認識した。
「何度も死にかけたけどなんとかまだ生きてる」
「君、その肌はいったい!?」
「いろいろあったんだが、それは一旦置いといてくれ、それより倉目!日本への帰り方について何か聞いているか?」
六樹はもしクラスメイトと遭遇した時に最も聞きたかった事を質問した。もちろん今までも情報を集めようとはしていたのだが、周囲の人は何も知らないので、一旦放置していた問題だ。
「なんだ君、知らないのか?江川が遺した帰還用の転移魔法の資料、その一部が魔王に奪われたって話だ、帰るには魔王から資料を取り返して転移魔法を完成させないとだめらしい」
ここで魔王か、と六樹は心の中で呟く。魔王であり幼馴染である、なつめも故郷に帰る為に行動しているのだろうか?
「まぁとにかく無事でよかった、それにしてもずいぶんと美少女を侍らせてるな」
六樹は倉目の後ろに付いてきている少女達に声をかけようとする。よく見ればエルフや獣人と思わしき種族も混じっていた。
「初めまして、俺は倉目のクラスメイトの六樹亮、君たちは、いったi
「!!僕のカノジョたちに話しかけるなァ!!」
後ろの少女達に話しかけようとした瞬間、倉目が突然怒鳴り声を上げた。
「うおっ!?悪かったよ」
突然の怒りに驚いた六樹は、そう言って引き下がる。少女達は怯えていた。
倉目は機嫌を損ねたのか六樹を詰め始めた。
「あのさぁ、この僕は忙しいんだよね、君と長々と世間話をしてる暇は無いんだよ、分かるだろ?だからさぁ、さっさとどいてくれないか?僕はそこの刀に話があるんだよ」
すると、それを聞いていたエスグリミスタが声を放った。
「聞くだけ聞いてやる!話してみろ!」
一触即発の空気感だ、六樹は下がり、成り行きを見守る。
「噂通りだ!これが昔の転移者の刀か、聖剣は神宮寺の奴が持って行きやがったからな、今はこれで我慢してやるか」
と、ぶつぶつと独り言のような言葉を続ける倉目
「おい!俺はお前の物になるなんて、一言も言った覚えはねぇぞ!」
どうやら新たな主人になろうとしていた倉目に対して、エスグリミスタは毅然とした態度で突っぱねた。
すると、倉目は癇癪を起こし始めた。
「この僕が使ってやると言ってるんだ!感謝しろよ!
僕は選ばれた存在なんだ!なぁ皆んなもそう思うだろ!?」
そう同意を求めたのは後ろにいた少女達だ、そして、少女達はこう答えた。
「!?…はい!シンタロウ様は選ばれた人間です…」
明らかに動揺しながら言っている。まるで、テロリストを怒らせないようにしているようだ。
「お前が何者かなんて知らん!俺は俺の主人様に対する忠義を果たす。帰れ!切り捨てるぞ!」
エスグリミスタは拒絶の態度を貫いている。
「だったら魔法で無理矢理にでも従わせてやる。この僕に逆らった事を後悔させてやる!」
倉目は引き下がらない、それどころか更に苛烈になっている。
そんなやり取りに口を挟んだのは、アンリだった。
「そのやり方は強引過ぎます!それに!あなたが連れているあの娘達は一体なんなんですか!?明らかにあなたに萎縮しているじゃないですか!?」
「うるさい!!カノジョ達は奴隷だった所をこの僕に救われたんだ!!」
倉目が侍らせている少女達の出自を聞いて、アンリは一瞬怯んだ、しかし食い下がる。
「それはどういう事ですか?」
「カノジョ達を拘束していた奴隷商や元の持ち主を僕が処刑したんだよ、そしてカノジョ達に自由を渡したんだ!!」
「だとしたら何故あなたについて回っているんですか?」
「感謝の印として僕の旅に同行してくれているんだよ!何か文句があるのか!?」
「そうだとしたら!何故あなたの言葉や行動のひとつひとつに!これほど怯えているんですか!?」
そうアンリが問い詰める。指をさし示した先には、嵐が過ぎ去るのを待っているような表情の元奴隷少女達がいるのだった。
しかしながら、そのアンリの言葉に対して、倉目の対応は想像よりも過激なものだった。
「僕とカノジョ達の絆に部外者が口を出すんじゃなぁい!!くらえっ!火炎弾!!」
はっ?と一瞬六樹は何が起こったのか、理解出来なかった。いや、どちらかと言えば理解したくなかった。
しかし事実として倉目はアンリに炎の大玉を放った。アンリも突然の攻撃に対応出来ていない。
「キャッ!」
というアンリの短い悲鳴が響く、魔法が何かにぶつかった。そして煙が晴れた、しかしアンリに魔法が届く事はなかった。六樹がギリギリで割り込んでいたのだ。
「ぐふっ、ゴホッ、ツッ!」
「リョウ!?無事ですか!?私のためにこんな事を」
「あぁ、大丈夫だ…いや、本当に大丈夫」
六樹はそう答える。実際のところ被害は想像していたよりもずっと軽かった、プレテに聞いていた体質による魔法耐性の影響を実感する。
そして、倉目の方に向き直る。
「おい倉目、お前今一線超えたぞ?」
六樹が恐ろしいほど抑揚の無い声でそう告げる。
「…リョウ?」
思わずアンリが呟いた。彼女は感じ取ったからだ、普段はヘラヘラとして冗談を言ったりしている彼の目から光が失われていく事に。
まるで機械の様な冷たい目、しかし倉目は気付かない。
「僕たちの関係性に口を出すからだ、当然の報いさ」
六樹は無言で腰に装備したアングリッチを引き抜く。
まだだ、確認事項がある。六樹は特に怒らせるでもなく、それでいてなだめるでもなく抑揚のない声で淡々と質問し始めた。
「倉目、お前は国の指示でこの刀を回収しに来たのか?」
もし、国の指示で動いた場合、六樹達は逆賊になってしまう。ここは慎重に
「あいつらの話をするんじゃない!!あいつらはこの僕を敵の前で逃げ出した臆病者とバカにしやがったんだ!その刀さえ、強い武器さえあれば、この僕が魔王軍から逃げることもなかった!」
どうやらこいつは逃亡者らしい、国の指示で動いていないというのは分かった。
「魔王軍から逃げたんなら、なぜこれ以上力を求める必要がある。大人しく隠れておけばいい話だろ?」
「強大な力をつけて、この僕のことをバカにした奴らに復讐してやる!だからその刀をよこせ!!」
どうやら碌な事に使わないらしい、六樹は最後通告をする。
「よく聞け、この刀の事は諦めてこの場から立ち去れ」
「なぜこの僕が君の指図を聞く必要があるんだ?それに君たちのせいで僕のカノジョ達が怖がってるじゃないか、これは優しい僕でも容赦しないよ?」
「どうやら、話し合いの余地はなさそうだな」
その場にいる者達が皆一様に身構える。もはや戦闘は避けられないようだ。
キャラ紹介
名前 倉目慎太郎
年齢 18歳
身長 165cm
容姿 童顔、黒髪、地味な雰囲気
ステータス 筋力E 魔力C(S) 機動D 技術C 射程A
備考 異世界に対する強い憧れを持つも、想像よりも遥かに過酷な世界だという現実に歪められた結果、自尊心か高いのが低いのか分からない不安定な人格になっています。名前の由来はシクラメンの花です。




