15話 自称付喪神(精霊)
ここに来ての王道展開か!?
「あっ!?………あ、……主人様!?」
その言葉に六樹は意味が分からず硬直する。当然の事ながら六樹にはこんな人語を解する刀とあった事などない。一瞬の沈黙の後また、刀が話し始めた。
「いや……違う!人違いだ、答えろ!お前は何者だ!?」
どうやら誰かと間違えたらしい、そしてこちらに名前を問い始めた。
「俺の名前は六樹亮、日本から来た転移者だ」
そう堂々と答える。すると、刀も名乗りをあげた。
「俺の名前はエスグリミスタ!我が主人である鬼道清兵衛様の墓を守る付喪神だ!」
そう簡潔に自己紹介をした。すると隣でみていたアンリが話しかけてきた。
「ツクモガミ?、っていうのは何か分かりませんが、あれは精霊ですよ?」
アンリはそう発言を否定した。するとなんだ?あのエスグリミスタとか言う刀は声高らかに嘘をついたのか?
「違う!俺はこの刀に宿った付喪神だ!主人様がそう言っていた!」
すると、アンリは少し考えた後、六樹に説明を始めた。
「この世界では、伝承や信仰などが形を成して、精霊が生まれるんです。おそらくキドウという人の信仰から、あの精霊は生まれたんだと思います。」
「なるほど、じゃあ鬼道さんの愛刀に、日本人の付喪神伝承が噛み合わさって、自称付喪神の刀に宿る精霊が誕生したって訳か」
そんな事もあるのか、と感心しているとエスグリミスタとか言う刀がこちらに問いかけ始めた。
「で、お前らは何しに来た?墓荒らしは容赦しねーぞ」
六樹は答える。
「俺たちはここに昔の日本人の刀があるから持っていっていいって、プレテっていう神官に教えて貰ったんだ、俺になら扱えるかもって」
「あーあの神官か、この辺りを管理してるんだったか?だが!お前が主人様にちっとばっか似てるからと言って、お前にホイホイ従うほど、俺の忠義は薄かねーよ!」
そう言って拒絶された。しかし、新たに生えた疑問を口にする。
「お前の主人は俺に似てるのか?」
「悔しいが似てるな、肌や髪の色がおんなじだ、それに、顔立ちもそこそこ近い。あの神官はそれを踏まえてお前をここによこしたんだろ」
千年前に転移した、鬼道清兵衛という日本人は俺と同じ目にあい、その為に似たような風貌になっていたようだ。
「エスグリミスタ!お前の主の話を聞かせてくれないか?」
六樹がそう尋ねる。
「おっ!主人様の有志を聞きたいと?話が分かるじゃねーか!聞かせてやる!まぁその辺に座れ!」
近くの岩に座るように促される。主人の話を聞かれて、刀は機嫌が良くなったようで、饒舌に話し始めた。
「俺が生まれた時、主人様はそれは驚いたもんだ、俺の刀に付喪神が宿ったってな、そして俺にエスグリミスタって、立派な名前を付けてくれたんだ」
「エスグリミスタねぇ、なんか聞いた事あるような?」
六樹はそんなことを呟く、どこかで聞いた事のある単語だ、何を意味するかはイマイチ思い出せないが
「剣に関係する海外の言葉だそうだ、主人様は日本だと位の高い軍人だったから、幾つかの国に行った事があるらしい」
日本人だが、海外の言葉に詳しい軍人か、一体いつの時代の人物だろうか
「その鬼道さんは、日本だといつの時代にこの世界に転移したんだ?」
「時代は分からんが、少し前に都が江戸に移ったとか、慶喜をこの目で見たことがある。とか言ってたな」
「ケイキ?…あっ徳川慶喜か!となると……明治初期って感じか」
確かにその時代の軍人なら、文明開花の時に海外に留学していてもおかしくない。ギリギリだが刀を持っていた事にも説明がつく。いや軍人の場合は許されてたんだっけ?と本筋と関係のない疑問を押し殺し、質問を続ける。
「鬼道さんは日本のどこにいたんだ?」
六樹の質問は続く、この際だ、転移者の情報を可能な限り集めておこう。
「岸越っていう町にいたらしい、そこで神隠しにあったんだ」
岸越市か、と六樹は考える。もしかしたらこの世界と繋がっているのは、元いた世界でも、日本でもなく、岸越という土地だけの可能性が出てきた。
「神隠しにあった時、どうなったんだ?」
「主人様は謎の海に落ちて、耐え難い苦痛にもがき苦しみながら、足掻いていると、この世界にいたらしい」
明治時代の人間が千年前というのは、普通に考えればおかしいが、やはりあの海を通っていたのか、まだまだ出てくる情報は多そうだ。
「鬼道清兵衛さんの事、もっと聞かせてくれ!」
六樹はエスグリミスタにそう告げるのだった。
中略
間違いだった、と六樹は今凄く後悔している。
体感的には2時間位経った。エスグリミスタは鬼道清兵衛の武勇伝を話し続けた。その話自体は面白いのだが、いかんせん長い、流石に疲れた。
話を要約すると、最初は日本に帰る方法を探したらしいが、検討もつかなかったので、諦めてこの世界を楽しむ事にしたらしい。そして途中からは、体質の恩恵か、魔法が効き辛いラストサムライが、悪徳魔法使い達を刀でヒャッハーする武勇伝がひたすら続いた。
精霊だからか話疲れるというのが無いらしく、マシンガンのように出てくる出てくる。少し席を外そうとしても、今からが面白いとこなのにどこに行く?と捕まる始末だ。
アンリがボソッと耳打ちしてくる。
「この話いつ終わるんですか!?」
と、怒りとも呆れとも取れる声色で六樹に訴えかけてくる。六樹が話を振ったので本当に申し訳ないが、どうする事も出来ない。六樹も耳打ちして返す。
「今から老後だろうから、もう少しの辛抱だ」
結論から言えば、あと三十分ほど、話は続いた。
中略
「…という訳で、主人様は沢山の子供や孫たち、家族に見送られて穏やかな最期を迎えたんだ、これで話は終わりだ!」
やっと終わった、と六樹とアンリはホッとした表情を浮かべる。
「まぁ鬼道さんは結構いい人生送ったんだな」
話を聞いた六樹がそう評した。
「あぁ、主人様は悔いを残さず行ったよ」
エスグリミスタは優しそうな、それでいて悲しそうな声色でそう言った。
きりがいい所で、六樹は大事な質問をする。
「エスグリミスタ、俺はこれからやらなければいけない事がある。その為には、強い力が必要になる。一緒に来てくれないか?」
単刀直入にそう問いかけるのだった。そして、エスグリミスタの答えが返って来た
「お前からは、主人様の面影を感じるし、話していて悪い奴じゃないのは分かった。だが悪いな、俺は主人様に誓ったんだ、この刀身が朽ち果てるまで主人の墓を守り続けると」
そうキッパリと断った。
「無粋だったな、忘れてくれ」
今は亡き主人に忠義を尽くそうとする姿を見せられると、流石に勧誘は不可能だと諦める。
「誘ってくれてありがとな!もし生まれ変わったら、お前の剣になってもいいかもな!」
と、エスグリミスタも威勢よく返したのだった。
話も終わり、六樹達が帰ろうとしたその時
ドゴッーン!!!ガラガラガラ………
という爆音が洞窟内に響き渡る。洞窟が地震のように揺れ始めた。壁や天井の岩石の一部が剥がれ始めた。
「なんだ!?」
突然の事に六樹が声を上げる。
安全確保のために、すぐさま動いたのはアンリだった。
「私の側を離れないでください![聖壁]」
アンリは光の壁を真上に展開する。
天井から落ちてきた石がいくつかぶつかっている。アンリの魔法がなかったらと考えるとゾッとする。
そして、最後に発せられた爆音と共に、洞窟中心部の壁の一部が崩れ、そこからゾロゾロと人が入ってきた。
「ずいぶんと礼儀がねぇ客じゃねーか」
とエスグリミスタが怒りのこもった声で呟く。そして、墓に鞘ごと突き刺さった状態から、刀身を抜き、宙に浮いた状態で刃先を侵入者の方に向けた、その刀身は千年の月日のせいか、ボロボロになっていた。
隣を見るとアンリも聖壁を解除し、鍛冶屋で貰ったメリケンサックを装備している。明らかに戦闘態勢だ
そして、侵入者の全容が見える。一番先頭に魔法使いらしきローブを羽織り、大きな杖を持った男が見える。そしてその後ろには、10人程の少女達が男の後ろに付き従っていた。
女性達の年齢は、十代位だろうか、その服装は洞窟に来たとは思えない軽装であり、この世界では高価であろう洋服を着ていた。だが、少女達は少し俯いていて、あまり生気のようなものは感じられない。
すると、先頭を歩く魔法使いの男がこんな言葉を発した。
「やっと着いた!全くなんだよこの洞窟は?無駄に入り組みんでいるせいでこの僕の貴重な時間を奪いやがって!」
「なっ!?君たちもそう思うだろ!?」
そう魔法使いの男は引き連れている少女達に同意を求める。
「!?…は、はい!その通りです。シンタロウ様!」
少女達は何やら慌てて返事をした。明らかに緊張しているのが、側から見ても分かる。
そんな異様な光景を作り出した魔法使いに六樹は声をかけた。
「えっ?お前もしかして、倉目か?」
この世界に転移して、初めてクラスメイトに遭遇したのだった。
鬼道清兵衛
この世界で千年前に転移した明治時代の軍人、何かと重い過去を持つキャラが多いなか、この人はかなりのエンジョイ勢、魔法に対する耐性と自身の高い剣術を活かして悪い魔法使いを斬りまくった伝説を持つ。何故か魔法が効き辛く、剣術で無双してくる相手に刀を持って追いかけ回された当時の魔法使いからしてみればトラウマもの。




