14話 モノノフの丘
このあたりから本格的に魔法を使い始めます。
教会でプレテの話を聞いた翌日、六樹は早起きして外に出ていた。今日は、昨日聞いた古の日本人の墓まで行ってみるつもりだ
だがその前に魔法の訓練をしている。昨日、子供達から貰った初心者向けの下級魔法の本を読んで実践してみるわけだ。
「まず魔力を使うイメージ……って言ってもなぁ」
これまで意識した事のない概念の話をされてもサッパリ分からない。この世界ではこういう場合、他人が無理矢理魔力を流し込んで、その感覚を覚えさせるという方法をとるらしいが、六樹の場合は魔力をほとんど通さない体質の影響でそれが出来ない。困ったものだ、少し考えてみる。
「う〜ん……あっ、アレを使えばいけるか?」
そう言って六樹がアイテムボックスから取り出したのは、いつかの魔力漬けになっていたイノシシの肉だ、今は食べやすいようにジャーキーになって保存されている。
転移初日、これを食べた時に、体にじんわりと何かが流れ込んでくる感覚がした。あの時は栄養の類が疲れたボロボロの体に染み渡っていたのだと思っていたが、おそらくあれは魔力を接種したためだろう。
という訳で、ジャーキーを齧ってみる。
「あっ、キタキタ…この感覚か」
手応えあり、魔力という存在を初めて感覚で意識した。その後、何度か繰り返し体に魔力の操作を覚えさせる。
次のステップだ、六樹は魔法を唱える。手のひらに魔力を集める事を意識する。
「水生成」
すると、六樹の手のひらの上に宙に浮かぶ水の玉が生み出された。
「うおっ、すげー!本当に出た、じゃあ次は」
「射出!」
六樹がそう言うと水玉は勢いよく飛び出し近くの木に当たって砕けた。
魔法使いが使う攻撃魔法は、主に物質の生成や収集を行う魔法と、それを打ち出す魔法で構成されているらしい。
それらを一括で行う詠唱もあり、時短する事も出来るらしいが、分割する事で細かい設定をイジったりと自由が効く、という利点があるそうだ。
また、詠唱は必要最低限だけ唱えれば使えるそうだが、追加で詠唱する事によって威力や精度など、さまざまなオプションを追加出来るようだ。
もう一つ覚えた魔法を試してみる。
「火球!射出!」
六樹はそう唱えると、手のひらから火の玉が現れ、飛び出した。すぐに射出したからか、拳程度の小ささの火の玉は、狙い通り川に突っ込んだ、そしてジュッと音を立て鎮火した。
「すごい!本当にすぐに覚えられた、すごいなこの本!」
治療系魔法と違い、適当に出して大雑把にぶっ放すだけとは言え、この本に載っているコツなどを踏襲すればすぐに覚えられた。
本の最後のページを見てみるとこう書いてある。
監修:江川歩と
「そういや江川さんが魔法を体系化したんだったな、すごいなあの人、尊敬される訳だ」
と、先人の偉業を思わぬところで目の当たりにし、感嘆する。六樹の魔法の訓練はしばらく続いた。
朝食の後、アンリと共にモノノフの丘に出発する。
2〜3時間も歩けば着くらしい、この世界に来て毎日の山道の往復を考えれば大した労力ではない、よく考えると元いた世界の六樹の実家でもそうだった気がする。
話によると、そこには入り組んだ洞窟があるらしく、その洞窟の中心部に古の日本人の墓があるらしい。
時系列的に江川歩とは別人だ。
千年前だと聞いているが、元いた世界で千年前となると何時代だ?などと考える。
しかし、あの魔力の海を超えた時点で時系列は当てにならない事を思い出す。あれの影響で六樹の体色は様変わりし2年留年させられた。すると、ふとこんな疑問を口にする。
「そういえば、江川さんって俺と似たような褐色じゃなかったの?」
当然の疑問だ、六樹と同じ目にあっていた場合、同様の変化が起きていてもおかしくない。
「いえ、江川様は違いましたよ。偏った知識かもしれませんが、あの方は典型的な日本人としての特徴と言った出立ちでした。」
「えっ?会った事あるの?」
答え合わせはともかく、アンリが江川歩を直接知っていそうなことに驚く
「会ったというより、見たことがあるだけです。私が小さい頃からアルヒの町にはよく来ていましたよ。いつも大人達に囲まれていて話したことは無いですが」
そうだったのか、思ったよりも身近な人物だということがわかった。するとアンリは自身の考察を話し始めた。
「江川様は、それはそれは膨大な魔力量を誇っていました。これは私の予想ですが、あなたの言っていた魔力の海に落ちた時に、周りの濃度に適応してそうなったのではないでしょうか?もしくは初めから資質があり、そのおかげで生き残れたのかも。」
「なるほど、確かにあり得るかも」
浸透圧の例えを使うなら、海水に浸かることで水分が抜けて脱水症状になるのなら、自身が海水と同じ濃度になれば問題はないという、とんでも理論だ。だが可能性としてはかなり高そうだ。
「そういえば聞きそびれてたけど、魔力っていったいぜんたい何?」
ふと、そんな疑問を口にする。魔法の使い方を覚える為に聞き流していたが、そもそも魔力とはなんなのだろうか、その疑問にアンリは答え始めた。
「魔力とは、生命が、その寿命を消費する際に副産物として発生するエネルギーです」
「分かるような分からないような?」
「そうですね、生きとし生けるものは皆、寿命というリソースを消費して生きている訳ですが、分かりやすいよう寿命をロウソクと考えましょう」
「ロウソクに火が灯っている状態が生きていると仮定した時、ロウソクの火からは、光と熱が発生する訳です。そして光が生命活動だとしたら、熱は魔力という訳です。」
人は光源の為にロウソクを使うが、その副産物として出る熱がこそが、寿命を消費する際に出る魔力のようなものと、アンリはそう説明する。なんとなくイメージは分かった気がする。
「例外として、エルフや精霊などの寿命そのものが存在しない種族は、寿命を消費しないので基本的に自身で魔力を生成する事が出来ません。」
「えっ、そうなの?」
理屈は分かるが、元いた世界の漫画やゲームの印象との乖離に驚く
「意外だ、凄く勝手なイメージだったけど、エルフって魔法とか得意そうなのに」
「えっと、そのイメージは間違いではないですよ、エルフは魔力を生成する事は出来ませんが、種族的に魔力親和性が非常に高く、魔導師としての才能に秀でているんです。エルフが森に住むのは、森が生命で溢れていて、環境中に魔力が満ちている為です。」
どうやら六樹の偏見はこの世界でも共通しているが、そこにはキチンと理由があるらしい。
そんな事を話しながら歩いていると、先ほどまで森林だった視界が開けた、モノノフの丘に着いたのだ。
そこは、一面草原になった丘陵地帯が広がっていた、しかし、特殊なのは、所々に洞窟が点在している事だ。
「良い眺めですね、ここで少し休憩を挟みましょうか」
アンリの提案で休憩を挟みつつ、ついでに少し早い昼食もとる事にする。本日のお昼はサンドイッチとゆで卵だ、半永久的に保存出来るアイテムボックスから取り出す。
「あっ、お塩出してください、ゆで卵に使うので」
アイテムボックスから食用の塩を取り出す。なんだかアンリに冷蔵庫として使われている気がする。まぁ構わないんだが
「昨日聞いた話だと、今見える洞窟のどこからでも中心部に辿り着けるんだよな?」
「はい、この洞窟は入り組んではいますが、全て奥で繋がっているそうです。」
「崩れたりしない?大丈夫?」
「心配いりませんよ。その時は私が守ります」
六樹の懸念にアンリが胸を張ってそう言い切った。
「流石アンリお姉さん、かっこいい」
「そんな、お姉さんだなんて、えへへへ」
おだてられてアンリは嬉しそうに笑ったのだった。
◇◇
昼食を食べ終えると、いよいよ洞窟に入る。
洞窟の中は苔むしていた。意外にも天井にいくつか穴が開いていたお陰で陽の光が入り、かなり明るかった。中はかなり入り組んではいたが、進行方向さえ意識すれば、無事、洞窟の中心部にたどり着く事ができた。
「ここが中心部か……」
洞窟の中心部は広いスペースとなっており、天井に大きな縦穴が空いていた。そこから差し込んだ光が、全体の丁度真ん中にある土が盛り上がった場所を照らしている。幻想的な景色だった。
「あれが、古の日本人の墓か」
そして、日差しが差し込んだ先、盛り上がった土の上、明らかに日本風の墓石が見えた。そして、そこには日本刀が、鞘ごと突き刺さっていた。
「おい!誰だ!?そこにいるのは!?」
誰かの声が聞こえた。否、誰かでは無く刀だ、刀が言葉を発したのだ
「えっ?刀が喋った!」
六樹は驚いて飛び出してしまう。刀から本来存在しないはずの視線を感じる。すると何故かブルブルと震え始めた。
そして、刀は震えた声でこう言った。
「あっ!?………あ、……主人様!?」




