12話 古傷と方針決定
ここからしばらく会話パートが続きます。
それは、10年前の事だ、いや俺は周りとは2年ズレたらしいので12年前か?当時の俺は同い年の幼馴染、紅なつめという女の子とよく遊んでいた。
その日も俺の家になつめが家に来たのだった。
俺の家は山奥にポツンと一軒だけ存在し、なつめとは裏山でよく遊んだ。
「なっちゃん、かくれんぼしよう?」
「いいよー、リョウくん」
その日はかくれんぼをしていた。俺は探す番でなつめは隠れる番だった。
「リョウくん!今回は絶対に見つかんないよ!!」
「今日もすぐ見つけてやるよ!なっちゃん!!」
俺はいつもかくれんぼではすぐなつめを見つけていた。彼女が考えそうな事をよく分かっていたからだ。
逆になつめはいつもすぐに見つけられて悔しがっていたのを覚えている。
100数えた後、探し始めた。そしていつもと同じように探し続ける。
「なっちゃん〜!どこにいるの〜?」
おかしい、いつもならとっくに見つけている。彼女が隠れそうな場所を探したが見つからない。
「……なっちゃん?」
どれだけ探しても彼女は見つからなかった。
「おとーさん!なっちゃんがみつかんない!!」
すぐに父に助けを求めた。家族総出で探したが、見つからず、行政に通報した。捜索隊も組まれ、本格的に探し回ったが、それでも陰も形も見つからず、遭難事故として処理された。
何度も最後の会話や経緯を大人たちに説明し、やっと解放された時になつめの両親に会った
なつめのお母さんの悲痛な叫びは今も耳に焼き付いている。
「あなたの…あなたのせいで!!あの子は!!!」
「あの子はいなくなったのよ!!、返してよ!!私たちのひとり娘を!!」
「言うな!!」
そう、なつめのお父さんが慌てて言葉を遮った。
そして、俺にこう言った。
「リョウ君、いつも娘と遊んでくれてありがとう。娘も君の家に行くのをいつも楽しみにしていたよ、こんな事になって残念だ、君は悪くない」
そう優しく言葉をかけられるのも、辛かった。
突然何の痕跡もなく世界から消えた彼女
もしもあれが遭難ではなく、異世界に転移してたとしたら
そして、なつめがその世界で魔王となっていたら、俺は一体どうするのが正しいのだろうか。
彼女を止めるのか応援するのかそれとも……
◇◇
魔王軍が町を撤退したその日の夜。アルヒの町は軽微な被害ですんだ為、自宅が無事な場合であれば、帰宅することが推奨された。
六樹たちもアンリの仕事が終わり次第、山奥のアンリの家に帰る事になった。
六樹はなつめについて、知っている事を全てアンリに話した。アンリは、複雑そうな面持ちで、黙って話を聞いていた。
深夜の事だった。六樹が使わせて貰っている部屋の扉に突然ノックの音が響いた。扉を開けると、そこには当然の事ながらアンリが立っていた。
「少し…私の話を聞いてもらって、いいですか?」
アンリはそんなことを言ってきた。断れるわけがない。
とりあえず椅子に座ってもらい、小さなテーブルを挟んで向かい合わせになると、アンリは話し始めた。
「私の父と母は神官でした。娘の私が言うのも変ですが、立派な方達だったと思います。」
アンリの両親か…と六樹は考える。そして、ゲロンが言っていた結末を思い出すのだった。
「3年前です。ガドル王国軍と魔王軍の戦闘がこの町の近くで始まったんです。その時、私の両親は最前線の野戦病院で怪我人の治療をしていました。」
「私は両親に猛反対されたのですが、無理矢理その場に付いていき、手伝いをしていました。」
「……問題が起きたのはその時です。突然魔王軍の部隊が野戦病院に攻め込んで来たんです。」
「何故そんな事を?治療を受けた兵士が復帰するのを恐れたのか?」
と、六樹は思わず質問してしまった。しかし、アンリも首を横に振る。
「恐らくはそうだと思いますが詳しくは分かりません。上からの指示だったのか、現場の部隊の暴走だったのかさえも、野戦病院への攻撃は戦争法で禁止されていたのに……」
アンリは唇を噛み締める。そして話し続ける。
「私は両親に促されるまま隠れ、両親が魔王軍の兵士に殺されるのを息を殺して見ている事しか出来ませんでした。会話は聞き取れませんでしたが、二人は最後まで話し合おうとしていたと思います。」
「……………」
六樹は絶句する。アンリにそんな壮絶な過去があったなんて
「その後、ゲロンさん達、冒険者の方々が助けに来てくれたので私は助かりました。」
そして、アンリは自身の心境を語る。
「父と母の行いが間違いだったとは微塵も思いません。立派な行動だと今でも思います。でも足りなかった……癒す力だけでは、大切なものを守る事は難しいんです。」
「だから私は、冒険者になる事にしました!ゲロンさん達に基礎を学び、私自らが戦う力を付けて、その上で怪我人や病人を私が最前線に立って癒す。そう決めたんです!」
「だから武闘家なのか…最前線に居続けるために…」
と六樹は呟く。知らなかった、アンリはこれほどの傷を抱えて、その上でここまで立派に立ち上がった。本当の意味で強い心を持っていると分かる。
「私の話はこれでおしまいです!リョウ、ここからはあなたに対しての質問です。」
アンリは真剣な表情で六樹と向き合う。
「魔王軍は世界征服を掲げて、今も各地に進軍中です。あなたは魔王軍を、いや、あなたの幼馴染を悪だと思いますか?」
アンリはそう六樹に質問をするのだった。六樹はしばらくの沈黙の後、話し始めた。
「アンリ、俺は利己的なら人間だ、表面でどれだけ取り繕っていても、腹の奥底では常に損得勘定で動いている」
「魔王軍の事も、この世界のツケで、ギルドが中立な以上、別の世界から来た俺には、関係ない事だと思ってた。この世界のゴタゴタに巻き込まれるのなんかゴメンだって」
「今日、子供達を助けに行ったのだってそうだ。心の奥底では子供を助ける事で、町の住人に認められて、俺の居場所を作ることばかり考えていた。」
「それに魔王軍が悪かなんて、今日、子供の為に本気で激昂したチグレを見て、分からなくなった」
六樹は自身の悩みを曝け出し俯く。しかし再び向き直り、アンリの目を見てこう言った。
「分からない、けど…もし、なつめが暴走しているのだとしたら、誰かに利用されているとしたら、本当に悪に染まってたとしたら……」
「俺は、彼女を止めるべきだと思う。」
と、決意を口にするのだった。するとアンリがこう続けた。
「わたしも、魔王軍が即座に悪だと判断してはいません。そう考えようとしたんですが…そうやって決めつけるとお父様やお母様に怒られてしまう気がして……」
「だから、あなたが魔王に会いに行くというのであれば、ご一緒します。私も確かめたいんです。どんな人物なのかをこの目で」
暗い感情に思考を任せず、両親の仇と思わしき人物に、歩み寄ろうとするアンリに、またしても驚かされた。
「そうと決まれば、どのみち強くなる必要がありますね!基礎訓練や魔法やスキルの習得など、やるべき事は山ほどあります!明日も早いのでもう寝ますか!」
そう言ってアンリは話を明るく打ち切り、扉の方へと向かうのだった。しかし、扉の向こうに出ると振り返ってこう言った。
「あっ、一つだけ!あなたの言葉を否定します。子供達を助けたのは、損得勘定でしかないなんて嘘です!たったそれだけで…あなたは命をかけて戦いませんから」
そう言うと、アンリはゆっくり扉を閉めたのだった。
1話から、ちょくちょく挟まっていた六樹のトラウマの正体がこれです。これにてアルヒの町編は終了です。




